適当だけどFragmentのルール。
③あれ? この物語の主人公って誰だっけ?
いつも、見ている人形は日々成長して面白い。
最初のころが嘘のよう。
まるで、物語を見ているようで、先が気になる面白い。
いつも、見ている人間は日々成長せず面白い。
最初のころと変わらない。
まるで、現実を教えてくれるようで、あがく姿が滑稽だ。
フィクションだろうがノンフィクションだろうが面白ければどうでもいい。
だけど、もしも願うのなら──
3.「飛べない鳥と飛び方を知らない鳥」
夕暮れの裏道。
なんか変な感じがするから来てみれば。
下着姿でボロボロの女二人と、それを食い入るように見ている変質者がいた。
「婦女暴行とセクハラとかそんなんで逮捕だ!」
「え…? 竹中?」
「ん? 俺のこと知ってんのか? って、間宮じゃねーか!」
おいおい、武偵ともあろうものが、何やすやすやられてんだよ。
はぁ…。まあ、間宮なら仕方ねーか。こいつ弱いし。
「ていうか…キャー!」
「うおっ、どうした!?」
「キャー!!」
「こっち、見るなー!! 近づくな変態―!」
おいおい。何で助けに来た俺が変態扱いなんだよ。もう一人の被害者も何か騒いでるし。
変態はあっちだろ?
それに──
「別に俺は女の裸なんかに興味ねーよ」
そういう本もって賑わってるクラスの連中とかの言ってることもよくわかんねえし。
女子とか見てて綺麗だとか可愛いとかは思っても、だからどうしたって感じだしな。
大体、こんな現場でどうこうするかってーの!
「……え゛? …じゃあ、やっぱりソラ君を狙ってるの?」
……いや、何でここでソラの名前が出んだよ。
「そんなことより、そこの制服みたいなコスプレしてる奴! おとなしく、お縄に着きやがれ!」
「コスプレって……。これはれっきとした名古屋女子の制服だ!」
「ハッ。嘘ならもう少し、マシな嘘を吐くんだな」
確かに俺は頭のいい方じゃねーけどよ。いくら何でも俺のことバカにしすぎだぜ。
「そんな、アホみたいな制服があるわけねえっ!!」
俺に確信をつかれて動揺したのか、犯人が膝をつく。
「アホみたいって、言われた……」
何ブツブツ言ってんだよ。往生際がワリーな。
「ソラが言ってたぜ! そうゆーの変な制服を着る奴の事って『痴女』って言うんだろ!」
「……痴女……」
「…あのね…竹中…」
ん? 何だよ間宮。近づくなって言ったくせに、そっちから近づくのは良いのかよ。
「ひかちゃんの…あの人の言ってることは本当だからね? というか、昨日から研修でうちのクラスに来てたでしょ!?」
「あれ…? そうだっけ?」
「やっぱりバカだ!」
「何だと!?」
助けに来たやったのに今度はバカ呼ばわりとか!
本当に間宮は失礼な奴だな!
「…ははは…とにかく、これはボクとあかりの問題なんだ。だから──」
痴女はふらふらと立ち上がり──
「さっさと、
ギラリと鋭く睨み付けてきた。
「おい、何かアイツ怒ってないか?」
「竹中のせいだよ!」
いや、何でだよ? 俺なんかしたか?
「──だがまあ、セクハラはともかく、暴行は誤解じゃねえみたいだな」
「何だい、邪魔するのか?」
「あかりとそこの…女の子は下がってろ。女子供の出る幕じゃねえ!」
「……ひかちゃんも女なんだけど……」
う、うるせえな! 人の揚げ足ばっか取りやがって。
敵だったらいいんだよ!
「とにかく! 向かってくるんなら容赦はしねえってことだ!」
「ボクの方こそ、雑魚に用は無い」
んだと! 後悔すんなよ!
「ラァッ!」
特攻をかますがひらりと避けられる。
「隙だらけだよ」
振りかぶった右腕の内側に入った相手はカウンターの要領で拳を打ち込んでくる。
「グハッ!」
「竹中!」
コイツ、もしかして強い…?
くそっ、最近の変態は力も強いのか!
「だから! 変態じゃない!」
「ゴホッ!」
腹にたまった空気が吐き出される感覚。
軽く吹き飛ばされた俺は、すぐに立ち上がる…つもりだが、自分でもわかるほどヨロヨロとした足取りになってしまった。
「見た目より、タフだね」
「くそっ」
接近戦は不利か! なら──
「……アレ?」
銃がねえ…?
何度腰のホルスターに手をやっても、空を切るばかり、そこには無いも入っていない。
「探し物はこれかい?」
キンジ先輩と同じベレッタM92F──間違いない俺のだ!
いつの間に……
相手はつまらなそうにこちらを見やると銃を離れた場所に滑らせた。
「
後ろで間宮が呟いてる。
「このっ!」
懐からナイフを取り出すも。
「──遅い!」
ガキンッ!
手甲に弾かれて、そのまま腕を取られる。
ダダダダンッッ!
何発も体に打撃が刻まれていく。
「ぐ……」
つ、
ああ、こんなに圧倒的にやられるなんていつ以来だっけ……
◆
ドコッ! ボコッ! ガキッ!
目の前でボロボロにされる竹中。
助けようにも体はまだ思うように動かない。
ドンッ!
壁に思いっきりたたきつけられる。
竹中の額からは血が流れており、衝撃で視界が定まらないのか、目は虚ろだ。
何で…何で立つの!?
そう、竹中はそれでも立ち上がる。
「呆れた。まだ立てるのか。頑丈さだけならSランクあるんじゃないか?」
「…はぁはぁ」
「何故そうまでして邪魔をするんだ? 元々おまえには関係ない事だろ」
私にもわからない。ひかちゃんの言うように竹中は本来関係ない。
ここまでする義理も無いはずなのに。
それどころか、あたしたちは仲が悪いのに……
どうして、そんなに迷いが無いの…?
「何故かって? そんなもん決まってる──」
そういう、竹中の顔にやはり迷いは無い。
「俺が
──!
「…くだらないな。それに才能ないよ、おまえ」
「うる…せえ!」
「どちらにせよ、
ガンッ──
その音を最後に竹中はガックリとして動きを止めた。
「そろそろ、いいだろう。邪魔もいなくなったことだしね」
「……っ」
別に竹中とは仲が良いわけじゃなかった。
むしろ、顔を合わせるたびにいがみ合ったような仲だ。
だけど、それでも──同じ武偵高の仲間だ!
それにもう一つ、竹中と共通して思っていること、あたしだけが感じてるわけじゃないと思う。武偵としての──
「桜ちゃん、竹中を見てあげて」
「はい」
桜ちゃんが竹中の所へ向かう。
桜ちゃんからの反応を見るに、気絶しただけみたいだ。よかった。
「さっきはボクも勇み足だった…謝るよ。次が本当の『一つ契』だ」
あたしが負けたら、ひかちゃんの軍団に入る。
それがこの『一つ契』の約束。
「ボクはさっき、キミに情けをかけた。宵座に伝わる鷹捲の上位技『
奥の手なら……
「あたしにも…ある」
「何?」
「『
正直、怖い。
なんたってあたしの梟挫は成功するかは五分五分だ。
鷹捲よりマシとはいえ、とても普段の実戦で使えるような技じゃない。
でも、これはこんな時にこそ使う技!
「ひかちゃん。鷲抂は武偵法9条を守れる?」
「ああ、
そうして、ひかちゃんは鷹捲と同じように、鉤爪のようにした手を顔と正面に構える。
「
「よかった。──ひかちゃんを信じてるから」
対するあたしは目の前を腕で大きな円を描くようにすると、真っ直ぐ左手を下、右手を上に構えた。
鷹捲とは違う、これが『梟挫』の構え。
「ひかちゃん。
「望むところだよ」
「……ひかちゃん。さっき武偵高は危険な技を教える所って言ったよね。──それは違うよ」
「?」
そう、竹中ともう一つの共通点。
それは──
「武偵高は…正しい力の使い方を学ぶ所なんだよ」
「…違うぞ、あかり。世の中、正しいのは──」
ギュン!
「いつも…勝った方だ!!」
──鷲抂!
あたしは両手で大きな円を描き直し、人体パルスを手に集める。
梟挫とは──
整流により人体パルスのU字壁を作る──
バチィ!
ビキ、ビキ! バリ、バリ!
服をボロボロにしながら、跳ね返ったように吹っ飛んだひかちゃんが、ドサッと倒れる。
できた……梟挫…!
「すごいです。あかり先輩!」
桜ちゃんが駆け寄ってくる。
桜ちゃんは元気が戻ったみたいだね。
! それよりひかちゃんは…? 9条は守れるって言ったから大丈夫…だよね?
「ひかちゃん?」
「う……」
「ひかちゃん! 大丈夫?」
まさか、倒れた時に頭を打ったんじゃ…
「うわあぁぁぁぁんー!」
「「!?」」
「あかりおねえちゃんごめんなさいー! ぶたないでー!」
「な、何ですか…? やっぱ変な所打ったんじゃ…」
あー、これ。お婆ちゃんからコッソリ聞いたことある…
確か──
「あ、赤ちゃん返りする技!?」
「うん。それを返しちゃったみたい」
「それ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫。半日ぐらいで元に戻るはずだから」
ぶったりしないからね。ひかちゃん。
よしよし。
そう言って撫でると……
ギュッっとひかちゃん(赤ちゃんモード)は抱き着いてきた。
確かに…武士の人がこんな状態になったら切腹モノだよね……
あ、そういえばあたしたちもいつまでも
ののかに連絡とって着替えもってきてもらわなきゃ。
街中で知り合いにこんな姿を見られたら鷹抂じゃないけど、それこそ切腹モノ……
「「あ」」
「………」
「………」
バッ!
素早く、後ろを向いたけど、あれって──
の、ののかにソラ君…!?
ど、どうしてこんなとこに!?
「あかりおねえちゃん、おっぱいちょうだいー」
ひかちゃん!? 何もこのタイミングで!?
「キャー!」
桜ちゃんもパニックになってるし! いや、ある意味当然の反応だけど!
「無いよ! あ、あのねソラ君、ののか、違うの、これは違うからね!」
ビクッ!
ソラ君の肩が震える。
そして、ののかを抱えたまま駆け足で去って行ってしまった。
ソラ君たち絶対変な誤解してるよ!
「違うのー!!」
だけど、返事が返ってくることは無かった。
代わりに……
ピロリン♪
──誤解100%のメールを残して。
………
………
「お楽しみって何!?」
絶対、勘違いしてるよ!
「街中で服を脱ぐ変な集団だと思われたらどうしよう…?」
「……いえ、もっと致命的かと思います」
「さ、桜ちゃん、ど、どうしたらいいの!?」
「とりあえず、明日誤解を解きに行きましょう! 朝霧先輩ならわかってくれます…多分」
そ、そうだよね。ソラ君ならわかってくれるよね……
あれ…? 何か忘れているような…?
そうだ──
「竹中は…?」
あたしと桜ちゃんが周りを見渡しても三人の他に誰もいない。
「ケガ…してたのに」
血痕という足跡を残し、竹中は姿を消した。
◆
何だよ……
何なんだよ! アレ!
『本日は夜にかけて雨が降るでしょう。外出する際には傘を忘れずにお持ちください』
ショーケースの中のテレビから漏れる音に足を止める。
「雨…」
ちょうどいい。
ああ…ちょうどいい。
真田が物陰から仲間になりたそうにこちらを見てる。
──ガンバレ主人公(笑)!