今後はもう少し詳しく短いスパンで更新できるように頑張ります
赤錆身仁には特にこだわりはない。
何かを与えられればそれで満足し、それ以上を求める事は殆ど無い。
上を求めたらきりがない事も心から欲しいと思っても、手に入らないものが世の中には沢山あるという事も彼は知っているからだ。
一度くらい母親に会ってみたい。
子供の頃強く思ったその願いが、その結果がこの価値観を作っていた。
殆ど会うことのない、疎遠のような親族達に尋ねても。
共に暮らしているはずなのに、家に帰ってくることが殆ど無い唯一の家族である父に尋ねても。
2人で暮らすには多すぎる部屋の数々を隅々まで調べても。
母親の名前一文字すら分からなかった。
父は決まってこう言う。
『余計な事をしてくれたと思ってたが、時期がよかった。
それだけの女の事を一々覚えているわけがないだろう』
醜悪な笑みと共に言われた言葉は今でも赤錆の頭からこびりついて剥がれない。
与えられた物で満足しなかった。
得られた物で満足しなかったら。
自分もあの父親のように大切な1人がわからないまま、色んな人を代わる代わるに手を伸ばすのだろうか。
そう思うと、求めるという行為が億劫になってきていた。
その価値観は幼少期から変わらない。
スポーツを皆でやり、中の下程の成績でも満足していた。
勉強も別にトップを狙う気なんてなく赤点かどうかの瀬戸際ぐらいで丁度いい。
芸術や音楽なんて見向きもしない。
擦れた少年はこの価値観で過ごしていた。
この拗れた考え方に人によっては嫌悪して人によっては居心地の良さを感じる。
今の自分を肯定し、上を見ない思想に。
大衆受けは決してしないからこそ、彼の友達と呼べる人は少なかった。
それでいい。
そう肯定する。
そんな赤錆だからこそ、ショッピングモールというのは魅力的だ。
大概のものはそこで揃う。
コアな人が望むような大衆受けしないものには端から興味なんかない。
手短に手頃に揃えられるのならばそれでいい。
遠くのもののほうが魅力的だとしてもだ。
普段ならば特に意識もせずに向かうところだが、今日という日は少し重い。
ショッピングモールには、嫌な思い出が出来たばかりだからだ。
スミシーの顔が浮かび、追い払うように首を振る。
しかし、せっかく追い払ったにも関わらず思い返されるように机に置いた携帯が震える。
どうやら今日の天気は良いようだ。
会話ならば数回のキャッチボールで終わる話題をわざわざメッセージとして送ってくれた事に少しだけ安堵した。
少し前ならば、面倒くさく感じていたのに。
スミシーが割って入ってズレた関係。
元々形容し難い間柄だったからこそ起きてしまった大きなズレ。
その形の1つとして、今のように頻繁に来ていたメールが一通も来なくなるというのがあった。
それが無くなり、毎時毎分のようにメールが来るようになったのはズレが少し収まったように感じた。
最も、感じるだけでズレた関係は擦れ切っていっているようにも思えたが。
彼女、伊井野ミコは自分の事を考えて欲しいと言っていた。
赤錆が必死に彼女の事を思ってメッセージを送っていた事を喜んでいたと。
そんな彼女をこれ以上不快にさせないように、求められるがままに赤錆からも送るようにしている。
しかし、大抵は彼女への返信になってしまっているが。
なるべく関心を持っていると思って貰えるよう長めの文を数分かけて打ちながら、少し前のファッション雑誌を参考に揃えた服を一式取り出す。
それらに袖を通しつつ、深いため息をつく。
久々の友人との外出は楽しい思い出になるのだろうか。
嫌な思い出を薄れさせる程には。
そう思いつつ、窓から空を眺めると確かに晴天が浮かんでいた。
都会に行けば何でも揃う。
そんな一言を1つの土地で叶えたような物がショッピングモールなのだろう。
子供から大人まで、1人から家族まで様々な客層で溢れるそこには、それぞれのニーズに幅広く取り扱うように店が配置されている。
そういうスタイルが彼は好みだった。
また、駅から近いというのも良い。
下手に遠いと行く気が削がれる。
待ち合わせの時間から時刻表を見て逆算するのも簡単だ。
電車の数も多いため大きな遅刻も早く着きすぎる事もない。
利便性を兼ね備えているからこそ、多くの人が利用する。
だからこそ起きる満員電車の現象はどうしようもないが。
人が多いなら多いで立って邪魔にならない様に気をつけながら過ごせばいいだけ。
暇つぶしではないが、手の空いている間に伊井野へとメールを送りつつ返信をしておく。
そんな時間を過ごしつつ、駅へ着くと同時に歩き出した周りの人々に合わせるように電車を降りた。
直ぐに目に入る目的地を見るとそれだけでモチベーションが上がってくる。
嫌になる思い出も眼前へと近づいて来ているのだが。
あの時は1人ではなかった。
そして、今回も
「身仁ー!!」
駅から歩いて数分。
ショッピングモールと駅の間にある広場に着くと同時に自身の名を呼ぶ方へと向く。
それと同時に軽く飛び抱きついてきた彼女の重みに負けないよう踏ん張りながらバランスを崩さないようそっと肩を掴んだ。
「危ないだろ、萌葉」
萌葉と呼ばれた少女は彼の胸に頬を擦りつけながら緩んだ顔を隠すことなく見せた。
「もう、久しぶりなんだからいいじゃん!」
「……良くないだろ」
「えへへっ、身仁の身体だ~いすき」
小言は聞く気はない。
そう伝えるように彼の胸に深く顔を1回埋めた後、再び見せた笑みのまま彼女は言う。
「ねぇ、萌葉のためにこの身体を長く維持するようにコールドスリープしない?」
「しない」
「ざんねん。でも、身仁の身体ならどうなってても好きだから別にいいや」
身も凍るような話をさらりと流す。
彼女、萌葉との会話はこんなぶっ飛んだ話題が多々ある。
幼い頃からの付き合い故に、一々リアクションを取る事の無意味さを赤錆は学んでいた。
彼女だけではない。
萌葉の姉もまた、ぶっ飛んだ話題を良くする人だ。
「もう! 遅刻ですよ赤錆くん」
少し遅れて現れた彼女の姉であり、今日の誘いをした張本人である藤原千花は不機嫌そうに指を指して頬を膨らませていた。
「レディを待たせるなんて紳士失格なんですから」
待ち合わせにはまだ10分程の余裕がある。
それで遅刻の判定を受ける事に口を出すことしない。
したところで「待たせた事実は変わらないんですっ」と謂われる未来がわかっていたから。
「ごめんごめん。どれぐらい待たせたの?」
「1時間ですよ!!」
「なんでそんなに早く来たの……」
予想よりも長く待たせていた様だ。
その驚きに呆れている赤錆に補足するように萌葉は応えた。
「身仁に早く会いたいから急いで来ちゃった」
「時間にならないと俺は来ないけど」
「わかってたけどね、萌葉は少しでも身仁に触れてたいし、少しも離れたくないの」
そう言いつつ今度は腕を回して抱きつく萌葉。
彼女に好き放題されている姿もまた、千花のイラつきを加速させる。
「なんで赤錆くんは中学生にすぐ手を出すんですか!!」
「俺からは出してないだろ!!」
「言い寄られる様な事をしても犯罪なんですからねっ!」
会っただけで機嫌を良くする萌葉とそれに付き合わされる度に悪くする千花。
どっちも立たせれない姉妹に困っていると、萌葉は話題を大きく変える。
「お父様も最近身仁達に会ってないってぼやいてたよ?」
「……まぁ、そのうち父さんと行くんじゃない」
「その時は今日のこと言ってやる」
「言ったら妹が困るんじゃない?」
「萌葉は親公認の仲になるだけだから別にいいけど?」
「……わかった、頼むから辞めてくれ」
ようやく頭を下げた赤錆を見て千花は少しだけ機嫌を良くする。
憂さ晴らしを終えたのを見届けた所で、赤錆はこの話題も変えようとする。
「そろそろ行こう。あと、萌葉は早く離れてよ」
「まだ1人来るよ? それと、萌葉は離れないからね」
「だ、誰が来るの……」
無理矢理剥がそうと伸ばした手を止める。
その反応を楽しそうに見つつ萌葉は続けた。
「ふふふっ、身仁にどうしても会いたいって人がいたから連れてきちゃった」
「俺に? どうしても??」
「うんっ。モテモテだね」
「……辞めてくれよ」
その冗談に本気で嫌気が差した。
冗談ではなく、力を込めて萌葉を剥がすと簡単に彼女は距離を取り一歩離れる。
嫌がる姿を隈なく見るように視点を下から上へとゆっくりと動かしつつ彼女は笑った。
「失恋してすぐに次の女に手を出すなんて、最低」
「……俺は、何もしてないよ。失恋もしてない」
「本当に? 卒業してからも仲良かったって有名だよ?
だって、中学生の時同じ学校にいない萌葉も身仁の名前聞いてたもん。
あの風紀委員と付き合ってる男がいるって。
話しかけるだけで風紀委員に目をつけられるから気をつけろって」
「それ、誰が言ってたの?」
「クラスの人とお姉ちゃん」
「お姉ちゃんねぇ」
「わ、私はそんなこと言ったかどうか記憶にないですけどね〜」
吹けない口笛を必死にふかしつつ目を逸らす姉の姿。
その情けない姿に赤錆は突っ込む気力を失っていた。
そんな彼の耳元に萌葉は囁く。
「大変だね」
「大変?」
返しつつも内心分かっていた。
自分が今、大変な状況にいる事に。
噂のもう一人のメインである伊井野との関係には尾ひれがついており、この話題は秀知院学園の同級生ならば誰もが一度は耳にする。
閉ざされた空間での恋愛話。
それも、悪い意味で目立つ彼女の。
話題を口にしたものは、時が経ち現れた、ある意味では望んでいた展開に一斉に口を開く。
今か今かと待ち望んでいたものがようやく来たのだから。
期待させた時がある分、広がる速度も付いた手垢も尾ひれも大きなものになっているのかもしれない。
当事者である赤錆には聞こえてこないだけで。
「いいんだよ。
萌葉は別に家族の付き合いじゃなくて、身仁一人で会いに来ても。
萌葉は別に、赤錆の名前じゃなくて身仁が好きなんだから。
お姉ちゃんもクラスの皆も学校の皆にも腫れ物にされても、萌葉だけは大好きなままだからね。
寂しかったらいつでも来てね」
「……べつに、寂しくないよ」
強がりではない。
千花もそうだが、早坂や石上がそばにいてくれる今は。
何よりも、伊井野とも別れていないのだから。
付き合ってもいなかったのだから。
ある意味では、いい切っ掛けでもある。
前に進む事も、引く事も考えられる切っ掛けだったと思える。
どっちに行っても、障害となる女がいるのは代わりはないが。
「……なんか、思ってた以上に前向きだね」
呟きつつ萌葉は再び腕に絡みつく。
先程よりも強く、離さないと伝えるように。
「もっと落ち込んでる顔が見たかったのにな」
「酷くない?」
独り言のつもりなのか赤錆への返事はない。
「まぁ、だったら会わせてあげてもいいかな。
落ち込んでるんだったら絶対に会わせたくなかったし」
強く向けられたその視線に赤錆も合わせる。
「忘れないでね、萌葉はずっと身仁の傍にいるからね。
味方でいてあげる。
萌葉だけ、ね」
そんな言葉を聞き逃す程、その視線の先の少女に目を奪われていた。
まるで人形のような綺麗な少女。
そんな少女が頬を軽く赤く染めながら、より引き立たされた青い瞳を上目遣いにしつつ外しそうに言う。
「あの、白銀圭……です。覚えてますか?」
その少女、白銀圭の自己紹介に混乱しつつ助け舟を求めようと萌葉を横目で見る。
しかし、彼女の視線は少しズレていた。
ショッピングモールへと向かう人混みに向けられたその視線。
自然とその先を追うと、綺麗な金髪をした女性の後ろ姿が一瞬見えた。
見覚えのある色をした髪。
遠目からでもわかる綺麗な金髪。
それは、学校以外では会うことの少ない学友のに似ていた。
彼女とならば、どこで会っても楽しめる。安心できる。
心の落ち着く数少ない友人。
そして、その友人と似た髪の色をした少女。
ここで2回目の出会いをして、強烈なインパクトを残すと共に彼女に辛い経験をさせた少女。
どこで会っても嫌な、トラウマを刻もうとする少女。
そんな少女達と同じ髪の色をした女性の姿は、ショッピングモールへと入って消えた。
久々の更新のため、過去話を見つつ思い出しながらの執筆になりました。
自分の過去作っていつ読んでも恥ずかしくて辛い……悶絶しながら読んでいました。
更新大分空いたため、話を忘れた方は今一度読み直してくれたら嬉しいです。
俺もやったんだからさ(同調圧力)