英雄を目指したベル君と、ただ1人の幸せを願ったベル君の会話が描きたかった。
朝、鳥の囀の優しい響きと、春を迎えた優しいそよ風で、2人同時に目を覚ます。いつも、とは言わないけれど、なるべくどちらかが目覚めるまで、互いの寝顔を見ながら目覚めるのを待つのだが、今日は同時だったらしい。
「────おはよ、アイズ。」
「────おはよう…ベル。」
にっこりと笑って、少しの間見つめたらおはようのキスを軽く交わし、にししっと笑うアイズ。今日のお出掛けに備えるべく、そそくさと準備をしに行った。2人では若干狭いベットが少し広くなって、体温を急に無くなったベルは何となく寝癖の着いた真っ白な髪を掻いて、欠伸を零した。
「…さて、久々のデートだし…僕も気合い入れるかな!」
いつもの朝、いつもの日常。当たり前に過ぎていく一日。二人が、そう思っていた。
しかし、現実は無情にも二人に牙を剥いた。
春風が睦まじく歩く二人を撫でる。ポカポカとした大気がどうにも心地良い。ぐぐっと伸びるベルを見て、アイズはくすくすと笑った。
「ふふっ、珍しいね。ベルがそうやってるの。」
「んー、そうかなぁ?最近休みなかったし…ようやく取れた休みだったしね。」
白いワンピースを揺らしながら、アイズは心配そうにベルの顔を覗き込んだ。
「良かったの?私と出かけて…」
「全然平気!というより、君とどっかに行ってる方がいい休日になるよ。」
「…そっか…そっか…!」
嬉しそうに腕に巻き付いてくるアイズに微笑みを返しながら、ベルは気になっていたことを口にする。
「…ねぇ、なんだか今日、みんなにすごい見られない?」
「…ホントだ…もしかして、
「いや…なんか、どうにも…僕の方にも視線が行っているような…?」
そう、今日はやけにオラリオ市民に見られるのだ。アイズに注目が行くならばわかるが、ただの料理人の自分に注目が集まるのは、どうにもおかしかった。
すると、串焼きを焼いていた、いかにも快活そうな男性が、声をかけてきた。
「おっ!そこにいるのはリトル・ルーキーじゃねぇか!
「………はい?」
いきなり掛けられた言葉の意味が、全く理解できなかったベルは、素っ頓狂な声を上げてしまった。今の言葉に知らない情報があり過ぎて処理できなかったのだ。
(
焦るベルだが、一番恐れていた事態を思い出した。
「……あ、アイ────」
「────狐人の女の子って、誰?」
(あっ、めちゃくちゃキレていらっしゃる!?)
ベルとしては、全く身に覚えのない浮気?の言い訳にに必死に頭を回すが、目の前のアイズが怖すぎて何も考えられない。今のアイズならば、オッタルでさえも冷や汗を流しながら無言でスルーすることだろう。
「────ベル。」
「ちょちょちょっ!!待ってアイズ!待って!情報を整理させて!というかなんかおかしい単語がいっぱい聞こえたでしょ!?」
「………確かに。ココ最近戦争遊戯なんてなかった…しかも…ベルが戦ったみたいな言い方…ちょっと、おかしい。」
少し落ち着いたアイズをみて、ホッとしたベルは状況を整理するためにその場を離れ、適当に話を合わせながら、情報収集を始めた。
数時間後の中央広場の噴水前。ベンチに腰掛けながら、聞いた事を纏めてみることにした。
「えっと、家から出て…街を歩いていたら、僕が何故か戦争遊戯で大立ち回りをしていたことになってて…」
「女の子を沢山侍らせてる…」
「…言い方悪すぎない?」
「……ふんっ」
やはり機嫌の悪くなったアイズを見て、苦い顔をする。この話に違和感を覚えていても割り切れないようだ。可愛い嫉妬と思えば、まぁ悪い気分ではない。思考を切り替えたベルは、記憶の片隅に置き忘れていた神の言葉を思い出した。
「…よし、アイズ。ちょっと行きたいところがあるんだ。」
「…わかった。」
「────うそ…」
「…やっぱり…
確認したかったことは、自分の店の存在。ベルは、古い記憶から仮説を瞬時に組み立てた。記憶にない出来事。街で聞く自分の話。その全てが、まるで
「どっ、どうしようベル!!」
「安心して、予想していたことだから。」
焦るアイズとは裏腹に、ベルは冷静にこの状況を俯瞰していた。ベルは、ある場所に向かうべく足を向けた。
その場所は、【豊穣の女主人】
ベルが店を出すまで、料理のイロハを学んだ、言わば修行場だった。
あそこに、きっと居る。予感があった。
「ここ…豊饒の女主人…?」
「…そう、ここならいると思う…。」
「いるって…誰が?」
「…見てれば、分かるよ。」
固く握られた手を、アイズは握り返す。どうやら、ベルの中では慎重に対処しなければならないという事らしい。季節の割に、汗がたらりと流れた。
「────ズさん!?────ちょっ、離────!?」
「────えっと────ル────して…?」
中の喧騒に、アイズは首を傾げた。
(あれ…この声…聞いた事あるような…)
どうしてか、中から聞きなれた…正に隣にいる人物に似た声が聞こえる。戸惑いながら、中に入るベルの背中に続く。
「いらっしゃいま────せ?」
ぽかんとする薄鈍色の少女が、ベルとアイズを見て固まる。否、正確には繋がれた手に視線が注がれている。
「えっ?べ、ベルさん?えっ?ヴァレンシュタインさん?え?さっきまで…え?」
本当に混乱している少女にベルとアイズは会釈だけして、目的の人物。わちゃわちゃとしている黄金と純白の背中に立つ。
「アイズさん!離れてくださいっ!近すぎですよ!?」
「そんな事ない…」
「くぉーらぁー!2人とも近すぎだぁぁ!はーなーれー────…え?」
「そうです!ただでさえ勝てないのにその距離は────へ?」
「…おいおい、こりゃどういうことだ…!」
「わ、私…幻覚でも見えてしまっているのでしょうか?」
「ご安心を…私にも見えています…!?」
ヘスティアと栗色の少女。赤銅色の快活そうな青年。そして、噂の狐人の少女が、二人を見て一気に固まった。
「神様?みんな?一体───────」
「どうしたの…────────え…?」
そして、振り返った『ベル』と『アイズ』が固まった。
「ベルと…私が…もう一人いる…!?」
「…なるほど…これがロキ様の言ってた…」
「えっ、えぇ?!えええぇぇぇぇ!??!僕がもう一人っ!?」
「私が…もう一人…?」
全員が、目を見開き驚愕した。
英雄を目指しひた走る少年べル・クラネルと、一人の幸せを願った少年ベル・クラネルが、邂逅した。