鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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今回は特になし。
特に解説すべき用語が無い状態である。
正確には無いことも無いのだが、事情と言うものがあるため。

別にメンドくさくなったからじゃないんだからな!


第10斬

「──起きてください」

んー。誰だよ、こんな朝っぱらから。僕はまだ眠いのに。

「もう朝ですよ」

「……あと、五分」

「ダメです。せっかく作ったご飯が冷めてしまいます」

………

……いや、マジ誰だよ。僕一人部屋だよな?

眠いまぶたを開けて声の主を確認する。

綺麗な長い黒髪におしとやかな立ち振る舞い、体はメリハリがはっきりしていて、女性としての魅力を大いに引き出している。当然顔も美人である意味パーフェクトな女性がいた。

「って佐々木!? 何で僕の部屋に!?」

「ソラ君、寝ぼけているんですか? いつもみたいに志乃って呼んでください」

「いやいやいや! 僕一度もそんな呼び方したことないよね!? というか僕ら普通に仲悪かったよね!?」

眠気なんて最初からまるで無かったかのように一気に吹っ飛ぶ。

何? これって新手の嫌がらせ!?

「いやですよ、もう。そんな昔のこと言って。本当に寝ぼけているみたいですね。私たち結婚したじゃないですか」

「け、結婚―!!?」

…あ…ありのまま今、起こった事を話すぜ!

『先日佐々木と斬り合っていたかと思ったら、いつの間にか結婚していた』

な、何を言っているのか、わからねーと思うが。

僕も何をされたのかわからなかった…。

催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

 

──てか、ありえねぇぇぇぇえよ!!!

もうおかしいってレベルじゃねえぞ!! 一番ありえない未来だろ!?

ライカや真田の方がまだ現実味あるわ!

しかも、結婚とかどんな急展開だよ!

≪大円満のハッピーエンド、ただし打ち切り最終回≫みたいなっ!?

「確かに、昔私はあなたからあかりちゃんを守ろうと嫌なこともしたかもしれませんが、もう和解したじゃないですか」

「…なん…だと……!?」

「あかりちゃんは今も大事な友達ですけど。…一番はソラ君、あなたですよ」

「…へ? あ、ありがと」

って、何お礼言ってんだーーー!!

こいつ絶対佐々木じゃねえよ! あの百合百合嬢様がフリでもあかりが一番じゃないとかいうはずがない!

第一、僕のクラスメートがこんなに可愛いわけがない!!

「あ、こんなことしているとご飯が冷めてしまいます」

「ちょ、ちょっと──」

佐々木(偽)に手を引っ張られ、そのままダイニングに連れてこられた。

ていうか、ここどこだよ? 僕の部屋じゃないんだけど……。

どんだけ、手の込んだイタズラなんだよ。僕も気を抜きすぎだろ、こんなところに連れてかれても気づかないなんて──

僕は諜報科の武偵だ。いくら寝ていても自分に害をもたらそうとしている人間が近づいたら反応する。さっきだって、寝ぼけてはいたけど油断はしてなかった。

薬でも使われたのか? でも、それにしては薬で眠らされたあと特有のダル気を感じないし、何より並の薬じゃ僕に効果はほとんど無い。それこそ、夾竹桃レベルの物じゃないと…。

僕が必死に今の状況を理解しようと、頭を働かせていると──

「さあ、いただきましょう?」

「なんでさ…」

いつの間にか椅子に座らされていた。テーブルの上には朝ご飯とは思えないほど豪華な料理が並んでいる。

軽く料理を調べる。……毒はなさそうだな。

「…何をしているのですか?」

「いや、毒とか入って無いかな、と」

「もう! そんなもの入っているわけないじゃないですか!」

──怒られた。

だって、この状況で疑うなって言われてもなぁ……

「…酷いです。せっかくソラ君のために作ったのに……」

しゅん、と落ち込む佐々木(偽)。本気で落ち込んでいるようでとても演技には見えない。

…何この罪悪感。え? 僕が悪いの?

「ご、ゴメン…」

「許しません。そんなこと言うソラ君はご飯抜きです」

そう言って、僕の前にあるご飯とお箸を取り上げられてしまった。

──困った。何故か強烈にお腹が空いてきたのだ。

「悪かったって、じょ、ジョークの一種だよ佐々木!」

「…また」

「?」

「…また、佐々木って呼びました。今日のソラ君は本当におかしいです」

おかしいのはおまえだろ! 佐々木(偽)。

とは言えない、今は謎の空腹感で頭がいっぱいなのだ。

「……本当にゴメン、志乃(・・)

僕がそういうと、志乃は先ほどまでの暗い顔が嘘のように綺麗な顔で微笑んだ。

「やっと、呼んでくれましたねソラ君。意地悪が過ぎますよ?」

「うん、ゴメン。寝ぼけてたんだよ。……だから、ご飯欲しいなーなんて」

「でもダメです。私はとても傷つきました。ソラ君のご飯は返しません」

「そ、そんなぁ…」

こんなにおいしそうなご飯が食べられないなんて最悪だ。

「…代わりに私のご飯をソラ君に食べさしてあげます」

「え?」

「はい、ソラ君。あーん」

「…あ、あーん」

な、なんだこれ、今僕は何をした!? 何された!?

こ、これじゃまるで、本当に恋人や──

「夫婦みたいじゃないか…!」

「何当たり前のことを言っているんですか、あなた(・・・)

そ、そうか、僕は志乃と結婚してたのか……。

た、確かにあかりへの尋常じゃないレズっぷりを除けば、志乃はかなりいい女性だからなぁ。

うん。そうだ。……そうだった、僕は志乃と結婚したんだった。

 

ご飯も空気もアツアツな食事を終えて、落ち着いた時だった。

ふと、気になることがあったのだ。

「そういえば、今日は休日なのか?」

「いえ、今日は月曜日ですよ?」

「え、じゃあ仕事行かなきゃじゃん!?」

なんで、こんなゆったりしてるの? 遅刻とかしちゃうんじゃ……。

「何を言っているのですか? ソラ君は仕事していないでしょう?」

え? 何、僕ってプーなの? マダオなの? 武偵の道はどうした!?

「じゃあ、志乃は仕事行かなくていいのか?」

「私も外での仕事(・・・・・)はしていませんよ」

「は? じゃあ、どうやって生活してるのさ!?」

「お金なら元々ありますし、それに──」

「それに…?」

 

忘れていた。彼女の問題はレズである以前に──

 

「仕事なんかしていたら、その間ソラ君に会えないじゃないですか。しかもソラ君まで仕事に行って、その職場で他の女ともしものことがあったら…。いえ、ソラ君のことは信じているんですよ?ソラ君が私を裏切るはずがないってわかってます。でも、ソラ君ほどの素敵な男性がいたら他の女がほっとくとも思えませんし。もしかしたら、無理やりなんてこともあるかもしれません。というか、そもそもソラ君の視界に私以外の女を入れてほしくありません。うふふ、大丈夫ですよ。ソラ君を養ってあげられるお金は十分にあるので、ソラ君は外に出る必要はありません。心配しないで一生この家の中で暮らしましょうね。大体まだ私たちは子供も作っていないじゃないですか。夫婦としてやることがまだいっぱいありますよね。そういえば、ソラ君は子供何人欲しいですか?私は9人は欲しいです。そうすれば私たちの子供で野球チームが作れますね。それって素敵だと思いませんか?あ、女の子もいますからその倍いたほうがいいかもしれませんね。名前はどっちが決めますか?私も決めたいですし、ソラ君もそうでしょうからやっぱり18人産んで半分ずつ決めましょう。うん、それがいいですね。私とソラ君の子供ですから男の子も女の子もきっと可愛いです。でも一番可愛いのはソラ君ですよ?あれ?どうしたんですかソラ君汗がすごいですよ?もしかして体調が悪いんですか?それは大変です。早く部屋に監き──お連れしないと。風邪を侮ってはだめですよ。暖かくして寝ないと酷くなるかもしれません。暖かくするといえばやっぱり人肌が一番ですよね?私もちょっと恥ずかしいですけど、ソラ君のためだもん。一肌脱ぎます。──なんてね。それに風邪って移せば治るとも言いますし、私もソラ君の風邪ならいつでもウェルカムです。あ、いっそのことそのまま記念に第一子をもうけましょう。あはっ、我ながらいいアイデアですね。ソラ君もそう思うでしょう?なら善は急げです、早くベットルームに行きましょう!どうして動かないんですか?そんなに体調が悪いの?でも、さっきまではそんな酷そうな感じしなかったし、いきなり悪くなるはずないですよね。もしかして、照れているのですか?もう、ソラ君ったら本当にかわいいんですから。大丈夫ですよ。私も初めてですし、ただ知識としては知っているので失敗はしないと思います。細かいところは本能に任せればいいわけですし。ソラ君初めてだよね…?もし、もしもだよ?ソラ君が今までにそういうことしていたのなら正直に言って欲しいなぁ。怒りませんから。ただ、ちょっとお出かけしないといけなくなりますけど。え?初めてだって?よかったです。ええ、私はソラ君がそんなことをするはずないって信じていましたよ?ソラ君はああ見えて真面目なのは知っていますから。でも、これで二人とも初めてですね。相性ばっちりです。まあ、私とソラ君なんだから当然ですね。女の子の初めては痛いと聞きますけど、大丈夫ですよ?私はソラ君のだったらむしろ嬉しいくらいです。これで憂いは無くなりましたね。じゃあ行きましょう。早速ヤりましょう!さあ、さあ!さあ!!────」

 

 

 

 

「ぎゃああああああ!!!」

跳び起きた僕は周囲を見て、ここが正常だと確認する。

「はぁ、はぁ……。…なんつー夢だよ…」

…よりにもよって佐々木とか…。昨日あんなことがあったからか?

しかも、ちょっとなんかいいな、と思ったら、次の瞬間地獄だよ! 超地獄だよ!!

あと少し起きるのが遅かったら発狂していた気がする。

 

外は暗い。まだ夜中のようだ。明日のためにも寝なおした方がいいだろう。

『ソラ君、どうして逃げるんですか?』

「!?」

げ、幻聴…だよね。ここ現実だよね…

はは、高校生にもなってこんなこと、あのお子様なあかりだって怖がるわけな──

『今、私以外の女のことを考えましたね…!』

「!?」

………

……は、ははっ……ぐすんっ。

「……今日はもう、起きてよう……」

 

 

 

10.「…中に誰もいませんよ」

 

 

 

「おい大丈夫か? またクマできてんぞ?」

「…あー。昨日ちょっと眠れなくて…」

ふらふらと着いた教室で、早々に聞いてくるライカ。まあ、最近元気だった分心配しているのだろう。

虎にならなかった分、クマが出来ましたって? ……笑えないか。

「また、仕事でもあったのか?」

「いや、そういうのとは違うんだけど…」

怖い夢を見て眠れませんでしたなんて言えるわけないじゃないか。

「おーす、ソラ。なんだか怠そうだな」

今度は竹中か。

「…だったら話しかけてくんなよ」

「なんで火野の奴とそんなに反応が違うんだよ!?」

「何故同じ反応をしなきゃならんのだ」

「最近はなんか余計に間宮たちとも仲良くなってるし、俺は寂しいんだぞ!」

知るかよ。

「ライカにソラ君。おはようー」

「ん、あかりか。うぃーす」

「おはよう、あかり一人か?」

「私もいます──「ぎゃああああああ!!!」って何ですか!?」

「おい、ソラ大丈夫か!? ……気絶してる」

「な、なんなんですか!? いくらなんでも、失礼すぎます!」

 

──しばらくの間、僕は佐々木の顔を見ることができなかった。

 




◆◇◆◇◆


朝霧ソラ(二回目)──台詞は佐々木志乃(悪夢)


とある出来事があり、最近あかりに優しくなった。ただ、ホレているわけではない。
何度も言うが、遠山先輩と違って、僕はロリコンではない。(重要)
だがそのせいで佐々木に脅され、ついには夢にまで出る始末に。新たなトラウマの完成である。
最近また、目の下にクマが出来てきたのが悩み。

口癖は「メンドイ」「いやいやいや!」


────────────────────────────
以下ネタ。
読み飛ばしてもらって構いません。




『あと、五分』
鉄板。朝起こされるときに必ずいう台詞だよね。


『あ…ありのまま今、起こった事を話すぜ!(以下略)』
この手のものには有名なポルナレフ状態。でも実際、ソラはレキといる時は結構この状態になってるっぽい。


『≪大円満のハッピーエンド、ただし打ち切り最終回≫みたいなっ!?』
戯言シリーズ。葵井巫女子さんの言い回し。ネタとしてはかなり好きな部類に入る。
本当に新連載は頑張ってほしいものだ。


『なん…だと……!?』
信じられない出来事に遭遇した時に用いるオサレな台詞。驚いている描写の大体はこれで解決。


『僕のクラスメートがこんなに可愛いわけがない!!』
俺妹。正直佐々木の容姿だけは結構好みなソラ君。


『なんでさ』
某正義の味方の口癖。よくわからない事態や理不尽な事態に遭遇した時はこれを用いよう。


『マダオ』
……頑張ろうか。


『仕事なんかしていたら──(中略)──さあ、さあ! さあ!!」
こんだけ一気にしゃべれるのはスゴイよね。
因みに佐々木の手に障っても物が腐ることは無い。


『どうして逃げるんですか?』
「おまえの後ろにだぁ!!」──すいません。正直あんまり被ってないです。


『中に誰もいませんよ』
もし、ソラが他の女の子とヤっていたら……。


『発狂せずに済み、虎にならなかった』
でも、クマは出来てしまいましたね。


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