鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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武偵憲章。
国際武偵連盟が発足時に作成された武偵の心得。全部で10条ある。

①仲間を信じ、仲間を助けよ。
②依頼人との契約は絶対守れ。
③強くあれ。但し、その前に正しくあれ。
④武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事。
⑤行動に疾くあれ。先手必勝を旨とすべし。
⑥自ら考え、自ら行動せよ。
⑦悲観論で備え、楽観論で行動せよ。
⑧任務は、その裏の裏まで完遂すべし。
⑨世界に雄飛せよ。人種、国籍の別なく共闘すべし。
⑩諦めるな、武偵は決して諦めるな。

レキ先輩。後輩をいびるのは正しいのでしょうか。


第13斬

──カチ

 

ドゴォォォオオンッ!

 

「ガッ!」

バタンッ!!

攻撃の衝撃で壁に叩きつけられる。

ただし、そうなったのは僕ではなく、追い詰めていた側であるジャンヌの方だった。

「……ケホッ。あーあ。結局使っちゃったよ」

これあんまり使いたくなかったんだよね。イマイチ確実性に欠けるし、この距離で使えば僕も少なからず痛いし、何より一応盗難(・・)だし。

「ば、馬鹿な…」

「そう。誰も火薬倉庫(こんなとこ)で爆発物を使うなんて考えない」

同時に、熱と煙を感知したスプリンクラーが作動し、水が辺りに降り注ぐ。

だからこそ使う(・・・・・・・)

「貴様、死ぬ気だったのか!?」

いやいやいや。僕がそんな自殺願望な奴に見えるのかよ。

実際そこまでの火薬量を使ってない。精々、運が悪ければ死ぬかもしれないねくらいの爆発だし。

それに──

「違うよ。ゴメンね、僕さっき一つウソついてたんだ」

言うほど罠なんて仕掛けてません。ここら一体にある糸は全てダミー(・・・・・)。別に切っても何にも起こることが無い、ただのハッタリ。

実際の罠は最初に二発だけ。それらが発動している所を見せることで、この辺りの糸をトラップだと信じ込ませた。

「──じゃあ、大したトラップも張っていない僕は、先輩方がおまえと揉めている間に何をしていたか」

最初から、普通にやりあって勝てると思わなかった。単純な罠じゃ仕留められるか、わからなかった。

だから、僕は相手の選択肢にない攻撃(・・・・・・・・・・・)狩る(しとめる)ことにした。

まあ、使わずに済めばそれがベストだったけど。

当初の予定としてはハッタリの罠で足止めしている間に、先輩方と合流する予定だったんだよねぇ。

「予め、ここら一体の火薬を退かしたり、使えなくしたりしといたんだよ」

まあ、その過程でちょっと拝借させてもらったんだけどね。

その火薬で作った簡易爆弾。それが今回の奥の手、実力差を補う最後にして最大の一手。

足りなければどこからか持ってくればいい。それが真理だしね。

「ぐっ…」

先ほどとは一転した立場になった二人。今のダメージが決定的だったのだろう、ジャンヌは辛うじで立ったもののこちらを睨むだけですぐに動ける様ではない。

それはそうだろう。僕と違ってまともに衝撃を喰らったんだから。

「頭の良い策士はさあ、絶対に勝てると思った時にしか戦わないそうだけど。僕の場合、すでに勝ちを決めた状況にしか相手と向き合わないんだ。──その臆病度の違いが僕の勝因。おまえで言う誤算って奴だよ」

「……朝霧…ソラ…!」

ジャンヌは親の仇と言わんばかりにこちらを睨んでくる。

まあ、怖くないけどね。どう見ても僕の勝ちだし。

本当にすみませんねぇ、先輩方。出番奪っちゃって(・・・・・・・・)さぁ。

「じゃあね魔剣。まあ、僕は武偵だし、命だけは取らないよ」

後は気絶でもなんでも相手の動きを封じて先輩たちに引き渡そう。

あ、今思い出したけどレキ先輩、競技すっぽ抜けたんだったよな。

こりゃあ、帰ったら帰ったで、メンドウなことになりそうだ。

 

つるん!

「……あり?」

そんな風に考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのか、僕は滑って、ぶっ倒れた。

──よりにもよって、ジャンヌのすぐ足元に。

「………」

「………」

「………コンニチワ」

「………どうやら、詰めが甘かったようだな」

首筋に刃を当てられる。動けない。

ああ、そうか。ジャンヌの攻撃で凍った地面にスプリンクラーの水が降り注いだことで、極度に摩擦抵抗が少なくなっていたのかぁ。勝ったと思って気を抜いたのがいけなかったね。

任務は帰るまでが任務ですって言葉を忘れていたよ…。

「見逃してくれたりは……」

「ここまでされて見逃すと思うか?」

いえ、殺意満々の目をしてます。とっても綺麗ですよ? 犯罪者じゃなかったら求婚したいくらいの。

自分でも不思議なほど冷静だ。もしかしたらまだ、現実が呑み込めていないのかもしれない。

「今度こそ、終わりだ!」

そして僕の首にその名の代名詞である聖剣デュランダルが振り下ろされる。

ギロチンのように──。

───ッ。

 

……………

…………

………

…アレ? なんだか、いつまでたっても剣が来ないような…?

「──まったく、手間の掛かる後輩だよ」

僕はその言葉に対し、命があってよかったとか、助けてくれてありがとう、とかの前に浮かんだ言葉があった。

「……遠山先輩……あなた女子じゃなくても助けられるんですねっ!?」

………

は!

おおっと、口に出すところだった。いくらなんでも助けに来た人にそれは失礼すぎる。

「…ふう、危なかった」

僕はすぐさま離脱し、額を拭う。

「……どっちの意味で言っているが知らんが、しっかり聞こえたからな」

「助けてくれてありがとうございます」

「………ああ」

なんか、遠山先輩が何とも言えないような顔をしてるんだけど。何でかな?

しかし、どうやって助けてくれたんだろ。あの状態から。

金属がぶつかり合う音がしなかったからナイフを間に挟み込んだわけじゃないだろうし。

助かったのはいいが、どこか腑に落ちない気持ちで遠山先輩の手元を見ると……

──デュランダルをつかんでた。正確には左手の人差し指と中指の間で剣を挟み込んでいた。

なるほどー、真剣白刃取りかぁ。それも片手でやっちゃうなんてすごいなぁ…

「って、いやいやいや! ありえないでしょ! 何? 先輩も超能力者なの!?」

「悪いけど、俺は一般人だよ。そして、魔剣。キミはもういい子にしておいた方がいい」

そうして、遠山先輩はジャンヌの首筋に右手で持っている銃を突きつける。左手で剣を抑えたまま。

せんぱーい。片手でそんな大剣を白刃取りするような人を一般人とは言わないと思いまーす。

……正直、HSSを舐めていた。Sランク並みとは聞いていたけど、こんな化け物クラスになるなんて。

「武偵法9条。よもや忘れたわけではないな。武偵に人は殺せない。…だが、私は違う!」

そう言ってジャンヌは剣に力を込める。すると少しずつ、遠山先輩は押されていく。

そして、心なしか周囲の気温も下がり始める。

…まだ、そんな力が残っていたのか。

「いや、もう終わりだよ。お嬢さん」

しかし、先輩は余裕を崩さない。

「お、お嬢…?」

「キンちゃんに! 手を出すなああああッ!」

絶叫と共に鬼の形相でこちらに駆けてくる星伽先輩。…正直、今日一番の恐怖を味わいました。

そして、ジャンヌの持っているデュランダルめがけて──

「──緋緋星伽神(ヒヒノホトギカミ)──!」

下から上への居合切り。

緋色の閃光と共に抜き放たれたその刃は、あのデュランダルを焼き切り、離れている天井にまで炎の渦を巻きあがらせた。

ドガアァァァァァン!

凍っていた地面も溶け、世界は緋色に染まる。

自慢の剣が折れて戦意を失ったのか。その光景に、ジャンヌはただ立ちすくしていた。

僕も別の理由でただ呆然としていた。冷や汗をダラダラと流しながら。

魔剣(デュランダル)! 逮捕よ!」

そして、アリア先輩は動かなくなったジャンヌを取り押さえて銀の手錠をかける。

遠山先輩も折られた剣を弄ぶようにしながら言った。

「だから、言っただろう? いい子にしておいた方がいいって」

──これ、僕が火薬の移動やらスプリンクラーの発動やらしてなかったら危なかったんじゃ……

 

 

 

 

「──というわけで、今回の騒動は片付いたわけですが──」

アドシアードも無事終わり、レキ先輩の部屋で報告をする。

「正直、驚きました。レキ先輩を疑っていたわけではないんですけど、遠山先輩や星伽先輩があそこまで大きな力を持っていたなんて」

それに、アリア先輩を加えた三人相手に途中まで優位に立っていたジャンヌのこともある。

僕が今回、ジャンヌを追い詰めることができたのは、相手の油断に他ならない。

とはいえ、その油断を誘ったのが僕自身なのだから、やっぱり僕ってすごいのかも……

「自惚れですね」

心読まれた。

……やっぱり、レキ先輩って超偵なんじゃ…?

魔剣(デュランダル)はキンジさんたちを相手取るためにもあなた相手には余力を残していた。それだけです」

そんな、はっきり言わなくてもいいじゃん!

わかってたよ! どうせそんな事だろうと思ってました!

 

実際の所、魔剣──ジャンヌが最初から超能力、例えば僕が爆弾を使う前に放ってきた技を初撃に使われていたらそれで勝負はついていた。

何せ、僕にはそれを防ぐ術がなかったのだから。

 

「挙句、調子に乗り、結局最後にはキンジさんたちの手を煩わせる始末」

「うっ!」

「移動した火薬の整理まで手伝わせたらしいですね」

「…い、いや…それは…」

「それで、まだあなたは自分が強いとでも思っているのですか?」

「……ずびまぜんでじた……」

──痛い、痛いよ。

…何だよ。そこまで言わなくてもいいじゃんかよ…。

確かに、最後ちょっと失敗したけどさぁ…。

「少しの失敗。それがこの世界では死を招きます。これから戦っていくのなら微塵のミスも許されません」

「…で、でも、一度もミスしない人間なんて…」

「私はミスをしたことがありません」

「………ぐすんっ…」

…もうやめてよ。僕のライフはとっくにゼロだよ!

大体、今回のことだってレキ先輩が僕に頼んだことなのに…。

レキ先輩がアドシアードを途中で抜けたことだって、何故か僕が代わりに教務科に怒られたんだぜ?

ああ、この世界は本当に理不尽だ…。

 

「──とはいえ、ソラ。あなたが今回事件の解決に貢献したのは事実です。戦姉(アミカ)としては何か報酬となるものが必要でしょう」

「へ?」

…今、何て言った…?

……報…酬…? レキ先輩が? いつもカロリーメイト一箱を無言で投げてくるだけの、あのレキ先輩が?

それに今フルネームでなく名前で呼ばれなかったか?

「何か、希望はありますか?」

「…え。えっと……」

予想外すぎる。レキ先輩がこんなことを言うなんて。

き、希望って言われても、突然いろんなことが起こりすぎて混乱する。

「なんでもいいですよ」

な、なんでも!?

その言葉に驚きながらレキ先輩を見る。

一見、無表情で無愛想だが確かに整っている顔立ち。

なるほど、これは裏でファンクラブがあるのも頷ける。……本性知らないだけだろうけど。

だがそれでも特上の美少女には変わらない。

薄く桜色に染まったその唇を思わず凝視してしまった僕を誰が責められようか。

おそらく、僕がそういえばレキ先輩は叶えてくれるだろう。彼女は理不尽なことを度々するが、ウソや冗談だけはしない。

僕も、健全な男子高校生だ。それに日頃の鬱憤だって溜まっている。

……だからこれを機にレキ先輩し返したり──

 

──なんてね。

「あのー、最近あまり眠れないんでなんかいい薬とか欲しいです」

もちろん僕にそんな度胸なんてあるはずもなく、それにレキ先輩相手にそんな気もなく、出てくる言葉は健全なものだった。

僕はヘタレじゃない。誠実なだけだからな!

それに、好いてもいない人やるのはなんか違うだろ。

童貞の言い訳みたいだけどさ。

 

「わかりました。睡眠薬のようなものでいいのですね?」

「あ、はい。ただ、僕は薬とか効きにくい体質なんでちょっと強めの奴が欲しいです」

「すぐに用意します。幸い当てはあります」

それはよかった。のか?

まあ、もったいないような気持ちがしないでもないけど、変なことを言ってあとでメンドウになるよりはいいか。

こうして、アドシアードの日に起きた騒動は幕を閉じたのだった。

 

「──それと、今回のミスに対する罰は後ほど行いますので」

………。

……幕を閉じたのだった。

 

 

 

13.「東京武偵高はネタの宝庫ね」

 

 

 

後日、僕の所に届いた薬。

見たことのないパッケージ。市販のものでは無いだろう。

レキ先輩のことだ、きっと妥協せずに最高レベルの薬を用意してくれたんだろうけど。

…パッケージに描いてある花が問題だった。

「……夾竹桃……」

当てってこれかよ。確かに司法取引はしたそうだけどさ。

飲んで大丈夫なのかな……?

 

恐る恐ると試しに一粒──

 

 

──翌日。

「おはよー、ソラ。今日は元気がいいな」

「うぃーす、ライカ。昨日はぐっすり眠れたからね!」

病みつきになりそうだった。

 




◆◇◆◇◆


夾竹桃

性別 女
所属 イ・ウー

黒いロングな髪で前髪は揃えてある。
毒使いであり、同時にこの世に自分の知らない毒があることが許せないほどの毒マニアでもある。
ののかやソラに毒を打ち、殺しかけた張本人。
細身の体。おしりに蝶の入れ墨がある。

夏コミ参加を条件に司法取引に応じた。
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