人工浮島の外にあり、武偵高付属中の生徒が在籍している。
ここでは武偵の基礎を習う。
優秀な生徒はインターンとして武偵高に来ることもある。
因みにソラ、あかり、ライカ、志乃は東京武偵高付属中出身。(あかりは後半だけ)
風魔、竹中は神奈川武偵高付属中出身である。
14.「お姉さまの嫁は麒麟ですの!」
──武偵高、強襲科。
「はあ、やっと終わったぜ」
「お疲れだなライカ」
「ったく、なんで武偵高にまで来て一般科目なんてやらなきゃいけねえんだよ」
いつものライカらしくなく、怠そうにしながら文句を言っている。
「愚痴るなって、しょうがないでしょ。武偵の学力低下問題だとかで文部科学省がうるさいんだから」
この学校だって偏差値45未満だし。
それでも、赤点を取れば補習があるのである程度はしっかりやらなければいけない。
「おまえと志乃の奴はいいよなぁ。勉強できんだしさ」
「いいじゃん。武偵高的にはその後のスポーツテストが本番みたいなもんなんだし。その時のライカは女子の中では上位だっただろ?」
「おまえはそれも、一年男子の中では総合一位だったじゃねえか」
「いやー、まぐれデスヨ」
「強襲科の男子の奴らなんてめちゃくちゃ悔しがってたぜ?」
「まあ、今ここに来るときも睨まれたしね」
全く、要らぬ嫉妬を貰ったものだ。
少しは手を抜けばよかったよ。……いや、そうするとバレた時が怖いか。
「火野ライカぁ!」
そんな時、怒鳴り声と共に近づいてきた者が一人。
「竹中か、相変わらずうるさい」
「ん、なんだ。ソラも来てたのか。これはちょうどいいぜ。今から俺が火野の奴を負かすところを見せられんだからな!」
「はぁ、またおまえか…」
割と好戦的な性格のはずのライカでさえ呆れてるし。
「今のとこ、戦績は?」
「47戦47勝。もちろんアタシが勝っている方な」
「うわー…」
それは、また…。
「今の俺を今までの俺と比べると痛い目を見るぜ! つーか見せてやる!」
「はいはい、わかったよ。やりゃいいんだろ」
「くたばれ! 火野―!」
………
………
………
「──覚えてろよ! 俺に負けるその日まで、精々デカい顔してんだな!!」
走りながら逃げていく竹中。
小物だ。ものすっごく小物だ。
「おめでとー。48連勝だな」
「うれしくねえよ…」
ライカは本当に呆れたような顔している。
まあ、あんだけ突っかかれたら嫌になるか。
「ライカ、ソラ君」
あかりが竹中と入れ違いでこちらに来た。
「あかり、アリア先輩との訓練は終わったのか?」
「スコアは?」
少し意地悪して聞く。
「32…」
「あはは、相変わらずへっただなー」
「むー。そういうソラ君はどうなの!?」
「……いや、僕は銃とか使わないし、必要ないっていうか……」
「おまえ、射撃下手だもんな」
「ら、ライカ!」
なんで、それをばらす!
「人のこと言えないじゃん! ……あれ? でもソラ君って狙撃科の先輩が戦姉なんだよね?」
まあ、あかりの言いたいことは分かる。それは当初僕も思っていたことだからだ。
「僕は別にあの人から特に教わったりしていないからな」
「そうなんだ…。でも変だよねー。諜報科なのに狙撃科の戦姉なんて」
「確かに。教わることがあまりないと言う意味ではね。でも、コンビとしては結構合うんだよ。……不本意ながら」
「え、そうなの?」
「何回か、あの人のクエストに、(無理やり)ついてこさせられたことがあるんだけどさ」
狙撃の強みは相手の攻撃が届かないところからこちらだけ一方的に攻撃できるところだ。
逆説的には近づかれたら終わり。
レキ先輩ほどの腕になれば相手を近づかせるどころか、気づかれもせずに仕事を終わらせることができる。
しかし、どうやっても近づかれてしまうこともある。敵のレベルも高かったり、多すぎたり、環境が悪かったりした時とかなどだ。レキ先輩の受けるクエストはみな総じて難易度が高いからな。
そんな時に諜報科である僕が罠による足止め、及び高速離脱術で場を凌いだことが数回だけある。
「同じ、
「すごいねソラ君は。もう戦姉の作戦に付き合っているんだ。」
すごいなー。純粋にそう言ってくるあかり。
少し前までウザいだけの奴だったというのに、こう愛着を持つと小動物みたいでかわいく見える。佐々木が怖いから言わないけど。
「あかりだって、一度作戦命令出されたんだろ?」
「うん……なんで知ってるの?」
「なんでって……」
……あ、これ盗み聞きして得た情報だった。
「あ、アリア先輩から聞いたんだ!」
「アリア先輩から?」
少し疑わしげな顔をしているあかり。
「すっごい誇らしげにしてたぞ! 自慢の戦妹だって」
「え、本当? アリア先輩があたしを自慢………ああでも、ご褒美だなんて…アリア先輩…そ、そんな裸でなんて……順序が……」
ちょろ。しかもなんか、またトリップしてるし。
トウ!
「アタ! あれ、アリア先輩は?」
「最初からいないよ」
「え? じゃ、じゃあ、あたしが頑張って戦姉妹になったアリア先輩は幻…?」
「そんな最初からじゃねーよ!」
叩いたからか? これ以上アホな子にならないよね?
「話は戻るけど、レキ先輩の影響もあって逆に銃なんて使うことが無いんだよ」
遠距離はレキ先輩一人で事足りるからな。
一応、飛び道具としてなら投げナイフがあるし。
「志乃ちゃんみたいに刀とかは使わないの?」
「いや、何か昔から長物はしっくりこないんだよねぇ。大体僕はおまえらと違って戦うタイプじゃないし」
「同学年の強襲科の奴らをCQCでのしといてそれは嫌味だよな」
「戦うタイプではないけど、戦えないタイプになるつもりもないから。そりゃあ最低限の戦闘力は持ってるよ」
「諜報科のくせに強襲科の奴を真正面から倒すのが最低限かよ…」
「それにさ、ライカもわかっているだろ? 本当に一人前の武偵のレベルをさ」
「…まあ、そりゃな」
ライカは自分の父親の背中を見てきたからな、世界のレベルと言うものがある程度分かっているのだろう。
「あ、でもソラ君ってスポーツテストも学年一位だったよね」
「こいつってば、昔から運動神経いいからな」
そういうライカだってかなりいい方だろうが。
「へー。そういえばライカとソラ君っていつからの付き合いなの? あたしが中等部に来たころから結構仲良かったよね」
「それは気になりますわ!」
「うお! 麒麟、いつの間に来たんだよ!?」
突如現れたヒラヒラの制服を着たチビっ子。ライカの戦妹である島麒麟である。
「お姉さまのいるところに麒麟ありですの。なんたって麒麟はお姉さまのよ──」
「わー!! わー!!」
「ライカ、どうした!?」
いきなり喚きながら島の口を塞ぐという奇行に走るライカ。
「…むぐっ。恋敵の情報を集めるのも重要ですの」
恋敵て…。まだ、あの時の冗談を気にしてんのかよ。
こっちを見る視線が刺々しいし。
「別に、話になるようなことは無いよ。いつの間にか仲良くなってた感じだし」
「いや、あったろ。出会ったきっかけは」
「そうだっけ…?」
「ったく。やっぱこういうのって、やった方は覚えてないんだよな」
「ヤる!? お、お姉さま、そんな、まさか…」
なんだか、島が狼狽えてる。つーかそのぶっ飛んだ解釈もどうよ。
「何考えてんだよ、おまえ! 別に変なことは何もねえからな!」
「ん、もしかしてアレか? 組み合って一緒に汗を流した…」
「組み合う!?」
「あーもう! ソラ、おまえもわざと言ってるだろ! ただCQCで戦っただけだ! アタシとソラが一対一で!」
そうだった。確かに初めて会った時はそんなことがあった。
───
「付属中で1年の頃さ、CQCの訓練があったんだけどさ。当時のアタシは小さい時からパパにある程度のことは習っていたから、同学年じゃ敵なしだったんだ。で、少し天狗になってたんだと思う。そんな時だよ、ソラと会ったのは」
「確か、二つのクラス合同訓練の時だよな?」
「ああ、そうだぜ。クラスでアタシが倒していない奴は既にいなかったから、すぐに隣のクラスの奴に勝負を挑んだんだ」
「もしかして、それが……」
「ああ、ソラだよ。所詮アタシは井の中の蛙だった。今まで負けなしだったアタシがソラには手も足も出なかったぜ…」
「ライカが手も足も出なかったって。ソラ君ってそんな強かったの!?」
「意外ですわね」
島はともかく、あかりは強襲科で僕が戦っているとこ見たことあるだろうに。
…ああ、そういえばライカとは戦ってなかったからか。
「どっちにしろ、昔のことだよ。今やればどうなるかはわからない」
「むしろ、今の方が厄介な気がするぜ?」
「さあ、どうかな。…まあ、とにかくそれを機にライカが話してくるようになったんだよな?」
「ああ、そうだよ」
「へー、そんなことがあったんだ」
「そのころからお姉さまを狙っていたなんて…」
いや、話聞いてたか? 狙ってねえよ。ライカから話しかけて来たって言っただろうが。
なんで僕の周りには変な奴ばかり集まるんだ?
「そういえばさ、ライカが昔から強かったのはわかったけど、ソラ君は何でなの?」
「え?」
「ソラ君も付属中に入る前から何かやってたの?」
中学に入る前…?
「おい! あかり!」
「あ。ご、ごめんね。過去の詮索はマナー違反だったよね…」
「…い、いや、別に気にしてない」
気にすることなんて何もないのだから。
別に後ろ暗い過去があるわけでもないし…。
……アレ?
◇
「…はぁはぁ…」
気分がすぐれない。
おかしいなぁ。ここのとこは薬の効果もあって体調は良かったはずなのに…。
どこだ、ここ?
さっきまで話していたはず。
誰と?
ライカたちだ。
じゃあ、今は?
僕は何をしている?
「そこのキミー!」
呼び止められる。誰だ? 女の声? 聞き覚えのない声だ。
「りこりんだよぉー!」
「………」
「ちょ、ちょっとー! 無言で歩いていかないでよぉー」
「すみません。近づかないでくれます?」
「冷静に拒絶された!?」
別の意味で頭痛がしてきた。
直感でわかる、この人は話してると疲れるタイプだ。
「用件はなんですか、
「あ、理子のこと知ってるんだぁー。もしかしてキミ、理子のファンだなー?」
「………」
「ご、ゴメンったらー! だから、行かないでぇー」
僕がこの人のことを知っているのは、ただ単にこの人が有名だからだ。
探偵科Aランク、峰理子。
島と同じようにフリフリに改造された制服。
150cmに届いてないだろう小柄な体格、それに見合うような幼さを感じさせるような稚拙な言動。所謂、おバカキャラとして愛されているらしい。
噂通りと言うべきか、さっきから言ってることもバカまるだしだ。
こういうのを好きだと思う男性もいるのだろう。
…男性では無いがライカも好きそうだな。どうでもいいか。
だから僕も、バカっぽいとか可愛らしいとかそういう印象を──
「だったら、さっさと用件を言ってください。猫なんて被ってないで」
「…くふふ、やっぱり面白いねぇー。──朝霧ソラ、おまえに話がある」
どうやら、僕に平凡な日常は訪れてくれなそうだ。
◆◇◆◇◆
島麒麟
性別 女
学年 中学3年
学科 CVR
武偵ランク C
いつもゴスロリ風の制服を着ている少女。
ライカの戦妹。去年は理子の戦妹だった。
ライカのことを本気で好いており、ソラのことをライバル認定している。
あかりよりも小柄だが、出るところは出ている。
実は関係を複雑にしているのはライカ自身。