鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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『妙に濃い面白オリキャラを目指して』
二次小説のテーマの一つだと思う。
原作の雰囲気や道筋の邪魔にならず。尚且つ、コイツいいなと思わせるキャラ作りは難しい。
増えるとそれだけ、なんか鬱陶しくなるし。

まあ、それでもがんばります。特に竹中。




第4話 『客船』

ある夏の日のことだ。

ここ最近、固定されつつあるいつものメンバーで、ワイワイガヤガヤ。

女5、男1という奇妙な割合について、仲が良い女子が多いことを誇るべきなのか、男の友達が少ないことを嘆くべきなのか。

ああ、別に女子の友達も多いわけじゃないんだけど。男子と比べると、こう…相対的に、さ。

 

「突然ですが、お姉さまぁ。今週辺り、私をご両親に紹介してくださいな」

 

島が脈絡も無く、恐らくは大した意味も無く、ライカに突然言い放った戯言について。当のライカは少しキョトンとしたあと、立ち上がり──

「なんでだよ!」

ビシッと芸人ばりのツッコミを放った。

「それにアタシのパパは「関西」にいるんだ…って違えよ!」

「…なるほど、お姉様の華麗なツッコミは、本場仕込みなのですわね」

「だから違えよ!」

声を大にして言うライカに周りから少しの注目が集まる。

うるさいライカを見かねた、常識人である僕は、人差し指を口の前で立てて『シ~ッ』という感じに、ジェスチャー。

「…ライカ、少し静かに」

「何、『周りの迷惑考えてよね』って顔してんの!? おまえのせいだからな!?」

「そういう説もある」

「それしかねえよ!」

何でも人のせいにしたがる現代の若者たち。

慈悲深い僕に出来ることは、それを諭すように慈愛に満ちた顔を向けることくらいだ。

……あっ。ライカの口元が引きつってる。

うんうん。自分の非に気付いてくれたのかな。お兄さん嬉しい。

……あっ。またピクッとした。

「真面目に言うと、ライカのお父さんはアメリカで私立武偵やってるらしいよ」

「誰がお義父さんですの!?」

いやいやいや、だからライカのお父さんだって。

それに何か言うべき人が違う。ニュアンスも違う。何か怖い。

「へー、そうだったんですか」

どこかのアホの影響を受けた哀れ百合嬢と違い、まともな方の後輩である乾は、少し興味を持ったかのように返してくれる。

「ライカは七歳までアメリカで育ったんだよね」

あかりが情報を付けたしながら、こっちの話に入ってくる。

「ああ、そうだぜ。アタシもいつかパパを手伝いたいんだ…。まあ、今は『半人前にはアメリカは危険だから来るな』って言われてるんだけどな」

「ライカさんでさえ、半人前なんですか?」

「まあ、それだけ世界は広いってことだよ」

本当にね。コレ。

その言葉に静かに驚く乾。彼女はどこか井の中の蛙だったところがあったから、これを機会に世界のレベルや、非常識の常識について知るのはいいことだろう。

でないと、レキ先輩とかキンジさんとかの『規格外』技を見せた次第では、終いには失神でもするんではないかと心配になる。

「ではでは! 将来渡米にお供しますわ! 州によっては婚姻の法律が日本とは異なり──」

「だから、なんでそうなるんだよ!」

それってさ、同性でも結婚できるってことかな?

………うーん。

……アメリカ怖い?

(いいことを聞いた!)

……佐々木のが怖い。

「そういえば、僕もライカのお父さんに会ったことないな。どうせなら僕も紹介してよ」

「だから誰がお義父さんと──」

島うるさい。そしてやっぱり、なんか違う。どうでもいいけど。

「な、なんでソラまで、しょ、紹介とか言い出すんだよ!」

「ん? なんでって…僕とライカの仲だろ?」

「あ、アタシとソラの仲って……「お姉様! とにかく私を(・・)お義父様に紹介してほしいですの!」…だからなんでだよ」

島はライカの腕に抱き付いた。

そして、島の『甘える』攻撃!

「うっ…」

ライカの攻撃力がガクッと下がった。

だけども、そこは譲れないのか。バッと麒麟を引き離すと、

「アメリカは日本と違うんだ! 半人前どころか0人前のおまえなんか連れて行けるかよッ」

「!?」

勢いよく紡がれた言葉に、島はビクッと震えると、次の瞬間──ぢわぁ、と涙が目から染み出し、泣き出してしまった。

「アー、ナカシター」

「…ライカさん…」

「麒麟さん、大丈夫ですか?」

「ライカ言い過ぎ!」

「…うっ」

僕、乾、志乃、あかりの攻めるような視線を受けて、ライカは罪悪感に顔を逸らす。

「お、おい、泣くなよ…」

何とか慰めようとしているのだけど。

ねえ、ライカ。相手がどこの誰か忘れてるだろ?

こういう詐欺に騙される哀れな被害者(あえて男子とは言わない)に、この友人の名前が上がらないことを祈るばかりだ、

これだから、女って怖い。いや、僕がいつも経験してる怖さに比べれば可愛らしいものだけどさ。

 

「では、ライカお姉様の夢に向けたトレーニングをしましょう!」

 

案の定、島はパッチリ可愛らしく開いた、そこに涙なんて無かった。っていう笑顔でライカに向き直り、どんどん前向きな発想発言で繰り出した。

……あさってに進みすぎだろう。ライカ周回遅れになってるぞ?

「丁度、来週にCVRで海外を想定した訓練がありますの!」

「CVRで…?」

「因みに、そこの殿方はついてくるのは不可能ですから諦めてくださいな」

別に言われなくてもそんなメンドそうなの行きたくないから。

それに僕はその日予定があるし。

だからさ、その勝ち誇った顔ヤメロ。ムカつく。

 

「……全然泣いて無かったね…」

「…これがCVR。恐ろしい子!」

安心しろよ、佐々木。おまえより恐ろしい奴はそうはいないから。

 

 

 

 

──そして、一週間がたった。

あの会合が、8月21日だったから、今日は8月28日。

この一週間で、落ち込み気味だった同居人も無事立ち直り、気になるあの人との食事に成功し、自らの力を知り、仲の良い先輩の進級の目途も立ち始めた。

僕が言うのもなんだけど、かなり濃い一週間だったと思う。

そんな僕の現在地は竹下桟橋。港には、殺風景気味のこの場所には、場違いなほど豪華な客船が一隻繋がれている。

船が見える位置にあるコンテナの陰に身を隠しながら、任務実行の時をただ待つ。

 

それで何で態々一週間前の会話を思い出しているのかと言われれば、僕の任務先である船にライカと島が乗り込んだのが、ついさっき見えたからである。

実戦形式の捕縛拘引訓練って聞いてたけど、CVRの船……そういうことか。と、あの時島の言を聞いてピンと来なかった自らの落ち度に嘆く、なんてことはないけど、ライカが相手となると……

「メンドイなこれ。まあ、しょうがないか」

任務は任務と。

 

気を取り直し、着々と準備を始めている僕の所に、今回の仲間である風魔と真田が近づいてきた。

いつも通りの忍者している格好で。

「朝霧殿、折り入って耳にお入れしたい情報があるのでござるが」

「ん? 今更何さ風魔」

「今回の訓練、朝霧殿には補佐の任に徹してもらう所存なり」

最初に発言したのは長い黒髪をポニーテールのようにしている忍者、風魔。

あとに発言したのが、黒髪をおかっぱのようにして、右目に小銭模様の眼帯をしている忍者、真田。

今の今まで聞き及んでいなかったそのことに、つい怪訝な顔をしてしまう。

「実は、この客船は男子禁制のようなのでござる」

「よって、朝霧殿を実行班に起用するのは不可能なりや」

「……男子禁制って、これ『誘拐訓練』だよね」

本物の犯罪者相手に「あ、ここ女性専用なので」「そりゃ、失礼しましたー」──なんてなるとでも思ってんのかっ。

「…あー。朝霧殿の進言尤も。されど、向こうもそこのみは妥協しなかったなり」

(ニン)

そ、そうなんだ。美少女だけが入れる学科なだけに我儘度はとんでもないね。

…やっぱり、武偵高はおかしい。何か、こう……こだわってるものが全部。

キンジさんが愚痴を言うのにも納得できるというものだ。

「いいよ。どっちにしろ、周囲の警戒や脱出経路の確保とか、外側の仕事も誰かがしなきゃいけなかったわけだし」

「迂闊。抜き打ちの訓練だけに情報の遅延でござる」

抜き打ちとはいえ、学校公認の訓練である以上、上には事情が通っている。

その通った結果が僕は侵入できない(コレ)なんだけど。

 

今回のチームメンバーは僕、風魔、真田、その他の四人だ。

となると侵入は風魔と真田か。

「朝霧君。何か私の扱いが酷くない?」

酷いんじゃなくて、薄いんだよ。

声の先にいたのは、最近の女子らしく染められた茶髪に、女性の平均くらいの身長、体格。

可愛い方なのだろうけど、何だか毒にも薬にもならないような、簡単に言うと特徴の無い顔。

友達に一人は、いそうでいない…でもやっぱりいるみたいな女の子だ。

名前は……わからない。仮にA子でいいや。

「だから何で仮になのよ!?」

A子は本来諜報科(レザド)では無く、情報科(インフォルマ)。自由履修でここ諜報科や探偵科(インケスタ)の単位も取っているらしい。

広く、浅く学ぶ。こいつの友人関係と同じだ。

「朝霧君って、もしかして私のこと嫌い…?」

「ん? たいして知りもしない奴を嫌いになるわけないだろ?」

だから、僕が嫌いなのはあのアホだけだって言ってるだろうに。

「わかった! 自分が友達少ないからって私の事ヒガんでるんでしょ?」

「…嫌いな人間が二人に増えそうだよ…」

「あー! 嘘嘘! 冗談だってー、もう。朝霧君は量より質なだけだもんねー」

「否定になっていないよ」

友達少ないっていう。

自虐はともかく他人に言われるとムカつく。その辺は勝手なものだが、真理でもあるのだ。

「某や真田殿は朝霧殿の友人でござるよ」

風魔の優しさに思わず涙が出そうです。

「朝霧くーん、機嫌直してくれないかなー。あ。そういえば、これはとある友達に譲ってもらったんだけど」

ハンッ。出たよ。さり気なく友達たくさんいますよアピール。

僕だって先輩たちも友達としていいのなら、人数は両手の指より多いんだからな。

「一学期にうちの科(インフォルマ)に転入してきたジャンヌ先輩いるじゃない? あの人のテニスウェアの生写真が──」

「僕とおまえは今から友達だ」

友情が生まれる瞬間が美しいなんて誰が言った?

友達が多いってそれだけで素晴らしい事なんだね。A子立派。超立派。

差し出された封筒は折り目が付かないように懐へ。……帰ってから見よう。

「わぁ…、朝霧君ってホントにジャンヌ先輩LOVEなんだ」

「べ、別に、まだそう言うわけじゃないていうか…まあ、好みではあるけど」

「ふーん。じゃあさ、結局誰が本命なわけ?」

本、命?

何だ、その複数候補がいるのを前提とした僕に縁が無いこと間違いなしの単語は。

「そもそもの選択肢が無いのだから、本命も何もないのだけど」

「またまたー。まず今話に出たジャンヌ先輩でしょ? それにライカに、戦姉(アミカ)の先輩。あと、友達に聞いた話では可愛らしい中学生ともデートしてたみたいじゃない。この色男ー」

……なんだ、こいつは。

僕のストーカーか何かなのか?

そんなわけないのはわかっているけど、プライベートもあったもんじゃない。

『六次の隔たり』って言葉があるように、友人の数はそれだけで力になると言うことなのかもしれない。

どこからか「戦闘力たったの5か…ゴミめ」という言葉が聞こえたような……

だから先輩たち含めれば両手の指より多いっての!

 

峰『お友達と聞いて』

おめーは違う。

 

けれどもだけど、その情報自体が間違っていてはどうしようもないものがある。

「あのさ…ライカは親友だから。そういうのじゃないから」

「朝霧君は男女の友情信じる派なんだ?」

信じる、信じないって、現にここにあるだろう。

(……あららー、ライカってばこれは想像以上に厳しそうだね……)

「? どうしたの?」

「いえいえ。じゃあじゃあ、戦姉のレキ先輩はどうなのよ?」

「ありえないね」

「これまた断言が来たね。その心は?」

「いやいやいや、だってありえないだろ?」

あのレキ先輩だぞ?

素っ気なし、愛想なし、配慮なしの現代魔王。男と付き合う姿なんてとてもとても想像できない。

僕はあの人は、『将来カロリーメイトと結婚するんじゃないか』と思ってる。

「よ、よくわからないけど、必死さは伝わって来たよ…。ジャンヌ先輩についてはさっき聞いたし、ここは謎の美少女中学生が優勢か」

「なんか、その言い方嫌だ」

大体、あかりも含めて、間宮の姉妹は妹みたいなものだし。

むしろ、妹にしたいくらいだし。

「まあ、正体はあかりっちの妹だってことは知ってるんだけど」

──その中学にも友達いるし。

あっさり言うA子を見て、世間の目の怖さというものを理解した今日だった。

何かをすると、絶対誰かしらが見てるんだね…。

 

 

「朝霧殿、□□殿。間もなく時間でござる」

…あれ…? 今、僕の名前のあと、風魔はなんて言ったんだ? 全然聞き取れなかったぞ…?

「さっき言った通り、朝霧殿は小型船に留まり周囲の監視を頼むなり」

「ああ、で、風魔と真田が実行班ってことは、A子は僕のサポートってとこか」

「え? 今私の名前風魔さんが呼んでたでしょ!? 何でまだA子なのよ!?」

悲しいけどそれが世界の修正力なのだろう。

A子はきっと犠牲になったのだ。

「…もう……A子でいいわよ……」

そう悲観になるなって。名前が出ないってのもある意味個性の一つだよ?

終始顔が出ないのに、やたらインパクトがある妹やら姉やらが登場する漫画もあるくらいだし。

エンドロールにはきっと毎回『何々さんの友達』って感じに出演決定だね。または『友達が多い女子高生』。

「むしろ、『女子高生A』でござらぬか?」

「いや、ないでしょ。風魔さんまで酷くない?」

「なるほど『忍者A』の言うことに一理ある」

「だ、誰が『忍者A』でござるか!?」

「風魔」

「そういうのは自分に跳ね返ってくるものなのよ。風魔さん──じゃなくて『忍者A』さん」

「な、ならばっ。朝霧殿は『男子3』でござる!」

「何、その頭悪そうなの? てか、何で3?」

「それって、3号…」

「『女子高生A』は黙れ」

余計なものは入れないの現代風潮を見習え。

「なら自分は『忍者B』なりか?」

「「「………」」」

「?」

「…そ、そうだね」

「…う、うん。そうね」

「…そ、そうでござるな」

そもそも名前が載らなそうだな…なんて、思わなかったからね!

ほ、本当だから。勘違いするなよ!?

 

気まずい雰囲気も海の波と一緒に流しながら、小型船を用いて、今しばらく出発した豪華客船を追う。

波打つ、暗い水面に映った歪んだ月は、どこか怪しげな雰囲気を持っている。

その像を横目に、撃墜されない範囲で近付き、それを維持するよう努める。

「それでは行ってくるでござる。(ニン)

「近況を待つなりや」

風魔と真田はそれこそ時代劇のように手甲鉤と鉤縄のような装備で遊覧とした船によじ登って行った。

「…あの娘らって、キャラ付けが一貫してるよねー。さすが『女子高生』では無く、『忍者』」

「うん。あそこまで来ると清々しいよな」

二人が船に乗り込んだのを確認した僕は、少し豪華客船から距離をとり、周囲を警戒する。

まあ、CVRの連中は戦闘訓練なんて二の次だし、あっさり終わるだろ。

 

──何か忘れている気がしなくもないけど。

 

「あ。友達になったんだから、メアド交換しようよー」

「今やること? 一応任務中なんだけど」

「いいじゃん。中学からして同じでメアド持ってないなんて、今まで私のプライドが許せなかったんだよー?」

「それは知らないし。……まあいいけどさ」

A子は携帯を──ジャラジャラ、出るわ出るわ(電話だけに)といくつも取り出す。

「ん? 何、もしかして使用によって分けてるの? 仕事、プライベートとか」

それにしても、多すぎな気もするけど。

「あー、それもあるけどさ。単純にアドレス帳に入らないんだよ。これくらいないと」

「なるほ──って、ええっ!?」

「データ管理とかして、キツキツにしてても、最低五台は必要でさー」

「何それ、すごい」

 




◆◇◆◇◆

・潜入任務の訓練を開始した。
  『友人』が一人増えた。
  『ジャンヌさんの写真』を入手(?)した。
  『感情ポイント』が3上がった。
  真田の影の薄さに磨きがかかった。

・イベント『誰が本命? ①』
  称号【ロリコン(?)】


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