俺の彼女が120円だった件   作:守田野圭二

131 / 264
三月(下) 梅すびポロリンすっぽんぽん

「ミナちゃん見て見てっ!」

「何だい?」

「安心してください、穿いてますよ」

「一応言っておくと、最初にポーズを取った時点で下着が見えていたかな」

「む~。やっぱ練習しないと駄目か」

「誰に見せるつもりか知らないけれど、遊んでいるなら置いていくよ」

「あっ! 待って! 梅も行くっ!」

「何湯があるか楽しみね~」

 

 今日はミナちゃんと桃姉、それにお兄ちゃんと一緒にホビーショーへ遊びに行きました。まあ遊びに行ったのは梅だけで、桃姉達はアルバイトだったんだけどね。

 そいでお兄ちゃんがあまりに疲れてボロボロゾンビーだったから、梅が見つけたお風呂屋さんで休憩することになったんだよ。梅、偉いでしょ?

 

「夕食時だからか、車の数の割には空いているね」

「じゃあじゃあ、露天風呂行こっ?」

「はいはい、慌てない慌てない。走るとうっかり転んだ挙句、水無月ちゃんの巻いてるタオルに手が引っ掛かってポロリしちゃうわよん♪」

「一体どこの少年雑誌の主人公だい?」

「わ~い! 貸し切りだ~っ!」

 

 石造りの浴槽に、お茶みたいな色のお湯。うんうん、お風呂はこうで……あっ、この風呂、熱いっ! 掛け湯もそうだったけど、ここやたら温度が高いよ!

 

「あ~良い湯ね~」

「桃姉、熱くないのっ?」

「丁度いい温度じゃないか。梅君はまだまだ子供だね」

「む~。ていやっ!」

「ひゃっ?」

 

 前までミナちゃんの後ろ姿って言えばカーテンみたいに長い髪だったけど、今は短くなった上にまとめてるから細い身体がバッチリわかるんだよね。

 防御の薄い今がチャンスと、湯船に入ろうとするミナちゃんを後ろから羽交い絞め。そのまま腕を前に回して、タオル越しだけど胸を鷲掴みしてゲットだぜ!

 

「い、いきなり何だい?」

「うっしっし~。おっぱいの大きさならミナちゃんの方が子供だもんね~」

 

『ぶちっ』

 

 あれ? 今何か切れた音した?

 てっきり梅の手を振り払うのかと思ったけど、何故かガッシリ掴むミナちゃん。そしてそのままお風呂の奥へ……って、ちょっと待って。このままだと梅ヤバくない?

 

「ストップ! ミナちゃん、落ちるっ! 梅落ちちゃうっ!」

「お~。凄いわね梅。身体が30度くらいにまで斜めになってるわよ~?」

「ひょっとしてミナちゃんおこっ? 梅のこと嫌いになっちゃったっ?」

「そんなことはないさ。せいぜい呼吸しているのが気になるくらいだよ」

「生きてることがアウトっ? 熱っ! あっ! あっ! 話せばわかるからっ! せめて準備体操させてっ? まだ梅、心の準備が――――」

 

 

 

『パッ』←ミナちゃん、抑えてた梅の手を放す。

 

 

 

『ツルッ』←梅、ミナちゃんの身体に凹凸が無いせいで滑り落ちる。

 

 

 

『バシャン』←結果、頭から湯船にダイブ。

 

 

 

「ぶはあ熱っつぅぅぅぅういっ!」

 

 あまりの熱さに飛沫をあげて暴れつつ、ぴょんぴょん跳びはねてお風呂から脱出。うう……こんなことなら素直に下半身から少しずつ入ればよかったよ~。

 

「こらこら。おっぱいの一つや二つで喧嘩しないの」

「…………胸なんて大きくても負担になるだけじゃないか」

 

 湯船に浸かった後で不満そうにボヤくミナちゃん。何を見てるのかと思ったら、桃姉のおっぱいがお湯にぷかぷか浮いてた……はえ~、すっごい。

 

「ま~ま~。それより水無月ちゃん、今年の夏って忙しい?」

「時々部活には行くつもりだけれど、どうしたんだい?」

「梅の家庭教師、お願いできないかな~って?」

「はえ?」

「そういうのは本職に任せるべきじゃないかい?」

「梅の場合はカリスマ塾講師より、ミナちゃんの方が合ってるのよね~」

 

 そう言いながら、桃姉は濡れた指先で石に英語を書く。

 

『Unknown』

 

「はい問題です。これは何て読むでしょう?」

「ウンコなう!」

「とまあこんな感じなのよ」

「中二じゃまだ過去分詞はやっていないんじゃないかい?」

「じゃあ第二問」

 

『Hour』

 

「ホゥアーッ!」

「重症だね」

「あっ? 違うっ! 嘘嘘っ! アワーでしょっ?」

「正解だけど1ホゥアーしたからアウト~」

 

 普段は全部小文字だから見間違えただけだし。こんなの引っ掛け問題だよ!

 

「こんな調子で屋代を目指すって言うから困っちゃって。本当は桃姉さんが教えてあげたいんだけど、大学って夏休みの始まりが遅いのよね~」

「そもそもどうして屋代なんだい? 別に他にも高校はあるじゃないか」

「だってお兄ちゃん、物凄く楽しそうなんだもん! 中学生の頃は毎日つまんなそうだったのに最近は生き生きしてるし、部活で帰ってくるのも遅いし」

「櫻が変わったのは、別に屋代と大して関係ないと思うけれどね」

「それだけじゃないもん! 梅だってミナちゃんと一緒に遊びたい! パーティーやったりゲームしたり、ネズミースカイ行ったりしたんでしょ?」

「随分と話を聞いているみたいだね」

「えっへん!」

 

 ちなみにパーティーについてはお兄ちゃんからじゃなくて、蕾さんの妹かつバスケ仲間の(のぞみ)ちゃんから聞いたんだよ。話を聞いて屋代が楽しそうって思ってるのは私だけじゃなくて、望ちゃんも同じ気持ちみたい。

 

「まあ梅君がやる気なら付き合うよ」

「宜しくお願いします! ミナちゃん先生!」

「ありがとうね~。春休みの間は桃先生がビシバシしごいておくから……あ、そうそう水無月ちゃん。ついでに櫻の英語も見てあげてくれない?」

「そういうことなら断るよ」

「「え~っ?」」

 

 ようやくお風呂に肩まで浸かれたところで、衝撃のミナちゃん掌返し。まさか梅がおっぱい浮くかどうか調べてたからじゃないよね?

 

「どうしてボクが櫻の面倒まで見なくちゃいけないんだい?」

「だって幼馴染じゃない?」

「関係ないね」

「でも陶芸部でお泊まりした時には勉強教えてあげたんでしょ~?」

「質問に答えただけで、教えた訳じゃないさ」

「じゃあ今回もそれで宜しくねん♪」

「…………それはできない相談かな」

「どうしてよ~?」

「櫻のことを想っている相手ができたからさ。彼も満更じゃないみたいだしね」

「あっ! それってひょっとして蕾さんっ?」

 

 梅の名推理にミナちゃんが黙って頷く。望ちゃんには聞いてないけど、年末の頃からそうじゃないかと思ってたんだよね~。ひょっとして梅って天才?

 

「もっとも夢野君は夢野君で別の男子からアプローチを受けていて、それを櫻も知っているから彼女の気持ちに応えられずにいるようだけれど」

「蕾ちゃんか~。櫻には勿体ない相手よね~。でも蕾ちゃんが櫻のことを好きなのと、水無月ちゃんが勉強を教えるのを断るのって何の関係があるの?」

「ボクが櫻と一緒に勉強したと聞いたら、夢野君が複雑な気持ちになるじゃないか」

「でも水無月ちゃんは別に、櫻のこと好きじゃないんでしょ?」

「そうだね。恋愛感情は持ち合わせていないよ」

「なら良いじゃない。蕾ちゃんも勉強教えるくらい許してくれるってば~」

「ボクはそうは思わないよ」

 

 う~ん、何かよくわかんなくなってきた……って熱っ! ここだっ! お風呂の中にある、この変な所から滅茶苦茶に熱いお湯が出てるっ!

 

「じゃあ蕾ちゃんも交えて四人で勉強会とかなら良いんじゃない?」

「はあ……そんなに心配しなくても、櫻ならもう大丈夫さ」

「あら本当?」

「この半年間は桃ちゃんに代わって面倒を見てきたけれど、もう保護者役は必要ないくらい人並みにはなっているよ。寧ろボクはもう関わらない方が良いくらいさ」

「あらあら? どうして?」

「櫻がまたボクに好意を持ったらどうするんだい?」

「その時は水無月ちゃんが櫻と結婚!」

「冗談は胸だけにしてほしいね」

「え~? 桃姉さん的には有りだと思うんだけどな~」

 

 しまった! 桶でお湯の出てる場所を塞いで遊んでたら、話あんまり聞いてなかった! 何か結婚っぽい話してるけど、話題のビッグウェーブに乗らなきゃ!

 

「二人が結婚したら、梅はミナちゃんのこと何て呼べばいいの?」

「そうね~。義理の姉だから、呼ぶ時はお義姉さんかしら」

「お姉ちゃんになるのっ?」

「家族が増えるわよ。やったわね梅」

「やめてくれないかい? 考えるだけで頭が痛くなりそうだよ」

「でもミナちゃんって、言う程お兄ちゃんのこと嫌いじゃないよね」

「一体何をどう考えればそんな答えが出るんだい?」

「年末の時、蕾さんを梅に任せてお兄ちゃんの方に行ったから!」

「…………単に梅君の足だと追いつけないと思っただけだよ」

「む~。そんなことないもん!」

「どうだかね……さて、ボクはサウナに行ってくるかな」

「サウナ! サウナ勝負しよっ?」

「望むところだね」

「行ってらっしゃ~い」

「え~? 桃姉も行こうよ~?」

 

 露天風呂でのんびりしてた桃姉だけど、ミナちゃんが一人先にサウナへ向かった後で梅の耳元に接近。親指をグッと上げつつ、物凄く嬉しそうに話すの。

 

「梅、ナイス!」

「はえ? 何が?」

「うんうん、特に考えもなくて無意識な辺りが梅のいいところよね~。でも櫻が水無月ちゃんとか蕾ちゃんといい感じになりそうな時は邪魔しちゃ駄目よ~?」

「了解であります!」

「桃姉さんちょっといい気分だから、もう少しここでのんびりしてるわね~」

「ちょっといい気分~♪」

「「ハイッ!」」

「そいじゃ梅、行ってくるね!」

「ミナちゃんから勉強のコツ、しっかり聞いてらっしゃい」

「うん! 梅梅~」

「は~い。梅梅~」

 

 お兄ちゃんも去年は頑張ってたし、梅だって負けないもんね!




ここまで読んでくださりありがとうございます。
引き続き『俺の彼女が120円だった件』の7章を楽しんでいただければ幸いです!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。