鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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まだまだ出るけどFragmentのルール。
⑤ソラ君ついに大活躍?




Little Hero's ⑤

キンジ先輩を追いかけて、東京武偵高に来た俺は一人の少女に敗れることになる。

いや、自分よりでかい相手を少女って言うのはどうなんだろ……?

ま、いっか。

とにかく──

『くそっ! 何で勝てねえんだよ! この男女!』

『へ、負け犬の遠吠えだぜ』

ぐぬぬ。言い返せねぇ。

『おい、火野。さっき間宮が呼んでたぞ。いい加減うるさいから行ってやれよ』

そんな時、火野を呼びに来たソイツ。人形のように整った顔立ちに琥珀色の瞳。

それが俺とソラの出会いだった。

『ああ、悪いな』

『ホントだよ。僕はこう見えて最近忙しいんだ』

ほらクマ、と眼元を差し出したソイツの顔には確かにクマが出来ている。

『あー。そういえば最近なんかあったのか?』

『まあ…ちょっとメンドイ人が戦姉(アミカ)になっちゃって』

『え? おまえを戦弟(アミコ)にする奴がいたのかよ』

で、何かよくわからないけど、目の前で行われたそのやり取りが輝いて見えて、そのあとクラスメイトになったのをきっかけに話しかけたんだ。

 

今思うと、俺はソラにも憧れてたのかもしれない。

 

 

 

5.「壁の向こうとこちら側。因みにアイツは壁の上」

 

 

 

新棟の建設現場。

前に志乃ちゃんと高千穂さんが決闘をした場所だ。

今この場にいるのは、ひかちゃん、ソラ君、竹名、そしてあたしの四人。

事が事だし、他の人には秘密で行うつもりだ……決闘を。

……そういえば、あの時もよくわからないうちに決闘になってたよね…。

「……あのさ。状況がさっぱりわからないんだけど」

その吹き抜けられたフロアの一つに着いた時、ソラ君はあたしに向き直った。

「竹中連れて来いって言われたから、ヒッキー状態のこいつ引っ張り出して来てみれば……何か、向こうで女の子が現在進行形で僕のこと睨んでるし」

僕、恨まれるようなことしたのかなぁ、そう呟くソラ君。

ゴメン。それはあたしにもわかんないや。

ソラ君とひかちゃん面識はないはずなのに……何でひかちゃんはソラ君のこと嫌ってるんだろう?

みんな仲良くできたらいいのに……

「あのね。ひかちゃんがソラ君と決闘したいそうなの」

「ゴメン、あかり。もう一回言って?」

「ひかちゃんがソラ君と決闘したいそうなの」

「ひかちゃんって、あれ?」

ソラ君は今だに自分を睨み付けているひかちゃんを指さす。

「うん」

「……意味が解らない」

うん。あたしもなんでこうなっちゃたのかわからないよ。

さっきからわからないことだらけだね。

「あかりがそれでいいのか…?」

「…うぅ、ご、ゴメンね」

「いや、別に謝らなくてもいいけど……それにしても決闘…ね」

「──勝負方法は一対一の決闘方式。刀剣に銃の類もあり、ボクは使わないけどね」

そこで、今までソラ君を睨むだけだったひかちゃんが口を開く。

小刻みに震えている体や眉間にしわを寄せている顔からイライラしてるのが見て取れる。

「それなら僕だって必要ないな。素手の女子相手に刃物ってのも絵的にあれだしね。それに、ナイフはともかく銃なんてスコア40だし。……って、本当にするの!?」

「あ。あたしより下だ」

「え。抜かれてたの…?」

ソラ君がガックリうなだれる。

ソラ君に勝った。やった…でいいのかな?

「ボクが勝ったら、二度とあかりたちに近寄るな。もし、ボクが負けたら、そこにいる奴に謝ってやる」

「あぁ? 俺?」

来てもらって何だけど、竹中はいつも通りだよね。

「…何それ。驚くほど僕にメリット無くないか? ていうか、それで竹中連れてこさせたってわけね……やめていい?」

「だ、ダメだよ!」

「……あかり、僕って驚くほど無関係だと思わないか?」

「巻き込んじゃったのは悪いけど、ソラ君にしか(・・・・・・)頼めないだもん(・・・・・・・)!」

ソラ君はあたしより大きいから、真っ直ぐ目を合わせようとすると、少し見上げる形になってしまう。

ちょっと力が入っていたのか無意識に両手を胸の前でギュッと握っていた。

「……!」

やっぱり、怒っちゃったのかな。

そうだよね…。ソラ君からしてみれば勝手だもんね…。

「しょうがないなー。今回だけだよ?」

あれ…? 怒ってない?

それどころかニコニコしてるような……

「でも、もう本人の承諾なしに事を運ぶようなことしちゃダメだよ?」

「ゴメンね。もうしないよっ」

「うん。良い子だ」

ぽすん

ナデナデ

撫でられた。あ、でも優しくて気持ちいいかも……

「!」

あたしの頭の上で突然ピタッとソラ君の手が静止した。

「? ソラ君どうしたの?」

「いや、察しただけ。……はぁ、また佐々木の同類か……」

「おい! あかりから離れろ!」

「?」

ひかちゃんも顔を真っ赤にして何怒ってるんだろう?

ソラ君は別に変なことして無いのに。

「はいはい」

そう言ってソラ君はあたしの頭から手を退かす。

「…あ」

ちょっともったいないかな、と思ったら声が出ちゃった。

「──!」

「うおっ…これ夢に出ないよね…?」

何で夢?

ようやくソラ君はひかちゃんと向き合った。

これから、始まるんだ。

「じゃあ、始めようか」

「ちょっと待って」

「何だ。怖気ついたのかい?」

「いや、武器外すから」

ソラ君は腰のホルスターに取り付けてある刃渡り25cmほどの刃物──匕首ってソラ君が言ってた──を外すと。

次に軽く、でもとても素早く腕を振る。そして腕を下に向けると──ジャラジャラ。

制服の裾から細い杭やら小さなナイフやらいくつも零れ落ちてくる。

え…? ちょっと…ソラ君…?

そのあとも懐に手を入れ数本のナイフをポイポイと取り出す。

最後に防弾制服を脱ぎ内に隠していたワイヤーやらロープやらを地面に置くことでようやくソラ君の作業が終わる。

「そ、ソラ君…何これ…?」

積み上がった凶器の山を見て思わず呟いてしまう。

さっきまで目が尖がっていたひかちゃんでさえ、今は目を丸くしている。

「ああ、僕は暗器使いだから」

「ふーん。暗器使いって大変なんだな」

それで納得しちゃダメだよ竹中!

見て! 明らかに山の大きさがおかしいから!

ソラ君って制服の裏に四次元ポケットでも持ってるの!?

「銃を使うのだってメンドウじゃないのか? 手入れとか、組み立てとか、弾の補充だとか…」

「うーん。そう言われると……って、論点が噛み合ってないよ!」

あたしが問題にしてるのは大変さとかじゃなくて、物理的な量だから!

──でも結局、最後まで納得できる答えは返ってこなかった。

 

「はぁ…僕としてはこういう真正面からの戦いって好きじゃないんだけどね」

「コソコソするしか能が無いと認めるのかい?」

「そういうんじゃないけど……禍根を残すのはそれでメンドイし、まともに(・・・・)戦ってあげるよ」

ひかちゃんは強い。

この前あたしが勝てたのは、まぐれに過ぎない。

でも、ソラ君も強いことは知ってる。

二人を心配しながらもどっちが強いのか気になってる自分がいる。

はぁ…あたし悪い子だ…

ソラ君…

ひかちゃん…

 

ピリピリした空気の中、ついに二人が動き出した。

 

 

 

 

先手必勝!

朝霧ソラが動き出す前にボクは仕掛ける。

あの量の武器には驚いたけど結局それだけだ。直接戦闘には関係ないただの曲芸に過ぎない。

元来、強襲科(アサルト)の武偵は諜報科(レザド)の武偵と相性が悪いとされている。

諜報科の技はそういう戦闘力の差を覆すような絡め手であるからだ。

だが、こうして真正面からの戦いならばそんなことは関係ない!

ヒュッ

体の中心線を狙った衝き。

だが、それはサッと払いのけられる。

ふん、さすがにこの程度では決まらないか。

「ハァ!!」

そのままの勢いを載せた回し蹴りを放つ。

「!?」

朝霧ソラは大げさなくらいバッと距離をとった。

どうしたんだ?

今の状況であそこまで離れる意味が解らない。

それとも実はまだ武器を持っていて飛び道具でも使う気か?

相手は俯きがちで表情がうかがえない。

視線誘導…というわけでもなさそうだ。

「何のつもりだ?」

「………」

朝霧ソラは答えない。

そっちがその気なら、あかりの前で大恥をかいてもらう。

本当に二度とあかりに近づかないようにね。

距離をとったのは失策だったな。

鉤爪を模した両手、右手右足を前に出し、左手は顔の横に添える。

「ひ、ひかちゃん!? それは…!?」

あかりが驚愕したような顔でこちらを見てる。

確かにこの技は間宮以外に防げない上に、簡単に相手を殺すことが出来る。

「あかり、心配するな。殺しはしない」

殺しは…ね。

これから打ち出すのは鷹捲(たかまくり)ではなく鷲抂(わしお)だ。

死にはしない…が、死ぬよりひどい恥辱を味わってもらおう。

相変わらず朝霧ソラはこちらに目を合わせようとしない。

だけど、もうおまえは終わりだ!

「鷲抂─!」

バチッ

弾けるような小さな音と共にボクの腕が朝霧ソラを捕え──

──スッ

え…?

消え……ガンッ!

そこでボクの意識は途切れた。

………

……………

 

 

「う…ううん…」

「あ、よかった。ひかちゃん、気が付いたんだ」

「あかり…?」

「うん、そうだよ」

あれ…? 何でこんな状況に?

そもそもボクは何でこんな所で寝ていたんだ?

「やっと、起きた?」

朝霧ソラ!

その姿を捕えた時、おぼろげだった記憶が繋がった。

「──そうか。ボクは負けたんだ…」

「その通り、僕の勝ちだよ。ま、最後の技には驚いたけど」

最後の技──鷲抂か…

どうやったか知らないけど朝霧ソラは鷲抂を躱した。

こいつはあの千本の矢をすり抜けるとまで言われた間宮の奥義を躱したんだ。

完敗──

それ以上の何物でもない。

思えば、あの量の暗器を日常的に身に着けてるだけでも体に相当な負荷が掛かるはずだ。

つまり、朝霧ソラも常人の枠に収まる手合いでは無かったんだ。完全に見誤った。

「というわけで、さっさとどうぞ!」

「そうだよ、ほら竹中も」

ああ、そういえば負けたら謝るって…

「──いいよ。そんなの」

金髪の少年がそれを止めた。

「え? でも…」

「別に俺は別にソイツには(・・・・・)思うことはねえし、謝られても困るだけだ」

「ま、そうだろうねー」

朝霧ソラはわかっていたという風に口をはさむ。

うん。それなら…それが道理だろう。

あかりは最後まで納得していなかったみたいだけど、竹中が気にしてないこともあり、しぶしぶ引き下がった。

ボクは負けた以上そのことに関しては何も言えない。

だけど、どうしても気になることがあるんだ。

「最後に聞かせてくれないか?」

「何を?」

「ボクの鷲抂をどうやって避けたんだ?」

あかりたちも気になっていたのか朝霧ソラを注目する。

「うん、こっちから見ても早すぎてよくわからなかったもん。まるで……」

「企業秘密です」

あかりの言葉を遮ってニッコリ笑いながら一言。

夕焼けを背にしてなお浮かぶような琥珀色の瞳にボクの目は奪われた。

そして、ただ、こう思ったんだ。

カッコイイ……って。

 

 

 

 

「………」

ソラも俺も無言で帰路につく。

すぐにソラの住んでいる部屋に着いた。

「…なあ」

「何?」

「ソラは何でそんなに強いんだ?」

「さあね。必要に迫られたから、というより元々スペック高いから、なんて」

「…才能ってやつか…」

「………」

「ソラとさ、キンジ先輩ならどっちが強いかな」

その問いにソラは少し考える素振りをして、

「…今の僕となら完全にキンジさんだろうね」

と、答えた。

「そっか」

「うん」

「ソラにさ、話したいことがあるんだ」

「……とりあえず、家に入ろうか?」

家の中、日は沈みだしたため暗い。

ソラは部屋の電気を付けると俺をソファに座り込んだ。

俺も対面のイスに座る。

「俺には、すげえ優秀な妹がいたんだ。

「ご先祖みたいに知力、武力、超常の力なんてものも何でも持ってる奴だった。

「逆に俺は何も無かった。

「それで、小さいころから比べられてさ。

「いや、比べられてるうちはまだ良かったんだ。

「途中からもう、構われもしなくなったからな。

「だから、俺は家を飛び出した。

「ここから出れば変われるって思ってた。

「でも、違うんだな。

「結局俺はヒーローになんかなれない──」

あの女は俺より遥かに強かった。

だけど、ソラはあの女より遥かに強い。

そして、キンジ先輩はそれの更に先にいる。

遠い…ただ遠い。

キンジ先輩もソラも…そして間宮も。

世界が違う。才能が違う。

「おい…竹中?」

部屋に入るなり矢継ぎ早に話しだした俺を見てソラが怪訝な顔をする。

「──なあ、ソラ」

 

「俺、武偵やめるわ…」

 

 






PLUUUU!
ガチャ
『この電話は、お客様のご希望によりおつなぎ出来ません』
「………」
…もう、ソラランってば冗談キツイぞー?


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