武偵ばかりを狙う爆弾魔。
爆弾を遠隔操作で操ることが特徴的。
態々、犯罪者を捕まえる為の職業である、武偵をばかりを狙っておきながら、それでいてこちらの捜査をあざ笑うかのように証拠を一切残さなかった。
しかし、最近になって犯人が捕まったらしい。
なお、武偵諸君は模倣犯の可能性に気をつけよ。
ザーッ!
台風が近づいているらしい。それに伴い連日の雨空。
…雨は嫌いだ。濡れるし、傘を持たなきゃいけないし。
そう、憂鬱な気持ちになりながら、歩いている時だった。
──スッ
黒い女が僕の横を素通りした。
どうでもいいことだ。普段なら、と言うより普通なら気にも留めないことだろう。
すれ違った人すべてを気にかけていたら身が持たないどころじゃない。
だけれど、何故だろう。僕はその時、その女の纏っている空気が無性に気になったのだ。
どす黒い、服や髪と同じようなそんな空気が。
気が付くと、僕はその女をつけていた。
あとで思うと武偵としての直感でも働いたのかもしれない。
女は人気のない路地裏に入ると、そこにはもう一人誰かがいた。
凛とした高い声。どうやらこちらも女性のようだ。
「そうか。夾竹桃、おまえはもうターゲットに接触したのか」
「ええ、妹の方の毒もそろそろ花開くでしょうし。間宮あかりを手に入れるのも時間の問題ね」
間宮あかり…? どうしてここであいつの名前が?
それに毒って…物騒な話になってきたね、うん。
それにもう一人は誰だ? くそっ、陰になっていてここからじゃ見えない。
とりあえず、様子を見て教務科にでも連絡を……
「盗み聞きなんて無粋なことをするのね」
「!?」
気が付くと目の前に黒い女がいた。
6.「これだから武偵高は嫌なんだ」
──アリアが撃たれた。
バスジャック。俺がアリアに約束した最初の事件。
普段の俺を見せることで、アリアから解放されるはずだった。
『武偵殺し』の模倣犯。
思いがけないほど大きな事件になってしまった。
まさか、こんなことになるなんて──
幸いにして傷は浅かった。運が良かったとしか言いようがない。
俺──遠山キンジには秘密がある。
ヒステリアモード──
正式名
この特性を持つ人間は、一定量以上の恋愛時脳内物質βエンドルフィンが分泌されると、それが常人の約三十倍もの量の神経伝達物質を媒介し、大脳・小脳・脊髄と言った中枢神経系の活動を劇的に亢進させる。
まあ、簡単に言うと。この特性を持つ者は、
ただ、この能力にも欠点がある。
元々この力は子孫を反映するためのものらしく、この状態になると、女を守りたくてしょうがなくなってしまうのだ。
そして、耐え難いことにその女に対してキザな、というかとてもカッコつけた態度をとってしまう。ヒステリアモードが解けた時に思わず頭を抱えて悶えてしまうくらいの強烈なやつを。
だから、この能力は本来誰にも知られてはいけない。
特に女子には……
今回、俺はその秘密を守るために普通の状態で戦った。
その結果がこれだ。
アリアはケガをして、肝心の犯人が分からず終い。
……額の傷は痕が残るそうだ。
…最低だ。
何がが最低だって?
そんなアリアに──
仮にも俺を助けて傷を負ったアリアに。俺はお礼も言えずただ苛立ちをぶつけただけだった。
わかってる! そんなつもりじゃなかったんだ。…だが何故かアリア相手だと俺は冷静になれない。
話している最中にわかった。
──アリアは…アリアは俺に似ているんだ。
ただ、俺は逃げて、アイツは立ち向かおうとしている。
それが、苛立たしくて、そんな自分が情けなくて……
◇
「ふむふむ。それは立派に思春期やってますねぇ…」
病院のロビー、そこの隅の方にある椅子に座っている俺は何故か、一人の入院患者?と話していた。
アリアの病室を出た後、重い足取りで病院から出ようとした時に声をかけられた。
その後特に用事もなく、動く気力もなかった俺はつい愚痴を漏らしてしまったのだ。
これがなかなかの聞き上手で、頭が熱くなっていた俺は胸に秘めていたことも話してしまった。
もちろん、HSSのことや事件のこと、アリアの個人名など最低限隠すところは隠したが……
そいつは顎に手を当てて考えるような仕草をしている。
「僕が思うに、それはキンジさんが謝るべきじゃないですか?」
「いや、俺も悪いのは分かってんだ。でも、アイツは──」
「こっちの話も聞かずに、一人で勝手にやっていると?」
「……ああ」
多分、歳は俺よりも下だろう。まだ幼い顔立ち、170あるかないかと言った身長に細身の体。
だが、よく見るとなかなか鍛えられている。もしかしたら同じ武偵高の後輩かもしれない。
漆黒の髪に琥珀色の瞳。顔の造形はかなり整っている。イケメンと言うよりも美人と言う言葉の方が似合いそうだ。
気だるげな眼がそれらを台無しにしている感じがするが……
どこか不思議な印象を持つ少年だ。
「ふーん。で、その彼女さんのことなんですけど」
「彼女じゃない!」
「え、違うんですか?」
「むしろどうしてそう思ったんだよ! 違うに決まってんだろ!」
「んー? ……まあ、あなたがそう言うのならいいですけど」
コイツ納得してねえな。
俺とアリアが彼女だと? 今の話をどう聞いたらそう考えられるんだよ。
確かに、アリアは俺の部屋に泊まったりしたが、それだって無理やりだと言ったんだが。
「……おまえは鈍感系ラノベ主人公かっての」
「何か言ったか?」
「いえ、別に」
なんか、こいつの目が一瞬濁った感じがしたんだが。
「でもどちらにせよ、古来より男女がケンカしたら男が謝るべきだって決まってますし」
「それって誰が決めたんだ? 男女平等はどこに行ったんだよ」
「くすくす。でも女は強しって言いますし。──僕なんか今一番身近な女性には謝ってばかりだし…」
「なんだそれ、彼女かなんかか?」
「いやいやいや! それだけはありえません!!」
おおぅ!? 話している中で一番力がこもっていたな。
そうじゃないのなら。もしかして上司かなんかなのだろうか? だとすると嫌な上司なんだな。
「んー。まあ、そんなもんですかねー。……上司っていうより女王様状態ですけど」
なんだ? 最後の方の言葉は小さくて聞こえなかったな。
というか、なんだかんだでコイツも苦労してそうだな。
「…ま、とにかく。男が謝るべきっていうよりは、結局最初に折れるのが男だって言うべきですかねぇ」
「折れる…ね…」
果たしてそれでいいのだろうか? 実際、このままいけばもうアリアが俺に絡んでくることは無いだろう。当初の目的は達成したはずだ。
だけど…だけど、このままじゃいけないっていう自分もいて。
だが、そんな自分を出すのも嫌で──。
「話を聞く限り、同族嫌悪…とはちょっと違うかな? まあ、とにかく冷静になれなかったってわけですよね?」
「ああ、まあそんな感じだ」
とにかくこれが一番の問題だろう。
仮に、後で謝りに行ったとしてもその時また同じことが起きてしまうかもしれない。
それじゃあ、俺もアリアも損しかない。
「何かが似ている感じがしたんだ…。だけど、アイツと俺じゃ、やっていることが違くて……」
「それって、もしかして相手も感じているのかもしんないですよ?」
「へ?」
「だって、こっちが似ているって思っているのなら、向こうも同じこと思っているかもしれないじゃないですか。冷静じゃなかったのは果たしてあなただけだったのでしょうか?」
その言葉はまるで内側から叩かれたかのように俺の中の芯に響いた。
アリアは俺に期待していた。
……俺も心のどこかでアリアに期待していた。この一度終わってしまった日常を変えてくれるかもしれないと。
俺はアリアの存在に心を揺さぶられた。
……ならアリアも俺に何かを感じたのかもしれない。HSSの戦闘力それ以外に。
「まあ、結論はじっくり考えて出すとして──ゴホッ! ゴホッ!」
「お、おい大丈夫か!?」
そういえば、こいつも入院しているってことは病人なんじゃ…
「いえ、ジュースがむせただけです」
「脅かすな!?」
「失敬」
ケロリとしてやがる。まったくお騒がせな奴だ。
「……チッ、気の制御で誤魔化すにも限界が来たな……」
「?」
たまにボソボソと一人呟いてるし、なんだかよくわからない奴だな。
いや、そもそもこいつが誰か俺は分からないんだが。
「おっと、そろそろ時間のようなのでこれでお暇させていただきます」
「ああ、話し相手になってくれてありがとな」
椅子から立ち上がり出口へ顔を向ける。空の色を見る限り結構話し込んでいたようだ。
「いえいえ、困った時はお互い様です。武偵憲章でも言ってるでしょ? 仲間を助けろって──」
やっぱり武偵だったのか。
「そういや、おまえ名前なんて言うんだ──」
そう振り返った時、そいつはもういなかった。
まるで、今までのことが白昼夢でも見ていたかのように跡形もなく──
「キンジさん」
次に我に返ったのはレキに声をかけられてだった。
……いや、別に気を取られていたのは一瞬だったのだろうが。
「何だレキ。おまえも来てたんだな」
彼女はその問いに、コクンと頷く。
「へえ、おまえもそういうことするんだな」
見舞いの花を持つレキに何だか新鮮味を覚えながら言う。正直意外だ。
「アリアは軽傷だってよ」
「そうですか」
その後、特に会話も無く、レキとも別れた。
だがこの時俺は気付くべきだったのだ。
──レキの持っている花束が二つだったことに。
◆◇◆◇◆
遠山キンジ
性別 男
学年 2年
学科 探偵科
武偵ランク E
本編の主人公。HSSという特異体質を持っており、本人はそれを嫌っている。
HSSのおかげで去年は強襲科のSランクだったが、とある出来事のせいで武偵を続ける気がなくなり、来年からは一般の学校に転校しようとしている。
昼行灯、女嫌いなどのあだ名がある。
身長170cm。中肉中背。
最近アリアにHSS時の自分を見られ、目をつけられる。