鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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『主人公がまともに戦うのは何気に初めて』
というより、戦闘スタイルの差なのだけど。

VSアリア。
始まります。




第2話 『初戦』

──おい、アリアが一年と決闘するってよ!

 

どこからか漏れたその情報は、瞬く間に強襲科(アサルト)全体に広がった。

いくつもの専門科がある武偵高においても強襲科というものは特に好戦的な面々が集まりやすい。

皆大体、ケンカ騒ぎが好きなのだ。

第一体育館、闘技場(コロッセオ)のあだ名を持つ、楕円形のフィールドを取り囲むように生徒が大勢集まっている。

フィールドとその外とは防弾ガラスによる隔たりがあり、観客を流れ弾から守る役目というよりは相対したものを簡単に逃がさないようなイメージがある。

そんな騒ぎの中心にいるのは、桃色のツインテールが特徴の強襲科のエース、神崎・H・アリア。そして、琥珀色の瞳が特徴の諜報科(レザド)のルーキー、朝霧ソラだ。

アリアの戦妹(アミカ)にして、ソラの友人である間宮あかりは、それを防弾ガラスのこちら側より、心配そうに見ていた。

(大丈夫かなぁ。ソラ君(・・・)

ソラが強いことは知っている。でも、あかりにとってアリアは絶対的な存在。

つい、ソラの身を案じてしまっても、仕方がない。

 

「なあ、どっちが勝つと思う?」

「あぁ? そりゃ、アリアに決まってんだろ?」

「つーか、朝霧ソラって誰だ?」

「諜報科の生徒らしいぜ?」

「はーん。じゃあ、こんなの見るまでもねえじゃん」

「バカな一年だぜ。水投げの季節ってまだだろ? 調子乗りすぎじゃねえか?」

「まあ、名目は一応、指導組手ってなってっけど。暗黙の了解ってやつだな」

「何秒で終わると思う?」

「あーん? 30秒持てばいい方じゃねえか?」

「じゃあ、俺は20秒で!」

 

(むぅ…! ソラ君の強さを知らないくせに!)

 

さっきまでの心配はどこへやら。あかりは友達がバカにされたと思い、リスのように頬を膨らませる。……ただただ可愛らしいだけなのだが。

実際、一年生はともかく、上級生にはソラを知らない生徒が数多く存在する。

そんな生徒から見れば、強襲科Sランクvs諜報科Aランクなんてものは結果がわかりきったものだと思えるのだろう。

 

「──言わしときゃいいだろ」

「ライカ!」

好き勝手にソラのことを言われ、ほっぺが爆発寸前だったあかりの横にさっき別れたはずの友達、ライカがやってきた。

「むしろ、見る人が少しでも減って喜んでるんじゃないか?」

「…た、確かに。ソラ君ならあり得るかも…」

大体、ソラがこんな勝負を受けたこと自体あかりは驚いたものだ。

昔なら「メンドイ」と断っていたはずだから。

「ライカは、どっちが勝つと思う?」

「アリア先輩じゃね?」

…友達は結構リアリストだった。

それとも──

「…もしかしてライカ、まだ怒ってる?」

「怒る? 何にだよ?」

「ほら、ソラ君がさっき……」

「は、はぁ!? べ、別に、ソラが誰と付き合おうがアタシに関係ないし!」

(付き合う云々は誰も言ってないんだけどなぁ)

苦笑いが隠せないあかりだったが。幸いと言っていいのか、ライカは慌てていて気付かない。

「そ、そもそもアリア先輩に勝てる奴自体、ほとんどいないだろ」

ありゃチートだろ。

そう言うライカも結局そこに行きつく。

ソラをバカにしたのではなく。アリアの強さを知っているからこその予想。

アリアは強い、とてつもなく。

あかりだって、最初はアリアが勝つと思っていた。……だけど思い出したのだ。

(…でも。ソラ君がひかちゃんと戦った時の感じ。アリア先輩たちと同じような強さの雰囲気を感じた)

一定の強さに至った者に見える壁があるのなら、アリアもソラも間違いなく、その壁の向こう側にいる。そう、確信するあかり。

そう思った瞬間、あかりはこの防弾ガラスの壁の隔たりがとても遠く感じたのだった。

 

 

 

 

「──結構な注目集めてますね」

「そうね。でも、カナの時よりは少ないかしら?」

「カナ?」

誰だよそれは。

アリア先輩は時々声に出したことが自分だけで完結してるよなぁ。

さて、これから行うのは、対面的に言えばアリア先輩から後輩の僕への技術指南。

直接的に言えば、『決闘』だ。もちろん、しっかり許可を取った。取られていた。

アリア先輩の人気のせいで、若干大袈裟になってしまったけど。

「あんたの実力、見せてもらうわ!」

そう言って、白黒二丁のガバメントを構えるアリア先輩。

「む…がんばります」

胸を借りるつもりで…と言おうとしたが、何となくやめた方がいいなと思い、僕は刃渡り25cmほどの匕首を右手に構える。

決して借りれるような胸が無いなと思ったわけでは無い。いや物理的に。

「オラッ!! さっさと死合ぇや、ガキ共!」

衝立の上で、教師とは思えない口調で怒鳴りつけてくる蘭豹教員。絶対試合の字が違う。

そんな物騒だから男が寄ってこないんだよ、ランランさん。

ドン!

僕の気も知れず、開始の合図である銃声が鳴り響く。まあ、僕の気持ちが知れていたら、それが試合開始では無く、人生終了の合図になっていただろうことは想像に難くないけど。

 

捻くれた考えとは裏腹に、僕は合図と共に真っ直ぐアリア先輩へ飛びかかった。

──フリをした。

決闘の初期位置はお互いに十歩ほどの距離が離れている中距離だ。

つまり、銃の独壇場。しかし、僕の銃の腕はお察しの通り。近づかなければ勝機は無い。

逆に、アリア先輩は僕を近付かせないように動くはずだ。

僕の動きは開始直後の奇襲──と、誰もが思うことだろう。

急停止した僕は目の前に突き刺さる弾丸を横に反れて躱した。

 

『バカが、追撃されて終わりだ!』

『あーあ、死んだな』

 

誰かが言った。誰もが思った──外野なら。

亜音速の銃弾を直接回避するのなんて人間には無理だ。

銃口の向きや相手の動き、それに加え正確に狙われないような自分自身の動き方、そして予想をたてること、その他もろもろを含めてやっと躱すことが出来る。

銃弾は音速でも、銃を構え、狙い定める人間は、やはり人間の反応速度しか出せないのだから。

それでも、アリア先輩レベルの銃の腕なら途端、それを行う難易度は跳ね上がる。

簡単に言うと何度も躱せない。

 

「!?」

しかし、アリア先輩が行ったのは追撃では無く、回避。

 

──いきなり、アレ(・・)に気が付いたのか…!

意味が解らず混乱している観客たちはアリア先輩が先ほどまでいた位置に『ザンッ!』と突き刺さった刃物(棒手裏剣)に気づき、次の瞬間、驚愕していた。

「初見でよくも躱せましたね。さすがSランクいったところですか…」

「当然よ……って言いたい所なんだけどね。似たような技を見たことがあるだけよ。もっとも、あの時はナイフじゃなくて弾丸だったけど」

まさか、アリア先輩とキンイチさんは戦ったことがあるのか?

「でも、それ、いきなり躱せる理由にはならないと思うんですけど?」

何せ、初見も何も見えない(・・・・)のだから。知っていようがいまいが、いきなり躱すのは普通は不可能だ。

「ソラ。あんたなら何か仕掛けてくる。そう思っただけよ」

えーと、平たく言うと『カン』ってこと?

高く買ってもらっていることに喜ぶべきか、勝率が下がったことに嘆くべきか。

「まあ、知ってるなら、技の説明は不要ですね」

そう、これはキンイチさんの十八番、『不可視の銃弾(インヴィジビレ)』の投げナイフバージョン。

「名付けて──『不可視の投剣(インヴィズタブ)』」

僕が、医療技術と共にキンイチさんから教わり自分用に改造した技だ。

「もちろん、速度は銃弾に比べて著しく落ちるんですけど。まあ、出だしが見えないのは同じですし。どっちにしろ、このくらいの距離なら見えてから躱すのは不可能です」

それに質量がある分、威力は本家に負けないない。

「はぁ…説明してるじゃない(……投擲はノーコンじゃないのね……)」

いや、細かい説明はってことで。……アレ? むしろ細かい部分を説明してたんじゃ……

訂正。大まかな説明はってこと、で!

ヒュッ

「気を逸らすにしても、随分下手な手を使うのね!」

アリア先輩はまるで舞うかのように僕の不意打ちをさけ、空中で体を捻りながらもこちらに銃口を向けてくる。今度は回避だけでなく攻撃までに転じてきた。

──ガガンッ!

だから、何であの状態から躱せるんだよ!

 

そのまま相手ターン突入。

僕は、ところどころに不可視の投剣を置きにいきながら、不規則に駆けて回避する。

ガガンッ──ザンッ! 外れていった攻撃の数々が床を散らかす。

今の状態はかなり変則的だけど、高レベルの中距離銃撃戦──みたいなものだ。

スピードはほぼ互角か。

手数は明らかにアリア先輩に分がある。なにせ、こっちは片手で向こうは両手だ。

さらに問題なのは、中距離戦闘技術の差。

正直、このままじゃジリ貧だ。その証拠にアリア先輩のガバメントから放たれた弾丸の軌跡が徐々に僕に近づいていってる。

捉えられてしまうのも時間の問題──

 

「あ──」

しまった!

このコースは、避けられない!

躱せない。右にも左にも。……使うか?

──否!

「なら──」

 

──ギィィィンッ!!

 

僕は、匕首で銃弾を斬った(・・・)

「……やれば、できるもんですね」

かなりギリギリだったけど。

「すごいわね。キンジみたいだわ」

呆れ半分、驚愕半分のアリア先輩からとんでもないお言葉をいただいた。

いやいやいや。それはいくらなんでも言いすぎでしょう。

でも、これって……僕も『規格外』の仲間入り…なのかなぁ?

(すごい剣速ね…。あの不可視の技の恩恵かしら。だけど、見たところ連射には相性が悪そうね)

ガガン バババンッ!

アリア先輩の連続攻撃による怒涛の攻め!

確かに弾くにしても僕は一発が限界だ。というか、躱すの続けるのも…ムリ!?

「だったら──ッ!」

なるべく攻撃密度の薄い場所。捉えきられてしまう前にガバメントから放たれたそれをあえて喰らう(・・・・・・)

キィィィンッ! ズズンッ!

「ぐっ…!」

何とか一発弾き、残りの二発を防弾制服で喰らいながらも受けきり、今度こそ一気に接近する。

「甘いわよっ!」

相手はすぐさま狙いを定め直してくるが。

ドンッッ!

(な!? 消え──)

──ギィィィンッ!

いける! 今度こそそう思ったのだけど。

いつの間にか手にしていたのか、当たる寸前で右手に構えた小太刀に防がれてしまった。

「…くっ! ここに来て隠し技なんてね。今のはかなり驚いたわ」

「驚いたのなら、当たってください、よ!」

今の僕の技は、『瞬脚・廻』。風魔の技『地撲(ジブ)チ』を独自に発展させた技だ。

頭から足首までの全身の関節を一斉に少しずつ高速で下げ、爆発的な脚力で地面を蹴り高速で移動する技『瞬脚』。

その一歩で相手の死角に移り、回転を加えたステップで回り込むのが、『瞬脚・廻』。

条件付きではあるが、これも相手の目にも留まらぬ、もう一つの不可視の技。だというのに──

「だから、何で見えてないのに防げるんですか!」

カン(・・)よ」

「…それ、随分万能ですね」

やっぱり、この人も『規格外』だ。そもそもキンジさんのパートナーやってる人が普通の人間規格なわけなかっただろうに。

「ハァアッ!」

ダンッ

と、強く踏み込んで、力で押し切る。アリア先輩は見た目に反して結構力あるけど、それでも僕の方が力は上だ。

ジワリジワリと押し込んでいく。

ガチャ

誤算と言えば、アリア先輩の左手はまだ銃を戻していなかったこと。

そういえば、アリア先輩って両利きで、得意戦法は──アル=カタ(近接拳銃戦)……

 

──バンッ!

 

それは、考えるよりも先に動いていた。

さらに踏み込み、アリア先輩の右肩を僕の左手で掴んだ。それからのサーカスの曲芸じみた片手版ハンドスプリング。

さっきまで僕がいたところを放たれた弾丸が通過する。

頭を下に宙に、3mほど跳び上がった状態にいる僕は、アリア先輩の背中に照準を付けた。

 

『不可視の投剣──

 

基本的な性能は本家に及ばないこの技だが、銃撃でないからこその利点もある。

 

──参連』!

 

それは片手で複数の同時発射ができることだ。……僕の技術じゃ三つまでが限界だけど。

まさか、三点バーストの銃でこの技を放つ人もいないだろう。

銃についてはよくわからないけど。キンイチさんだって、リボルバー用の技だって言ってたし。

空中、左手の指の間に挟まれた三つの棒手裏剣は目にも留まらぬ速さで下方にいるアリア先輩に襲い掛かった。

「なっ!?」

なおも、信じられない反応速度を見せるアリア先輩は、僕が跳んだとき、すでに動いていた。

対応しようと地面を蹴やる。

一つ、躱された。

二つ、チッ 制服の端を掠った。

三つ、ズンッ! ヒット!

アリア先輩の脇腹へと突き刺さった──いや、浅いがめり込んだ。そりゃあ、防弾制服着ている。突き刺さることは無い。

「──ッ!」

でも、まずは一発!

受け身を取りながら着地し、匕首を左手に構えながらすぐに体勢を整える。

「…やるわね……ソラ!」

「そっちこそ、さすがです。アリア先輩!」

Sランク相手にまとも以上に戦えている。僕は強くなったんだ。

 

…きひっ。でも戦いってこんなに楽しかったっけ?

 




◆◇◆◇◆

・アリアと決闘中。
  攻撃を2発喰らった。
  アリアに1撃与えた。
  『感情ポイント』が2上がった。
  現在精神高揚中。


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