鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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気。
体内を流れる生命力の一種。
全ての生き物の体に流れている。が、これを操れるものはごく少数である。
活性化させることにより、傷を早く治すことが出来る。
逆に鎮静化させることにより、毒や薬の巡りを遅くしたり、気配を消すことも出来る。
上位の者になると気を感知できるようなり、離れたところや、見えないところに誰がいるか分かるようになる。

しかし、気で直接戦闘力が上がるようなことは無い。
理論上、誰でも習得できるらしいが、才能が無いと膨大な時間を要する上に、習得しても別に強くなるわけでもない。
そのため、余程才能が無い限り、普通に体を鍛えたりする方が有意義である。

人間で気を使えるものを仙人と呼んだりもするらしい。


第21弾

………

……………

 

どこだ、ここ?

目の前には赤く染まった景色のみ。

辺りを見回すために立ち上がろうとするが──

「───ッ!」

…痛い…それに熱い…!

全身に走る激痛のせいでまともに体を動かせない。

…何で…こんなにケガをしてんだっけ…?

「…ん」

体が動かないならと、頭を動かすことに集中しようとする。

だが、熱さのせいかケガのせいか、頭は朦朧としていて考えがまとまらない。

ずっと、何を考えているのだろうと繰り返すばかりだ。

そうする間にも体はどんどん熱くなっていく。

 

……苦しい……

 

だけど、その苦しみは一瞬だった。

僕は既に、そんな感覚すら考えられなくなったから…

 

──最後、残った視覚はただ、緋色に染まっていた。

 

 

 

21.「………」

 

 

 

「ブラド! 観念しなさい!」

「ゲゥアババババ。なんだ? それはギャグのつもりか?」

少し離れた所でアリアがブラドに立ち向かっている。

ブラドはそれを完全に馬鹿にして見ている。

まあ、そうだろうな。追い詰められているのは明らかにこちらなのだから。

俺はそれを横目に見ながら、物陰に隠れ、動きだすための隙を探す。

 

…アリア……!

 

ボロボロの体でブラドと戦っているアリアを見て思わず飛び出してしまいたい衝動に駆られる。

──ダメだ!

今出ていったらすべてが無駄になる。

アリアがこうしてブラドを引き付けてくれている間に、何とかして朝霧を救出する。

それが今回の俺の役目だ。

ヒステリアモードの俺としては、女性であるアリアを矢面に立たせることに思うことがあったのだが……

『じゃあ、キーくん。もしソラランが自分で動けない状態だったとき、理子やアリアに運べって言うの?』

という、理子の言葉により、俺の不満は跳ね除けられた。

朝霧は決して大柄な体格ではないが、女子の中でも小柄なアリアや理子に運ばせるのは確かに厳しいだろう。

そんなわけで、アリアが陽動、俺が救出、理子が逃走準備という配役になった。

 

物陰から、物陰へ。

抜き足(スニーキング)を用いり、俺は朝霧がいるであろう場所へと向かう。

このランドマークタワーの屋上は広く、中心のヘリポートは高い位置にあり、そこには遮蔽物など何も無い。が、少し端に行くとコンテナや電柱など、身を隠せる物がいくつかある。

不幸なことに出入口はヘリポートの上からも見える位置にあり、ブラドはそこに少し寄ったところで陣を取っていた。

今もアリアの相手をしながらも、出入口の傍を離れず、隙を見せない。

しかし、脱出法が出来た今はそんなことは関係が無い。

とにかく、朝霧さえ連れ戻せれば──

 

果たして、朝霧は──いた。

屋上の角の一つ。ちょうど、ブラドからも死角になっている場所。

最悪、屋上から落ちていた可能性もあったので、俺は一先ず安心した。

急いで、されどブラドに気づかれることのないように近づいていく。

「…おい、朝霧…」

脈はある。しかし、呼びかけに応じることは無い。

──意識が無いのか?

ある意味交通事故よりも酷い攻撃を喰らったのだから不思議はない。

見た限り、体はアリアよりもボロボロで頭からも血を流している。

朝霧が庇ってくれなければ、俺がこうなって──いや、これ以上の……

その先を想像してゾッとする。

同時に、罪悪感や怒りがこみあげてくる。──自分の不甲斐なさへの。

しかしこの状態だと、仮に目を覚ましたとしてもすぐに動ける状態ではないだろう。

やはり背負って運ぶしかないようだ。

頭を強く打ったかもしれないだけに、本来こうやって動かすのは良くないのだが、今はそんなことを言っていられない。

いつまでもここにいては、それこそ助からないからだ。

 

「……キンジ、さん……?」

朝霧を背負い、半ばほど進んだところで、背中から声が聞こえた。

普段のひょうひょうとしたものではなく、苦しそうな、それでいて細い声だった。

「朝霧、気づいたのか…?」

「…ここは…?」

乱れた呼吸の間から絞り出すように単語を紡ぐ。

頭を打った影響か、どこか虚ろな感じがする。まだ、現状が把握できていないのかもしれない。

「安心しろ。もうすぐ助かる」

いや、助ける。

こいつはこんな所で死んでいいやつじゃない。

それに、こいつに何かあったらレキに申し訳が立たないしな。

「……何が……ん…ブラドは…?」

「今、アリアが相手をしている。理子は今、逃走する準備をしてる」

少しずつ、思考能力が戻ってきているようだ。

「……そう、ですか」

「おい、あんまり無理して話すな」

この距離ならブラドに聞こえることは無いだろうが、喋ることによって朝霧の体力が無くなるなんてことにでもなったら、それこそ意味が無い。

「……だけど………ぐっ!?」

「お、おい! 朝霧!?」

「あ、あ、ああああああああああああああ……!」

「どうした!? おい、大丈夫か!?」

朝霧は突如、呻くような、掠れていて小さい、しかしそれでいて叫ぶような声をあげる。

「……ああああああああ───」

朝霧の体に何か重大な異常があるのか?

俺は、一度動きを止め、朝霧の様子を見る。

熱い…!

尋常じゃない体温だ。

それなのに、汗はほとんどかいていない。

マズイ…マズイぞ。

汗は体温を下げる役割をしている。それが無いということは体温がどんどん上昇してしまうことになる。

顔を歪め、目を閉じ、歯を食いしばって必死に耐えるようにしているその姿は何とも痛々しい。このまま死んでしまうんじゃないかと思うほどだ。

くそっ! どうすりゃいんだよ!

だが、ここには医療器具も薬も無い。

なら、今できることは一刻も早く、ここを脱出して病院に連れていくことだ。

俺が再び朝霧を運ぼうとした時──

 (パキンッ)

 

「……離れて!!」

 

ドン!

と、突き飛ばされてしまった。

おい、これって何だかデジャブ……

ただ、今回はブラドの攻撃よりも衝撃的なものが目に飛び込んできた。

 

──突然、朝霧が立ち上がったのだ。

それだけじゃない。瞳が…朝霧のその瞳が赤く発光していた。

いや──

赤…そう表現するより緋色……そう、その目は緋色の光を纏っていた。

 

 

 

 

ブオオオオオオンッ!!

 

振るうだけで、そんな馬鹿げた音を出すその一撃は、まともに喰らえば即座に体が粉々になることは間違いない。

もちろん、あたしは当たってあげるつもりなんか無い。

性格通りなのか、ブラドの攻撃は大雑把で隙も多い。

だからこそ、ここまでついていけるんだけど、そろそろ限界も近いわね。

「おいおい、ホームズ4世。反撃して来たっていいんだぜ?」

「──ッ! このっ!」

いやらしく嗤いながら完全に見下した言葉を放つブラド。

わかっているわよ! 本当ならあたしだって……

思考を一度そこで切る。

違う。今考えるべきはそうじゃない。

 

キンジ…まだなの!?

 

正直に言えば、あたしは逃げることなんて選択したくなかった。

あたし一人だったのなら、ブラドと決着をつけるまで戦っていただろう。

でも、今は理子やソラがいる。

ママの無罪を証明するためにもブラドは逮捕しなきゃいけない。

だけど、それと同様に理子のことも守らなきゃいけない。

そして、ソラをあたしの都合に巻き込ませるわけにもいかない。

ソラにもしものことがあったら、レキやあかりたちに顔向けできないわ。

「チィ! すばしっこい奴だな。虫みてえによ!」

「猿の次には虫だなんて、本当に失礼な奴ね」

ブラドは明らかにイライラしている。

それがまた、攻撃を大振りにさせているのだけど。

合間を縫って、ブラドとの距離をとる。

……銃弾も残り少なくなってきた。無駄撃ちは出来ないわね。

「…それに、何企んでいやがる。逃げる算段でも思いついたのか?」

!?

「どうせ、出来損ないのリュパン4世の作戦だろ? ゲゥアバババババ。本当に逃げられるとでも思ってんのか?」

 

ガシャン!

「くっ」

何かが壊れるような音と共に理子が物陰から飛び出してきた。

その手には、ライフルと同じくらいの大きさで、先端に鉤爪のついているような筒を抱えている。

作戦で使うはずのワイヤー&アンカーのはずだ。

なんで、出てきたのよ? 理子!

その答えはすぐさま現れた。

それを追従するようにもう一つ陰から飛び出してくる何か。

──狼だ!

まさか、三匹目がいたの!?

理子は何とか狼の追撃をかわしていく。

だが、傷ついた体で、それなりに大きい装置を守らなければいけないこともあり、満足に動けない理子は徐々に追い詰められていく。

そして──

グシャ!

狼がついに理子を捕えた。

100kgはありそうな狼に体当たりされた理子はそのまま吹っ飛ばされ、理子の手から離れた装置は潰された。

「それで逃げるつもりだったのか? 残念だったなぁ、繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)

「…そんな…」

どこか諦めの混じった顔で呟く理子。そこに再び狼が襲い掛かる。

「理子! 逃げなさい!」

──間に合わない。

バン!

しかし、狼は理子に襲い掛かる手前で突然倒れた。

ブラドとの戦闘の最初の時のように。

「キンジ!」

こちらに走ってくるキンジの姿に安心感を覚える。

──でも、なんで一人なの? ソラはどうしたの!?

そう言おうとした時──

 

ザシュ!

ズシンッッ──!!

 

何か重いものが地面に落ちる音。その音と共に地面が一瞬大きく揺れる。

見ればブラドが武器にしていたアンテナが落ちていた。

鋭利に切り取られた腕ごと(・・・・・・・・・・・・)

「ソラ…?」

「………」

あたしは最初それをしたのがソラだということがわからなかった。

いとも簡単にブラドの懐に入り、腕を切断する力があるような子じゃなかったし。

──何より、琥珀色だった瞳が赤く染まっていたから。

 

ソラはあたしの呼びかけに答えない。ただ──

「……きひひ」

と、笑った。

 




◆◇◆◇◆


  空

性別 男
種族 人間(?)
所属 ???
正体 ???

空──ソラの漢字表記。
ソラの力の一端。
ブラドが言うには何かの失敗作らしい。理子と同じようなものなのかどうかは不明。
瞳が緋色に染まっている以外は見た目に変化はない。
だが、能力は───
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