水没から始まる前線生活   作:塊ロック

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別に何か新しい事が始まる訳じゃない。
あのときはそう思っていた。


第1話『手足の無い男』

…目を開くと、目の前には見知った天井が広がっている。

 

ここは…軍の駐屯地の、俺の部屋だ。

 

 

そこまで認識した瞬間、俺はベッドから跳ね起きようとして…。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…目が覚めたか」

 

ベッドの横に、誰かが座っていた。

長い金の髪を惜しげもなく降ろし、人間離れした美貌を持つ女だ。

 

「…AN-94。勝手に部屋入るなって言わなかったか」

「承諾が取れない状況だった。許してくれ」

「そうかよ。じゃあ悪いけど()()()()()()()

 

AN-94の後ろにある一組の手足を顎で指してそう言った。

 

…俺には手足が無い。

物心付いた時にキ○ガイの集団に拉致られて切り落とされた。

 

それ以来ずっと義手義足のお世話って訳だ。

 

「…駄目だ」

「何でだ」

「お前を自由にしたら、すぐに出て行ってしまう」

「当たり前だ!早く迎えに行ってやらねぇと…」

 

窓の外は曇天。

雨は止んでいる。

 

行くならば今しかない。

幸い地盤は緩くはなっていなかったはず…。

 

そもそも、今はあれから何日経った?

 

「駄目だ。お前は療養が必要だ」

「うるせぇ!さっさと寄越せ!」

 

ベッドから床に落下した。

手足が無いから何も出来ないのがみっともなくて泣きたくなる。

 

「………」

「AN-94!」

 

…迷い、俺のパーツに手をかけようとして、

 

横から伸ばされた手に阻まれた。

 

「…AK-12」

「だめよ、AN-94」

 

白銀の長い髪を翻し、目を閉じた柔和な雰囲気の女性はいつの間にかそこに居た。

 

「…隊長」

「おはよう、パトリック。まずは体を休めなさい。処分はそれからよ」

「隊長!行かせてくれ!」

「黙りなさい」

 

AK-12の瞳が見開かれた。

…そこには、強化された義眼が煌めいていた。

 

…間違いない、彼女は()()()()()

誰に?

 

そんなの決まっている。

俺にだ。

 

「独断で出撃した上に救助対象を処分して、瀕死の人間を殺したのはあなたよ」

「そんなのは、分かってる…!」

「それに、あのエリアにはまだ感染者たちがたむろしてる…そんな中に負傷した部下一人送り出す隊長が居ると思って?」

 

正論だ。

けれど、俺は人間だから、正論では納得出来ないし…止まれない。

 

「AK-12!頼む…処分も処罰も、必ず受ける…!」

「………」

 

理解出来ない物を見る様な目で、俺を静かに見下ろしている。

永遠に続くかと思われた静寂。

 

…それを破ったのは、出撃命令を知らせるアラームだった。

 

「…パトリック。準備しなさい」

「AK-12…」

「帰ってきたら、たっぷりお仕置きしてあげるわ。…行くわよ」

「恩に着る!!」

 

 

…AN-94に装着を手伝ってもらってしまった。

最後に格好つかないな。

 

 

 




借金前線終わらせたら書くと言ったな?

アレは嘘だ。

…というのは冗談で、ちょっと思うところがありまして。
しばらくはこちらを書くかも。

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