鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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地下倉庫(ジャンクション)。
地下倉庫とは対外用の言い方にすぎず、その実は武偵高で扱う弾丸などを保存している火薬庫。
そのため強襲科、教務科と並び武偵高三大危険地域の一つに数えられている。
その火薬の総量は、武偵高のある人工浮島を吹っ飛ばし余りあるほど。
当然、火気厳禁である。


第11弾

──恐怖の夜から数日。

 

最近はレキ先輩の依頼が無いな。なんでだろう? 退院して幾日もたっているというのに。

と、これじゃあ僕が寂しがってるみたいじゃないか。

言っておくけど、何にもないのが不気味なだけであって、レキ先輩に依頼されないのが寂しいなんてことは絶対の絶対にないんだからな!

とにかく、メンドイのが無いのはいいことだ。

最近はなんか不眠症気味だし、今だってアドシアードの準備で暇ってわけではないのだから。

それに加え、レキ先輩は競技についての細かいこと全部こっちに任せてきてるし、たまにふらっといなくなるしで。

まったく、世話の焼ける先輩だよね。

まあ、当日さえしっかりしてくれればいいか。

あの人の腕なら世界記録とかも夢じゃないだろうし。

 

──って思っていたのに!

「なんで競技レーン抜けたんですか!? 失格になっちゃいましたよ!?」

アドシアード当日。あと少しで記録更新か、と言われた矢先のことだった。

「朝霧ソラ。あなたは白雪さんの所へ向かってください。私はキンジさんと連絡を取ります」

「いやいやいや、意味が分かりません。何がどうなってるんですか? 大体、星伽先輩がどこにいるのか知りませんし」

「第九排水溝の辺りの海水の流れに違和感を感じます。おそらく、その方向に」

「それって島の反対側じゃないですか! そんなところに今から行けと!?」

「早く向かってください。風穴あけますよ」

「…あー! もう! わかりましたよ!! 全力で向かわしていただきます!」

レキ先輩が抜けたことで大騒ぎになっている競技場を抜け、指示された場所へと走る。

第九排水溝か…

確かあそこがつながっている場所は──。

 

 

 

11.「キンちゃんは私のヒーローだから」

 

 

 

『キンちゃんごめんね。さようなら』──。

 

そう一言メールを残し白雪は失踪した。アドシアード当日のことだった。

白雪は狙われている。そう言ったのは誰だったか…。

その噂のため俺は、今日まで白雪のボディーガードをしていたのだ。

だけど、今の今まで俺は信じていなかった。危険があるなんてこれっぽっちも思っていなかったんだ。

──どうせデマだろう。一々信じてたらキリがない。

そんなことを思っていたんだ。

魔剣(デュランダル)はいる! あたしのカンではすぐ近くまで迫ってきてる!』

ああアリア、おまえの言った通りだったかもしれない。

だが、そのアリアも今はいない。他でもない俺のせいで。

何がデュランダルなんかいない、だ。ただ俺がそう勝手に決めこんでいただけじゃねえか。

最低だ…。

『信じてる』──そう言ってくれた女の子一人守れないなんて。

 

電話は繋がらない。白雪にも、アリアにも……

 

『この世界、ただでさえ備えあっても憂うものです。ならば備えなければどうなるか。ま、少なくても後悔の度合いは違うことしょうねー』

何故かこんな時に思い出したのは、まだ数回しか会ったことのない後輩の言葉だった。

ああ、そうだな。後悔で今にも押しつぶされそうだよ。

 

『まあ、それでも備えていられなかった時もあるだろうから。そんな時はアレだ、周りを見ることです。とりあえず備えている奴から貰うか奪えばいいんです。はい、解決』

まったく、武偵とは思えない言葉だよ。だがまあ、周りを見るってのは同感だ。

思えば少し頭に血が上り数ぎていたかもしれない。

どこかに手掛かりがないとも限らないんだ。

そんな時、携帯が鳴った。

誰だ──

『キンジさん、レキです。今、あなたが見える。D7だそうですね』

「ああそうだ。おまえ競技はどうした?」

『私は競技のレーンを離れたので失格になりました』

──失格。

確かによく聞けば携帯からはそれを非難するような声が聞こえてくる。

『どうやら、落ち着いてはいるようですね。白雪さん(クライアント)は見当たりませんが──海水の流れに違和感を感じます。第九排水溝の辺り』

「どっちだ」

『──私は……一発の銃弾──』

レキはそう呟くと──

ビシッ。

俺から少し離れた位置になるアスファルトを狙撃銃の弾が傷つけた。

続けて、ビシッ。ビシッ、ビシッ、ビシッ。

なんだ?

ドラグノフの速射能力活かし、点描のようにしてできたそれは矢印だった。

『その方角です。調べてください。私の戦弟もそこへ向かわしました。合流し次第協力するように言っています』

「おい、レキ。おまえ戦弟がいたのか?」

だとしたら狙撃科か?

『諜報科です。それよりも早く。私はここから引き続き、白雪さん(クライアント)を捜索します』

 

第九排水溝。海水の流れについて俺は分からなかったが。排水溝には一度外され、無理やり繋ぎ直された跡があった。当たりかもしれない…。

ここがどこに繋がっているのか武偵手帳で調べる。

そこは考えうる限り最悪の場所だった。武偵高の火薬庫の代名詞……

「──地下倉庫(ジャンクション)だと!?」

 

 

 

 

地下倉庫の中をできるだけ音を立てずに走る。

暗い。こんなことならライトの一つや二つ持ち歩くんだった。

携帯も屋内基地局が破壊されたのか圏外になっている。

 

「───!」

大広間のような空間に着いた時、何やら言い争いをしているような声が聞こえた。

よりにもよって、こんな所でかよ!

その大広間は地下倉庫の中でも最も危険な弾薬が集積されている大倉庫と呼ばれる場所だ。

こんな所で、例えば、跳弾の一つでもマズイものに当たりでもしたら、冗談じゃなく武偵高が吹っ飛ぶ。

しかも、今はアドシアード中だ。被害はいつもの比じゃない。将来有望な武偵高の生徒だけでなく、罪もない一般人が大勢死ぬことになる。

とにかく、ここで銃は使えない。そんな大災害を起こすわけにはいかないからな。

音を出さないように丁寧にバタフライナイフを出す。

そして、曲がり角ギリギリの所でナイフを即席の鏡として使い状況を確認する。

──いた!

白雪だ! 巫女装束に身を包んだ彼女は、どうやら誰かと会話をしていた。

「どうして、私なんかを狙うの…魔剣(デュランダル)!」

魔剣…! 実在していたのか! アリアの言った通りじゃないか!

「裏を、かこうとする者がいる。表が、裏の裏であることを知らずにな」

はたして、聞こえてきたのは芝居がかった女の声だった。

私に続け(フォロー・ミー)、白雪。私が、今から連れて行ってやる──イ・ウーにな」

その二人の会話の最中、相手が放った言葉、『イ・ウー』。

ここでも、また繋がるのか!

イ・ウー…兄さんを殺した組織──今度は白雪まで……

 

「──それと、今回一つ誤算があった。おまえは約束を守るタイプだと思っていたんだがな」

相変わらずの芝居かかった声で女──魔剣は言った。

「何のこと…?」

「『何も抵抗をせず自分を差し出す。その代わり、武偵高の生徒、そして誰よりも遠山キンジに手を出さないでほしい』──だが、おまえは奴を呼んでいる!」

──気づかれた!

そう思った瞬間、俺は。

「白雪逃げろ!」

叫び、白雪に向かって走り出す。

「キンちゃん!?」

白雪の驚いた声が響く。

「来ちゃダメ! 武偵は(・・・)超偵に勝てない(・・・・・・・)!」

その声の後、俺は突然飛来してきた何かにつんのめってぶっ倒れた。

足元には優美に湾曲した刃物が突き刺さっている。

「『ラ・ピュセルの枷(l’anse de la Pucelle)』──罪人とされ科せられる者の屈辱を少しは知れ、武偵よ」

女の声と主に、倒れている俺の体をパキパキと何かが床に張り付ける。

これは……氷……!?

そして、動けない俺に更なる銃剣が襲い掛かる。

完全に俺を殺す気だ!

何だよ! これじゃあ、ただやられに来ただけじゃないか!

また(・・)何もできないのか(・・・・・・・・)!?

 

ギンッ!

 

しかし、それの殺意が俺に届くことは無かった。

「じゃあ、バトンタッチね」

暗闇を裂くようなアニメ声。そこにいたのは任務を放棄したはずの──

「アリア!?」

 

 

 

 

武偵憲章2条──依頼人の約束は絶対守れ。

あたしが任務を途中で放棄するわけがない。

それが、イ・ウーに繋がるかもしれないと言うのならなおさら。

…まったく、キンジは本当にバカなんだから。

 

 

魔剣(デュランダル)はいる! あたしのカンではすぐ近くまで迫ってきてる!』

『魔剣なんているわけねえ! おまえの妄想に俺を付き合わせんな!!』

バカキンジ……

あの時キンジとケンカしたあたしは、そのことを利用して相手を誘い出すことにした。

つまり一度、白雪(護衛対象)から離れる。

しかし、その実はレキの部屋など離れた場所から白雪の監視と警護は続けていたのだ。

──そういえば、たまに部屋に来るソラが毎回疲れた顔してたけど、なんでかしら。

……と、今はそんなことどうでもいいわね。

 

 

──地下倉庫。

キンジをあの銃剣から助けた後、あたしたちは二人で、白雪を攫い逃げた魔剣を追った。

進んだ先の空間には、白雪が立ったまま壁に鎖で縛りつけられていた。

さらに、その空間に放たれた海水、魔剣が逃げる可能性などから、白雪のことをキンジに任せて、あたしは上のフロアで魔剣(デュランダル)を探しに行くことになったのだけど……

 

「出てきなさい! この臆病者―!」

されど、魔剣は姿を現さない。あたしのことを相手にしないつもりなのか…。

上に続く扉は破壊されていたし、エレベーターの扉も鉄板で塞がれていた。それも全部内側から。つまり、魔剣がどこかに潜んでいるのは確かなのだ。

 

ザーッ!!

水の流れる音がする。

その音に少し不安になる。

…大丈夫よ! キンジはあたしと違って、お、泳げるんだし…。

武偵憲章4条──武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事。

キンジはあの時、あたしに行けと言った。だったらあたしはそれを信じるだけ。

『きゃあー!』

どこか少し離れたところで悲鳴が聞こえた。

白雪の声だ。

卑怯者! わざわざ、そっちを狙いに行ったなんて!

──いや、悲鳴がこの場所に聞こえたということは、あの状態からは救助できたのね。

だったら、悲鳴の方に行って合流するのが吉。

その時、背後に誰かの気配を感じた。

まさか、このタイミングで──

魔剣(デュランダル)!!?」

「へ?」

しかし、予想と違い、帰ってきた言葉は間の抜けたものだった。

 




◆◇◆◇◆


星伽白雪

性別 女
学年 2年
学科 SSR
武偵ランク A

キンジの幼馴染であり、自称正妻。志乃の戦姉でもある。
武偵高の生徒会長をしており、通常の学力が著しく低い武偵高の中でも偏差値75以上の秀才。
ただ、キンジに対しては度々行き過ぎた態度をとる。(志乃の戦姉という所からも察してください)
超偵であり、戦闘には剣術と鬼道術を用いる。
魔術の力はG17という世界にも数人しかいないと言われているほどの力。
黒髪ロングでグラマスな体型。

まさに、大和撫子のお手本のような女性……普段は。


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