鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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今更だけどFragmentのルール。
①ソラの視点にならない。





Little Hero's ①

──正義のヒーローになりたかった。

 

男なら、誰だって一度は憧れるだろ?

武偵なんておあつらえ向きの仕事が身近にある現代では大人でも憧れてる奴はいるんじゃねえのか?

とにかく俺──竹中彰は憧れてた。

別に恥ずかしい事だと思ったことは無い。

だから公言してたし、治奈の奴にも話した。

でも、いつからか──

 

『兄さんは、何もわかっていません』

うるさい──

わかってないのは治奈の方だろ。

『兄さんにはもっと他にやるべきことがあるはずです』

あるわけがない。家族にさえかまってもらえない俺には。

いい加減にしろよ。それはもう聞き飽きたんだ。

 

“俺はおまえとは違う”

 

それが最後にあいつへと放った言葉。

俺の気持ち、環境、状態、全てを丸め込んだその一言。

返しは聞いて無い。

四年間、それできっと縁は切れた。

家を飛び出したことに後悔は一切ない。

何故なら、その先で俺は出会ったからだ。

本当の正義のヒーローに。

 

そして、きっといつの日かあの人のように──

 

 

 

1.「舞台裏からの始まり」

 

 

 

嫌な夢を見た──

あいつのことなんかもう忘れていたと思ったのに。

……体が怠い。

俺、寝起きはいい方なんだけどな。

ソラは毎日こんな感じなのか?

ふと、普段からクマを常備している友人を思いつく。

そういえば、三週間くらいずっと会ってねえな。

今頃、何してんだろ?

 

──四年で縁が切れるのならば、三週間はきっと短い。短いはずだ。

…ま、ウジウジ考えるのは俺には似合わねえよな。

 

そう結論に至ったあと、普段より数段重い身体を起こし、ルームメイトの平頂山を起こさないように朝の支度を行う。アイツはアイツで遅刻しないようには起きるだろうし。

今日は登校日だ。

夏休みだろうと、生活のリズムを崩すのは良くねえ。だから俺は基本いつも早起きだ。

それでも、今日はいつもより早く起きてしまった。

 

体の重さを忘れてきたころ、準備が終わった俺は学校へ向かう。

特に代わり映えの無い朝。

七月に入ったばかりに起きたような、あの驚きは無い。

街並みが薄いな。色が。

こんな朝だとそう感じるんだ。

起きる時間に伴って、今日は少し早く出たのは事実だかんな。

それって、実は少しの変化なのかもしれねえ。

 

「奇遇でござるな。こんな時間にあいまみえるとは」

あったよ、大きな変化。

良い変化とは言えねえけどな。

「…ちっ。ヒナ、何か用かよ」

風魔陽菜。

長い黒い髪をポニーテールにして、口には黒い布を当てている変な女子。

中学の時からの俺の知り合いだ。

同じ人を尊敬する同志……だった。

過去形ってやつだ。

今の俺とコイツじゃ立場が違う。

「いえ、彰殿を見つけたので声を掛けたしだいで」

「そうか、じゃあな」

「……まだ、怒っているでござるか?」

「別に怒ってないっての。……どうせ俺じゃ役不足だし」

わかってるさ。

ヒナの奴は全然悪くねえって。拗ねてる俺が全面的に悪い。

でも、納得できない。

いや、納得しろよ。

ヒナを見てると、胸の奥がそうやってザワザワすんだ。

くそー! 全然、俺らしくねえ!

「変な態度で悪かったな」

それでも、自分の否を認めるのは最後のプライド。

だって、俺はヒーローにならなきゃいけないから。

そして、また学校へ向かう。

「彰殿!」

ヒナが俺を呼び止める。

だけど、俺は足を止めることは無い。

たとえどんな言葉が返ってこようとも……

 

「役不足の用法…間違っているでござる!」

 

「え? そうなの?」

俺は振り返って聞き返した。

! しまった…!

 

 

 

 

「キンジ先輩の方が格上だってのがまだわかんねーのか!」

「わかってないのは竹中の方でしょ! アリア先輩はとにかくすごいんだからっ!」

教室では朝から繰り広げられる熱い舌戦(バトル)

自慢のしあいとも言う。

相手はムカつくチビッ子、間宮あかり。

畏れ多くも、キンジ先輩をバカにするアホチビだ。

 

──遠山キンジ先輩。

神奈川武偵高付属中からの先輩で、俺の憧れであり、目標の人だ。

入試で教官を倒し、一年からSランク。

その圧倒的な戦闘力は、教務科(マスターズ)でさえ一目置いているほどだ。

それに、困っている人を放っておけない人で、中学時代も人助けに精を出していた。

まさに、正義のヒーローだぜ。

俺がこの東京武偵高に入ったのも、先輩を追いかけていった結果だしな。

 

その先輩を…キンジ先輩を、コイツは──

「遠山キンジなんて単位も落としかけたマヌケなのに」

とか言いやがるんだ。

しかも、いつからか呼び捨てにしてるし!

確かに、掲示板にでっかくキンジ先輩の名前が書いて会った時は俺も驚いたけど!

「それは、オマエの戦姉(アネ)のアリア先輩が迷惑かけたからだろ!」

「アリア先輩はそんなことしないもん!」

「でも、強襲科(アサルト)でもアリア先輩がキンジ先輩を連れまわしてたって噂になってたじゃねえか」

「あんな噂デマに決まってるもん! ね、ライカ」

「…え? ここでアタシに振るのか?」

少し離れたところで驚いた顔を見せる火野。

俺や間宮と同じ強襲科の生徒で間宮とも仲が良い奴だ。

ムカつくことに、女のくせして俺よりちょっと(・・・・)だけ身長が高い。

ちょっとだけだからな。マジで!

「火野! オマエも聞いただろ!? あの噂!」

「いや…確かに聞いたけどさ…」

「今度のキンジ先輩の任務にアリア先輩が付き合うのがその証拠だぜ!」

「! そ、それは…」

「…なあ。アタシに話振った意味あるのか? おまえら二人で話が完結してないか?」

「で、でも、それが本当に噂と関係あるかなんてわからないじゃん。一応、本当に一応、アリア先輩と遠山キンジは組んでいるんだし」

「認めたな! 組んでる。つまり、アリア先輩がキンジ先輩に付きまとってるって!」

「だから何でそうなるの! むしろ、遠山キンジがアリア先輩に付きまとってるに決まってるよ! ね、ライカ」

「何言ってんだ! おい、火野、オマエからも何か言ってやれよ」

「…普段のあいつの気持ちが痛いほどわかったぜ」

火野の奴何言ってんだ?

どっか遠い目して窓の外見てるし、ソッチに何かあんのか?

んー。()に雲くらいしかねえぞ?

あ、太陽は直接見ちゃダメだぜ?

 

って、今はそんなことしてる場合じゃなかった。

「──大体、オマエみたいな奴を戦妹(アミカ)にしたアリア先輩の器が知れるぜ」

「…あたしはともかく、アリア先輩をバカにするのは許せないよ」

「オマエがそれを言うのかよ? Eランク武偵」

「この前Dランクになったもん!」

「ハッ! やっとかよ」

「……──くせに」

「何だよ」

「そっちなんか戦弟(アミコ)にすらなれなかったくせに!」

こ、コイツ…!

言わせておけば……

「テメェだってどうせまぐれでなっただけだろーが!!」

「! もう本当に許さない!」

ああ、それこそこっちのセリフだっつーの!

今ここで手っ取り早くこのバカに立場ってものを教えてやるぜ!

 

「ちょっと待てー!!」

 

「「!?」」

「おまえらいい加減にしろ。教室でやりあう気か?」

「火野! 急に入ってくんじゃねえ!」

「そうだよライカ。あたしは今、竹中と話してるの」

「(こ、こいつら…)ソラがいないからってヒートアップしすぎなんだよ!」

「「!?」」

そ、そうだった…

「火野、そこでソラの名前を出すのは卑怯だぞ!」

「…いや、どこがだよ」

「そ、そうだよ! ずるいよライカ!」

「……おまえらのソラに対する認識がわからねえよ」

やれやれ、はぁ…これだから火野は。

「オマエはソラをキレせたことがねえからわかんねえんだよ」

「ソラ君を怒らせたことがないライカは黙っててよね」

間宮も腰に手を当てて嘆息している。

「え? 何でこいつら偉そうなの?」

火野はさっきまでの呆れた様子も忘れて、ただ困惑している。

ただ一つ。俺とあかりが共通して守ってるもの。

──ソラの前ではなるべく仲良く。

只の言い合いまでだったらセーフなんだが。

もし、取っ組み合いでも起きちまって、それがソラに伝わっちまったら……

ガタガタ

フルフル

「あかり、竹中。おまえら急に何震えてんだよ?」

(もし、ソラ君の耳に入ったら、竹中のせいだからね!)

(あ!? 何でだよ!? オマエから吹っかけてきたんだろーが!)

やっぱ、こいつは気に入らねえ!

ソラも何でこんな奴と仲良くしてんだよ。

 

 

 

 

「チービ、チービ」

「バーカ、バーカ」

「誰がバカだ! このチビ!」

「竹中だって男子の中では小さいくせにー!」

………

正直どっちもどっちだろ。

だけど、まあ溜飲は下がった見てえだし、いいか。

矛先がアタシから逸れたのを見計らい二人から距離をとる。そして、一人避難してやがったもう一人の友人の方へ向かう。

「…ったく、酷い目に遭ったぜ」

「ご愁傷さまです」

「志乃も見てねえで助けろよ」

「すみません。あかりちゃん相手でもさすがにあれは……」

こいつときたら、普段はあかり相手に「くっつぎすぎじゃねえか?」と心配するくらいのスキンシップ取ってるくせに……

そういう意味を込め、ジッと見ると、多少なりとも罪の意識はあるのか「…うっ…」とたじろいだ。

「で、でも! ライカさんだって普段は朝霧君を盾にしていますよね?」

「…うっ…」

あー。そういえばそんなこともあったっけなぁ(棒読み)。

って、そもそもはソラがいないからアタシに矛先が向いたんだったぜ。

「ソラの奴。早く帰ってこねえかなぁ」

「それはそれで複雑ですね……」

志乃がそれを苦笑いで答える。

志乃の奴はソラのこと苦手だもんな。

まあ、ソラの奴も志乃のことが苦手みたいだが。

それでいて、たまに気が合ってるみたいな会話するから、人間関係ってのは複雑だよな。

「そういえば、三週間くらいか? ちょっと長いよな」

「…もしかすると、ただのクエストじゃないのかもしれませんね」

アリア先輩も知らないらしいし。つーか、逆に聞かれたくらいだしな。

あいつ、何やってんだろう。

 

早く、会いたいな……

 

──って、違う! いや、違わねえけど!

そういんじゃないっつーか……

「ライカさん…。何一人で悶えているんですか?」

「違うからな! ソラなんて帰ってこなくてもいいし」

「え? どうしたんですか、いきなり。さっきと言ってることが反対ですよ?」

こっちにも、いろいろあるんだよ。

最近、昔のこと夢に出てきたりしたし。

だけど……

 

「バカアホドジマヌケ!」

「チビチビオタンコナス!」

 

「………」

……あいつら小学生かよ。

あー、もう。あいつら見てると考えるのも馬鹿らしいぜ。

はぁ…。本当にソラの奴早く帰ってこないかなぁ。

 

見渡す窓の外は晴天、青空だった。

 

 






「…あれ? 名前だけ?」
初めての経験に戸惑うソラ君。



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