俺の彼女が120円だった件   作:守田野圭二

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二十二日目(月) 答えの出ない問題だった件

 ――――一部始終を見ていた。

 顔を上げた葵が夢野と共に駅に行くまで黙ってアキトと共に見守り続け、二人が階段を上がって行くのを見届けた後になってようやく俺が口を開く。

 

「…………どう思う?」

 

 俺の問いに対して、アキトは黙って首を横に振った。

 何となくわかってはいたが、やはりそうかと再確認して溜息を吐く。

 

「…………だよな」

「ただ、悪い振られ方ではなかったと思うお。これはあくまでも拙者の推測ですが、相生氏が諦めなければ時間を置いた後でワンチャンあるかと」

「そうか」

「とりあえず拙者は様子を見て、必要そうなら励ましに行ってくるお」

「じゃあ俺も――――」

 

 そう言いかけたところで、肩をポンと叩かれる。

 

「気持ちはありがたいものの、今米倉氏が行くのは逆効果ですしおすし」

「…………悪い」

「これは拙者の役目であって、気にする必要はないお」

 

 俺には俺の役目がある……そうも受け取れる一言だった。

 確かに俺は葵を励ますよりも、考えるべきことがある。

 

「線路に飛び込むような真似は命に代えても止めるのでご安心あれ! 仮に葵氏が飛び込んだとしたら拙者も一緒に飛んで、二人でガ○ツしてくるでござる」

「お前ならあっさり100点取りそうだけどな」

「多分ネギ星人辺りで死ぬかと思われ」

「最初じゃねーかよっ!」

 

 いつも通りの馬鹿話をした後で、頼れる友人は駅の階段を上ると姿を消した。

 俺はアキトに後を任せつつ、傘を固定し直すと自転車を漕ぎ出す。

 葵が何と言われて断られたのかはわからない。

 ただ鈍感難聴系主人公じゃない俺は今回の一件を経て、アキトや阿久津が言っていたことをますます深く考えてしまう。

 

 ――――仮に夢野が俺のことを好きだとしたら?

 

 今までは葵のことがあったから、あまり意識しないようにしていた。

 しかし今は違う。

 夢野が葵の告白を振った今、その期待は無意識のうちに大きくなっていく。

 問題なのは、俺自身の気持ちだ。

 

『阿久津が好きだ』

 

 今まではずっと、そう思い続けてきた。

 でも本当にそうなのか?

 仮にそうだとしたら、夢野のことはどう思っているのか。

 

「……………………」

 

 考えても考えても答えは出ないまま、家に到着した俺は制服から着替える。やはり傘スタンドだと上半身は守れても、ズボンの裾や靴下はずぶ濡れだ。

 両親はまだ仕事らしく、テーブルの上には温めて食べられるよう夕飯が準備してあるが、まだお腹も空いていないし先に風呂に入ってしまおうとお湯を張った。

 

「たっだいま~っ!」

「お帰り」

 

 丁度準備ができた頃に帰ってきた妹の声を聞いて、タオル片手に玄関へ向かう。どうやら傘を持って行っていなかったのか、そこにはびしょ濡れになった梅がいた。

 水の滴るショートカットの髪に、色濃くなった学校指定のジャージ。その生地は身体に張り付いており、夢野ほどではないが発育した胸が浮き出ている。

 

「濡れた~。梅もうグショグショだよ~」

「そういう誤解を招く発言をするな。ほれ、タオル」

「ナイスお兄ちゃん!」

「風呂沸かしてあるから、風邪引く前にそのまま入って来い」

「どったのお兄ちゃんっ? 梅のためにお風呂まで用意してるなんて気ぃ利きすぎっ!」

「お前のために用意したんじゃないっての。入るなら早くしろ」

「了解っ! 音速ダァッシュ!」

 

 相変わらずのドタバタ走りで脱衣所へと向かう梅。少しして風呂場へと移動する音を聞いた後で、脱衣所に入った俺は自分の靴下も入っている洗濯機を操作する。

 

「ひょっとしてお兄ちゃん、洗濯もしてくれるの?」

「まあな」

「む~。何か怪しい……」

「そうか? 普段雨に打たれたら母さんがやってることだろ」

「お風呂沸かすくらいならまだしも、洗濯なんてお兄ちゃんやらないじゃん! あ! さては梅のパンツ頭にかぶるつもりでしょっ?」

「どういう発想だよ……仮にそれが目的なら、洗濯せずに黙って持ち去るだろ」

「それもそっか。じゃあ何か梅にお願い事?」

「別にないっての。単なる気まぐれだ」

 

 まあ梅の言ってることもわからなくもない。実際洗濯なんて普段は一切やらないし、こうして母親の代わりにやろうとしているのも何となく気が向いただけだ。

 適当にモードを指定してから洗剤を投入し洗濯を開始。後で親に指摘されて知ったことだが、下着類は伸びないようネットに入れる必要があったらしい。知らんがな。

 

「う~ん、それならミナちゃんと何か良いことがあってご機嫌とか?」

「ご機嫌に見えるか?」

「ご機嫌斜めに見える! あっ! お兄ちゃんキレてる」

「別に怒ってもないっての」

「そうじゃなくて、シャンプー切れてる!」

「そっちかよ」

 

 思えば夢野と話すきっかけになったあの日も、こんな雨が降ってたっけな。

 今回はしっかりと買い置きがあったためコンビニに脚を運ぶこともなく、俺は騒々しい妹へ詰め替え用のシャンプーを渡すと自分の部屋へと戻る。

 悩んだところで答えは出ない。

 考えることに疲れた俺は、気がつけば全てを放棄して眠りについていた。


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