鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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『この作品はヒロインでないキャラも差別はしません』
理子回。
嫌よ嫌よも好きのうちとはよく言ったもので。
何だかんだで一番はっちゃけられる相手はこの人。




第6話 『蜂蜜』

8月30日。

今日はサッカーの試合当日だ。

「気のせいだろうか…碌に練習できなかった気がするんだが……」

「気のせいじゃないです」

「キーくんもソラランも甘ーい! 甘々だよっ」

じゃあ、あんたは何かしたのか。提案者のくせして、遊んでばかりだったじゃないか。

「りこりんに抜かりはない。キャプ翼は全巻すでに読破したっ。ボールは友達怖くない!」

「理子、おまえは少し黙れ」

キンジさん、僕も同じ気持ちです。

 

「あんたたちー! 早く来なさーい!」

アリア先輩が呼んでいる。

「き、キンちゃん、私がんばるから! あたっ」

「うおっ(今、星伽さんが転んだ時、かなり揺れた!!)」

「お弁当忘れてしまったのだー」

「……お弁当…お腹すいたでござる…」

「ふむ、ようやくサッカーのことがわかってきたぞ」

ジャンヌさん、今日試合当日なのですが。

「………」

「あ」

レキ先輩…。

 

このように、あのクセの在りすぎるメンバーをまとめ上げるのは、たとえ神であろうとも不可能だろう。

 

「遠山君、朝霧君、今日はベストを尽くそう」

僕らを除くと、まともなのは、この人。不知火先輩(唯一の経験者)のみ。

しかも、相手の港南体育高校は去年優勝した強豪校らしい。詰んだ。

もう、ユニフォーム姿からして、何だか強そうだ。ブラジル人いるし。

対するこちらは、体操着にゼッケンという、何とも間抜け感が漂う集団。

 

強力な敵(それ)を見てというか…烏合の衆(こちら)を見てというか…何とも不安そうな顔を前面に押し出しているキンジさん。今彼の不安を拭い去るために、僕が掛けるべき言葉はただ一つだった。

「僕は仮にキンジさんとクラスメートになってもハブったりしませんよ?」

キンジさんは、僕のそんな優しさに心打たれたのか、ガクリと下を向き。

「だから諦めるなよ…」

と、項垂れた。

諦めたら試合終了です、の精神は素晴らしいものだと感じるけれど、だからってこの不安要素が無くなるわけじゃない。

ただ単に戦力外になるだけならいいよ?(この考えが出てる時点でもう手遅れな気がしないでもないけど)

このチームには、それどころでは済まない人というのさえいるのだ。

具体的には、峰先輩とか、レキ先輩とか、峰先輩とか!

よくメンドウと愚痴りながらも、やることはやる精神の僕でも、この状況で諦めるなというのは──

「ちょっと無理です」

「…だよな…」

だけども、落ち込んでいる(現実見えている)のは僕らだけで、何故か他の皆はハイテンションだった。レキ先輩を除く。

「俺たちはまだキンジ(オモチャ)に飽きていない! 一緒に進級させるぞ!」

武藤先輩(星伽先輩をえっちぃ目で見てた人)のその掛け声にほぼ全員が「おー!」と答えた。

…キンジさんも、苦労してるんですね。

涙なしには見られない感動的な試合とは、まさにこのことを言うのではないだろうか。

ああ、感動した。だから、

「もう、帰っていいですか?」

「ダメに決まってるだろ…」

ですよねー。

ここまで来たら、道連れらしい。本当にカオス。

 

 

ピーッ!!

 

そして、ついに始まってしまった試合。

まさかまさかで、秘められていたみんなの力が覚醒! 強豪校とも互角に渡り合うと言う胸熱の展開──とは当然のごとくならず、現実は残酷で、展開は一方的なものだった。

嫌なことは重なるようで、相手はどうやらラフプレーの得意なチームだったらしく、審判の見えないところで反則を繰り返し、特に女子陣には、セクハラまがいな当たり方が多かった。

……おい、コラ。何ジャンヌさんのお足触れているんだこの下郎ども! まったくもって羨ま……許し難い!

峰先輩? どーぞどーぞ。

る、ルール上、審判が何も言ってないのでこちらも文句が言えない。いいなぁ、とも言えない。

レキ先輩はさり気なく、被害受けてなかったけど。

それに、戦力外が多い(むしろ戦力の方が少ない)このチームの特性に早くも気づき、一人だけ上手だった不知火先輩をダブルマークで封じる作戦に出てきた。

これで絶対誰かマークが空いてる人間が出るはずなのだが、技術のレベルが違いすぎるせいで、それでもこちらの人数の方が足りないくらいの印象で試合は運ぶ。

因みに僕のポジションは中盤。

本来は前にいる、キンジさんやアリア先輩にパスを通さなければいけないんだけど、これがなかなかうまくいかない。

初めてのドリブルやパスに感覚がまだ掴めずにいたからだ。

これってただ蹴ればいいんじゃないんだね。蹴る場所によって飛び方違うし。やって初めてわかることってあるよね。言い訳完了。

だから、前方にパスをしたつもりが、相手ゴールの遥か後方にボールが飛んで行ってしまったのも仕方がない事だったんだ。

ああ、そうだよ。僕も練習ちゃんとできませんでした! すみません。

 

そうこうしているうちに、逆にこちらが反則を取られてしまった。

ジャンヌ先輩にぶつかった相手がすっごい大袈裟に倒れたのだ。

その三文芝居せいで、ゴールから20m位の所でのフリーキックになってしまい、アホがそれを防げず、0対1になってしまった。

そこら辺で、遅まきながらも、やっと我らが烏合の衆も事態の不味さを把握し始めてくれました。

──あ、まずくない? コレ。と。

 

 

 

 

結局、前半が終わって0対5。

現在前後半の間の休憩中。

マズい。このままでは、来年キンジさんと同級生になってしまう。

年上の同級生。高校でそれはきっと気まずいものになってしまうに違いない。ましては、ただでさえキンジさんは根暗気味だ。新しい(変わらない?)環境に馴染めるはずがない。

 

どうしようかと話し合うためにも、キンジさんを探していたところ、サッカー部の部室から誰かが出てきた。

ピンクのツインテがチャームポイントな小柄な先輩。

「…アリア先輩?」

一瞬、僕は声を掛けることに戸惑ってしまった。

自身に満ち溢れているいつもの表情はそこに無く。切なそうに、でもとても優しく微笑むその在り方は、触れたら壊れてしまいそうな工芸品ように、儚く尊いものを感じさせた。

そして何より、その姿は、何故かあの日のライカとどこか重なるような気さえもした。

 

「アリア先輩。もしかしてキンジさんそこの部屋にいるんですか?」

「うぇ! ソララン!?」

あ、こいつ、アリア先輩じゃない。(アホ)だ。

いろいろと台無しだった。

 

「キンジー。どこにいるのよー」

 

「「!」」

どうやら本物が近くに来たみたいだ。

「ソララン、来て!」

「え、はい?」

さすがの子に人も、今この場で本物とかち合うというメンドウごとは嫌だったのか。

本物のアリア先輩に見つからないように、僕を連れて少し場所を離れる。

 

落ちつくと、峰先輩は変装マスクを剥がし、そのアホそうな顔を顕わにした。

「何で僕まで連れ出したんですか? 峰先輩」

僕は何もやらしいことはしていなかったというのに、何で連れてこられなきゃならんのだ。

「それは、とっさにっていうかー。つい……てへっ☆」

「……はぁ。で、何やってたんですか? あんな格好までして」

「んー、キーくんとね………ひ・み・つ」

「峰先輩。キンジさんをからかうのは──」

あなただって、キンジさんが進級できないのは嫌でしょう? そう伝えたかったのだけど。

「理子って呼んで?」

ウルウルした瞳で上目づかいという、何とも可愛い子ぶってるポーズで、栃狂ったことを言い出すこのアホ。

あかりにならともかく、この人にそんなことされても全然嬉しくない。むしろ気持ち悪い。

だけども、立ちも悪いこの人のことだ、ただ断るだけではしつこく食い下がってくるだろう。

それならば、早くこの場を離れるためにも適当に合わせるのが利口か。名前くらい、呼ぶのにこだわる理由も無いしね。

「わかりましたよ…ゴキブリコ先輩」

「ゴキブリコ!?」

「それで、何やって「さすがにそれは酷いよ!?」…そうですか?」

名付けた僕が言うのもなんだけど、触覚みたいの(サイドツイン)あるし、ウザいくらいにしぶといし、気持ち悪いし……ほら、類似点たくさん気がするし、いいあだ名だと思う、ゴキブリコ。さらにぶりっ子とも掛っている自信作。

まさにこの人には、

「──ピッタリですね」

「うわーーーん! ソラランがいじめるぅー!!」

またウソ泣きか。この人の涙が全女性の武器の価値を下げているのだとシミジミ思う。

「やだやだやだー!」

……あれ? 本気で嫌がってる?……はい、そうですか。嫌ですか。

「ぐすん。……本気で残念そうなソラランがまた、理子を傷つけるのであった」

「引き裂かれてしまえ、と僕は思ったのであった」

自信作だったんだよ…。

「理子はね、理子はね、『なまえをよんで』って言ったんだよ? なのに酷いよぉ」

「残念ながら僕は峰先輩のお友達にはなれそうも無いので」

妥協点としてお似合いのニックネームを付けてあげた僕が何故責められなきゃならんのだ。

まあ、名前を呼ぶのに友達でなければならないルールは僕の中には無い(例として、風魔や真田とは名字で呼び合っているが友達だ)けれど、この人の名前を呼ぶのは……何かヤダ。

「ソララン、デレないなぁ。でも、理子は強い子、諦めない!」

「僕が何故デレると思ったのか……」

「そこにツンデレがいるからっ!」

「残念、ツンデレはキンジさんに嫁ぎました」

「えー? ソラランって、そっち系…? だ、だから理子みたいな美少女にも靡かなかったんだねっ。理子は大変恐ろしいことに気づいてしまいました」

「まず、僕がツンデレだという誤認識から離れましょうか」

頭が痛い。

ツンデレって言ったら、あの人だろう。ピンクツインテの。

いや、バカにしてるわけじゃないんだよ? まあ、時々、あの人というより、二人を見て、バッカみたいとは思ったことは否定できない。

「くふふっ。わかってる。わかってるってぇ。アリアに比べればぁ、ソラランのツンデレ力は少々力不足を感じるよ? ツンデレツインテールお嬢様という、『三次元はお帰り下さい』ってレベルを見て自信喪失しちゃったんだよねぇ。でもだからって、自分を卑下しちゃダメだよっ! ガンバッ」

「今気づいた。人を殺すのは罪だけど、虫を殺すのは罪ではないと」

鬱陶しいのがいなくなり、みんなからも逆に感謝されるのではないだろうか。

そもそもツンデレ力って何んだよ?

「すべてのツンデレの“ツン”トゲトゲしさからの“デレ”の甘さに変わる期待値、もしくは“ツン”と“デレ”それぞれの萌え威力を数値化した物。By Rekipedia」

「いやいやいや!? 出典がそもそも間違ってるんですけど!?」

語呂がいいからって適当言うな!

あの人はカロリーメイトにしかデレないからっ。

「因みにツンデレ力は、あやや作のスカウザーで計測可能っ!! ジャジャーン!」

って、本当にあるのかよ!

いや、偽物だろうけどさ。……偽物だよね?

「それでアリア先輩は?」

峰先輩はさっきの部室の方を向いて片眼鏡のようなヘンテコな機械のスイッチを押した。

「100……3000…5000…1万…バカなっ、まだ上がるだとっ!?」

ボンッ

花火をミニマム化した感じの音と共にスカウザーは弾けとんだ。PL法は無視か。虫だけに。

どういう原理か知らないけど、小さいといっても爆発までしておいて、峰先輩にダメージは無い。ちっ。

「くふふ」

何がおかしいのか、あえて言うのならこのアホの存在自体がおかしいのだけど、それは置いておいて。アホは不敵な笑みを浮かべると、壊れた機械を放り投げた。

「くふっ。こんなもの、意味は無いよ」

「じゃあ何故取り出したんですか」

「恐らく、ソラランはツンデレ力を自在にコントロールすることのできる種族」

「微妙に人外認定された。訴えるべきか」

「べ、別にソラランの心配なんかしてないし!……やっぱ、ちょっとだけ…その、0.1%くらい。勘違いしないでよねっ、知ってる奴に何かあるとあたしの寝覚めが悪いってだけなんだからっ!」

「おまえがするんかい」

「キュンときた?」

「吐き気がきました。本当に騒がしいですよね。峰先輩って」

「や、別にここで披露しなくていいんだよ?」

「してねーよ」

ツンデレじゃないって何度も言ってるのに。

仮のそうだとしても、峰先輩にはデレないっての。この人との関係はそんな綺麗なものじゃないし。腐れ縁みたいなものだし。

 

大体、何でこの人は僕にこんなに絡んでくるのだろうか。

僕に嫌われてるのもわかってるだろうし(わかってるよね?)、この人が『好き』なのはキンジさんなわけだし。

好き。好き、ね。

はぁ…。

それにしても、こんなアホが、さっきまでの切なささえ感じた人物と同様の人物だとは到底思えない。

ゴメン、ライカ。こんな人と重なるだなんて思って。

 

『顔…赤くなってる』

 

………

不本意だ。

初めに言っておく、大変不本意なんだ。

周囲を改めて見渡し、丁度いいと思ってしまったことについて。

あ? 峰先輩を襲うの? とか冗談でも考えたやつはコ ロ ス。

この人なら…この人なら、僕が今胸に燻ぶらせている疑問を答えてくれるかもしれない。そう思っただけ、他意はない。

 

「…ねえ、峰先輩。『(こい)』って何ですか?」

「へ?」

ああ、アホ面にさらに上があるとは思わなかったな。どうでもいいけど。

「え、ちょ、ま」

「友達の好きと異性の好きの違いって何ですか?」

「ちょ、ちょっと待とうかー! ソララン? いきなりどしたの? はっ。ま、まさか理子相手に本気で……」

「峰先輩はキンジさんが好きなんですよね」

「あれ、スルー?」

「いいから、答えてください。まじめに(・・・・)

「え、あ、うん。そ、そうです…」

僕の勢いに押されたのか。峰先輩は、透明感のある白い頬に薄く赤みを纏い、しどろもで俯きがちに答える。

そんな彼女に僕が送ってあげる言葉は一つだけ。

「キンジさんも可哀想に…」

「おい、朝霧ソラ! 何であたしが、おまえにそこまで言われなくちゃいけねえんだ!」

地が出てる。

ふむ。ということは、やっぱり本気なんだ…。

「具体的に、どういう所が好きなんですか?」

「だから、何であたしがそんなことまで…」

「いいからっ!」

「うっ……(何なんだよ。この妙な迫力は…)」

 

──【聞き出し中】──

 

「なるほど、まとめるに。敵だったのにも関わらず、命を救ってくれたり、自分を認めてくれたり、いいところを見つけてくれたから、と」

「…あぅ…」

ゆったりした金髪と顔を抑えた指の隙間から見える峰先輩は、もはや真っ赤だった。

どこか居心地の悪そうに手をもじもじと動かしている。

ふーん。この人でもこんなふうに照れるんだな。ちょっと新鮮。

「ソラランに汚されちゃったぁ…」

人聞きの悪い、気持ち悪いこと言うな。

 

リュパンとホームズの因縁、アリア先輩のパートナーであるキンジさんは峰先輩の敵だった。

命を救われたというのは、僕も関わったブラド戦のことだろう。

キンジさんも、HSSのせいにしてるけど、そのままでも女の子に甘々だから。優しすぎるくらいお人好しだし。

 

「でも、それって必ずしも恋愛に結びつく要素じゃないですよね。友情のみだっていいわけですし」

何が違うんだろう?

異性同士だから? A子は男女間の友情がなんとか言ってたけど、性別だけが問題なのだろうか?

でも、僕はあかりやののかちゃんのことは妹にしたいとは思っていたりするけど。変な話、劣情を抱いたようなことは無い。Yesシスター、Noタッチだ。

特にあかりには命を救われたこともあるくらいだし、僕のことを認めてくれるし、褒めてくれたりもする。峰先輩の理屈だと、僕もあかりに恋をしてなければおかしい。

「理屈じゃないんだよ。あのね、ソララン、好きになるって、そう言うことだと思うんだ…」

「今、好きな理由言ったじゃないですか」

「うん、言ったね」

「よく、わかりません。それに結局、友情と恋情の違いは不明瞭なままです」

「多分、理由ならいくらでも作れるんだよ。顔がカッコイイだとか、強くてたくましいだとか、優しいだとか。でも、そう言うのはあと付けなんだと思う。ほら、外見の好みなアイドルがいたとしても別にすぐさま恋に落ちたりしないでしょ?」

わからない。

僕がライカのことをどう思っているのか、わからない。

「うーん。相手に対してえっちぃこと考えたことあるなら恋情、無いなら友情?」

「み、身もふたもないね、ソララン…」

……ん?

自分で言っておいてなんだけど、その理屈だと、僕はライカのパンツを見てみたいと思ったことがあるから、ライカに恋してることになってしまうじゃないか!?

思えば、あかりやカツェのパンツを見たいと思ったことは無い。

そ、そんな……僕は知らずのうちに、僕のことを友達だと思ってくれているライカのことを裏切っていた…?

「そ、ソララン? 急にガックリしちゃって、何かあったの?」

「僕は、最低です。……峰先輩よりはマシですけど」

「あれ? 最後の一言いる?」

こんな話をするまで、頭の片隅に引っかかっていただけだったのに、考え出すと止まらない。いや、止められなくなっている。

「すみません。僕は、ジャンヌさんや佐々木のこともえっちぃ目で見たことがあります。……峰先輩はありえないですけど」

「何か、衝撃のカミングアウトきた!? でもやっぱり、最後の一言いる?」

どうしよう。

僕ってこんなに気が多い奴だったのか?

「そ、それは恋とはまた違うと思うよ? ソラランも男の子だし!」

「そ、そうでうよね!」

「ぶふっ(でうよねって、そこで噛まないでよ!)」

「ひ、飛躍が過ぎました。……けれど、そうだとすると、やっぱり何が恋なのかはわかりません」

冷静に考えると、恋と…せ、性欲と違うと思う。──思いたい。

「ソラランは恋が何なのか、今わからないと思うけど、好きがどういうことなのかわかってるはずだよ? これは、冗談じゃなくて、ソラランがもう少し素直になれば、ソラランが誰を好きなのかもきっとわかると思う」

「先輩…」

僕が、誰を好きなのか…?

それは異性としてですか? 僕がはもう誰かを好きなっているのでしょうか。

 

(ソラランって、理子の前だとかなり無防備だよね。これもある意味特別なのかなぁ。でもそっか、ソラランもそんなこと考えるようになったのかぁ)

 

しばらく、二人の間には沈黙が続いていた。

この組み合わせで静かな時間を送るのは初めてだったかもしれない。

「でも、何で理子? こう言っちゃなんだけど、理子のこと嫌いなんでしょ?」

「…自覚してたんですね。ただ、聞ける人がいないからです。他に。ホント、それだけですから!」

アリア先輩に聞いたらメンドウになりそうだし、星伽先輩はちょっと怖いし、キンジさんはわかって無さそうだし。

レキ先輩は例のごとく論外だし。

消去法だから、この人なら気兼ねなく……遠慮が要らないって思っただけだ。

それに結局、わからなかったなぁ。ただ、掴めなくても見えてはきたかもしれない。多分。

「……本当に無防備……」

「えっ? 何ですか?」

「べっつにぃー? ただ、もし仮にキーくんがいなかったら、理子はソラランのことを襲っていたかもー、って思っただけ」

「えっ、キンジさんは唯一神だったの?」

「まさか、ここまで嫌われてるとは思わなかったんだけど」

「何を今更」

クスッ

「でも、何だか、聞いてよかったな、とは思えました」

「そうそう? まあ、理子は恋愛マスターだからねっ」

ゲームでしょう。それは。

でも、この人と話しているのに、不思議と嫌悪感は消えていた。

それどころか──

理子(・・)先輩、ありがとう」

「そ、そ、そ、そ、そ」

「そ?」

理子先輩は限界まで目を見開き、構えるように引くように両腕を顔の横に添えながら、壊れたレコーダーのように意味の無い音を呟く。口は震えており、体は硬直している。それにより、普段以上に不審さを顕わにしているのだけど。

 

「ソラランがデレたーーーー!!!」

 

次の瞬間、鼓膜が破れるかと思うほどの大音量が来た。

いや、実際そこまで大きくは無かったかもしれない。それでも、至近距離で叫ばれているわけで。

──!

このキャーキャーとした声が自分にかかっていると思うのが嫌で、意識を目の前のアホ騒ぎしている人から背けたことで気づけた。

──視線。

見られている…?

「ソララン、ソララン、どしたのワサワサッ」

「なんでもナーミン…って、何やらすんですか!」

なんか、ここ最近視線を感じる気がするんだけど……

峰先輩は気づいていないみたいだし、気のせいか?

「やるならカモカモッ!」

「うるさいドーン!!」

「ゴフッ! な、殴ったぁ! ついにソラランがDVするようになっちゃたぁ!……しくしく。──それにそこは『あんだとドーン!!』が正解だよっ!」

「ちょっと黙っててもらえます!?」

「えー、やだぁー」

ウザッ! 何か、いつも以上にテンション高いし!

 

せっかく……せっかく、見直したのに、この人は……!

やっぱりこの人はアホだし、好きじゃない(・・・・・・)

 




◆◇◆◇◆

・サッカーの試合。
  前半0点取った。
  前半5点取られた。

・理子との密会(?)
  理子への『好感度』が?上がった。
  『感情ポイント』が2上がった。


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