鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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お酒。
エタノールが含まれる飲料。
日本では20歳になるまでは飲んではいけない。

しかし、ここは無法地帯イ・ウーである。
なので法律を破ってるわけではないのであしからず。


第24斬

24.「イチャイチャすんじゃねえ」

 

 

 

そして、また朝が来る。

例のごとく、またまた不眠症気味である僕は夾竹桃の薬を持ってこなかったことに後悔する。

──油断した!

最近、薬なしでも眠れるようになったのがアダとなったか!

というか、怖くて一人で眠れないって子供かよ僕は。

あー、考えたらまた鬱になってきた。

 

コンコン

いつも通りのノックの音に僕は入室の許可を出す。

「ちょ、朝食をお持ちいたしました」

ワゴンを引いて入ってきたのは、案の定リサだった。

 

リサ・アヴェ・デュ・アンク。

光を放っているかのような金髪に、抜けるような白い肌、エメラルドの瞳を持つ欧州人。

確か、オランダ人だったっけ…?

このイ・ウーでメイド(・・・)をやっている人物だ。

いや、冗談ではなく。

おまえを冥土に送ってやろうかぁ! とかでもなく。

こんな物騒な集団でも非戦闘員はいるということだね。

物腰は柔らかく、丁寧な口調、おまけに美人。

 

だけども、何故だろう……?

僕は彼女と相いれない感じがするのだ。

何というか、あんまりお近づきになりたくないみたいな。

常識人相手にこんなこと初めてだ。僕も若干戸惑っている所である。

もっとも──

「もう、下げていいよ」

「は、はい」

より戸惑っているのは彼女の方だろうなぁ。

初対面時、思いっきり睨んでしまったのが原因で、腫れ物に触ると言うか……ビビってしまっているのだ、この僕に。

だけど、その関係を直そうとは思わない。

何故なら彼女もまた得体のしれない生物だからだ。

 

 

今、キンイチさんは潜水艦内にいない。

何日か前にやるべきことがあると、出ていってしまった。

これは最初に聞いていたので特に不満は無かった。

逆に、慣れるまで一緒にいてくれたことに感謝している位だ。いや、寂しいことは寂しいのだけれど……

で、キンイチさんがここを出る前に教えてくれたことがいくつかあった。

曰く、ケンカをやり過ごすコツだとか、艦内の歩き方だとか。

そして──

次期イ・ウーのトップ候補のことだとか……

 

今、イ・ウーには四人、教授の後任候補がいるらしい。

一人目。実に不本意だけど、僕。

ナンバー2であるブラドを倒したのだからそうなってしまうのもわかる。納得はできないけど、理解はしている。

……イ・ウーなど欲しくも無いのだが。

二人目。パトラという人物。

今、イ・ウーにはいないらしいが……というか退学になっているらしいが、世界最高レベルの魔女らしく、退学になる前はイ・ウーのナンバー2であったらしい。

最近復学の目途が立ったとか……。

三人目。それが信じられないことに『リサ』なのである。

キンイチさんに聞いた時、耳を疑ったね。その時の僕から見たリサの印象はビビりな非戦闘員だったのだから。

ただ、キンイチさんが意味なくウソを吐くとも思えず、僕は余計にリサと近づきたくなくなったのだけど。

で、四人目は……教えてくれなかった。

えー? そこで秘密にしちゃう?

いやー、実に卑怯な引きだ。まあ、秘密にしないといけない何か事情があるのだろうけど。

「もしかしてキンイチさんですか?」と、問うてみたのだけど。

「俺はそんな柄じゃないさ」と、返してくれた。

僕も柄じゃないのですけれど……。

とりあえず、わかったことはこの船内にその人物は居ないってことだけだ。

 

これがイ・ウー四天王である。

やべぇ、四天王とか死亡フラグだ。それに一人目って一番の死亡フラグじゃないか?

それよりも半分が今実質欠員中という方が問題か。

このままシードでトップになったりしないよね!?

……はぁ。メンドイ……

 

 

 

 

住めば都とはよく言ったものだ。

こんな無法地帯でもそれは適用されるらしい。

こんな所だからこそ使われるべき言葉なのだろうけれども。

「──だよなぁ! 恋愛なんて下らねえよなっ!」

「んー。とりあえずイチャイチャしてるカップルは死ねばいいと思う」

「へへッ。やっぱおまえとは気が合うぜ」

「とりあえず、このジュースもっと飲みたい」

「……いや、酒だからな?」

昼間っから騒ぎ合ってる二人。

一人は、長くも短くもない黒い髪に琥珀色の瞳。背は高くないが低くもない。やや痩せ形の東洋人。名を朝霧ソラ。

もう一人は、おかっぱの黒髪に、右目に逆卍の眼帯をつけている小柄な欧州人。名をカツェ=グラッセ。

よく見れば…いやどう見ても二人は未成年だ。

その二人は完全に出来上がった居酒屋のサラリーマンのように愚痴を言い合っている。

「アリア先輩とキンジさん──いやアリアとキンジの奴めぇ。目の前でイチャイチャイチャイチャしやがって。見ているこっちの気にもなれっての!」

「そりゃあ災難だったな。あたしも男女がイチャイチャしてるのを見るのはこの世で一番キライだぜ」

二人とも、容姿は整っているのだが、様々な理由により異性に恵まれない。所謂残念美形。おまけに自覚なし。

そんなことも無意識に含まれているのか、すっかり意気投合している二人。

真に悲しいのは仲良くなっても、やはりこの二人に男女の仲は無いと言うことだろう。

こういう奴らに限ってお互いの理想が高いものである。

 

しかし、現在部屋にいるのは二人だけでは無い。

「あ、あのぉ、もうお酒は控えた方が……」

「ああんっ!? 何か文句あるのかよ?」

「ひっ…──す、すみません」

明らかに飲みすぎている二人にリサが注意を促すが、カツェの一睨みで折れてしまった。

というか何でここにいるの、おまえ?

そんな僕の視線を受けて更に及び腰になる。

それに加え、引き下がったリサをカツェは睨み続ける……ある一点を見ながら。

「ちっ。…ちょっと胸があるからって調子に乗んなよ」

「す、すみません。すみません…」

かなり理不尽に責められているリサ。

可哀想に…まあ、僕もフォローはしないけど。

ところでカツェ。ちょっと(・・・・)ではないと思うぞ? いや、悔しいのはわかるけど。

僕から見てもリサは結構な巨乳さんだ。えーっと、東京武偵高で例えると星伽先輩並み。

「胸……下品。バカバカしい」

そう呟くのは部屋の隅、本当に何でいるのかわからない少女──セーラ・フッド。

長いストレートの銀髪。ジト目でムッとした顔立ち。

何考えてんのかわからないところは、どこかレキ先輩に通じるところがある。

というか、キミも胸ちっさいもんね。羨ましいんだね。

「アタッ! ───ッ」

酒瓶が一つ頭にぶつかった。

瓶が飛んで来た方向にはジト目気持ち三割増しのセーラ。

……なんだよ。狙撃手は僕の考えを読む能力がデフォで備わっているのか?

「おい! ソラ! おまえは胸で女を選ぶような奴になるなよ!」

「んー。……そもそも選べるような立場にないんだが……」

ぶつけた個所をさすりながら無難に答える。下手に答えると、今度は二つ飛んできそうだからな。

「ああ……そうだったな。悪い」

「謝るなよ!」

あー。また鬱になってきた。

僕もカツェも散々disってるけど結局ただの嫉妬なんだよなぁ。

いいなぁキンジさん。モテて。

僕も彼女欲しいなぁ……ジャンヌさんとかいいよねー。

モテないというのは悲しいものだ。イ・ウーでHSS身に付けられないかなぁ?

「というか、それはカツェもだろ?」

「は、はぁ!? べ、別にあたしは『異性恋愛罪(アンデレハフト)』の軍規を守ってるだけで、本気になれば男の一人や二人簡単につくれるんだからなっ」

「強がるなよ、ナチ。言い訳は見苦しいぞ」

「強がってねぇ! おまえと一緒にすんな!」

「おい! それはどういう意味だよ?」

「大体、初恋の奴がレズって何だよ? おまえそういう趣味でもあるのか?」

「ふざけんな! そんな趣味あるか! それは僕の黒歴史だと言っただろうが!! それを言うなら、軍も学校も女ばかりのカツェの方が怪しいね!」

「んだとコラ!!」

「そっちが言い出したんだろうが!!」

カツェがこっちを睨みながら水の入ったボトルを手に取る。

そして、僕もいつでも動ける体制に入る。心なしか視界が赤く染まってくる。

「ちょ、ちょっと。ソラ様、カツェ様やめてください! ──セーラ様も見ていないで止めてください」

「二人とも、バカバカしい」

リサは必死になって止めようとするが、セーラは関係ないとばかりに動こうとしない。

「思えば、僕はおまえが気に入らなかったんだ。何だよ『勝利万歳(ジーク・ハイル)』って。カッコイイとでも思ってんの? というかそもそも負け組だろおまえ。今からでも独り身万歳に変えれば?」

「侮辱すんじゃねえ! それを言うならおまえだって調子に乗ってんじゃねえのか? とりあえずメンドイメンドイって、そう斜に構えんのが日本では流行ってんのかよ?」

ふふ、そうか。そうですか。

カツェ、おまえは言ってはいけないことを言った。

「「ぶっ殺す!!」」

 

………

…………

………………

 

──数十分後。

「やめようぜ。不毛だ」

「ああ、そうだね。柄にもなく熱くなっちゃったよ…」

倒れた机、割れた酒瓶、目を回しているリサなどと、まるで嵐が過ぎ去ったかのような部屋の中心で二人は呟く。

因みに、セーラの奴はもういない。

争いが始まった時に一人避難していたみたいだ。そういう容量の良さもレキ先輩に似ているな。

「ゴメン。別にドイツ軍人をバカにするつもりは無かったんだ。軍律とかそういうきっちりしてるとこ、尊敬できるよ」

「あたしこそ、悪いな。別におまえも今の状況、やりたくてやってるわけじゃねえもんな」

酔った勢いって怖いな。

戦闘行為で逆に酔いが完全に覚めてよかった。

「うん。これはあれだね。若気の至りってやつだね」

「ああ、当分酒はやめにするか……」

争いが終われば仲直り、それこそ少年漫画のように。

ヒロインがいないのが寂しいところだけど。

「あたしたちが争っても意味ねえもんな」

「うんうん。真の敵はリア充共だ」

「そうだぜ! 結局はあいつらが人目も憚らずイチャイチャしてんのが悪いんだ!」

「そうだ、そうだ!」

「何だよ! 彼氏持ってんのが偉いのかよ!」

「そうだ! むしろ一人で頑張ってる僕らの方が偉いね。逆にリア充だね」

「さすがソラ! 良い事言うぜ」

そして、またまた意気投合した僕とカツェは同盟を結んだのだった。

 

「「勝利万歳(ジーク・ハイル)勝利万歳(ジーク・ハイル)! 勝利万歳(ジーク・ハイル)!!」」

「きゅる~~~」

それは荒れ果てた部屋で万歳してる怪しげな二人と気絶している女という、傍から見ると何ともシュールな画だった。

 




◆◇◆◇◆


カツェ=グラッセ

性別 女
所属 ドイツ魔女連隊

『厄水の魔女』の通称を持つ。水を操る魔術を用いる。
黒髪おかっぱ頭で右目に逆卍のマークがあり、燕尾色の眼帯をしている。
イ・ウーにも所属していたが、この話の後、自主中退して魔女連隊9代目隊長へと帰隊した。

ソラのイ・ウーに入ってからの唯一の友人。(キンイチは上司)

因みに、二人は完全に忘れているが今日はカツェのお別れ会的な感じで集まった。
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