ソラは関わっていないため、ほぼ原作通りの展開となったため割愛。
ただし、この時にキンジとアリアはソラがイ・ウーにいたことを知ることになる。
因みに第一章はあと一話。
皆さん。こんにちは。
前回、またもや黒歴史を創り出してしまった哀れな少年、朝霧ソラです。
キンイチさんもおらず、マブダチのカツェもドイツに帰ってしまい一人暇をつぶしている所に
彼と会うのは、キンイチさんと共に挨拶に行ったイ・ウー滞在二日目以来のことである。
あの時は、簡単なあいさつ程度で細かい話は時期が来たらと言われたのだが、どうやら時期が来たらしい。
やたら広い空間。
このバカでかいイ・ウーの中でもこれほどの場所はそうは無いだろう。
巨大なミサイルがまるで柱のように並んでいる。
そんなデンジャラスな空間に明らかな場違いであろうティーセットが置いてあるテーブルとイス。
二つあるイスの片方に彼はいた。
「態々呼び出して済まないね。座りたまえ。まずは紅茶を飲みながらでもゆっくり話そうか」
僕は言われるがまま空いている方のイスに座る。
もちろん紅茶のお砂糖の催促を忘れずに。
「やあ、ここには慣れたかな? 朝霧ソラ君。自分のことをずっと気になっていたことだろう」
その言葉によって一つの記憶が呼び起される。おぼろげながら覚えているブラドとの戦闘だ。
赤く染まった視界、そして湧き出てくる力。
それはこのイ・ウーにおいても数回お世話になっていた。
あれが一体何だったのか……人並みの好奇心を持っている者ならば気にならないわけがないだろう。
「先に謝らせてほしい、ソラ君をここまで引き込んだことについて。キミの力が目覚めたことに関して、僕に責任の一端が無いわけではないからね」
「?」
「そして、もう一つ。僕はキミの正体を教えることはできない」
「はぁ!? それはどういう──」
「あまり、興奮しない方がいい。普段ならともかく、今のキミはとても不安定だからね」
ヒュー
冷たい風が体に吹き付ける。
これで頭を冷やせと? ……余計にイラッとしたんだが。向こうもイタズラな顔してるし……
だが、きっかけは何でもよかったのだろう。僕の感情を一回区切ることが出来れば。
そして、教授はさらに話を続ける。
「友との約束でね。こうして関わるのも本当はギリギリなのだよ。だけどそうしなければキミは今日まで、そしてこれから生きていけないと推理できていた。
「……よくわかりませんが、友達は大事ですよね…?」
「そうだね。特に僕は友人が少ないだけにね」
おどけるように苦笑する教授、もとい
友達が少ないのはその口調が一番の問題だと思う。ワトソンも苦労したことだろう。
そう、イ・ウーのトップ──教授の正体は、かの有名なシャーロック・ホームズ卿なのである。
いやいやいや、それでいいのか名探偵さん。
ここ一応犯罪者の集まりですよね。
とも思ったが、この人はこの人でその無法者たちが一定以上暴れないためのストッパー的役割になっているらしい。
もっと言うと、イ・ウーは国家のバランスを取る働きもしているらしい。そのため、どの国も容易に手が出せないのだとか。
因みに若すぎる容姿については初対面時にツッコンだ。
「まあ、いいです。元々保護されるのがメインだったわけですし」
そもそも、ブラドとのことが無ければ自分が異常だと言うことすら、知らなかったわけだしね。
今思い返してみれば、他にもおかしなことはいくつもあった。
いくら『気』を使っているからとはいえ、傷が治るの早すぎるし。
同じく、夾竹桃の毒から助かるし。
毎月よくわからない大金が口座に振り込まれていたし。
両親がいないことに疑問を持たなかったし。
だけど……だけど、そのことに全く疑問を覚えなかった。
それ以前に気に掛けること自体することはなかった。
最近になってやっとだ。「あれ? なんかおかしいぞこれ?」と思うようになったのは。
「オリジナルとはまた違った制御方法。いや、表の世界に溶け込ませるための手段と言ったところかな? しかし、キミの力が戻るにつれて、課せられていた枷が外れてきているのだろう」
「…えーっと…?」
「彼としては、そのまま表で生きていてほしいと思っていたのだろうね。ただ、朝霧君の方はそうは思わなかった」
ついていけないんですけどー。
この人の、こっちもいろいろわかっていること前提で話すようなやり方はやめてほしい。
わかってないからね? こっちは全然理解してないからね?
それに朝霧君って……僕のことじゃないよな、多分。
「ソラ君、キミの枷は直に完全に解けるだろう。その時にキミがどうしたいかを決めるといい」
シャーロック・ホームズは僕を完全に置いてきぼりにしたまま話を閉めやがった。
……よし、次にあったら一発殴ろう。
そう決意した今日この頃だった。
ただ、この決意は果たされることのなかったのだけど……
──何故なら、今日はイ・ウー最後の日だったのだから。
25.「そうなるだろうと、推理していたよ」
「解散…?」
僕だけを置き去りにしそのままゴールインされた会合から、数十分。あるいは数時間。
最後の記念として適当に艦内を探検、散歩していたところをリサに捕まえられた。
「正確にはその可能性もあるとのことです」
「おかしいなぁ。ついさっき、新しいリーダーが決まったという報告を受けた後なんだけど……」
ここでも置き去り気味な僕。そろそろゴールに目指すべきなのだろうか?
ということで誰かその道順を教えてほしいのだけど。
このままじゃ某海賊狩りのごとくいつまでもさまよっていそうな気がする。
「他の皆さんは既にそれぞれのICBM発射口で待機をされております」
数分前に浮上したとこと何か関係あるのかな?
よくよく見れば、リサは軽く息が上がっていてうっすらと汗をかいている。
急いで僕のことを探していたのかもしれない。
本当にこのイ・ウーには珍しくらい律儀な奴だよ。僕も何でこんなにも良い奴が気に入らないのだろう?
──いやでも待てよ?
僕のことを不特定の誰かが狙っているからこそ、逆に目の届く範囲にまで近づいたわけだけど。
見えない敵というものは僕の怖いものランクでもトップクラスだからね。(レキ先輩は殿堂入り)
峰先輩の当初の取引では上司──つまりキンイチさんがボディーガードをしてくれるハズだった。
しかし、教授自ら僕の保護を訴えたことにより、そこまでしてもらう必要もなくなる。
ただし、危険がゼロになったわけでもなく、謎のパワーアップ現象に助けれるという綱渡り気味な生活だったのだけど。
どれもこれも全部あの吸血鬼どものせいだ! まったく!
……と、まあ、それはひとまず置いておいて……
──そもそもの狙ってくる組織が無くなるということは……もしかして僕大勝利!?
ついに僕は安全を手に入れたぞ!!
「ふーん? じゃ、リサもいってらっしゃい」
「え? あ、あの…ソラ様は?」
「僕はもう少しブラブラしてから行くよ! 卒業記念ってやつ?」
今日はなんだか気分がいい。
HSSがあるわけでもないのにどこか高揚している。
ICBMなんてものを使わなくてもお空を飛べちゃうような気さえもする。
さっきだって戦闘も飲酒もしていなかったのに赤色モード(今命名)になったくらいだし。
リサの静止の声を振り切り、イ・ウー内を突き進む。
陽気な気分でスッキプでもしながら進む僕にこの世界の景色が飛び込んでくる───
あるいは、大きなパーティでも開けそうな豪華な部屋。
あるいは、近代的な装飾の廊下。
あるいは、綺麗な緋色を残し割られたステンドガラスが特徴的な聖堂。
あるいは、様々な国の人たちの肖像画に石碑。
あるいは、いろいろな国のたくさんのお金。
あるいは、中世の武器や甲冑。
あるいは、蓄音機や黄金のピアノ。
あるいは、長い布のタペストリーや革表紙の本がずらりと並ぶ書庫。
あるいは、金銀宝石。
あるいは、太陽灯の眩しさ映える植物園。
あるいは、水族館のように魚がたくさんいる大きな水槽。
あるいは、グルグルとまわる螺旋階段。
あるいは、劇場のように広大なホール。
あるいは、恐竜、動物、大迫力の標本、剥製。
あるいは、少しばかり久しぶりのお天道様。
あるいは、潮と硝煙の香漂う大海原。
あるいは、血塗れで倒れ伏すキンイチさん。
あるいは、銃弾で穴だらけの甲版。
あるいは、血だらけでグロッキーなキンイチさん。
あるいは、夏だということが幻想的に船を彩る煌びやかな雪原。
「………」
……ん?
『血塗れで倒れ伏すキンイチさん』
……え? ちょっと待って…?
「キンイチさん!!?」
何? 一体何があったの!?
だがしかし、景色は変わらず、心臓を貫かれたかのように胸から血を流すキンイチさん。
「だ、大丈夫ですか!?」
返事は無い。脈は……よし! まだ生きてる!
それにしてもこの出血量はやばい!
手持ちの頼りない道具でなんとか応急処置をする。
……まさか、教わった本人にこれをすることになるなんて……
これこそまさに恩返しになるのかなぁ…?
でも、一体誰がこんなことを?
キンイチさんはイ・ウーの中でもトップレベルの強さだったはずだ。
それをこんなふうに……
──その時だった。
「おい! おまえ! キンイチから離れるのぢゃ!!」
声のした方を見るとそこには驚いた顔でこちらを見てくる星伽先輩と……星伽先輩と……いや、誰だよ?
誰だかわからないおかっぱ頭に薄い水着姿の女性はどうやら僕がキンイチさんの傍にいることが気にくわないらしい。
「えっと…もしかしてキンイチさんの彼女さんとかですか? 大丈夫ですよ。応急処置をしていただけなので」
「にょ、にょわー! だ、誰が彼女ぢゃ無礼者! わ、童は別にそんなんぢゃないわ!!」
にょわーって…めっちゃ動揺してますやん。
もしかしてアリア先輩と同じタイプなのだろうか?
兄弟そろってメンドイ人に好かれてますねぇ。いやはや可哀そうに……嫉妬じゃないからね! 美人美少女の彼女がいて羨ましいとか思ってないからね!!
「…ん? よく見ればおまえ、朝霧ソラぢゃな?」
「あれ? 僕のこと知ってる…?」
もしかして僕のファンか!?
……ってこれじゃあのアホと同じ思考回路じゃないか!
もう! あのアホはどこまで僕に迷惑かける気なんだよ。
でも、それならどうして……いや、少しばかり考えろ。キンイチさんは表では死人扱い。そしてイ・ウーの重鎮の一人。
そんな人と親しい人……つまりこの人もイ・ウー関係者?
なら、伝えた方がいいのかな?
「あの──「朝霧君…だよね?」…はい、何ですか星伽先輩」
タイミング悪いなぁ、もう。
だけど、今の間。もしかしてはっきり覚えられてないのかなぁ?
まあ、このタイミングで聞かれるようなことなんて想像つくけど。
大方、「どうしてこんな場所にいるの?」とかでしょ?
「どうしてこんな場所にいるの──とは聞かないよ」
しかし予想は見事に裏切られた。
「キンちゃんはどこ?」
「は?」
キンちゃん……確かキンジさんのことだよな?
もしかしてあの人もここに来てるの? どんだけ事件好きなんだよあの人……
「すいません。僕は見てないですけど…」
ハッ!
この瞬間、僕の頭の中で一筋の推理が浮かび上がった。
ま、まさか…
キンイチさんのケガは、もしやキンジさんにやられたのか…?
可愛さ余って憎さ100倍。
今まで会えなかった悲しみが限界突破し、勢い余って兄に手をかけて……
「──いや、無いな」
「え?」
「すいません。こっちの話です。あ、それと、船かなんかありませんか? 何かイ・ウーがとりあえず解散するそうなのでいつまでもここにいると何が起きるか分かりませんし」
「な、なんぢゃと!? どういうことぢゃ!?」
「それは僕もよくわからないんですけど……」
教授に聞けよ。
まあ、終わりがこの無法者の集団に通じるかわからないけどさ。
ヒューン──
ミサイルのように打ち出されていく、いくつものICBM。
記念の花火にしては少ししょぼいけれど、何かこう…心にくるものがある。
そんな風に天を衝くそれを見上げていると、ふと視界に点のようなものが映った。
それはどんどん大きくなっていき、やがてその形を鮮明にする。
「…アリア先輩に…キンジさん…?」
何の因果か、落ちてくるのはあの二入だった。
自由落下により高速で落ちてくる二人は、このままだと海面に叩きつけられて死んでしまう。
しかし──
……ばさっ……!
アリア先輩の長いツインテールがまるで羽のように動き、速度を殺していく。
ついにはちょっと高いところから飛び降りたくらいの速度となり──
──ザバンッ!
海に落下した。
そんな衝撃的な光景で僕のイ・ウーでの出来事は幕を閉じたのだった。
しかし、この時僕は気が付かなかった。
◆◇◆◇◆
シャーロック・ホームズ
性別 男
所属 イ・ウー(トップ)
称号 世界一の名探偵
武偵の原点とも言われる史上最高の名探偵。
イ・ウーでは教授(プロフェシオン)と呼ばれている。
150年以上の時を生きているにもかかわらず、容姿は20代のそれである。
未来予知と言っても良いほどの卓越した推理力を持ち、それを『条理予知(コグニス)』呼んでいる。
キンジとの戦いを最後に世界から姿を消した。