鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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どうでもいいけどFragmentのルール。
②ソラは引き立て役。





Little Hero's ②

──光の中で生きたかった。

 

ボクたち分家の『宵座』は影。

先祖代々、間宮の闇──暗殺や諜報を生業としてきた。

 

『あの敷居の中に入ってはダメ』

お母様に掴み止められたボク。

『宵座は影なのだから──』

 

──あの時の、お母様の言葉が頭から離れない。

正月の度、本家の様子をただ外から見ていることしかできなかった。

ボクはただあかりと───

 

でも、それも今日までだ。

ボクたち間宮は強い。

だから、ボクとあかりなら作れるはずだ──間宮の最強の軍団を。

そうすれば、もう影として生きる必要もなくなるんだ!

 

 

 

2.「誰かが前に出れば相対的に誰かが後ろになる」

 

 

 

「はい、では今日は名古屋から来た研修生を紹介します。どうぞ」

廊下まで聞こえたその声を合図にボクは教室の中に入る。

瞬間、おー! という歓声のような声が上がった。

名古屋武偵女子校(ナゴジョ)の際どい服装に男子が歓喜しているんだろう。

見られるのは慣れているけどね。

街を歩けば、9割の人が一度は振り向く。そして、多くの男性は釘付けになる。

それこそ校訓の『強きは美なり(strong is beauty)』を体現していると言える。

 

教卓の前に来たボクはクラス全体を値踏みする。

見たところ東京武偵高も大したことないな。

取るに足らない。誰もかれも隙だらけじゃないか。

 

「間宮ひかりさんです。仲良くしてくださいね」

このクラスの担任教師がにこやかな声でボクの名前を言った。

「ひかちゃーん!」

それを聞いた、小柄の少女がボクに抱き付いてきた。

二年間、一度だって忘れた事なんて無かった。

ああ……

「あかり」

あかりだ。本当に、本物の……

「会いたかったよ!」

「ボクも会いたかったよ。元気だったかい?」

「あらあら。やっぱり、ご親戚だったのね。じゃ、間宮さん。校内案内とかお願いできるかしら」

「はいっ」

カシャ

(スゲーな)

(ちょっと、見えた)

こっちをチラチラ見ながら、写メを取ったり、コソコソ話す男子たち。

教室の真ん中あたりの席でグーグーと寝ている金髪の男子などの一部例外を除き、ほとんどの男子生徒がボクに注目している。

ボクとしては別にどうとも思わないのだけど──

「コラ男子! 撮影禁止!」

プンスカ怒ったあかりがそれをやめさせる。

変わってないなぁ。

一生懸命で、小さくて、可愛くて……

あかり、やっぱりボクは──

 

 

 

 

……あれは昼休み、休憩所のことだった。

一通り、あかりのお友達(・・・)と互いを紹介し終わった頃にあかりは言った。

「そういえば、もう一人、仲が良い友達がいるんだー」

「! …へぇ。あかり、そうなのかい? だったらボクにも紹介してほしいな」

増えたのは架橋生(アクロス)の子──乾桜だけじゃなかったのか?

「うーん、今はちょっと武偵高を離れてて」

なるほど、長期のクエストか何かかな?

だったら、ボクらの調査からも外れているはずだ。

「ソラ()、いつ帰ってくるのかなー」

へぇ、ソラって言う子なのか……ん? ()

「あ、あかり? もしかして、ソラって言う子は『男』かい?」

「うん。ソラ君は男の子だけど?」

ま、まさか…いや、でも、あかりに限って……

「ソラ君、早く帰ってこないかなぁー」

「!?」

そ、そんな! 何、その待ち焦がれるような目は!?

つまり、ソラとか言う奴はあかりを誑かして……

許せない。絶対に!

 

……………

………

 

映画館──

あまり客は入っておらず、暗く静かで考え事をするにはピッタリだった。

そんな薄暗い中でボクは一人の人間プロフィールを頭に浮かべた。

あの昼休みにあかりの口から出た男子の名前だ。

 

朝霧ソラ。

あかりのクラスメイト。

専修は諜報科(レザド)。一年にしてAランクのエリート。

狙撃科(スナイプ)Sランクの戦姉(アネ)がいる。

──ざっと調べた経歴から見るに、中々隙の無い奴だ。

だけど、所詮はコソコソするのが得意なだけの諜報科。

あかりに手を出した以上容赦はしない。

 

『あらあら。怖いお顔』

『のぞみか。ちょっと考え事をしていてね』

僕の腹違いの姉であるのぞみが首に抱き付くようにして骨話を伝えてくる。

『久しぶりになったあかりさんはどうだった?』

『多分、あかりは本家にたまに出る同性カリスマ──天然ものの「女人望」だ』

やはり、あかりは使える。

ボクたちの野望のためにも……

 

「にゃ!」

 

わっ!

組んでいた足をほどかれ、その間から小柄な少女が顔を出す。

な、何だ、こだまか……

『こらこら。映画館では「骨話」でお静かに』

のぞみがこだまを叱る。

こだまは、一番下の妹なだけにやんちゃなところがあるからね。

まあ、いい。

それよりも、今は──

『あかりはボクがやる。手を出すな。出させるな』

あかりの戦姉(アミカ)であるSランク武偵──アリアは先日のクエストの後始末でしばらくあかりから離れることはわかってる。

行動に移すなら今だろう。

 

あかりには酷いことをするかもしれない。

でも、最後にはわかってくれるはずだ。

ボクらとあかり、その友達も含めて。

 

……だけど、朝霧ソラ。おまえはダメだ!

 

 

 

 

──次の日。

太陽も沈み始める夕方時。

あかりの帰り道で待ち伏せる。

 

「あっ、ひかちゃん」

「あかり、ちょっとデートしようか」

そう言うと、あかりは喜んでついてきた。

そんな純粋さがとてつもなく眩しい。

だけど、その純粋さに朝霧ソラが付け込んだと思うと……

「こだまちゃんとのぞみちゃんも元気?」

「うん」

おっと、朝霧ソラの始末も大事だが、まずは本来の目的からだ。

「ところで、あかり。間宮と間宮が戦う時のルール。『一つ契』って覚えてるかな」

「…? うん」

──負けた方が勝った方の言うことを聞く。たとえそれが何でも。

それが間宮に伝わる『一つ契』。

「やらないか、ここで『一つ契』」

人気のない裏道にあかりを誘導する。

周囲の建物の隙間から夕焼け特有の朱色の光が流れ込んでくる。

その光を避けてあかりの後ろに回り込んだボクはあかりへと手を伸ばす。

「ひか…ちゃん?」

「ボクはキミが欲しい──」

ヒュッ

突然飛来してくる何か。これは…手錠だ!

「ちっ」

あと少しだったのに…。こんなもの──

ガシャン

ボクはそれを難なく叩き落とす。

「あかり先輩! その女は危険です!」

そう言って横道から出てきた婦警の制服を着た少女。

昨日の自己紹介された──

「桜ちゃん?」

あかりがその名前を呼んだ。そう、乾桜だ。

「間宮ひかり。あなたは初めから何か怪しかった。私には悪のニオイがかげるんです」

「………」

のぞみとこだまにあかりの仲間の足止めは頼んでおいたけど…。

まさかマークしてなかった子が来るなんてね。

「かわいい架橋生ちゃん。取るに足らない子だと思ってたけど、お鼻が自慢かい?」

さて、ボクの邪魔をした借りは高くつくよ。

「じゃあ…もぎ取ってあげようか」

「!」

ダッ

両手に手錠を持った乾桜がこちらに駆けよってくる。

「あかり先輩、下がってください」

手錠が武器か…警察の制服といい如何にもだね。

片方の輪を握り、鞭のように使うそれはただの徒手格闘よりもリーチを伸ばす効果がある。

けど、ボクの敵じゃない!

「はっ!」

「おっと危ない。ボクはまだ何もしてないのに、これは酷いんじゃないのかい?」

おどけた風に言ってみても変わらない…か。

「犯罪を未然に防ぐのも警察の仕事です!」

ヒュンッ!

「たぁーッ!」

…やれやれ、言っても聞かない子にはお仕置きが必要だな。

ボクの眼前に来た手錠二つを──

チャキッ

手甲のついた右手で受け止める。

「なっ!?」

「輪投げ遊びが警察の仕事かな?」

そのままグイッと引っ張ると、間抜けにも手錠を掴んだままの乾桜も引き寄せられる。

「きゃっ!」

そして、そのまま体当たりで吹っ飛ばした。

ドンッ!

壁に叩きつけられた乾桜は気を失ったのか、ぐったりしている。

「さ、桜ちゃん!!」

あかりがそれを心配してか、駆け寄る。

「……して…。どうしてこんなことするの! ひかちゃん!」

「……あかり。今の間宮をどう思う?」

「今の…間宮…?」

──ボクたち間宮は強い。

それなのに、二年前のことで今はバラバラになって陰に隠れて生きることを強いられている。

「惨めだとは思わないか?」

「そ、それは…」

「間宮が襲われたのは、その技術を秘していたからだ。だから、ボクは間宮の技を名古屋女子で公開して最強軍団を作ろうと思っている!」

「こ、公開!?」

名古屋女子は強い者は受け入れられる。

ボクの考えた最強軍団はきっとうまくいくはずだ。

「あかり、キミもそこに加われ」

「軍団って……ど、どう作るつもりなの?」

「………」

……え?

い、いや、どうって言われても……

あれ? どうすればいいんだ?

ボクは間宮の技を広めればすぐに軍団ができると思ってたけど……

えっと、どう広めるかってことだよね…。

「…教室を開いたり……? そ、そうだ! 部活を作るんだ! 間宮部っ!」

「『間宮部』って……今、考えたの?」

「う、うるさい!」

ジーッと見てくるあかりの視線が痛い。

べ、別にボクは考えなしなんかじゃないもん!

「と、とにかくまずみんなにスゴイって言われるんだ! そしたら入門者もいっぱい来るだろっ。…そうして、間宮を武偵業界一の武術ブランドにするんだ」

そしたら、ボクらは──

「光の中で生きることが出来る」

「ひかちゃん…。──ダメ…だよ。間宮の技は危険すぎる」

「危険な技を教える。武偵高ってそういう所だろ?」

「………!」

 

ガチャ

また、邪魔が入った。乾桜の気が付いたのか。

「桜ちゃん!?」

それに──

(つつ)か…」

なら、こちらも全力で向かわせてもらう。

指を鉤爪のようにし、右手は正面、打ち出すべき左手は顔の横。腰を落とし右足を前に踏み込む。

「その構えは…『鷹捲(たかまくり)』!?」

鷹捲──

人体に流れる微細な電流による振動、パルスをジャイロ効果によって増幅・集約し、振動で万物を破壊する間宮の奥義。

「あかり、その邪魔な架橋生を斃してから『一つ契』だ」

「だ、ダメだよ、ひかちゃん。鷹捲は緩衝材も無しに打ち込んだら、死ん……」

「銃を向けられて全力で戦わないのは、名古屋女子じゃ校則違反だ。…それと、仲間は来ないぞ」

「!?」

「さあ、あかり。どくんだ」

「………。そこまでにして、ひかり(・・・)…!」

「………」

何かを決心した顔になったあかりはボクと同じ構えを取る。

ボクと打ち合うつもりか…。

「それを使うなら手抜きするなよ(・・・・・・・)? 行くぞッ!」

 

「「鷹捲!!」」

バチィッ──!

 

「きゃあ─!」

薄暗い裏道が弾けるような鷹捲の打ち合い。

結果、倒れたのはあかりだった。

勝った…!

ボクは鷹捲りの威力を調整できる。

今のはあかりの150%の威力で撃った。

あかりは鷹捲の破壊の余波で服も体もボロボロになってる。もう立てないはず…

「う……ん」

──え?

「桜ちゃん…大丈夫?」

「…は、はい(え? 何で裸…?)」

そんな、今のであかりを倒せなかったなんて……

そうか、乾桜を使って衝撃を逃がした(・・・・・・・)のか…!

恥ずかしい…! ギリッと奥歯を噛みしめる。

でも──

「あかり──」

「ハッ。つまんねえことやってんじゃねえか」

今度は見知らぬ金髪の男子だった。夕焼けを背にやってきた小柄な体躯。

格好から見てみるに東京武偵高の生徒だ。

次から次へと…!

朝霧ソラといい、これだから男は…!

というか、何で話し出そうとするたびに邪魔が来るんだ!?

まったく! あかりと話せないじゃないか!!

 

 






──イ・ウー三人娘。
あの裏道が見える建物の屋上。
「うはー! なんかヒッサツ技が出た!」
「『鷹捲』よ。今の両方」
「日焼け娘の方が強かったな」
「…でも、まだ終わってない。……理子? 何をやってるの、メール?」
「このカンドーをソラランにも知らせるのー」
「増援……ではなく、足止めか?」
「どちらにせよ意味は無いわ。理子からのメールなら読まずに消すわよ。あの子」
「ああ…。ただの迷惑メールという奴か」
「二人ともひどっ! せっかく出番の無いソラランを気遣ってあげたのに!」

余計なお世話だ!



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