……レールから外れたドアが、俺の両サイドに、ガン、ガンという接地音を響かせる。
ハッとなって、目を開けると……七,八人だろうか? そこらに倒れている者達と同じ、黒の背広を着ている。
そのうち、三人の男女が前に出てきた。
「ひどい有様ね。赤色の下痢便でもブチまけたみたいよ」
「報告によれば、敵はひとりという。体たらくもいいところだねぇー」
「まさか、オレたちまで駆り出されるとは。有給休暇返しやがれ!」
口々に喋りながら、体育ホールに入ってくる。先ほどの、迷彩柄の男の方へと歩いていく。
「有給返せですって? それは喬木様に言いなさいよ」
「冗談! 俺の体が下痢便になっちまう……」
喋っているふたりに構わず、残りのひとりが大男の前に座り込む。
「こいつかぁー。感じでわかる、こいつは覚醒系の
「うどんはもうないわよ? フランクフルトも。あたしの可愛いペットに食べさせちゃった。あんたはかき氷でも詰め込んでなさい」
その女は俺たちの前へと。
「あなたたちが倒したの? やるじゃない!」
「……」
俺たちは、口を開かない。代わりに、謎の男の方に目線を向ける。
「!」
手先が……動いている?
「由香里逃げろっ! そいつ、なにか
光。瞬く間に、白色の閃光が体育ホール内に満ち満ちる。
……真っ白いそれがスウッと晴れるとともに、気配の数が増えた。
「召喚しただとっ!?」
そいつらは、男と同じく迷彩柄を基調とした服装だが、装備が違う。ライフル、散弾銃、ハンドナイフ、防弾盾、短機関銃。素人でもそれと分かるほどの兵器の類。まるで、映画にでも出てくるような。
言葉は、不要だった。一斉に、ふたつの勢力が争いを始める。
男の仲間が、その身体を引きずっていく。さらに、ひとりが盾を構えつつ散弾銃を連射すると、残り全員の重火器が一斉に火を噴いた。
「うおっ!」
一目散に逃げ出せてよかった。そうでなければ死んでいた。
……耳が歪むほどの重低音。外耳をふさぐ。
今しがた話しかけてきた女が、
間隙を縫って、ふたりばかりが刀剣を振り上げた。そのまま、敵陣へと斬り込んでいく――
「渉、逃げるわよ」
「当然」
言うやいなや、その手を取って、全力で出入口へと。
「……大丈夫、罠は仕掛けられてない」
「サンキュ」
無事、扉だったところをくぐり抜ける。すぐ背後では、耳がはち切れんばかりの衝撃音が鳴り響いている。
「……景山さん」
無事を確認している余裕はなかった。けど――
「助けに来ます。なんとしても」
何を、どうすればいいかなんて分からない。今は、この約束をするので精一杯だ。目指すは一階。さあ、階段を降りよう。
「急げ! 敵は四階だ!」
絶望感。下の階から声が聞こえてくる。
「くそ、喬木議員の仲間だ」
深呼吸。周囲を見渡す――北の壁面はガラス張りになっている。厳密にいえば、なっていた。今では全部が粉々に砕けて真下に落ちている。
「由香里! この大窓から飛び降りるんだ」
「……」
「どうした」
「あのね。空中浮遊は一人用なの。二人以上は飛べないの」
「チッ」
俺は舌打ちする。集の真似だ。
「じゃあ、お前だけで飛べ! 俺は死ぬ気でダイブする」
「……だめ。どっちもだめなの」
うつむく由香里。
「だめ、じゃない」
由香里の肩を掴んだ。すると顔を上げる。見るからに不安そうだ。
喬木の
「わかった。アレ、やるよ」
「ほんとに?」
「そっちこそ。本当にいいのか? 自分の力だけで飛べたって、証明できないのに」
「……!」
由香里は、深呼吸をする。
「どうする? 由香里」
「……うん、大丈夫。飛べるっ」
甲高い足音を伴って、喬木の
大窓の前に立っている俺たちの姿を認める。
「お前ら、そこで何をしてる!」
返す答えは、ただひとつ。
「……空中浮遊」
そのまま、由香里の手を引いて、
「せーのっ」
――落ちる。