クラネルさんちの今日のご飯   作:イベリ

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お久しぶりです。


どうして兎はオラリオへ?

「……おかしい。」

 

ロキ・ファミリアにて、リヴェリアはこの一週間、違和感を覚えていた。

 

それは、1年前に入団した問題児が、大人しすぎるのだ。

いつもなら、誰が止めても馬の耳に念仏。欠片も聞きやしない。Lv2になってから、多少聞くようにはなったが、それも微々たる変化だ。しかし、そんな問題児が、最近はやけに物分りがよく、部屋に篭もりたがるのだ。

 

「絶対に、なにかあるな……」

 

事の次第は、2週間ほど前からだ。リヴェリア達が遠征から帰ってきて、最初の同行の時。あの利かん坊が、初めて言ったのだ。

 

『今日は、帰ろうと思う。』

 

いや、聞いた時は本当にどうしたのかと我が耳を疑ったリヴェリアだったが、再三の帰宅要請に応じて、そのまま帰宅。

 

遂に、彼女が言うことを聞いてくれるようになったのだと、感動に浸ったのも束の間。

 

どうも様子がおかしいと聞く。

 

団員の話を聞くに、やけに図書室に閉じこもり、うさぎと仲良くなる方法という本を読み漁り、付箋やノートを作ってまで熱心に兎のことを勉強しているとか。

そして、最近では誰もいない夜中に風呂に入っては、1人でバシャバシャ楽しんでいる音が聞こえるとか。

 

どうにも、おかしいのだ。

 

というか、リヴェリアには既に何があったのかわかっている。

 

「はぁ…アイズめ。何も隠す必要は無いというのに。あの年頃は生き物に興味は出るしな…いい休息になるか。」

 

きっと、兎でも拾ったのだろう。怒られると思って隠しながら飼っているという感じだろうか。

 

可愛らしいところもあるではないか。言ってくれれば、兎の一匹や2匹なら養える。いい教育にもなる。

 

ふふふっと、笑ったリヴェリアはどこか母のような顔をしていた。

 

数分後、その顔が一気に沸騰することになるのだが。

 

 

 

 

「今日は、この本を読み聞かせするね。」

 

「アイズお姉ちゃんって、本が好きなんだね。僕も好きだよ!」

 

「うん…そうかも…」

 

アイズは、自分よりも小さな子うさぎ────ベルを膝に乗せて、微笑みながら絵本の読み聞かせを始める。

 

これは、喋る事が苦手なアイズが、この子うさぎとのコミュニケーションを取る手段を考え、考えて喋らなくて済む方法に逃げた末の作戦であった。

 

(『深く、長くコミュニケーションを取るべし』…うさぎ師匠の教えは、全部頭に入っている…!)

 

何故か図書室にあった兎の専門書。臆病な兎と仲良くなるには、親密なコミュニケーションが必要である。そう書いてあった。現に、凄く仲良くなれている。

 

そうして、いつものように読み聞かせを行う。どうも、ベルは一般教養がまだ身についていないようで、文字もそれほど読めなければ書くことも出来ない。1から教えてあげるのもまた乙な物と、変な感傷に浸ったアイズは、ニマニマしながら未来を想像した。

 

そうすると、ベルは心配そうに顔を俯かせた。

 

「どうしたの?なにか欲しい?」

 

「アイズお姉ちゃん、僕……お邪魔じゃない?」

 

「ううん…わたしがベルと一緒にいたいだけ。気にしなくていいの。」

 

「そう…?」

 

この少年、未だに誘拐された事に気づいていない。

 

そして、ニュフフと笑うアイズは、次の瞬間。絶望に染る。

 

「アイズ、少しいいか。」

 

「────!?」

 

遂に、誰かにこの部屋までこられてしまった。不味い。バレたら確実に怒られる。

 

未来を悟ったアイズは、急いでベルを抱き込んで、布団に潜らせる。

 

「だぁれ?」

 

「しっ、静かに…ここに、隠れてて。隠れんぼ。お姉ちゃんがいいよって言うまで絶対に出てきちゃダメ、だよ?」

 

楽しそうに口を塞いで、頷く少年をベッドに隠して、アイズは今ある危機に目を向けた。

 

「うん…いいよ。」

 

そう促せば、リヴェリアは素直に扉を開けて目の前のアイズを優しくみおろした。

 

「アイズ。早速だが…私に、なにか話すことがあるな?」

 

「なっ、なんの事?」

 

「惚けたって無駄だ。拾ったな?」

 

(ば、バレてる…!?)

 

既に己の仕出かしたことを知られていた事に、アイズは驚愕。もう観念するしかないと、正座の姿勢で俯いた。

 

そして、絶妙な食い違いは、ココから始まった。

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「いいや、謝って欲しいわけじゃない。と言うよりむしろ、私はお前がダンジョン以外に興味を持ってくれたことが嬉しい。相談はして欲しかったがな。」

 

「え…いいの?」

 

「まぁ、今回は許そうと思う。命を預かる事で、命の大切さを知れる。ウチのファミリアも困窮しているわけじゃない。養えるさ(兎の一匹や二匹)」

 

「ほ、ほんと!ちょっと小さいけど、凄く可愛くて、真っ白(な男の子)なの。」

 

「ほぉ、それはさぞ可愛い(うさぎ)だろうな。私も愛でさせて貰おうかな?(兎を)」

 

「だ、だめ!ベル(人間)は、私の…!」

 

「ベルという名前なのか?名前をつけるのが早いな。」

 

「…?(人だから)当たり前。名前はベル・クラネル」

 

「(兎なのに)せ、姓まで付けているのか…いや、余程大事にしてるんだな。」

 

「うん…あの子がいてくれると…胸が、暖かくなる。読み聞かせも、楽しそうに聞いてくれるし…いい子なの。」

 

「そうかそうか…────………うん?」

 

リヴェリアはここで、なにかおかしいことに気がついた。

 

なんか、会話が絶妙に噛み合っていない気がする。

 

姓がある。読み聞かせをして、楽しそうにしている。

 

聡明なリヴェリアの頭は、最大まで働いて、なにか違う気がすることを察した。

 

「アイズ、その…ベル君?ちゃん?はどこにいる。」

 

「いま、隠れんぼしてるの。そこの布団にいる。」

 

「そうか…見てもいいか?」

 

「うん。いいよ。」

 

そして、布団を見やればどうにも兎の大きさでは無い膨らみがひとつあった。

 

デカい。あれで小さいってどう言う意味だ。

 

嫌な予感が過ぎったリヴェリアは、布団をめくった瞬間。飛びついてきた白い影を見て、目眩がした。

 

「見つかった!……だあれ?」

 

「紹介するね。ベル、この人は私の仲間。リヴェリア。」

 

「僕、ベルって言います!」

 

凡そ5歳から6歳、真っ白な髪に真っ赤な瞳。確かにうさぎに見える。しかし、しかしだ。まさか、大人しいと思っていた問題児が、更なる問題を起こしていたことに、ぶっ倒れそうになった。

 

「ああ…元気に自己紹介できて偉いぞ…そして、アイズに、ベル君…ちょっと着いてきてくれ……」

 

心底疲れたようにベルを抱き上げて、アイズを引っ付かみロキの部屋に重い足を引き摺って向かった。

 

 

 

 

「アカン!アイズたんそれはアカン!ウチらが犯罪者になってまう!?今からでも遅ないから、ギルドに行くで!?」

 

「絶対に、嫌ッ!!ベルはずっと私と一緒にいるの!」

 

「アイズ!兎を飼うのとは訳が違うんだぞ!?」

 

「命の重さはうさぎも人も同じです!」

 

「ど、どこでそんなにマトモな道徳心を覚えた!?」

 

「うっ…っごめん、なさい…!僕が、いるから、お姉ちゃんが怒られて…っ!」

 

「あぁ、ベル君泣かないでくれ!君に怒っているわけじゃないんだ!」

 

「うーん、帰ってきて早々にこんな問題があるとは…」

 

「しっかし、真っ白な坊主じゃなぁ。ほーれ、飴をやろう。」

 

「あ、りがどう…」

 

ベルを巡る会議は、こんな具合に荒れに荒れた。

 

見知らぬ子供を誘拐し、眷属が犯罪に半分どころかどっぷり浸かっている事を知り叫ぶロキ。

 

ベルを手放すことを断固拒否するアイズ。

 

自分のせいでアイズが怒られていると泣き叫ぶベル。

 

泣き叫ぶベルを慰めながら、アイズを叱るリヴェリア。

 

問題に頭を抱えるフィン。

 

悠長にベルに餌付けするガレス。

 

まぁ、数時間に渡る激論は、取り敢えず保留という事で帰結した。

 

その決め手は、アイズが放った『この子の為に、私はここに帰ってくる』という言葉だった。

 

そして、落ち着いた頃に、アイズの話を聞いた一同は、ベルにどうして行き倒れていたのかを尋ねると、たどたどしく断片的に、ベルは語った。

 

「僕ね、お姉ちゃんとおじちゃんとヘラおばちゃんと一緒でね。そしたらね!変なかみさまがお姉ちゃんとおじちゃんを連れてっちゃったからね、追ってきたの!そしたらね、お腹減ってた時にお姉ちゃんがご飯くれて、ここに連れてきてくれたの!」

 

 

 

 

『ヘラ……だと?』

 

 

幹部と主神の声が重なった瞬間だった。




クリスマスの話にちょいと影響するので急いで書きました。

リヴェリアさんは驚き過ぎて怒るに怒れなかっただけで、本当はブチ切れそうになってます。

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