鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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魔剣(デュランダル)。
超能力を操る武偵、通称超偵ばかりを狙う誘拐魔。
その正体は誰も知らず、また本当に存在するのかさえもわかっていない。
その理由は誰も魔剣を見た者がいないため。
一般的には都市伝説のような扱いを受けている。

いやいやいや、誰も見たことないのに、どっからそんな厨二な名前がついたんだよ。


第12斬

助けに来たはずのアリアを捕え、頸動脈に刃を当てる白雪。

「しら…ゆき! 何よ! どう、したの!?」

理解できない白雪の行動に、喚くアリア。その肩越しに白雪は息を吹きかける。

ビクッとアリアの体が震えると、持っていたガバメントを手から離し、落としてしまった。

さらに、左手にも息を吹きかける。

同じようにアリアの体が震える。

これで、両手のガバメントを落としてしまった。

「アリア! 違う、そいつは白雪じゃない!」

白雪を助けた時にヒステリアモードになった俺だから理解できた、わずかな違和感。

 

壁に縛り付けられた白雪を助けたあとのことだ。

アリアを追って上に上がった時に、突然流れこんできた大量の水。それに流され、一度だけ俺と分断されてしまった白雪。

つまりはその時に入れ替わってた(・・・・・・・)のか!!

「──只の人間ごときが超能力者(ステルス)に抗おうとは、愚かしいものよ」

「……魔剣(デュランダル)!」

「私をその名で呼ぶな。人に付けられた名前は好きではない」

…こいつは、わかっている。

俺が──今のヒステリアモードの俺が(アリア)を人質に取られれば何もできないってことが!

くそっ!

もっと、早く気づいていれば!

まさに絶体絶命だった。

 

「──じゃあ、何て呼べばいいんだよ?」

ヒュンッ!

声と共に突然、魔剣とアリアに向かって振ってくる投剣。

魔剣は咄嗟にアリアを離し、その攻撃を躱す。

アリアは魔剣が離れた隙にその場を離脱する。

「まったく、只の超能力者ごときがこんな人外魔境の巣で暴れようだなんて、愚かしいものだな」

「貴様は…!」

闇に溶け込む漆黒の髪に、浮かぶような琥珀色の瞳。

どこか気だるげな雰囲気は相変わらずだ。

どうしておまえがいるのか、ヒステリアモードの俺にはすぐに理解できた。

『私の戦弟もそこへ向かわしました』

…ああ、そういうことか。

──あの雨の日に病院で初めて出会い、そのあとも会う度にどこか不思議な印象を与えてきた後輩。

…そうか、レキの戦弟はおまえだったんだな。

 

「──朝霧ソラ!」

 

 

 

12.「フォロー・ミー。私に従え」

 

 

 

魔剣に捕まったアリア先輩をセーブしたあと、魔剣から距離をとった二人に近づく。

「どうやら、セーフみたいですね」

「遅いわよ! 今まで何してたの!」

「…まあ、こっちもいろいろあったんですよ」

アリア先輩が、僕がここにいることを知っている風に話すのを遠山先輩は疑問を抱くような顔で見ていた。

「さっき、キンジたちと別れた後に一度会ったのよ」

「なんで言わなかったんだい?」

「僕から口止めしといたんです。どっちのあなたが来るか分からなかったので(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

僕の言葉に少し驚くような反応をする。僕がHSSを知っていることが分かったのだろう。

今回僕は伏兵だからね。

普段の遠山先輩だったら僕がいることを伝えると、それが態度に出ちゃうかもしれないし。

ということで、後で言及されるより、こうした方が早いと判断した。まあ、終わった時に違うことを聞かれそうだけど。

「それより、一度引いて星伽先輩と合流してください。アリア先輩は今のままでは戦えないでしょうし」

「朝霧、おまえはどうするんだ?」

「ここで、相手を引きつけます」

「無謀よ! あんたが勝てる相手じゃないわ!」

最後まで二人は渋っていた。仮にも後輩一人をこんな所に残すのはまずいと思ったんだろう。

「大丈夫、僕に策あり、です」

「──ッ! でも!」

「武偵憲章第1条『仲間を信じ、仲間を助けよ』ですよ」

「……わかったわ。でも、ヤバくなったらすぐに逃げるのよ!」

「言われなくても」

だけど、このままでも状況は好転しないことがわかっていただけに最後は引いてくれた。

 

………

「待っていてくれて、ありがと」

そして、再び魔剣に向き直る。

「ふん、小賢しい手を使っておいてよく言う」

魔剣はどこに隠していたのか、手に持った洋風の大剣をその場で振るう。

シュッ

何かが切れる音がする。

それは僕が投剣と共に張り巡らしたワイヤーだった。

TNKワイヤー。防弾制服にも使われている極細繊維。

何のことは無い。そのワイヤーが魔剣の行く手を遮っていたのだ。

「……そのまま、突っ込んでくれれば楽だったんだけどね」

「このような手に引っかかるのは二流だけだ」

「そうですか。で? 結局あなたのことは何て呼べばいいのかな?」

その問いを待っていたのか、彼女は一層芝居がかった口調で言った。

「問われたからには答えよう。元よりそのつもりだったのだしな」

バリバリバリ!

魔剣が星伽先輩の顔をした変装マスクをはがす。

そして、現れる素顔。

「──ジャンヌ・ダルク30世。それが私の名前だ」

「は?」

声が出なかった。

いやいやいや! だってジャンヌ・ダルクって十代で死んだだろ!?

30世って何だよ。ありえないでしょ!?

──なんて、どうでもいいことでは無い。

見惚れたのだ。

そのサファイアの瞳と美しい銀髪に。女騎士のような凛とした佇まいに。

「……やべっ。モロ好みだ……」

というか、鎧姿の露出が結構あって少しエロい。

「な!? 何を言っているおまえは!?」

「え、あ、すみません」

もしかして、僕、空気壊した?

しかし、武偵ってのも嫌な職業だよな。こんな美人をこれから打ちのめし、捕まえなくちゃいけないんだからさ。

「…まあいい。おまえを排除して星伽白雪たちを追わせてもらう」

「できるかな? それにさっきは先輩たちの手前、足止めって言ったけどさ」

僕は口角をあげて言う。できるだけ嫌味ったらしく。

「別に倒しちゃってもいいんだよね!」

「戯言を!」

大剣を構えこちらに突っ込んでくる魔剣──ジャンヌ・ダルク。

迎え撃つ僕の手にあるのは刃渡り20cmほどの片刃のナイフ。

正直、超怖い。

…武器の差がありすぎだろう。

ギィィンッ!!

「ぐっ!」

「その程度の武器で、我が聖剣デュランダルに太刀打ちできると思っているのか!」

実際、ジャンヌの言う通りだった。一度打ち合っただけでナイフは刃が欠けてしまっている。

対するデュランダルは傷一つなく、その美しい刀身を輝かせている。

「んにゃろぉ!!」

剣の隙間から蹴りを放つが紙一重で躱される。

そして、またその大剣が僕に向かって振り下ろされる。

ギィィンッ!!

「スピードだけは大したものだな。だが、動きが未熟すぎる」

「──ッ!」

ぐっ! 受け流せない!

バギィィィンッ!!

折れた!? たった三回の打ち合いで!?

結構頑丈なナイフだったはずなのに……。

僕は慌ててバックステップをし、相手との距離をとる。

──強い! 僕もこれで結構やる方だと思ってたんだけどな…。

「…あの状態から、夾竹桃相手に逃げ果せたおまえのことは高く買っていたのだがな。どうやら過大評価だったようだ」

ああ、どこかで聞いたことある声だと思っていたら、あの雨の日に夾竹桃と落ち合っていたのはジャンヌだったのか。

「…まあ、そっちに期待されても困るね…。僕はアリア先輩や遠山先輩みたく、戦うタイプの人間じゃないし」

「どうやら、力の差がわからないわけではないようだな」

相手の方が力は上。だけど、それでも僕の優位は動かない。

「そりゃあね。でも、関係ないんだなぁ、これが。だって僕は──」

プツン。

耳を澄まさないと聞き逃しそうなほど小さい、何かが切れる音。

ヒュンッ!

「な!?」

ザンザンザン!

間髪を入れず、いきなり飛んできた数本のピックにジャンヌが驚く。

だけど、これで終わりじゃない。彼女が回避行動をとった先──杭の飛び出て来た方向と、僕の位置、とっさの判断で避ける方向は限定できる。

プツン。

回避した先でまたしても何かが切れる音。

ザンザンザン!

そして、再び彼女に向かって飛んでいくピック。

体勢の崩れたジャンヌはそれを転げるように無理やり避けた。

僕はそこに飛び込む。

「──狩る(しとめる)タイプの人間だから!」

そして、隙だらけの脇腹に蹴りを打ち込む。

「ガハッ!」

初めてクリーンヒット!

続けて二撃目──ヒュンッ──「ちぇ」

二撃目は出来なかった。転がりながらもすぐに体勢を立て直された。

あと、数発イケると思ったんだけどな。

「リカバリー早いなぁ」

しかし、すぐに僕に切り掛ってこない。辺りの様子を見ているようだ。

「……なるほど…おまえが私に姿を現す前に仕掛けは済んでいたというわけか」

どうやら、攻撃を当てたことが逆に相手を冷静にしてしまったようだ。もう先ほどまでの僕を舐めるような雰囲気は無い。

まったくメンドイ相手だよ。少しは感情的になってくれれば楽だったのに。

ダメージも思ったよりないみたいだし。

「そうだよ。この辺りのエリアは僕の作ったトラップで満たされている。うっかりしてると串刺しになっちゃうから気をつけてね」

──糸と連動したひも状のゴムを利用した、ピックのパチンコ。

罠自体は単純だが、その分効率よく仕掛けることができる。

「…どうやら、迂闊には動けないようだな」

これで、さっきみたいに誘導することは難しくなったな。けれども、足止めという点では最高の状態に……「──と、でも言うと思ったか?」

「!?」

急激に下がる気温。

それと、同時に凝結する空気中の水分。そしてその水が反射して可視になった糸。

「…嘘だろ!?」

超能力(ステルス)ってやつか!?

「先ほどのワイヤーよりも脆く、その分細くわかり難い糸か」

その結果、トラップの仕掛けである糸の場所が把握されてしまった。

「しかし、わかってしまえば興ざめだな。策が破られた策士ほど脆いものも無い」

ナイフはさっき折れた。他のほとんどの武器もトラップに使ってしまった。

今の僕は無防備に近い。少なくても近づかれては、あの大剣を防ぎきる術は無い。

「所詮おまえなど、イ・ウーで研磨された私の敵ではない!」

ダッ!

今度こそ、決めにかかるジャンヌ。

「くそっ」

キィン!

牽制のため残り少ない武装である小型のナイフを投擲するも、あっさり弾かれる。

『ヤバくなったら、すぐに逃げるのよ!』

…ああ、ちょっとまずいかな…。

一旦引こうとした僕だったが、相手はそれを許さなかった。

「──散れ!『オルレアンの氷花(Fleur de la glace d’Orleans)』!」

突如、世界が凍る。

空間が白く染まり始める。そして吹雪のような風が吹き抜け僕を威圧する。

ジャンヌの周囲には微細な氷の粒ができ、青い光を蓄えたデュランダルの刀身に反射して白い世界に一筋の輝きを放つ。

それはさながらファンタジーの一場面ようで、妖艶なまでの美しさに一瞬見とれそうになる。

 

──カチカチカチ。

現実に戻ってきた僕は、凍ってきた地面を避けるため後ろに跳ぶ。

だが、相手はその僕の反応が予想通りと言わんばかりに、迷いなくその隙に一気に近づいてくる。

ダメだ、手持ちのナイフで抑え切れるような攻撃じゃない。

──こんなはずじゃなかったのに!

「終わりだ!」

「ぐっ!…」

 

ドゴォォォオオンッ!

 

──すみません。先輩…。

 




◆◇◆◇◆


ジャンヌ・ダルク(30世)

性別 女
所属 イ・ウー

魔剣──デュランダルの正体であり、火刑で死んだと言われているジャンヌ・ダルクの子孫。
実は死んだのは影武者で本物のジャンヌ・ダルクは生き残り、子孫を残した。彼女はその30代目。
銀色の髪とサファイアの瞳を持つ美人。
武器は、聖剣デュランダル。氷の力を持つ超偵。
女子としては高身長、スラッとした体形。

容姿自体はソラのドストライクらしい。

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