国府第三中学校へと向かう道を、ふたりで歩いている。
『渉。話したいことは色々あるんだが……』
『なあ、集。会議、間に合うのか?』
『……受付係が時間オンチなのを祈るばかり、ってところだ。まあ、ゆっくり歩いていこうや。実は俺、参加したくねーんだ』
という、今しがたのやり取りを思い出して、
「はあ……」
ため息をついた。
足取りは、重い。さっきから沈黙が続いている。
「渉」
集が口を開く。
「どうしてこんなことになったんだ。死ぬところだったんだぞ」
「気になったんだよ。文化会館が」
「気になった?」
「あんな事件があったら、そりゃ、気になるだろ」
「……もしかして、自分たちであの騒ぎを収めようと躍起になったものの、てんで通用しなかったことでも気にかけてるんじゃないだろうな」
由香里の真似をするがごとく、道に落ちていた石ころを蹴っ飛ばしてみる。
「そのとおりだよ! ……もやもやして、行ってみたくなった」
「病んでるな、渉くんは。もっと
「あいつらなんかどうでもいい! けど……自分のせいで誰かが苦しむのはいやだ」
「へえ、そうなんだ」
「……」
肩のあたりを握った。
「なんてゆうか、そう……助けたいとか助けたくないとかじゃなくて、あいつらが原因で苦しくなることがあるんだよ。それは、あいつらの悪意によることもあるし、そうじゃなくて、俺たちの意識が元になってることもある」
自分でも何を言っているのかわからない。
集は、ただ聞いている。
「……あいつらの存在を気にしないでいられる。そんな自分になりたい」
「そーいうのは、お手本を探すといい」
俺は、苦笑する。
「……由香里だ。あいつは、クラスの連中から無視されても、平気な顔で『おはよう』って言う。ほんと強いんだ、あいつ。あいつみたいになりたい」
「へえ、由香里ちゃんみたいになりたいんだ。どうすればなれると思う?」
「それがわかったら苦労しないよ……けど、ああ、そうだ。力、かな。力さえあればなんとかなる気がする。さっきの集みたいにさ、どんな
「そうなんだ。でも、あれ、すごかったじゃん……高森さんが最初に放っていたあの召喚獣、ドードルバグという異界の魔獣、その成れの果てなんだが、あれの暗黒拘束を打ち破った奴は初めて見たな」
「見てたなら、早く助けてくれよ」
「可愛い子には旅をさせろって言うだろ?」
集は笑っている――
わかってる。苦労してあの暗闇を薙ぎ払ってくれたことを。
「いや、そんなことより。あの時、お前がやったあの
「あれは……俺が育った地域だと、
「どんな能力なんだ」
「先に願いが叶う。でも、その後で……なにかが持っていかれる」
「叶わない願いだったら?」
「栞が言うには……その場で粉みじんに砕け散るらしい」
「すごいじゃん。そんな能力があったら、ぜひ使ってみたいね」
「冗談だろ。なにが消えるかわからないのに」
「その代償をコントロールできるかも……とか、考えられないか?」
「無理だ」
「いやいや。もしかしたら失うんじゃなくて、逆に得られるかもよ」
「バカばっかり」
また、無言になる。
ただ、ふたりで歩いている。
「……なあ、集」
「どうした?」
「聞きたいことがある。本当は、あの日、文化会館で聞きたかった」
「ん、ああ、あれか」
俺は、立ち止まる。集も立ち止まる。
学校は目前だ。
「集。俺さ、公務員になりたいんだ。教えてくれよ、こんな俺でも公務員になれる方法をさ」
集は、なんだか苦虫を噛み潰したような顔になる。
「どうしたんだよ、いつもはすぐに答えが返ってくるだろ。ダメなのか、俺じゃ。ふざけた理由なのはわかってるよ。でも、真剣なんだ」
「……基本的なところから行こう。まず、渉の場合は、中卒採用ということになるけれども、残念ながら中卒採用は現業職員しかやっていない。しかも、ハッピーマウンテン市では、
そして、ひと呼吸おいてから、
「しかし、だ。魔導技術職なら話は別だ。これは
「……俺にも希望があるってことか?」
「いいや、ない。理由は倍率だ。今から約六年前に行われた備後国府町の魔導技術職採用試験の倍率は……約三五〇倍だ。一人の定員に、それだけの数が来た……渉。もうわかるよな?」
わかる。俺の顔に笑みが浮かんでいる。
「希望、あるじゃんか。たった一人の採用でも、今年は採用試験をするんだろ?」
「いやいや。ハッピーマウンテン市と合併していることもあって、定員も三人に増えてはいるが……おい、どうして笑っていられる? 絶望するところだろ」
「為せば成る……って言えるほど自信があるわけじゃない。でもさ、俺にはさ、もうそれしかないんだよ。チャンスがあること自体、喜ぶべきだろ?」
「わかった、わかった! 第一関門クリアだな。じゃあ、お次は……精神的なところにいこう」
集の、視線の先。
国府第三中学校の校舎を眺めている。
「三川課長のくっそ長い挨拶も終わってる頃かな。渉、行こう」
「え?」
「これから会議がある。扉に耳を当てながらとまでは言わないが、外で話し合いの内容を聞いてもらう」
え? どういうことだ?
「晴れて公務員になったとして、その職務を全うできなければ意味はない。いいか? この会議が終わった後で、自分が本当にこの仕事に就くことができそうか……しっかりと見極めるんだ」