それは、Little Hero'sのもう一つのエンディング。
ソラ? 脇役でしょ?
気が付いた時には、もうすべてが終わっていて。
焼け落ちる建物の中、火の海が牙となって襲い掛かってきた。
あたしはののかを連れ出すことに精いっぱいで。
でも、繋いだ手は離れてしまった。
二年の時を経て咲き乱れる悪意。
その時は、何をされたのかもわからなかった。
ただ、ただ、恐ろしかった。
そして、惨めだった。
何もできなかった弱い自分が。
だから、決意したんだ。
強くなるって。
伝承のためなんていう、曖昧な今までとは違う。
守るため。
もう繋いだ手を離さないようにするために。
A.「間宮あかり」
その日、ソラ君に会ったのは偶然だった。
夏の日差しも、陰りを見せ始めた夕方。
訓練を終えたあたしは帰ろうとしていたんだ。
「───」
「───」
珍しいものを見た。
クラスメイトのソラ君が綺麗な人と話し込んでいたのだ。
透き通るような銀髪にサファイアのような瞳、凛とした雰囲気のする女の人。
…うわぁ。すごい美人さんだ。
二人とも何やら真剣に話し込んでいるようで、目が少し険しい感じがする。
んー。やっぱ、この距離じゃ聞こえないかぁ。
しばらくすると、重要な話は終わったのか二人の緊張が解ける。
そのあと、ソラ君が女に人に話しかけ、それを最後に了承されたような感じがし、二人は別れた。
あの人は誰なんだろう?
随分ソラ君と仲が良いように見えたけど……
「何してるのさ、あかり」
「ひゃい!?」
急に掛けられた声を掛けられたせいか、変な声が出ちゃったよ。
ソラ君…いつの間にこんなに近くに来てたのー?
顔はやや呆れたような……あ、またクマが出来てる。
「気づいてたんだ…」
「当たり前だろ。もう、バレバレ」
そう言われると、途端に罪悪感が…。
これで会話を聞いていたらもっと酷かったかも。
「あはは…。ゴメンね」
「いや、別に怒っては無いけど。会話は聞こえてないだろ?」
「う、うん」
そこでソラ君はクスっと笑うと、声を少し低くして不気味に笑った。
「…もし、聞かれていたら……ふふふ」
何!? もし聞いてたらあたしどうなっちゃうの!?
「ふふふふふ……」
そ、ソラ君…? 何か怖いよ…?
「あはは。冗談だよ」
でも次の瞬間ニッコリとした笑顔に戻った。
本当に綺麗な笑顔だった。
ソラ君は本当に明るくなった。
少なくとも武偵高に上がるまでは、こんなに笑う人じゃなかったし。
ライカ以外と談笑することも無かったなぁ。
ある人は独りが好きなんだろうと言っていた、
ある人は無口なんだろうと言っていた。
ある人は暗い性格だと言っていた。
何だか温か雰囲気を纏うようになった。昔みたいなクールな印象はだんだん崩れてきたけど。
でも今のソラ君は暖かくて嫌いじゃない。
「あ。あかり、アイスでも奢ってあげよっか?」
……変わったのを差し引いても、何だかあたしに対して優しすぎるような気もするよ。
「そう言えばだけど、あかり何か僕の過去触れちゃまずいみたいに思ってるみたいだけど、本当にそんなことないからね」
「えっと、唐突だね…」
あたしに気を使ってくれてるのかな? とも思ったけど、本当にそんな過去は無いみたいだ。
よかった…。やっぱり、少し気にしてたんだ。
「それじゃあ、聞いていい?」
「ん。答えられることならね」
「ソラ君は、何のために武偵になったの?」
「何それ? そっちこそ唐突だな」
少しだけ笑いながらも、ソラ君は口元に手を添えて、うーん、うーんって唸りながら考えてくれた。
「武偵になったと言うより、気が付いたら武偵だったというべきだなぁ、ホント」
「?」
どういうことだろう?
「あかりはどうして?」
「あたしは…守る力が欲しかったから」
強くなれば、もうあんな思いしなくて済むんだ。
だから、あたしは──
「ふーん。あかりらしいって言うか…。まあ、僕の理由に比べれば誰しも立派なんだろうけどさ」
「えっと…そんなことないと思うよ?」
「子供が気を遣わなくていいって」
子供って、同い年だよー!
「まあでも、今はやりたいことがあるんだ」
「やりたいこと?」
「ん。そう。やりたいこと」
ソラ君のやりたいこと……
なんだろう? 想像がつかないや。
でもきっと、すごい事なんだろうなー。
「大したことじゃないよ」
わ、心読まれた!?
「あかりってば顔に出すぎ」
もうー。クスクス笑わないでよー。
確かにソラ君に比べれば、あたしは未熟かもしれないけど。
「言葉じゃ伝えにくいんだけど…強いて言うなら『自分探し』かな」
「じ、自分探し?」
「やっと、取り戻してきたから…」
そう笑って言ったソラ君の顔は何だか、寂しそうに見えた。
武偵をしている理由って言えば……
「竹中は大丈夫かな…」
「…あかりが気にすることじゃないよ」
「でも、もしかしたらあたしのせいで」
「違うよ。あれは竹中自身の問題だし、もし別の誰かにも責任があると言うんだったら、あかりじゃなくて僕のせいだ」
そ、そんなことない!!
ソラ君はあたしが巻き込んだだけなんだから。ソラ君に責任があるわけなんてないよ。
「わっ!」
クシャクシャって感じにあたしの頭が撫でられる。
「あかり。大抵の男は単純なだけど、女子には理解できない部分もあるのだよ」
「そうなの?」
「そうなのです。その部分があかりのせいではないと言っているから、あかりのせいではないのです」
「え、あれ? でも…」
「あんまり深く考えるなってこと。あの竹中だぞ? きっとバカバカしいくらい単純な理由で今頃復活してるよ」
「……うん」
そうだといいなぁ。
竹中はいつもムカつく奴だけど、いなくなったら張り合いが無くなるもんね。
そのあとは、最近のこととか、軽い話題で話し合った。
あたしは右手に持ったアイスを舐めながら(本当に奢って貰えた)、途中まで一緒に帰ることになった。
「──でねー。その時のライカってば酷いんだよー」
「んー。でもライカは、教えてくれる時は真面目だろ? そのくらい可愛いもんだと思うよ?」
「えー。そうかなー? あ、そういえばだけど、ソラ君ってライカのこと──」
「あ、ソラランにあかりんだー」
聞き覚えびある声に振り向くと、そこには理子先輩と麒麟ちゃんがいた。それも仲良さそうに。
この二人って、確か去年
「ねえねえ、何やってるの? もしかしてデートだった? きゃはっ。ソラランたちも隅に置けないなー。このこのー」
「あ、あのっ! 別にそんなんじゃ……」
「死ね……間違いました。滅んでください」
「「!?」」
え?
今のソラ君が言ったの…?
しかも、言い直せてないよ…。
信じられないような気持ちでソラ君を見てみると──ソラ君は理子先輩に今まで見た事の無いくらい絶対零度の眼差しを向けていた。
「何で生きてるんですか? ああ、地獄からも迷惑だと言われたんですね。わかります」
「くふふ。ソラランってば相変わらず冗談きつーい」
冗談…なんですか?
いや、でも、ソラ君の顔がかなりマジなんだけど……
「それに、何のつもりですか。あんな風に手助けなんかして。らしくないったらありませんよ。気持ち悪い。似た境遇に同情心でも湧きましたか?」
「りこりんはさながら天使のように慈愛に満ちているのです」
「あー、はいはい自愛ですね。ナルシスト乙」
「そんな事言って、ソラランも理子に熱い眼差しを向けてるくせにー。もうー、わかってるんだよ?」
「もう、目か脳、いや両方を即座に取り換えるべきですね。大体……あ」
そこでソラ君は呆気にとられているあたしと麒麟ちゃんに気が付いた。
「…あー。気にするな?」
何で疑問形? 何で疑問形?
「じゃ、じゃあ僕は先に帰るね。またねー。あかり、ついでに島」
「あ、理子が付いて行ってあげようか?」
「ストーカー宣言ですか? 通報しますよ」
そう言い残し、ソラ君はあたしは一人別れて帰って行った。
「ソラランはね。ツンデレさんなのだよー」
「あの…理子お姉様? さすがにあれをツンデレと表現されるのはいささか無理があるような……」
ソラ君の変わりように麒麟ちゃんもかなり引いてる。
そうだよね。ソラ君の目、ブルっとするくらい怖かったもん。
「えっと、理子先輩ってソラ君に何かしたんですか?」
ソラ君があんなに人を嫌いになるのってすごく珍しいと思う。
どちらかというと、嫌いになる前にその人に無関心になるタイプだもん。
「確かに、ライカお姉様につく悪い虫ではありますが、通常あのような態度をとる人ではありませんわ」
「むぅー、りんりんまで酷いぞー。でも、何でだろー? 理子もあそこまで嫌われる理由わからないんだよねぇ」
嫌われているのは自覚してるんだ…。
でも、確かに変だよね。普段ソラ君に明らかな敵意を持ってる麒麟ちゃんにさえ挨拶したりしてるのに。
理子先輩を見ても、ソラ君に害をなしてるとは思えないし。
「そんなことより、あかりーん。ソラランと何話してたの? もしかして、本当にデートだった?」
「ち、違います」
ソラ君とはただのお友達だもん。
あれ…? でもただのって何だか冷たい感じがする。
うーん、何て言えばいいんだろ…。
「えっと、あの…ソラ君は(あたしの中で)大きなお友達です!」
「ソラランがロリコンになっていた件」
「理子お姉様、間宮様は一応あの人とは同級生ですの」
「そうだった。うっかり通報するところだったよ! ……あーでも、レキュのことも考えるとそういう体型が……」
「えっと、理子先輩? どうしたんですか?」
「くふふ。何でもないよ、あかりん。それで? どんなお話していたのかなぁ?」
どんな話って言われても、世間話みたいなものだったし。
「んー。武偵をやっている理由とかを話していました」
「…へぇー。それで、ソラランは何だって?」
これって言っていいのかなぁ?
でも、本人も大したことないって言ってたし。
「何か、自分探しだって」
「そ、それはそれは、なんといいますの…」
「傷心中のOLみたいだね…」
理子先輩と麒麟ちゃんが揃ってあさっての方を向く。
「──で、あかりんはどうなの?」
「えっと、人それぞれだしいいんじゃないかと…」
「そうじゃないよー。あかりんの、り ゆ う」
「あ、あたしですか? あたしは大切な皆を守るためです。だから強くなりたいんです」
「間宮様…」
(あかりんってば本当に真っ直ぐな子だなぁ。真剣に来年の
今思うと、あたし結構恥ずかしい事言ったんじゃ…。
「あわわ…」
(間宮様可愛いですのー)
(相変わらずあかりんは可愛いのぉ)
◇
ふぅ…。やっと家に着いた。
何だか今日は、訓練より帰り道の方が疲れたよぉ。
溜息を一つ吐いてから家に入る。
「お姉ちゃん、おかえりー」
そうすると、あたしの大事な妹が笑顔で出迎えてくれる。
「どうしたの? お姉ちゃん。何だか疲れてるみたいだけど」
「そうかな…?」
「うん。何だか恥ずかしい事言ったあと周りに温かい目で見られて、どうすればいいのかわからなくなって、精神的に疲れてちゃった。みたいな顔してるよ」
「見てたの!?」
「え? 本当にそうなの?」
驚愕の新事実、ののかはエスパーかもしれない。
「でも、そんなお姉ちゃんに朗報です。今日の夜ご飯は何と! お姉ちゃんの大好きなエビフライだよー」
エビフライ、やった。
「え! ホント!? わーい! ののか、愛してるー」
思わずののかに抱き付く。
「んもう。お姉ちゃんたら、現金なんだから」
苦笑しながらも、抱き返してくれるののか。
そんな温もりを感じながら強く、強く思う。
そう、今日再確認したあたしの武偵への想い……こんなにも、守りたいものがあるんだ。
──ののか、次は絶対に離さないからね。
─「Little Hero’s」Another end.─
とある夜のビルの屋上で。
「死亡……落ちたりしないかなぁ」
「えーっと、いきなりそれは理子に酷くない?」
「え?」
「え?」
「でも、このままじゃ健康にも良くないですし」
「いやいや! 確かに亡くなれば健康関係なけど!」
「むしろ、率先して
「武偵法! 武偵法があるからね!」
「え?」
「え?」
「そんなの関係あるんですか?」
「なにそれこわい」
「は?」
「──なんてね! ソラランにお手本を見せてあげました! 最初からわかってたよー。でも、ソラランって実はあー見えてぽっちゃりさんだったの?」
「は? いえ、痩せてる方ですけど…」
「え?」
「え?」
「でも、脂肪がどうとかって…」
「だから、峰先輩の死亡──」
「ソラランのエッチ(胸を抱くようにして)」
「え?」
「え?」
「もう死ねば?」
「なにそれひどい」