鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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第二部 璃璃姫の新たなる日ノ出
『序章』


 

 

朝霧ソラとは、何者なのでしょうか?

そう問われて、果たして幾人の者が答えることができますか。

あの人形のように染められた心を、本当に理解できるものが、いたのでしょうか。

 

三年という長い月日が経ち、徐々にその秘められた魂が、解放されていって。

人形のような体を持ちながらも、体温を取り戻していき、その琥珀色はさらに輝いていった。

その変化を促したと思い込んでいる少女が、心の中で誇っている中。

私はそれをただ、無感動に見つめていた。

 

本当は蔑みたかった。

彼の一番の友人だと言う彼女が、彼のことを本当は何も知らないことを。

 

おかしかった。

自分がそれを知っているということが。

 

そして、驚いた。

私には、まだそんな感情が残っているのだということに。

 

そう、私は知っている。

あなたがどこから来て、そして何者なのかも。

時が来れば、何もかも、全て教えてあげられる。

だから、朝霧ソラ。

いい加減ゆっくり歩くフリをやめなさい。

 

 

 

 

 

──目を見張るような美少女を見て胸が撃たれたかのような経験をしたことは無いか?

 

その漫画の始まりのセリフだった。

不思議な少女に魅せられて、非現実に巻き込まれていく少年の物語。

ジャンルとしてはバトルマンガに分類されるだろう。

某少年誌に掲載されているようなメジャーなものでは無いが、絵やストーリー、戦闘描写などが中々の高レベルであり、知っている人は知っているくらいの名作だった。

 

良く晴れた春の日の屋上で、その漫画を読みふけっている少年がいた。

長くも短くも無い黒髪に、身長は大体170cmあるかないか、やや痩せ形な体格。

これだけならば、一般的な日本人と言っても誰も異を唱えることは無いだろう。

だが、その少年の顔には特徴的な部分が一つあった。

琥珀色の瞳。

その人形の瞳のように透き通ったそれは、どこかこの少年を普通では無いものだと言うことを世界に知らしめている。

その少年、名を朝霧ソラと言った。

今年、ピカピカの高校一年生になる新入生である。

 

『朝霧はもっと周りに目を向けるべきだと思うぜ?』

(うるさい、火野)

唯一と言ってもいい、友人からの言葉にムッとし、逃げ込んだのは良くなかった。

一人だと、時間を潰せるものが小説や漫画しかない。

(別に、友達少なくても不便とかないし)

ソラはとにかく、そう言う考えだった。

別に火野ライカに依存しているつもりは無い。ただ、単に他に友人を作ることがメンドイ…もとい、必要ないと思っていたのだ。

現に、こうして困っていることを棚に上げて。

 

「…屋上に来たのは失敗だったかもね…」

ブゥン、とまで聞こえる音と共に、自分の意思に反してパラパラ勝手にめくられてしまうページ。

春特有の暖かな日差しを求め、屋上に来たものの、これまた春特有の強い風に当てられ、ソラはまともに漫画が読めずにいた。

序盤のヒロインが男のキャラに告白され、ヒロインの顔が明らかになる場面のはずなのに、次の瞬間、敵キャラらしき強そうなおっさんが大きなコマでドーンと出てきたときには、何とも斬新な漫画なんだと、ソラは思ったものだ。

単純に風でページがいくつか飛んだだけなのだが。

漫画を読みたいのなら室内へ戻ればいい。だが、つまらない意地と中途半端な面倒くささから、ソラはこの場を離れずにいた。

「誰か、風よけにでもなってくれないかな…」

何て言っても誰もいるはずがない。元々そういう場所を選んで来ていたのだから当たり前だ。

──しかし、何の間違いか、その独り言だったはずのことは実行されていた。

突如できた若干の影、そして遮られる風。

まさか、本当に人がいるとは思っていなかったソラは、驚きながら影へ振り向くと──

 

「私はレキです」

 

そこには、一人の美少女がいた。この狭い屋上でなぜ今まで気が付かなかったのか不思議だ。

空の色をそのまま染めたように青みがかった髪、小柄な体躯。

動かない表情がどこか無機質を感じさせる。何というか、ソラにして人間味が無い少女だと思わせるほどだ。

ただ、所持している物は何ともこの学校らしいものだった。全長120cmほどある狙撃銃。

それを杖のように立てていたのだ。

そして、何より、不思議な雰囲気を醸し出す少女だった。

(レキ? 名前だろうか?)

「あなたが朝霧ソラですね」

名前を知られているみたいだが初対面。もちろんソラはそのレキと名乗る少女のことを知らなかった。

ただ、その研ぎ澄まされた強者たる空気に、自然体が強張る。

「朝霧ソラ」

「…何ですか?」

「私の戦弟(アミコ)になりなさい」

余りにも意外な言葉に──

はぁ!?

と、余り感情を表に出さないソラから間抜けな声が飛び出した。

「因みに、拒否権はありません。これはもう決定したことです」

「何様? そんないきなり──」

スッ──

無拍子でソラに向けて構えられた狙撃銃。

唐突すぎる事態にソラにして頭が追い付いていかない。

「もし断るというのなら──」

そう、例えるのなら銃。無機質…その中でも銃。

銃そのもののような、と言えるほど異質な雰囲気を纏うその少女は、ソラの胸を捉えて離さない。

そして、(ジュウコウ)から飛び出してきた言葉(ダンガン)がソラの体を撃ち抜いた。

「──風穴を開けます」

ファーストコンタクトは脅迫そのものだった。

ただ、淡々としすぎたせいか現実感すらも追い付いていなかった。

奇襲という意味ならレキは大成功の前にもう一つ大を付けられるくらいのものだった。

それにソラは知らなかったのだ──レキという少女のことを。

 

──それは限りなく致命的だった。

 

「断らせ──」

ズンッ

言い切ることはできなかった。

今度こそ、本物の銃口から弾丸が飛び出してきたのだ。

「……カハッ……」

体が動かない。

(ウソ…だろ…?)

いや、ただ撃たれるだけならば防弾制服があった。ソラは自分の撃たれ強さにもそこそこの自信はあった。

だが実際は、心臓震盪を起こしたような、心臓をピンポイントで止められる感覚に何もできず体の支配を奪われた。

ソラの出来た行動は精々肺から空気を出すだけ。出されただけ。

感じたのは、衝撃、そして風に乗ってすぐに消え去った硝煙の香り。

そして心は理不尽の一言が飽和していた。

そのまま倒れ伏したソラを見下しながら再び少女はソラに声を掛ける。

 

「……風穴、開けられたいのですか?」

 

見なくてもわかる、銃が体に突き付けられているということが……

その時になってソラはようやく悟ったのだ。

(ああ、この人断ったら殺す気だ…)

生まれて初めての真の死の恐怖。

それだけでは無い、この少女の圧倒的までの雰囲気にソラは飲まれた。

「……喜んで…お受けいたします」

魔王と相対したスライムのような気持ちになったソラに断るという選択肢は頭から消え去っていた。

残念ながら、ソラは魔王の誘いを断ることのできる勇者では無いのだ。

「それでは朝霧ソラ。今から、あなたは私のものです(・・・・・・・・・・)。ウルスは一にして全、全にして一。これからは私たちウルス47女と共に風の力とならんことを」

(ウルスって何だ? 風って何だ?)

いきなり出てきたよくわからない単語に疑問を抱くソラだったが、弾倉(マガジン)から取り出された装甲貫通弾(アーマーピアス)を目にしてもなお、考える余裕は無かった。

空気とか雰囲気とかそんなあやふやなものじゃない。

本当に、確実に、断っていたらソラの体を風通しの良いものにするつもりだったのだ。この少女は。

殺人未遂犯の物的証拠を見せられ、武偵という職業の外形が脆く崩れ去った瞬間だった。

恐怖で涙したのは二回目だった。

ただ、引きつった頬をツーっと伝わったその涙はすぐに春の風により渇き跡を残した。

 

あとになって、これも躾けの一環だと言うことがわかったものだが。

確かに、最初に強く叩いて上下関係をわからせるというのは理に適っているのかもしれない……野生の世界では。

(この人、絶対友達いない…!)

謀らずとも、似た性質であったソラの反面教師になったのは言うまでもない。

 

「悔しいのですか? ならば──」

 

──強くなりなさい。

 

勘違いだったのは、この時ソラの心は悔しさよりも、恐怖に埋め尽くされていたこと。

それ故、ソラがレキを『怖い』とは思っても、『嫌い』になることが無かったことだ。

ああ、だからソラは聞かなかったことにした。

少女が最後に「よかった」と呟いたことに関しては。

 

 

 

 

 

──以上が、朝霧ソラと。

以降、幾度となくソラを震え上がらせるウルスの姫、レキとの。

硝煙の香りを掻き消すほど、風の強い日に起きた最凶最悪の異常な出会いだった。

 

ただまあ、一つ言えることは、それからソラの顔にクマができるようになり、彼の物語(受難)が始まったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・簡易登場人物紹介

 

※第一部の登場人物紹介順。

 

 

朝霧 空  1年

この物語の主人公。

ギャルゲー主人公のごとく、何故か男より女の友達の方が多い。

何か影が薄くなってきたのでこの章で卍解を──(間違えた)挽回を狙う。

よく目の下にクマができている。

 

レキ  2年

ソラの戦姉。いや、むしろ魔王。

彼女の前では、ソラはO・HA・NA・SHIすらも生ぬるい目に遭う。

(原作見ても思うんだが)作中トップクラスのチート。

あとカロリーメイト。

 

間宮 あかり  1年

ソラのクラスメート。

銃の扱いがソラよりうまくなった。

ある意味、ソラが今もっともデレている人物の一人。

 

佐々木 志乃  1年

ソラのトラウマの一人。白雪の戦妹。

あかりをもう友情の枠をぶっちぎる勢いで愛している。残念美人。

 

火野 ライカ  1年

ソラの中学生からの友人。

男女の壁を感じないほどに、ソラとは仲が良い。

最近ソラに対する意識が変わりつつある?

 

遠山 金次  2年

ソラの先輩。風魔の戦兄。

ソラ曰く『規格外』の一人。

でも、普段はまともな性格(若干根暗)。

 

間宮 ののか  一般中

あかりの妹。

ある意味、ソラが今もっともデレている人物の一人。

 

風魔 陽菜  1年

ソラと同じ諜報科の生徒。

竹中とは中学時代からの知り合い。

実力はあるが少しおつむが心配な所。貧乏。

 

神崎 H アリア  2年

ソラの先輩。あかりの戦姉。

キンジ相手には理不尽な言動が目立つが、後輩たちにとっては厳しくも頼りがいのある先輩。

『規格外』に入るかは現在審議中。(戦闘力が劣っているという意味では無い)

 

星伽 白雪  2年

キンジの幼馴染。

キンちゃんLOVE。アリアKILLというか物理的に斬る勢い。いろんな意味で『規格外』。

何故かソラのことを異様に警戒している。

 

ジャンヌ ダルク30世  2年

元イ・ウーのメンバー。

ソラのドストライクの容姿というアドバンテージがありながらも、今の所あまりいいところが無い御仁。

 

夾竹桃

元イ・ウーのメンバー。

これもある意味では、ソラにとって欠かせない人材。

ソラの明日はこの人にかかっていると言っても過言では無い。

 

島 麒麟  中等部

ライカの戦妹。

何だかんだでライカと親しいソラのことを恋敵に認定し、警戒している。

 

峰 理子  2年

ソラが唯一嫌悪をまともにぶつける相手。

しかし、めげない、諦めない。というかそれすら面白がっている節がある。

快楽主義な性格。

 

竹中 彰  1年

ソラの唯一の男友達。

武偵に対する思いが燃えに燃え上っている。

才能的には作中でもトップレベル(?)の凡人。

 




◆◇◆◇◆

・ソラはレキと出会った。
  称号【レキの戦弟(ドレイ)
  『感情ポイント』が3上がった。
・ソラは世界の理不尽さを知った。

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