所謂、ハニートラップの専門技術を学ぶ学科。
その特性ゆえ、美少女しか入ることができない。
武偵としての最低限度の戦闘技術の他にも、美容関係──特に日焼けや寝不足、傷などにも気を遣わなくてはならない、ある意味最も大変な学科。
諜報科でも困難な状況に投入されるため、危険度も高い。
というか、こんな職業が平然とあるから女が信用できなくなるんだよ…。
朝、いつもの教室。
ここ数日はレキ先輩の命令が無くしっかり休めて非常に心地良い。
どのくらいかというと、普段邪険にしている竹中とも、普通に会話するくらいだ。
「それでな、地面に倒れ伏したアイツに言ってやったんだ。ケンカはガタいじゃねえってな」
「おまえ、チビだもんな」
「チビじゃねえよ!」
男子で160cmそこそこは十分チビだろ。まあ、僕も背が高い方じゃないけどコイツよりはマシだ。
「で、自分より背の高い火野にはいまだに勝ったことが無い、と」
「ち、ちげえし。あれだし、俺は女には優しいだけだし!」
「負け惜しみねぇ。こんなのを憧れの遠山先輩が聞いたらどうなるのかなぁ」
いや、実際どうにもならんだろうけど。
あの人こそ女に
しかし、コイツの中の先輩はそうじゃ無いようで。
「つ、次は勝つし!」
「女に優しいんじゃなかったのか?」
「いいんだよ! 大体アイツは男おん──」
ガラッ
教室のドアが開く。入ってきたのは火野だった。
だが、どういうわけか小柄な少女をおんぶしている。
「何やってんだ、アイツ」
うん、僕も同意見だ。
もしかして、アイツまで百合に目覚めたのだろうか。
まあ、確かにその手の女子にはモテるだろうと思ってはいたが。
モテる方とモテない方ならモテる方に走るのが道理…なのか?
5.「アタシだってわかってんだよ。こんなの似合わないってことくらい」
間宮たちの話に耳を傾けて聞いたあたり。(人はそれを盗み聞きと言う)
どうやら、あの子は
さらに専攻はよりによってCVR。しかもちょっと調べた感じソッチ系専門っぽい。このままだとあいつ、マジでそっちに走るようになりそうだな。
火野も満更でもなさそうだったし。
「…島麒麟ね…」
「どうしたでござるか、朝霧殿」
「考え事なりや?」
時代錯誤な口調で話しかけてくる少女二人。
風魔陽菜と真田百合だ。
この二人とは、実力が近いこともあり、良く組まされているうちに仲良くなった。
「ん? ちょっとね」
ここは
「ああ、近々友人が戦姉になりそうで」
「友人…ライカ殿でござるか?」
──僕の友人という一言で特定できたという事実に泣くべきか。
いや、風魔が鋭いだけだ。うん、そうに決まってる。
それに僕だって友達は結構いるし。火野に風魔に真田だろ。……まあお情けで竹中と間宮も入れておくか。
あれ? それでも5人? しかも男子は竹中だけだし……
……もしかして、僕ってハブられてる?
──いや、考えるのはよそう。きっと気のせいだ。
「一年で戦姉とは立派なりや」
「まあ、それ自体は良いんだけどねー」
火野はあれで結構優秀だし。
問題は──
「なんか百合百合しいんだよなぁ」
「自分がどうかしたなりや?」
「いやいや、真田じゃねえよ。レズっぽいって言ってんの」
「?」
風魔の方は分かってるみたいだが、真田はよくわかっていないようだ。小首をかしげてる。
「うんうん。真田はかわいいなぁ」
「な、何をいきなり申す!」
真田、おまえはそのまま純粋でいてくれ。この学校、変な奴ばっかりなんだもん。
真田はまあ、口調格好は忍者してるけど、性格はまともだしね。
「それで朝霧殿はライカ殿のことが気になっているのでござるか?」
「気になるっていうか…。知り合いの女子がほとんど百合なのはちょっとアレだろ」
なんだアレは。感染でもしてるのかと疑いたくなる。
男に感染はしないよね? 竹中とか大丈夫だよね?
「と、それは今良いんだった。いや、良くは無いんだけど…。今日は違う話があるんだ」
「何でござるか?」
「数日後にさ、カルテットあるだろう? それで二人さえ良ければ組まないかと思ってね」
一年は強制参加とかまたメンドイ行事なものだ。
「自分は構わないなりや」
「済まぬ。某は既に決まってしまったでござる」
なんだ、風魔はもう誰かと組んでたのか。それは残念だ。ただでさえ僕は友人が少ないのに。
あ、自分でも認めてしまった。……今のなしで!
どうしよ。火野はあいつらと組むだろうしな。
「いや、先に決まっていたのだったらしょうがないよ。後二人はどうしようか」
結局、ギリギリになって同じ課の余った奴と組むことになったのだが、それはまた別の話。
◇
──数日後。
放課後の強襲科、僕はたまに訓練としてこっちに来ることもある。
で、なんか火野が一人でいるのを見かけたから捕まえてみたのだけど……。
「で、結局なったんだね、戦姉妹」
「ああ、まあな」
「カルテットも一緒に出たんだって?」
「ああ、まあな」
「聞いてる?」
「ああ、まあな」
「1+1は?」
「ああ、まあな」
「………」
おまえはロープレの村人か!
「で? 結局なったんだレズに」
「ああ…ってなってねーよ!!」
「あ、やっと反応した」
「……うっ」
と思ったらこっちを見て言葉に詰まるし、佐々木が帰ってきた日から火野の様子がおかしい。
まさか、僕を嫌っている佐々木からなんか言われたとか?
いや、それは無いな。今更すぎる。それならもっと早くそうなってるはずだし。
戦妹の影響? いや、それも無いな。そもそも順番が違うし。
うーん。他になんかあったかなぁ?
「…おまえさぁ…」
「ん? 何かな?」
「あ、あのときアタシが…こ、好みって…」
…ああ。
「それか…。いやそれは間宮とおまえだったらという意味だからね?」
文脈からわかるだろ。
なんだ。そんなことで悩んでたのか。
「そ、そうだよな…。やっぱ、アタシみたいな男女──」
「いいんじゃん? 火野はそのままでも。そういうのが好きな奴だっていると思うよ」
「そ、そうか?」
「でも、そんなに考えてくれてたってことはさ。何、もしかして僕脈あり?」
「な! ち、ちげえよ! そ、そう! どう振るか悩んでたんだ!」
「そう、なんだ…。僕は火野のこと好きなのに…」
「え? お、おまえ本当に…」
暗い表情の僕を見て、火野が何だか後悔したような顔で見てくる。
ああ、そうだよ。火野のことが好きなのに──
「友達としてね♪」
ガタンッ!
ズッコケる火野。
なんだ。リアクションが古いね。
「って、やっぱそういうオチかよ!! 一瞬でも心配したアタシがバカ見てえじゃねえか…」
「心配してくれたってことは…」
「もう引っかからねえよ!」
「ちぇ」
「たくっ。おまえは普段めんどくさがりのくせに、変な時に冗談いうよな」
「えー? でも友達として好きなのは本当だぜ?」
「あー、はいはい。ありがとな」
冷たいなぁ。さっきまでの初々しい火野はどこに行ったんだ。
「それに、火野は自分でも男女って卑下してるけどさ。そんなことないと思うよ。可愛い趣味してるし。お人形とか」
「な、な、なんで知ってんだ!!」
僕の肩をつかみ思いっきり揺さぶってくる。動揺しすぎだろ。
「秋、葉原、に、行く、用事があって、そのと、き、にたまたま、おまえを、見つけて…」
「うわー! くそ! 見られてたのかよ!!」
火野はそれを聞くと、僕から手を離し、頭を抱える。
「気にすることないんじゃない? うん、そんな変な趣味でもないでしょ」
それに根本的に気になってたのだけどさ。
「大体、火野ってレズになったんじゃないの?」
それなら、男からの評価なんて関係なくない? 純粋にそう思った僕だったのだけれど。
「何でそうなんだよ!?」
「え、だって──「おねーさまー!!」ほらきた」
お人形みたいな容姿の少女が、これまたお人形みたいなフリフリとした服を着て走ってきた。所謂ゴスロリと言うやつだろうか。知らんけど。
そういや、一つ上の先輩であーゆーの好きな人がいたなぁ。
「麒麟!?」
今話題(どこかは言わん)の少女。島麒麟だった。
走ってきたそのままの勢いで火野に飛びつく。
火野の方も驚きながらそれを正面から受け止める。
「おまえ、なんで強襲科に来てんだよ!」
「お姉様の勇姿を近くで見たくてつい…」
「ほらー、やっぱり百合百合してるし」
「してねぇって!」
すると島もこっちに気づいたのか。
「あら、こちらの殿方は誰ですの?」
「朝霧ソラ。火野の彼氏だよ」
………
………
「はぁ!? ちょ、おまっ、何言ってんだよ!?」
「嘘ですわね」
「なんだ、分かっちゃったか。つまらん」
アホな子かと思ったら、存外冷静だな。からかいがいが無い。
「では改めて自己紹介しようか。朝霧ソラだ。所属は諜報科。火野とはそうだな…
『今は』をあえて強調して言うと、島は思いっきり睨んでくる。この子マジもんだ。
「島麒麟ですの。所属はCVRですが、女性専門ですので男性には興味ありません。因みにお姉様は渡しません」
「ふ、先輩相手にいい度胸だな。だけどそれを決めるのは火野の方だよ?」
「ちょっと、おまえら! 何勝手に言い合ってんだよ!!」
「なんか今日の火野は叫んでばっかりだね」
「おまえのせいだろうが!!」
人のせい良くない。
ガチャン。ダダダッ!
射撃訓練室の扉が開き誰かがそのまま走って出て行った。
「今のって、間宮様…?」
「ああ、でも……」
「──泣いてたな」
何があったんだろうか? 射撃がうまくいかなかったのか?
……それはいつものことか。
ガチャン
もう一人射撃訓練室から出てきた。今度はアリア先輩だ。
「アリア先輩! 今、あかりの奴が」
「…ライカに麒麟、ソラもいたのね」
「ちわーす」
なんだろう、間宮の奴はアリア先輩に的にでもされたのか?
……いや、そんなことする戦姉はレキ先輩だけだと思いたい。
「何かあったんですか?」
「ちょっとね…」
アリア先輩はそれ以上言わなかった。
それが誰のためなのか。
とにかく、この時の僕はこの先に嵐が来る気がしてならなかった。
◆◇◆◇◆
火野ライカ
性別 女
学年 1年
学科 強襲科
武偵ランク B
ソラのクラスメートその3。金髪の髪をポニーテールにしているのが特徴的。顔は美人なのだが、男勝りな性格のせいでまったくモテない。残念美人その2。
自他ともに認める『男女』。
CQCでは同学年の男子相手に負けることが無いほどの腕前。
身長165cm。長身でスタイルは抜群。ほんと何でモテないんだろ…。
口では否定しているが、麒麟のことは結構いいかなって思っている。そしてソラにも反応する辺りバ──(自重)。