今月は夏特別ということで、夏らしい話を今月もう1話書きます
アンケートとるのでよろしくお願いします
オラリオの東に位置する、レストランストリート。
そこの奥に、隠されるように存在する、飲食店がある。
その店は、深夜帯や、夕食の時間は名のある冒険者が数多く利用することから、下位冒険者は店主との直接の知り合いでもない限り、夜には寄り付かない。
店の名は《風の通り道》。知る人ぞ知るトラットリアである。
金曜日。その男は疲れた体と精神を引き摺るように運びながら、深夜のレストランストリートを歩く。男が扉に手を掛け、軽く押すとカランコロンと鳴り響く鈴が、来客を知らせる。
カウンターに居る店主であるベルが振り返り、その男を認めると、ニッコリと笑った。
「…やっているか?」
「えぇ…もちろん営業中ですよ?今日は一段とお疲れのご様子ですね?来ないかと思いましたよ。」
この男のルーティン。その曜日その時間ぴったりに必ず来る。
その男はベルの二倍ほどある巨躯を持ち、筋骨隆々という言葉が、ピッタリ当て嵌まる如何にもな冒険者。
「…また…あの御方の無茶振りでな…」
「都市最強を疲れさせる無茶ぶりってなんですか…さすがは神といったところですかね?あっ、今日は良い芋焼酎が入ってますよ?」
「はぁ…じゃあそれを頼む…」
頭にある2つの耳。
フレイヤ・ファミリア所属、団長オッタル。
そんな男が、店に来ては、酒を浴びるように飲みながら愚痴を小さな店主に零していく。
酒を煽り、大き目の机に突っ伏す。
「俺たちは体のいい小間使いではないというのに…あぁ…もういっそのこと改宗でもしようか…土でもいじりたい…」
「デメテル様ならきっと大歓迎だと思いますよ?」
「ははっ…確かに、あの女神ならば歓迎してくれそうだ…」
自嘲的に笑ったオッタルは、悲しくなったのかまた酒を煽る。ベルは、そんな様子を他の冒険者に見られないように、店の中にオッタル以外がいないことを確認して、表の看板をCloseに変え、店を閉める。ベルができる最大の気遣いであり、最高のサービスである。それを知っているオッタルは、申し訳なさそうにベルに呟く。
「…いつも悪いな…」
「いえいえ。街の治安維持もしてくれていますし、僕ができることなら喜んでしますよ。何より、常連さんですしね?」
ウィンクをするベルを見て、オッタルはフッと笑った。お人好しだな、と目の前の少年を再評価する。
自身のスポンサーの敵対ファミリアの頭目が来ているというのに、嫌な顔ひとつせずに接客もしてくれる。それは一重に、少年がファミリアというものに興味が無いからであるのだが…
ひとしきり愚痴を出し切ったオッタルは、ベルに慣れたように注文する。
「クラネル…いつものを頼む…あ、野菜はマシマシで。」
「わかりました!いつもの【早死三段活用セット】で良いですよね?」
「フッ…今日も期待している。」
「お任せください!」と力こぶを見せたベルが、厨房に駆け込み、調理を開始する。
「まずは、餃子かな…」
ベルは、まな板に置いたキャベツ二玉と長ネギ二本を素早く微塵切りにして、大きなボールに入れて塩もみ、水分をよく絞ってから、挽肉をたっぷり入れて、醤油、すり生姜、すりにんにく、酒、ごま油、隠し味にオイスターソースを加えて、よく混ぜる。
タネが完成したら、ベルが自家製の大き目の餃子の皮に、片栗粉を水で溶かしたものを繋ぎにして、素早く、正確にタネを包む。
「…ふぅ…よし!後は…」
約50個の餃子をものの数分で包み上げてから、直ぐ様次の作業に取り掛かる。
「次はチャーハン…」
人参、ねぎ、を丸々2つ刻み、冷やご飯約二合分をボールに入れ、卵を3つ落としよく混ぜる。その手際は目を見張る物。冒険者の能力を使い、厨房の中の調理風景を眺めていて思うのは、素人目で見ても、とんでもない手際で進む調理。ファミリアの調理師など足元にも及ばないだろう。
あぁ…こんな料理人がファミリアにいれば…俺ももっとやる気が…そんな事を考えていた。
オッタルは、この調理の音や無言の時間が嫌いではなかった。普段こんなにゆっくりできる場所はないから。
そんな中も、調理は進む。
大量の微塵切りを終えたベルは、棚から大きな中華鍋と餃子用のフライパンを火に掛ける。
十分に温まったところでベルは鉄板にごま油を薄く垂らし、半分の餃子をズラッと咲いた花のように並べる。そして、水を垂らして蓋を閉じて焼く。
中華鍋には混ぜ合わせたご飯を入れて、切るように炒める。ご飯に焼き目がついてきたら塩、胡椒を加え、ネギと人参を投入。強火で一気に炒める。
そして、
「よっ!」
パラパラの米粒が、宙を舞ってまた鍋に舞い戻る。卵がコーティングされた米粒がキラキラ輝き、宙を舞う姿は、まるで夜天に輝く星のように見えた。
ある程度焼き目がついたら、デメテル印の醤油ににんにくをたっぷりと入れて作られたニンニク醤油をタップリと入れて、味濃い目の黒チャーハンが出来上がる。
餃子の様子を見て、ベルは片栗粉を溶かした水を流し込み、暫く待ってからフライパンを開けると、見事な羽の出来上がり。これで、残すは一品。
「ふぅ…後は、メインだけ…!」
汗を拭うベルは、少し扇情的に映る。そんなベルを眺めながら、オッタルが思ったことは
(…フレイヤ様がいたら、あのサマを見て発情して襲いかかっているだろう…よし、ここに連れてくるのは…あと十年くらい先にしよう。)
もしそんな事をして、彼の【剣姫】に喧嘩を売れば、ここを出禁になるかもしれない。それだけは勘弁だと、自身の主神を思い浮かべた。
そんな事は露知らず。ベルは、もやし、キャベツを切ったものを用意。そして、大きな丼にチャーシューを作ったときの煮汁を入れて、特性の豚骨スープをそこに加えて味を調整。そして、オッタルの好みに合わせ配合した麺を二人前、煮え湯でキッチリ30秒茹でて、素早く湯切り、スープに叩き込む。そこに、豚の背脂をくどい程にかけて、その上に先程のもやしとキャベツをタップリと山盛り乗せる。その回りに、厚切りのチャーシュー、味付き卵をトッピング。
それぞれの料理を大皿に盛り付ける。
「よし!おまたせしました!オッタルさん!ベル特製【早死三段活用セット】です!」
「待っていた…この時を!」
【オッタル飯】
・ベル特製JIROUラーメン
・にんにく焦がし醤油チャーハン
・野菜たっぷりパンパン餃子
感極まったように、オッタルは手を合わせる。
「……いただきます……」
その言葉を皮切りに、オッタルは大皿に盛り付けられた大凡一人分の量を遥かに超えるチャーハンに食らいつく。
ハフハフと熱を逃しながら、口に広がるにんにくとチャーシューの香りを存分に楽しむ。焦がし醤油の香ばしい匂いと、にんにくの香りが、脳にガツンと衝撃を与え、脳から胃に直接空腹の信号を送り無意識にチャーハンをかきこみ、口いっぱいに幸せが広がる。
「餃子は酢胡椒でどうぞ。」
ベルに促されるまま、無意識に伸びた手は箸で餃子をつかみとり、酢胡椒にちょんと付けて、思い切り口に叩き込む。
「!」
餃子を噛み締めた瞬間に、中から肉と野菜の旨味が凝縮された汁が口の中に流れ込み、まるで小さな
ここ二年、オッタルは毎週この店に顔を出す。そのたびに思う。
毎週毎週、味が上達しているのだ。その向上心は、さすが剣姫を射止めた男である。そうオッタルは称賛する。
オッタルはそんな事を考えながら、山盛りの野菜が乗ったラーメンに手を伸ばす。
レンゲでスープを掬って、口に流し込む。広がる豚骨の濃厚な舌触りと、特製タレの深い旨み。2つがベストな量で配合されているからこその旨さがここにある。
オッタルは、無言のまま箸を器用に使って下の麺を掴み、目の前に掬う。テラテラと油が麺をコーティングして光を反射している。真っすぐ伸びた細麺が、スープを絡めてその身を顕にする。
「何時も通りの調理法で、麺硬め、スープ濃いめ、油多めです!チャーハンも餃子もカロリーなんてクソくらえ!」
「あぁ…健康という言葉に喧嘩を売っている気分だ…まさしく【食の早死三段活用】…!」
そのまま一息に、麺を啜る。ズルズルと音をたてながら、口の中に収まる麺は、やはり硬い。しかし、それがオッタルには堪らない食感であり、山盛りの野菜を口に運びながら、麺を啜り、噛み締める。口の中に響くのは、野菜のシャキシャキとした音と、硬めの麺を噛みしめるゴリッとした食感。それすらも至福の音であるのだ。
次にオッタルは、ラーメンの脇役に目が移る。一般のラーメン店ならば、脇役であるその食材たち、チャーシューや卵はメインにはなれない。しかし、その食材たちをメインレベルの旨さまで引き立てるのが、ベルの強さ。
引き締まった肉に、油が刺し気味に入って居る。噛みしめれば、厚切りであるが故の硬さなど感じないほどにホロホロと口の中で溶ける。しかし、しっかりと肉々しい食感を味わえる。しかし、まだまだ驚くのは速い。真に恐ろしいのはこの玉子。絶妙な味付け、オマケに半熟。
男は皆、半熟という言葉には勝てない。
オッタルは無心で食らう、食らう、食らう。
約三人分もあった料理は、瞬く間に減って行き、ついにはラーメンも最後の一口。その麺を思うままに啜る。
「────プハァ!…ふぅ────満足だ………」
そう呟いたオッタルは、手を合わせる。
「……ごちそうさまでした……」
「お粗末様です!」
すっかりと膨れた腹に、オッタルは幸福感を感じながら、余韻に浸る。
「フー…まったく、困ったものだ…お前が作り出したこの【JIROUラーメン】…もはや中毒と言っていいほどにハマっている…」
「えぇ…作り出すのも大変でしたよ…古代の文献を漁りまくって、漸く本物に近づきました…」
「まさか…!これで完成形ではないというのか…!?」
「恐らくですが…まだこのラーメンには先があります。」
オッタルは戦慄した。最早恐怖と言ってもいいだろう。しかし、オッタルも冒険者であり、未知を探索する者。その先を食べて見たくなった
「…これからの進歩に期待している…そして、必ずや完成形を作り出してくれ。」
「えぇ!任せてください!」
「それでこそだ…クラネル。」
「当たり前。ベルなら、すぐにその完成にたどり着く」
「…あぁ…そうだn────────ん?」
ピシっと、空間が凍った。
「………ん?」
オッタルが、初めて困惑した。その声は、確かに二人のものではなく、今まで居るはずがないと思っていた人物の声だった。
「…あ、アイズ!?何時からいたの!?」
「『やっているか?』から」
「なるほど!最初からか!」
焦るベルをよそに、アイズはベルを抱きしめて、オッタルを睨む。
「…この日のこの時間に…貴方が出入りしてるって聞いて…本当に来てるなんて…」
「あ、アイズ!オッタルさんは────」
「────安心しろ、剣姫。」
ベルがアイズを止めようとするが、オッタルがそれを遮った。
「見ていたように、俺はこの男の料理を気に入っている。お前たちと敵対しているとは言え、この店とこの男に手を出すことは絶対にないと誓おう。我が主神に誓おう。」
この言葉は、オッタル自身のプライドも掛けられている。この言葉の重さを、アイズは理解していた。
「……………」
アイズは、オッタルをじっと見た後に、幾ばくか柔らかくなった視線をオッタルに向ける。
「…今は、信じます…でも、ベルに手を出したら────許しません、絶対に。」
オッタルは、アイズの目を見た後に、フッと笑った。
「…まさか、あの人形のような少女が、ここまで人らしくなるとはな…愛とは、偉大なものだ…」
「…その点に関しては…同意…」
ちょっと顔を赤くしたアイズは、オッタルの言葉に同意した。その言葉に、ベルも若干顔を染める。二人を少しだけ微笑ましく見ながら、オッタルは御暇することにした。
「…邪魔をしても悪い、私は帰るとしよう。金はここにおいていくぞ。」
「あっ、待ってください!これを!」
ベルが差し出したのは、タッパーに入った餃子だった。
「今日は25個余ったので、是非持って帰ってください!お土産です!団員の方たちと食べてください!」
「…ありがたく貰おう、奴らも喜ぶだろう…」
オッタルは、ニヤリと笑ってから、ベルの頭を撫でて背を向ける。出入り口の前まで来て、オッタルは立ち止まり、疑問に思っていたことを尋ねる。
「時に、クラネル…お前は、なぜ敵派閥である我々にも、その様な態度ができる?いつの日か、貴様の女と殺し合うかもしれんのだぞ?」
オッタルの言葉に、ベルは視線を迷わせながら、俯いた。
「…そうかも知れません…」
「ならば何故────」
「────でも!貴方は、お客様です!」
それは、ベルの強い信念であり、ベルの心構え。
「僕が大好きな人は…僕がお腹が空いて死にそうな時に、ご飯をくれました。その時の食べ物は何よりも美味しく感じて…それでいて、暖かかったんです!笑顔に、なれたんです…!」
ベルの隣りにいるアイズの頬が、ボッ!と朱に染まる。
「僕は…その人を、僕の料理で笑顔にしたいと思いました。それで…笑顔になったその人は…凄く綺麗で…嬉しかったんです!戦えない僕でも、役に立てることがあるんだって…思ったんです。僕の料理で、色んな人を笑顔にしたいって…!それが誰であろうと、美味しいものを最高の状態でお客様に提供する…それが、料理人としての…僕の信念です。」
「…ベル…」
オッタルは、また思った。本当に、お人好しな少年だ…と、若干の苦笑も交えながら、口を開く。
「…それが…お前の、プライドか…」
「…はい…それが、僕のプライドです。」
オッタルは、口元に薄い笑みを浮かべてから店を出た。
出ていったオッタルは、月を見ながらふと思った
「…俺も、身…固めようか…」
あの二人を見ていると、どうも触発されてしまう。オッタルは、そんな思考のまま、ホームへと帰っていった。
そして、オッタルを見送ったベルは非常に面倒なことになっていた。
「ねぇ…?ねぇ…?大好きな人って誰?」
「あぁもう!…わかってるくせに…!」
「えぇー、わかんなーい(棒読み)」
「くっそムカつく!」
ニヤニヤと笑いながら、からかうように尋ねるアイズは実に楽しそうだった。そんなアイズを見て、若干腹を立てたベルは、小細工なしの真っ向勝負に挑んだ。
アイズの細い手と腰を支えて、物語の中のようなセリフを平気な顔して吐く。
「え、ベル?ど、どうし────」
「君のことだよ。」
ポカンとしたアイズは、瞬間的に顔を赤くした。反撃開始だ。
「僕は、君のこと大好きだよ。」
「え、あ、いや…まって…」
「どうして?嫌なの?」
「い、嫌なんかじゃ、ない、けど…ち、近い…!」
「いつもは、君からしてくるのに…こんなに可愛い反応が見れるなら、いつも僕からやろうかな?」
「あ、ち、近…べ、ベル…」
「アイズ、何も言わないで…僕に任せて?」
「────────あっ…」
この後は、ご想像におまかせしよう。
ちなみに…余談だが
フレイヤ・ファミリアでは、ベルの餃子をめぐり、主神も参加して戦争と言う名のURO大会が開催されたそうな…
「スキップ」
「ちょっと、オッタル!貴方さっきから私をスキップし過ぎよ!もう四連続よ!?何枚持ってんのよ!」
「普段の行いが悪いのでは…?」
「オッタル?どういう意味かしら?」
「あ、URO」
「待ってちょうだい?なんで私だけ12枚も持ってるの?アレンだけが救いだったのに、そのアレンもUROするし!」
「ちょっと、フレイヤ様煩いです。」
「オッタル?最近私に対する当たりが強くないかしら?」
「はは、まさかまさか…はははは…」
「…久々にキレたわ。屋上行きましょ?」
「あ、俺上がりだ。」
結局、銀髪の
番外は、フレイヤ・ファミリアのキャラ崩壊。