俺の彼女が120円だった件   作:守田野圭二

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大晦日(水) 今年一番の思い出だった件

「今年も終わりだね~」

「そうですね」

「冬なのにアイス食べたくなってきちゃった!」

「爽ですね」

「あっ、そういう感じ? えっとね……SEEの過去分詞!」

「SEENですね」

「…………し~~~ん…………」

 

 真面目に答えたら何か滑ってるみたいな扱いをされた。もぅマヂ無理。

 最近になって屋代を目指すとか口にし始めたアホの子である妹と共に、未だにクリスマスの電飾が残っている家や寂しげに灯る店のネオンを眺めながら寒い夜道を歩く。

 

「ここでお兄ちゃんにインタビューです。来たる新時代に向けて何か一言お願いします」

「そんな厨二病みたいな言い回しをする妹の日本語が、不安で仕方ないっす」

「おや? そんなことはない、大丈夫だと画面の前で妹さんが抗議してますね」

 

 何で画面の前と中継が繋がってんだよ。

 そんな突っ込みをしようとしたらマイクを向け……る素振りかと思いきや、拳を頬に当てられグリグリされた。うん、誰かこのリポーターをクビにしてくれ。

 

「それでは今年一年を振り返って、何か思い出はありますか?」

「んー…………昨日妹が作ったホットケーキっす」

「聞きましたか皆さん? 美味しい手料理を振舞ってもらえるなんて、素晴らしい思い出ですね。おや? 画面の中の妹さんも喜んでいますよ」

「二次元な上に美味しい手料理まで作ってくれる妹か。うちのスクランブルホットケーキを作る妹とチェンジで……痛い痛い。リポーターさん、マイクが食い込んでます」

「む~、最後はちゃんとできたもん!」

 

 先日の朝食に梅が作ったホットケーキはフライパンに貼りついて取れなかったらしく、皿に盛られたのはオムレツの出来損ないみたいな粉っぽい生焼けの物体だった。

 ぶっちゃけパリパリしている欠片の方が、クッキーみたいで美味かったレベル。まあ二度目は形も丸くなり、三度目は綺麗な狐色をしたホットケーキだったから良いけどさ。

 

「そういう梅は、今年一番の思い出って何かあるのか?」

「ん~…………やっぱりお姉ちゃんがいなくなっちゃったことかな」

「それだと死んだみたいだぞ? まあ現在進行形で倒れてるから、あながち間違ってはないけど」

 

 年末恒例の歌やバラエティ番組を見た後で、年越しまでは残り十数分。本来なら家族全員で初詣に行くタイミングだが、今年は姉貴がインフルエンザに掛かっていたりする。

 そのため両親は家に残ることになり、神社には梅と二人で行く羽目に。家族全員じゃないなら見送りという案も出たが、古い御札の処分やら厄年である姉貴にお守りなど色々お使いを頼まれてしまった。

 

「到~着~っ!」

 

 痴漢に注意と書かれた看板を横目に木々へ囲まれた小道に入ると、美味しそうな香りを漂わせる屋台が並んでいる。

 知り合いと鉢合わせしないように目を背けつつ通過すると、そこそこ人で賑わっている地元の神社の入り口へと辿り着いた。

 

「あっ! 甘酒見っけっ!」

 

 パイプテントを見るなり梅が駆け出す。父親&姉貴と一緒に乾杯して飲みまくるのが毎年恒例の光景だったりするが、俺はあの味の良さがわからないので母親と共に傍観だ。

 ただ今年は一人で可哀想だし、一杯くらいは付き合ってやろう。大晦日を祭りの如く楽しむ妹の後を追い甘酒を受け取ると、無邪気な笑顔を見ながら紙コップを当てた。

 

「乾杯~っ!」

「乾杯」

 

 正月の御神酒もそうだが、どうやら俺は酒が合わない人間らしい。独特の香りがする甘酒を一気に飲み干した後で紙コップを返却し、御札の納め所を探し辺りを見回す。

 境内ではちょくちょく巫女さんの姿を見かける。ハロウィンで冬雪のコスプレ姿を見たせいか、ロングスカートだとコレジャナイ感が半端ないな。

 

「ぴゃ~っ! 酔っちゃったぜ~い!」

「いや酔うほどのアルコール入ってないから」

 

 いつぞや阿久津が言っていたチョコ同様、甘酒に入っている量も微々たるもの。元から酒が入っているようなテンションの癖に、一体何を言ってるんだかコイツは。

 

「美味いっ! もう一杯っ!」

「ほれ、とりあえず御札納めるぞ」

 

 三杯目となる紙コップを手にした梅を連れて、参拝客の間を抜けていく。お賽銭を入れようと並ぶ人の行列を横目で見ながら歩いていた時だった。

 

「あれっ? (のぞみ)ちゃんっ!」

 

 どうやら梅が知り合いを見つけたらしい。

 マーちゃんでもミーちゃんでもなく、普段聞いたことのない普通な呼び方の名前。反射的に他人の振りをしてそっぽを向き、古神札納所に向かうと御札を納める。

 

「米倉さん!」

「も~、梅でいいってば~。望ちゃんも初詣?」

「はい。お姉ちゃんと一緒に…………」

 

 雑音に紛れながら聞こえていた会話が、年越しのカウントダウンにかき消された。

 十から始まり減っていく数。昔は年越しの瞬間にジャンプして『宙に浮いてた』とかいう馬鹿な真似をしたが、どうやらまだアホがいたらしく肩をトントンと叩かれる。

 

「あのな――――――?」

 

 時間が止まった。

 勿論、そんなことは現実的にあり得ない。

 世界は動き続けており、カウントが0になるとハッピーニューイヤーと騒ぎ立てる。

 

 

 

 ――――あけましておめでとう。米倉君――――


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