鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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いよいよあの人登場だけどFragmentのルール。
⑥それでもソラは脇役。(Fragmentだけで済めばいいが…)




Little Hero's ⑥

あれから、数日…くらいか?

正直どんくらい経ったか数えてねえ。

来る日も来る日も暑い夏の日差し。

クーラーに頼りきっている軟弱な姿こそ今の俺に相応しい。とか、別にクーラー嫌いでも何でもないけど。

まあでも、昔から毎日同じような感じなのは変わらない。

──俺が武偵をやめようとしている以外は。

 

あの女は名古屋に帰り、俺はソラの部屋に住み着いていた。

「なあ、竹中」

「ん? 何だよ、ソラ」

答えながらも手は止めない。

今、手を離すわけにはいかないからな。

バッとフライパンを振る(・・・・・・・・)──パラパラとした黄色のご飯がさながらハイウェーブのように浮き上がり、再びフライパンに着陸する。

こう見えて俺は料理が得意だ。

実家を飛び出し、ほぼ一人で生きてきた俺は家事全般一通りこなせる。

「おまえ、専業主夫にでもなるつもりか?」

ここで料理人と言わないところにソラのひねくれ具合が見て取れるな。

「主夫…それもいいかもしれねえな…」

「…マジか」

おい、何自分で言っといて引いてんだ。

主夫だって立派な職業だぜ?

「ほら、出来たぞチャーハン」

「ああ、うん」

「うまいか?」

「うん、おいしいけど…」

「そうか、へへっ」

「え、いや、何で!? 何で、おまえ頬染めてんの!?」

いや、だってなあ。

まあ、自分でもうまいもの作ってる自信はあるけどさ。それでも──

「(友達として)好きな奴に褒められればうれしいだろ?」

「──!」

「おい、どうしたんだ? 顔が真っ青だぜ?」

「ち、近づくなー! この変態ー!!!」

「お、おい、ちょ、待てって、痛ッ!?」

「出てけー!! 僕はノンケだー!」

「いきなり何言ってんだ!? わ、わかったから物投げんのヤメロって!」

何故かいきなり錯乱し始めたソラ。

手当たり次第に物を投げてくる様子にこれはたまらないと急いで部屋を飛び出した。

 

 

テクテク

はぁ…街に出てもやることなんかねえんだけど。

だけど、今は武偵高には行きたくない。自分の寮にも戻りたくない。

「はぁ…ソラんとこは追い出されちまったし、どこ行こう…?」

そんな俺はどこに行くとかは無く、ただ適当に街をふらふらしてたんだが。

本当に適当に進んだ先が暗い道だった時に起きた偶然。

ん? あれって……

そう少し、路地裏に入った辺り、視界に入った。

「の、退きなさい。星伽の巫女は、悪徒の威迫には応じません!」

「何かおもしれー言い回しだな。それ日本語?」

「いはくって何だっけ?」

「ぎゃはは。おまえらバカだなー」

「おい、おまえはわかんのかよ? つーか、こいつ生意気じゃね? さっさと剥こうぜ?」

どうやら、女の子が襲われてるようだ。いかにも頭が悪そーな連中に。

しかもそこは表の道からは丁度見えない位置だ。

見えない場所だからこそ起こることなのだろうけど。

しかしまあ、こんな路地裏に入るのはそれこそ、物好きかあんな連中かここら辺の地理がわかってない奴くらいだろう。

襲われてる少女を見る。

黒いセミロングな髪に男どもを睨んでいることを除いてもキツそうな目つき。

さっきから、自分の発言が余計に男どもを煽ってることに気づいていない。

世間知らずのお嬢様か何かの線が有効だな。

自分でも驚くほど冷静に──最近から拍車にかけて沈み込む思考に達観が出てきているとソラは言ってたっけ? ……ん、達観って何だ?

 

……それにしても、路地裏で女の子が襲われてる、か。

ちっ、今になって嫌なこと思い出させやがって!

「おい、何つまんねえことしてんだよ」

あの時とはまったく違う感情でその言葉を吐く。少なくとも自分にはそう言い聞かせる。

あんな決意したんだ。今更それが何だと言うんだ。

……これで最後だかんな!

 

 

 

6.「黒髪ロングに碌な奴はいない」

 

 

 

「はぁ…」

帰宅途中、隣で並んで歩いている後輩が唐突にため息を吐く。

「どうしたんだ? いきなり」

「いえ、キンジさんを見てちょっと……」

おい、こいつ今かなり失礼なこと言わなかったか?

「あ、いえ。そういう意味じゃなくて。キンジさんは直接関係ないっていうか…いや、関係なくは無いんですけど」

どっちだよ。

少し慌てた顔の前で左手を小さくフルフル振る後輩、朝霧。

その琥珀色の瞳は大きく見開かれ今の発言が誤解を与えていたと慌てて否定する。いや、否定かどうかはよく解らんが。

…まあ、余程じゃなきゃ(約一名を除き)基本的に先輩を立ててくるこいつが失礼なことをしないのはわかってたけどな。

しかし、クマは消えても悩みは消えないとは、こいつは生粋の苦労人なんだろう。

 

 

──イ・ウーの事件のあとのことだ。

その時のケガで俺は入院していて、朝霧は何度かお見舞いに来てくれていた。できた後輩だ。

俺の周りにいる数少ない普通の感性を持つ人間である。

風魔にも爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだよ。

いや、こいつもどっか普通じゃないんだが……まあ、普段はまともだからいいか。

イ・ウーにも関わってたらしいが、俺がその話はやめろと言ったら素直にそっち関係のことは話さなくなったし。というか、こいつも話したくない感じだったしな。

まあ、例外で兄さんの話はしたんだけど。

どうやらこいつも兄さんの世話になっていたらしく、語っている時の顔が完全に尊敬に染まっていた。『男の中の男』とか言ってたな。

……どうやら、カナ(・・)のことは知らないようだ。

……うん。世の中知らなくて良い事ってあるよな。

 

 

「…そういえばまだ言ってませんでしたね。退院おめでとうございます」

「ああ、ありがとな」

こいつとは今日、退院して白雪と武偵高の校舎の間を歩いている時にバッタリあったんだ。

それから打って変わって、白雪の奴全然喋らなくなったな。まあ、口を開けば変なことを言う奴だから、このままでいいっちゃいいんだが……

「で、何かあったのか、おまえ」

「…えーっと。同居人が一般返り(リターン)しそうなんです」

「おまえ、同居人なんていたのか?」

こいつって確か俺と同じで一人暮らしじゃなかったっけ?

…まあ、今は俺も一人暮らしとは言いづらい状況にあるんだが…。

「ああ…少し前に出来たんです。まさか一ヶ月近く(・・・・・)続くとは思いませんでしたけど……」

それにしてもリターンか……

一般返り(リターン)

様々な理由で(この場合大体は武偵を続ける自信が無いというのがほとんど)、武偵高をやめることを希望する状態をさす。

ある意味俺にも当てはまる。

だが俺ならともかく、朝霧を見るにいいこと…とは言えないみたいだな。

何だこいつも結構そういうの気にするんだな。同居人っていうくらいだし、仲が良い奴だったのだろうか?

「…ええ…何と言いますか。原因の一つになっちゃったと言いますか…トドメ刺しちゃったと言いますか…このままだと貞操の危機とも言いますか……」

朝霧は何とも言えない表情で目をそらす。

「あ」

そんな時、朝霧が間抜けな声をあげた。

「今度はどうしたんだよ?」

「いや、あれ…」

朝霧がそーっと今顔を向けた先を指さす。

俺と白雪もそれにつられてそちらを見ると──

「!?」

お…おい……ウソだろ?

あったのは教務科(マスターズ)の掲示板。

赤字で書いた『警告!』の下に信じられないことが書いてあった。

目をゴシゴシと擦ってからまた見るが、結果は変わらない。

 

『8月20日時点での単位不足者 遠山金次 専門科目(探偵科(インケスタ)) 1単位不足』

 

ちょ…おまっ……これはなんだよ!

俺、ちゃんとカジノで警備しただろ!

「えっと何々……『カジノ・ピラミディオン台場の警備任務は、営業を円滑に継続させるには至らなかったため評価を半減(端数は切り上げ)する』ですか。こっちもなかなか大変みたいですね…」

……つまり、あのパトラの襲撃のせいで単位が半分パーになったと。

「き、ききキンちゃん! た、たた単位が! たんたたたたん!」

朝霧はあちゃーって顔で少し汗をかいており、今まで押し黙ってた白雪までも慌てふためいて……というか俺以上にパニックになってオロオロしていた。

あと、1単位取らないと留年か…。

あれだな、自分以上に慌てている奴がいると逆に冷静になれるんだな。

冷静になった所で現実は変わらないけど。

「まあ、あと10日はありますし、頑張れば何とかなりますよ」

普通に励ましてくれる朝霧。

「そ、そうだよ、キンちゃん。そして私もキンちゃんさまソックリの赤ちゃん産むから!」

そして白雪よ…どうしてそんな話になった。

 

で、その後は情報科(インフォルマ)にこもり、仕事を探していたが、単位になりそうな仕事はほとんどなかった。

時間が結構立ったこともあり、朝霧は、

「えっと、僕は僕の方でいろいろ探して見ます。あ、そういえば連絡先交換してませんでしたねー。今しましょうか」

ということで、連絡先を交換して去って行った。

本当にあいつはできた後輩だよな…。

 

 

 

 

自宅のPCで検索してみようと家に帰る途中、何故かまだ着いてくる白雪が真剣な顔で口を開いた。

さっきまで、目を回すほどテンパっていたのが嘘のように。

「キンちゃん。朝霧君には気を付けた方がいいよ」

「はぁ? 何でだよ。あいつほどいい奴は他にいないぞ?」

俺なんか命救われたくらいだし。パートナーに理不尽な目に遭わされてる同士だしな。

そういや、レキがあんなことするなんて意外だよな。…後輩には厳しいタイプなんだろうか?

「今は落ち着いているみたいだけど、船の上で再会した時、急に強い力を感じるようになったの」

いや、意味が解らん。

要するに、白雪のあの謎のレーダーに引っかかったと。

まあ、あいつもイ・ウーにいたんだし、そこで何かしらの力を付けたんだろう。

シャーロックも奴なんか一人でサーカス開けるレベルだったしな。

「別にそれで変なことしてるわけじゃないんだろ? そんな風に接してたらあいつに失礼だ」

「で、でも、初めて会った時から彼は──」

「白雪。もうこの話は終わりだ。あんまり俺はそういうわけ解らん力のことを聞きたくない」

「……はい。キンちゃんがそう言うなら」

そんなこんなで俺の部屋の近くまで来たとき、部屋の真ん前の蛍光灯の下に二つの人影があった。

一人は金髪ショートカットの男子。

もう一人は、五芒星の家紋が入った風呂敷包みを背負い、赤い唐傘を日傘にしたセミロングの白雪…に似ている少女。

「やはり、私の悪い予感は当たっていたのですね」

くるり、と振り返り俺を睨み付けてきたその少女は、本当に白雪によく似ていた。

……目つきが少々キツめだが。

「粉雪!?」

横で白雪がビックリしたように声をあげた。

こな…ゆき…?

ああ、粉雪ちゃんか!? あの星伽神社にいた白雪の妹の!

正確には義理の妹なんだが……確かすごいお姉ちゃんっ子だったっけ?

白雪の妹ってみんな雪の字が名前に入ってるんだよな。見た目も似てるし。

「粉雪か! いやぁ、大きくなったな。白雪と2つ違いだから今中三か?」

と、俺が親戚のおじさんのような発言をするが……

粉雪はそんな俺をスルーして、俺から引き離すかのように、ぐいっと白雪の腕を抱いた。

「やっぱりお姉様は、私が『託』で予見した通り──この悪しき学校で、魔性の武偵・遠山様に誑かされていたのですね!」

──『託』。

確か、幼い巫女が使う占いのはずだ。

でも何だよ、誑かすって。俺はそんなことした覚えが無い。

それにしても、様付けなのに逆に蔑まれている感じがするなんて、何とも不思議な体験だ。

こんなに遅くまで(・・・・・・・・)男性と遊び歩くなんて、お姉様は不衛生です!」

その後もガミガミと叱り始める粉雪に白雪はタジタジしている。

おいおい、夜遅くって、まだ9時だぞ?

それに──

「おまえだって、男といるじゃないか?」

「!? これは、違います! ただ、ここまで案内をしてもらっただけです! 女性が近くにいなかったので仕方なく、本当に仕方なく案内されてあげたのです!」

おい、それはそっちの男子に失礼なんじゃないか? いくら男嫌いだからって。

おまえもなんか言ったらどうだ、と男子の方を見やるが……

「………」

何かこっち見て固まってやがるし。

「ささ、お姉様、こんな堕落した男の妄言に聞く耳をもってはなりません! 早く室内へ、そしてお湯あみです、御祓(みそぎ)ですっ」

そのまま、まごつくばかりの白雪を部屋に押しやると、こっちに向かってベーと舌を出してくる。

「──丑の刻参りしてやりますわ!」

バシン!

壊れるくらい強くドアが閉められる。

ここ、俺の部屋なんだが……

……まあ、風呂入る見てたいだし、少し時間潰してからでいいか。

「おい、おまえはどうするんだ?」

「は、はい!?」

声を掛けるとビクンッと震えて呆然としていた視線に方向性を持たせる男子。

背格好からして中学生(インターン)か?

でも、どっかで見たことあるような感じがしなくもないな。

「き、キンジ先輩!!」

「うおっ! 何だ!?」

近所迷惑かってくらい大声になりやがった。

俺のこと知ってんのかよ。って、当たり前か。ここまで案内したのこいつっぽいし。

そして、懐に手を入れる。

「!」

な、なんだ? まさかこんな所で……

そう、警戒した俺だったが──

 

「さ、サインください!!!」

 

90°の見事なお辞儀と共に差し出された武偵手帳を見てあっけにとられたのだった。

……意味が解らない。

 

 






【ソラの黒髪ロング危険度メモ】

佐々木志乃…危険度A
・ただし、あかりとの絡みが無ければ下がる。
星伽白雪…危険度B
・今までは自分には被害が無いと思ってたが、何か睨まれていることに最近気が付いた。
風魔陽菜…危険度E
・お馬鹿なことでたまにこっちまで被害を被るが、結局その程度。
夾竹桃…危険度C
・会って早々殺されかけた。ただ怒りは現在風化中。
星伽粉雪…危険度?
・ていうか、誰?

番外(黒髪ロングでは無いけど…)
レキ…危険度SS
・絶対逆らうな!! あとカロリーメイト。


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