鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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『実はLittle Hero'sは当初3話構成だった』
いやいやいや、マジでどうしてこうなった。

因みに、キャストオフテーブルや、ソラのイ・ウーでの出来事は第二部以降の閑話でやります。
Fragmentが長くなりすぎるので。(今の時点で十分長いけど)




The wind blown on uncanny valley

少女、レキは鉛のようにくすんだ色の廃ビルにいた。

もしここに彼の戦姉弟(アミコ)である朝霧ソラがいたのなら、「まるでレキ先輩の部屋のように殺風景な場所だ」と称していただろう。

レキの部屋を廃ビルに例えているのではなく、廃ビルをレキの部屋に例えているところがミソだ。

『レキ先輩、標的がそちらの有効範囲に入りました』

耳に取り付けたインカムから後輩の報告が届く。

「あとはこちらで制圧します。あなたもこちらに向かってください」

『了解』

通信を終えると、割れた窓の隙間から彼女の愛銃、ドラグノフを突き出し、スコープ越しに今回の標的(ターゲット)を見やる。

 

「──私は一発の銃弾──」

 

果たして、飛び出した銃弾は──

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

朝、レキはいつもと寸分違わない時刻に起床します。

そして、朝の支度へと入るのです。

とは言っても、彼女は寝る時まで防弾制服を着ている上に、朝食はカロリーメイトです。

因みに彼女にとってバランスパワーやライトミールブロックは邪道であり、ソラが間違えて買ってこようものならすぐさま制裁を下す所存であります。

身だしなみも最低限整えるだけで、着飾ったりすることなどありません。

当然、化粧の類も一切しません。

それでも、彼女が美少女であることに変わりないのですけれど。

 

「ハイマキ、おいで」

 

そのあと、同じく起きている彼女の飼い狼であるハイマキに声を掛けます。

元々は、別の誰かの下僕であったハイマキですが、今となってはレキにとても懐いています。

最初の名前候補が『ソラ2号』だったことは秘密です。

人知れず、ソラ知れず、キンジがソラの名誉を守ったのです。

ただ、そのことにレキは関心がありません。

 

武偵とはいえ、こんな時間に起きている者はほとんどいません。それに、今は夏休みです。

もちろん、腕を鈍らせないために各自トレーニングはするでしょうが、授業も無いのに早起きするものはそれこそ少数です。

そんなガランとした街中を、彼女はハイマキを連れて歩きます。所謂、早朝散歩というものです。

昔から繰り返されている彼女の数少ない趣味の一つなのです。

 

(どこか邪悪な風を感じます)

 

静けさの中、吹く風はまるでこの場を支配しているかのように見えたのでした。

 

 

 

 

──とあるカフェテリア。

 

その中でもここは年頃の娘が行くような小洒落た店です。

正直、レキにとっては似合わないもいいとこだとソラならば答えるでしょう。

レキ自身も自分からこのような場所に来ることは無いので、間違いではありません。

「アリアってば機嫌良いよねー。キーくんとのデートうまくいったんだぁ」

「で、デートなんてしてないわよ! あれは警備の練習であって、断じてそういうのじゃないわ!」

理子が煽り、それにアリアが噛みつくという構成。

もし、キンジならば見慣れたものだと答えるでしょう。

レキは何かと、アリアと行動することが比較的に多くの割合を占めます。

時間で表すのならば、ソラとの行動時間の方が長いことは間違いないのですが、学校にいる間は彼とはほとんど連絡を取り合いません。

……今は学校が終わった後も連絡を取ることが出来ない状態にあるのですが。

つまり、双方に特に用事の無いときは必然的に学校内外ともアリアとセットになっているのです。

あかりなら、友達。ソラなら、ボッチ仲間と答えるだろう関係。

そして、今その場に峰理子がいるというだけの事です。

 

「大体、何であんたが知ってんのよ!?」

「りこりんは、何でも知ってる理子お姉さんだからだよー」

「答えになって、ない!」

そんな騒がしいやり取りを、レキは楽しそうにも迷惑そうにも無く、ただジーッと見ています。

まるで、観察するかのように……

「…キンジが言うはずないし……あ! 確かあかりたちの中にあんたの元戦妹(アミカ)がいたはずよ。その子から聞いたのね!」

「おおー! ピーンポーン! アリアの推理が当たった!?」

「ふん、どうよ! これならきっと探偵科(インケスタ)でもやっていけるわね」

「いや、それは無い」

「何ですってー!」

騒いで、落ち着いたと思ったらまた騒ぎます。

いろいろと沸点が低いアリアと人をおちょくるのが好きな理子。

犬猿の仲…というよりもト○とジェ○ーの仲と言うべき感じです。

理子は、ヒラヒラした服を着た体をくねらせます。

ソラで言う、『アホアホモード』です。

ネーミングはともかく、これを見るに同意したい所だとレキも考えます。

「いいなぁー。理子もキーくんとデートしたーい」

「ダメよ!! キンジはあたしのパートナー何だから、あんたになんかあげないんだから!」

「でもぉー、それってあくまで仕事のパートナーなんでよねー? だったら、恋のパートナーは理子がなってもいいよね」

「ダメ! ダメダメダメー! そんなのダメよ!」

「何でダメなの? アリアに関係ないじゃん」

「あ、あたしもキンジもそんなことしてる暇はないから…」

アリアは、それが決め事ではなく、懇願のように呟きます。

顔は不安のような羞恥のような怒りのような、どれにも当てはまりそうな複雑な表情です。

表情が一切動かないレキとはまるで正反対です。

「くふふ。アリアはともかく、キーくんは本当にそうでしょーか?」

「何が言いたいのよ!?」

「だってぇ、この前も理子にオトされる寸前だったしぃ」

「そ、そんなわけないわ! いくらキンジが見境ないからってあんたなんかに!」

「キーくんてば、激しいんだよ? こう、理子の胸に顔を埋めて…」

「な、な、な、なあ!?」

その場面を想像したのでしょう。アリアの顔が面白いくらい赤くなります。

「アリアには無理だよねー。そんな胸無いもんねー。コードネーム『AA』(笑)」

「ニャー!! む、胸なんてただの脂肪じゃない! AとかAAだとしても女性としての魅力に関係ないわ! ね、レキ」

そこで初めてレキに会話がふられることとなりました。

アリアとしてはどうしても仲間が欲しかったのでしょう。

「私はBです」

「………」

「………」

その後、「裏切り者ー!」という叫び声が店外まで聞こえたとかなんとか……

 

 

 

閑話休題(仕切り直して)

 

理子は思い出したかのように顔をレキに向けました。

「あ。パートナーといえば、レキュってソラランのこと嫌ってるの?」

「?」

そんな質問される意味がわからないと、レキは小首を傾げます。

「いや、だって、散々こき使ってるし、銃で撃ったりもしてるよねー?」

レキはちょっと心外な気持ちになります。

彼女も理不尽に撃っているわけでは無いからです。たとえ、ソラや他人から見れば理不尽でも。

むしろ、嫌われているのはあなたの方でしょう。そう思ったレキでしたが、さすがにそれを口に出すことは無く。

「ソラのことは──」

それは、特に嘘を吐く必要も無い事でした。

……そもそも、彼女は嘘を吐かないのですけれど。

「好きですよ」

ソラはウルス──家族だ。家族を嫌うものがどこにいるのでしょうか。

傍目には、そう言いながらもまったく意識していないその態度に、「うーん、ソラランってもしかして生殺し状態?」と理子が首をひねります。

「レキも変わってるわよね。気に入ってるのに銃で撃つなんて」

(あれ? 何? もしかしてこれはツッコムところ?)

自分はさも関係ないとばかりに澄まし顔で言い放つアリアを見て、理子が若干顔を引きつらせます。

「ソラは、撃たれるのを嫌がりますから」

「…いや、誰だってそうよ」

アリアはやれやれと、嘆息したふうに眉を寄せます。

アリアはレキのことを常識知らずだと思っている節があります。いえ、実際その通りなのですけれど。

『ブーメラン』──レキの頭に何故か浮かんだ単語でありました。

そんな中、理子は何かを理解したのか、二人の横で「…あー」と小さく呟きます。

(嫌悪という)感情をソラにもっともぶつけられている理子は、ある種の理解者になっていたのです。

ソラが知ったら頭を抱えること間違いありません。

嫌がってもそれを面白がられるなど、どう対応したらいいのでしょうか。

「それはそれとしてさ、もっと楽しそうにしようよー。コミュニケーションではそういうのも大事だよ?」

確かに一理あるとレキは思いました。

ソラは会う度に、何故かこちらに必要以上に身構えているような体を取っている感じがします。

潤滑にことを進めるためにもそう言うアドバイスは受けておいて損は無いのかもしれません。そう自分に納得させます。何しろ、レキはそういうことに疎いということが自覚できていたのですから。

レキはどうすればいいのかを理子に尋ねました。

「んー、レキュがソラランにご褒美あげるとか?」

ご褒美ならカロリーメイトを度々渡しているとレキは主張します。

「……えーっと、他に何かしたこと無いの?」

「この前、睡眠薬を渡したのを喜ばれました」

((把握))

アリアと理子が何とも言えないような顔になります。

その後の話し合いでご褒美については保留になりました。

しかし、ソラの緊張を解くような冗談などを理子に教えてもらいました。

あの嫌われている理子に出来たのですから、自分に出来ないはずがありません。

こう見えてレキは自信家だったのです。

アリアはやめたほうがいいと言っていましたが……

 

「…そういえば、そのソラは今どこにいるのよ?」

一週間ほど前の六月最後の日、あの時をもってしてアリアはソラを見ていません。

ソラを連れて行った本人であるレキも、何かの協力関係にあったという理子もそのことについては一切話すことはありませんでした。

ケガを負っていたはずなのに、病院に行った形跡も無い。

アリアとしては、イ・ウーに繋がる手掛かりは何としてでも欲しかったのです。

場の空気が移り変わります。

「ソラランは今留学中なんだよー」

「り、理子! あんた!」

理子は答えました。『留学中』だと。

その意味に気づかないアリアでは無いのです。それは元々の考えの一つだったからだったから。

だけど、何故このタイミングでそのことを言ったのかがわかりません。

元々推理の苦手なアリアは必死に理子の真意を読み解こうとします。

「………」

そこでアリアはハッとします。

(レキだ!)

理子は、レキがいる中では詳しい話ができないと知っていてアリアをおちょくったのです。

──実際のところ、レキは全て知っているのですけれど。

「理子…! あんた、覚えてなさいよ…!」

「えー? 何で? アリアってばそんなにソラランが気になるの? ……はっ、理子わかった! わかっちゃった! このー、アリアの浮気者ー!」

「はぁ? 何でそうなるのよ」

またバカみたいに騒ぐ理子を額に青筋を浮かべて、睨むアリア。

これだけ高血圧だと将来が若干心配です。

「キーくんが振り向いてくれないからって、ソラランに乗り換えるんでしょー? でも残念でしたー! ソラランは既にりこりんにメロメロなのです。きゃはっ」

 

 

 

──同時刻、イ・ウー艦内。

「……うぷっ」

「おい、ソラどうしたんだよ」

「…何だか、急に吐き気と寒気が…」

「今更になって船酔いか? って、マジ顔色悪くねえか!?」

大丈夫かよ、そう言って手を貸すソラが最近になって知り合った黒髪おかっぱの少女。

「…悪いね、カツェ」

「いいから、部屋で横になっとけって」

………………

………

 

 

──視点は戻り、レキ、アリア、理子。

「そんなわけないでしょ! それに、ジャンヌに聞いたわよ。あんたソラに嫌われてるそうじゃない!」

「くふふ。知らないのー? ソラランって、ツンデレさんなんだよ? アリアと同じで」

「だ、誰がツンデレよー!!」

実際によくわかっていないレキでしたが、何が起ころうと理子に二人がデレることは無いだろうとは何となくわかりました。

「やっぱり、あんたあの時、捕まえとくべきだったわ…!」

「くふふ。理子は別に今やってもいいけどぉー? いい加減アリアなんかに纏わりつかれてちゃ、キーくんも可哀想だしー」

理子はアリアを煽りに煽ります。アリアも血が昇りに昇ります。

今度こそ、一触即発状態のカフェテリア。

自然、他のお客様は近くの席に寄り付きません。

理子への怒りとは別に、キンジを取られたくない。好きな人を想う乙女心。

そんな気持ちがあるのが見て取れます。

それは、ロボットと言われている少女にも感じ取れるものだったのです。理解できるかは別の問題なのですが。

 

(…アリアさんとキンジさんは結ばれてはならない(・・・・・・・・・)

 

だけど、彼女は気づいているのでしょうか?

そんな考えとは裏腹にアリアの恋が叶えばいいとも思っていることを。

そして、その矛盾こそが人の心だということも。

 




◆◇◆◇◆

・レキはガールズトーク(?)を経験した。
  『ジョークLv1』を覚えた。
  『ユニークセンス』が3上がった。
  レキの中での『理子の立場』が5下がった。
  『アリアからの信頼』が2下がった。

  ソラの『SAN値』が10下がった。


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