鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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犬。
イヌ科、イヌ属に分類される哺乳類。
四つん這いで地を駆け回る下等生物。
吠えたり、噛んで来たり、ウザいことこの上ない。
狼? 犬と何が違うの?

注意:これは全てソラの偏見です。


第18斬

僕は犬が嫌いだ。

嫌いも嫌い、大っ嫌い。犬っ嫌い。嫌いじゃないとかありえないくらい。

大体あいつらって何なの?

わざとらしく人に媚び売るような態度しやがって。それって動物としてどうなの?

マジで言うと劣等種だよね。

人間だったらあれだよ、権力に縋ってお偉いさんの靴舐める小物課長みたいなもんじゃん?

うわっ、想像したらなんか気持ち悪くなってきた…。

それにさ、あの口開けて舌出したマヌケ面とか、しっぽをあざとくフリフリする仕草とか、一々癇に障るよね。

ん? ああ勘違いはしないでくれ、僕は特に犬に何かされたわけじゃない。

嫌いだが、恨みやトラウマなどがあるわけでは無いんだよ。

じゃあ何で嫌いなのか。そう言われると納得できる答えを用意することはできないけどね。

嫌いだから嫌いだとしか言えないわけだ。

思えば、僕が竹中を邪険にするのもあいつの仕草が一々犬っぽいことが関係するのかもしれない。

まあとにかく、僕自身にもよくわからないが、犬は嫌いなのだ。生理的に、無性に──

 

 

「──いや、レキ先輩が飼い始めたのは狼なんですけどね。まあ、似たようなものでしょう。とにかく、僕は犬っころが嫌いなわけなんです」

「……なんでそれを理子に言うの?」

今僕がいる所は、秋葉原のとある喫茶店。

秋葉原は武偵封じの街とも言われているが、実際はそんな大変な場所では無いと思う。

確かに今いる場所も変な店だが、こっちから干渉しない限りただの喫茶店と変わらない。

対面に座る峰先輩は慣れているようだし。

「愚痴なんて言われた方は迷惑じゃないですか。だから、友達や先輩にはあまり言いたくないんです」

「理子も一応ソラランの先輩なんだけど…」

ああ、何だそんな事か…。

ブツブツと呟いている峰先輩にニッコリ笑って伝えてあげる。

「大丈夫です。先輩だと思ってないんで」

もちろん、友達だとも思っていない。

「………」

黙ってしまった。なんでだろう…?

ん? …ああ、そうか。

武偵高では下級生に舐められることはとても恥ずべきことだ。この人は仮にもAランク。

ランクが同じとはいえ、僕は下級生だから、僕が峰先輩を舐めていることが伝わるのがよろしくないのか。

「ああ、体裁もあるから、敬語は使うんで安心していいですよ?」

だから、最低限の迷惑は掛けないということを言ったのだが……。

「ソラランなんか嫌いだぁー!!」

ダダダッ!

泣きながら店を出ていってしまった。

…解せぬ。

 

 

 

18.「って、俺出てねえじゃん!」

 

 

 

ダダダッ!

あ、戻ってきた。

「って、あたしはそんな話をしに来たんじゃねえ!」

そのまま帰っちゃってよかったのに…。

……そうもいかないか。僕も命かかっているし。

 

「そうですね。早速本題に入ってください」

「ソラランに言われるのはすごく納得いかないんだけど…」

不満げな顔をしているが、僕は機嫌を取ってやるほどお人好しでもない。

「で、何でしたっけ?」

大事な用があるとか何とかで、今日僕は峰先輩に呼び出されたのだけど。

「理子とキーくんたちがドロボーやるって話」

「逮捕します」

ガチャン

峰先輩の腕に手錠をかける。

「ええ!? な、なんで!?」

「何でって…。僕、武偵。おまえ、犯罪者。OK?」

こんなこともあろうかと、手錠をもってきて正解だった。

「OK、じゃない!」

「はいはい、言い訳はムショで聞きますから」

「え? 冗談じゃないの? って、そもそもまだ何もやってないから!」

「未然に犯罪を防ぐ。僕は何て武偵の鑑なのだろう」

「あのねソララン? 理子の話聞いてくれるかなぁ? お願いだから」

結局、本題に入るまで三十分もかかった。

…はぁ。これだから峰先輩と会話するのは疲れるんだよ…。

「今の完全にソラランのせいだよね!?」

 

閑話休題。

「危うく、このお話が終わっちゃうところだったよー」

「泥棒が盗み働く前に捕まるとか斬新な話ですね」

「うん。ソラランは何他人事みたいに言ってるのかな?」

「そうですね。峰先輩が捕まると僕の目的にも支障が出ることに気がつきました」

「あ…結局自分の保身のことだけなんだ…」

そりゃあそうだろう。

何で僕が峰先輩のことを考えなきゃならんのだ。

用件さえ終われば、捕まるなり何なりしてもらって構わないくらいだ。

むしろ、捕まってほしいくらいだ。

「それで、これからのことなんだけど──」

「その前に良いですか?」

本題に入ろうとする峰先輩を遮る。先に聞いておきたいことがあるからだ、

決して出ばなをくじきたかったわけでは無い。

「ソララーン、理子の話聞く気あるのぉー?」

「いや、今度は、真面目なことなんですけど」

「ふざけてる自覚はあったんだね」

「ブラドって実際どういう奴なんですか? 姿形とか。この前は大雑把にしか聞いていませんし」

峰先輩は苦虫をつぶしたような顔になった。

余程、そいつのことが嫌いらしい。僕も峰先輩の前ではこんな顔しているのだろうか?

「ブラドはね、吸血鬼なんだよ」

「それは聞きました」

「吸血鬼っていうのはね、不死身なの」

「不死身…死なないという意味ですか?」

「そうだよ。あいつは死なない。だから、戦っても勝てない」

「首を切っても?」

コク、峰先輩は肯定する。

「心臓を貫いても?」

コク。

「頭から真っ二つにしてもですか?」

コク。

「それに、ブラドには伝承で言われている吸血鬼の弱点も効かない」

「何それ、チートじゃん!」

「だから、言ったでしょ? 不死身だって。正確には弱点もあるんだけど…」

「弱点…?」

『魔臓』という、吸血鬼特有の臓器のようなものがあるらしい。

それは吸血鬼の不死性そのものと言っていい物で、体のどこかに四つある魔臓を同時に破壊することができれば、理論上ブラドを倒すことは可能らしい。

だが、一つでも撃ち漏らせば、すぐさま他の魔臓も回復してしまうのだとか。

うわ……なんつー鬼畜仕様だよ。

 

「はい、この話は終わりー。ソラランもあんまり気にしちゃダメになっちゃうぞー? ブラドは今国内にいないんだから」

「……そうですね」

それに、この話が終わったら僕も狙われ無いようになるつもりだ。

そのために、峰先輩と契約したんだから。

 

「じゃ、さっきの話の続きいっくねぇー」

「はい」

「少し前に、理子がちょぉっとミスっちゃったのが始まりなの」

で、ブラドに峰先輩の大事なものが取られてしまった。だからそれを取り返しに行くのだとか。

というか、僕的にはあんまりブラドを刺激しないでもらいたいのだけど。

こっちにとばっちりが来るかもしれないし。

──まあ、すぐ終わるか。

「──そこで理子はオルメス…アリアたちと決着をつけるの」

今までの話を聞く限り、峰先輩はどうやらアリア先輩にライバル意識があるらしい。

それも何だか、ただならぬ感じがする。まるで、先祖代々の因縁でもあるかのように。

……あるんだろうなぁ。

 

ブラドが国内にいない以上、ここまではまるで僕に関係のない話であるし、内容からして秘密な感じがする話でもあるけれど。

どうやら、僕に話したのはちゃんとした理由があるようだ。

「──ソラランさ、理子のこと監視してるでしょ?」

「何のことですか?」

「くふふっ、確かにいきなり信じられないもんねー。でも、大丈夫だよ? 理子は約束を守る子なのでぇーす。ただ……」

何を言っているのだろうか、この人。

 

「──オルメスとの戦いには手を出すな」

 

突然の男口調。峰先輩、真剣モードだ。

いつもソッチの口調だと僕もイライラせずに済むのだけど。

「別にそんな釘ささなくても、手なんか出しませんよ。そもそも監視なんてしてませんし」

「くふっ、冗談だよぉー」

「まったく、峰先輩の被害妄想には呆れてばかりですよ。……ただ、そうですね…。偶然(・・)アリア先輩と峰先輩が戦っている所を見ても何もしないようにはしておきます」

「そうだねー。偶然(・・)って怖いもんねぇー」

「そうですねー」

「くふふ」

「あはは」

……まったく、僕が峰先輩の監視なんて────実はしてる。

というか、ここまで信用ならない相手にしないという発想がまず無かった。

おそらくだが、監視自体が峰先輩に直接気づかれていることは無い…ハズだ。

僕の考えを推理したのだろう。至って単純なことだ。

僕が監視するのが当然と思うように、彼女も監視されて当然だと思っていても不思議じゃない。

 

それにしても決着。決着ね。

言い方からしてやっぱり前に戦ったことがあるのか。

「まあ、健闘を祈っておきます。…アリア先輩の」

「理子に祈ってよぉ!」

「普通に嫌です」

「やっぱり、理子のこと嫌い?」

「好きですよ。…犬よりは…多分…」

「比べるものが既に悪意しかないんだけど。しかもそれで多分なんだ…」

何だよ。せっかくボカしてあげたのに…。僕の優しさわからないかなぁ。

彼女はどうやらご不満のようだ。なら、はっきり言ってあげようじゃないか。

「じゃあ、嫌いです」

「…何でかなぁー? 理子そこまで嫌われることしたっけ?」

したよ。初対面でいきなり銃撃ってきただろうが。

あと、ぶりっ子普通にウザい。

僕はもっと凛とした女性が好みなんだ。例えばジャンヌさんとか。

「…ま、いっかー。あとのことは決着を終えてから言いまーす。とにかく邪魔しないでとは言ったからね?」

「しつこいですよ。あと、負けても情報だけは吐いてもらいますからね」

 

 

 

 

──ということがあったのが約二週間前。

 

例の泥棒作戦で大事なものとやらは盗み出せたようだ。やったね!

しかし、アリア先輩と峰先輩の戦いは起きなかった。

第三者の介入によって。

「待ってください。同じ武偵の仲間ではないですか。争いは何も生みません。ラブ&ピースです」

と、言いながら颯爽と僕が登場し、全てを丸く収めたのだ。

──ウソだ。

というか、キモイだろそんなこと言う奴。

僕は約束通り、手を出していない。

僕は約束を守る。絶対とは言わないけど、真面目には。

約束は大事だもんね。うん、破るのは良くない。

だからさ、このまま隠れていていいよね。むしろ帰ってもいいかな?

 

その介入者があの小夜鳴先生で正体はブラドだったり、そんでもって峰先輩の頭を握り潰そうとしていたりしてるけど…。

 

うん、何言ってるか分からないね。僕もわからない。

いくら何でも超展開すぎるよ!

不幸中の幸いは、僕が今は安全な位置にいることだ。

気の操作で隠形してるから、直視されることが無ければまず気づかれない。だから僕が隠れていることは誰にもバレてない……ハズ。

今までに、これを破ったことがあるのはレキ先輩だけだ。

いやー、本当は出ていって助け出したいんだけどねぇ。

約束守るのも大変だなー。

 

……はぁ。

そうもいかないよなぁ。メンドイけどさ。

第一、約束はアリア先輩vs峰先輩を邪魔するなだったし。

峰先輩のことは嫌いだけど、死んで欲しいとまでは思ってない。そもそも今峰先輩がいなくなってしまうのは困る。

それに、小夜鳴…ブラドの奴に聞きたいこともあるからね。今さっき出てきたから。

…いや、これから出ていくのは僕だけど。

 

 

僕は死角から飛び出し、遠山先輩に迫っているブラドの脳天に向かってナイフを突き刺した。

 




◆◇◆◇◆


竹中彰

性別 男
学年 1年
学科 強襲科
武偵ランク C

ソラのクラスメートその4。
自称、ソラの親友。自称、ライカのライバル。自称、武偵高の次期番長。
喧嘩っ早く、単純。強襲科のテンプレのような生徒。
高校デビューとして金髪に染めた。
体力が人一倍ある以外は、これと言った長所もなく、頭が少し(?)悪い一般的な高校生(武偵としては)。
ライカというより、あかりのライバル?
身長159cm。少しサバ読んでる。

正義のヒーローに憧れて武偵になった。
神奈川武偵高付属中で出会ったキンジのことを理想のヒーロー像として見ており、尊敬している。
好きなテレビ番組はマスクライダーとピーポニャン。

当初はあかりのライバルのような感じの主人公にするつもりだったが、どう考えてもイ・ウーに対抗できなさそうなのでやめた。
結果、ソラができた。

出番はこれから増えてくる。(予定)

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