鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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符丁毒。
夾竹桃が間宮ののかに2年前に埋め込んだ猛毒。
元々は風魔一党の術だが、数年前に夾竹桃が風魔の子供人質に強請りとった。
毒を受けてから2年後に症状が発症し、視覚、聴覚、味覚…と順に感覚を奪っていく。そして発症後約8日で全ての五感と命を失う。
その分子構造は暗号状になっており、作った本人しか解毒できないようになっている。

因みにソラがうたれた毒は、符丁毒ではなく、口封じのための致死性の速攻毒。


第7弾

──アリア先輩が負傷した。

 

そんな…。

アリア先輩は完全無欠の……

元首席候補の遠山キンジも、狙撃科の先輩もいたのに。

 

一体、一体誰に──

 

「…ふぇぇえん…アリアせんぱい。アリアせんぱい……」

顔がぐしゃぐしゃだ。でも、それを治す余裕はない。

沈んだ雨の空模様。あたしの心を写し取ったかのようだった。

 

「──間宮あかり」

誰?

「!?」

「おいで」

そこにいたのは一族の仇でもある夾竹桃だった。

 

 

 

7.「お姉ちゃんは泣き虫なんだから…」

 

 

 

雨はやまなかった。今もなお、降り続く。

さらに強く──

 

あたしの妹、ののかまで入院することになってしまった。

アリア先輩のいる病院にいるあたしに会いに来た時だった。

符丁毒──二年前、一族が襲われた時から仕掛けられていた巧妙な罠。

ののかは直に五感全てが失われて死に至る。

もうすでに目は見えていない。顔に巻かれている包帯が痛々しい。

 

なんで。なんで、あたしはこんな目にあわなきゃいけないの?

悪い夢なら早く覚めてほしい。

……もう、疲れたよ(・・・・)

 

………

朝、いつもみたいにののかに起こされて。

遅刻しちゃうぞって怒られるんだ。あたしのほうがお姉ちゃんなのに。

そのあと、ののかと一緒に朝食を食べる。昨日スーパーで安売りしてたんだよ、なんて会話をしながら。

そして、ののかは笑ってあたしを送り出してくれるんだ。

いつもみたいに──

 

………

わかってる…。

これが現実なんだ。

このままだと、もうそんな朝が来なくなってしまうかもしれない。

──暗い。みんなの声も聞こえてこない。そこにいるはずなのに。

 

……ああ、そうだ。

ののかを元に戻せるのは──。

ののかの毒を解くことができるのは、夾竹桃…だけ。

夾竹桃からの提案。イ・ウーへの勧誘。

──あたしが…夾竹桃のペットになれば……

ののかを助けられる!

「──なんて、思ってないでしょうね」

「え?」

病室から出ていこうとした時、あたしはその声に呼び止められた。

「それは現実からただ逃げているだけよ」

「アリア先輩…?」

な、なんでここに…?

見られた。どうして?

思考がまとまらない。

まるで悪いことがばれてしまった子供のころのように…。

「まったくソラが変なこと言うから心配になって来てみれば…」

朝霧君が? どうしてそんなことを?

「あかり、あんた敵に接触(コンタクト)されたのね?」

「………」

「あたし、カンは鋭いほうなの」

……? アリア先輩?

「あんたが隠しているのはその敵──夾竹桃だけのことじゃない。自分自身のことも隠してる」

アリア先輩の言葉はあたしを逃がさないように貫いた。

「何もかも隠したまま、何もかも解決できるの?」

………

限界だった。みんなに隠し事をするのも。それを背負って生きることも。

だから──

「……ご…めん。ごめんねみんな」

今まで隠していたもの。私が嘘をついていたもの。

それを全部……。

「……話します。アリア先輩の前で…嘘はつけませんから…」

みんな今までありがとう。

「あたしは元々この学校に入っちゃいけなかった生徒なんです」

……さようなら。

 

 

 

 

お姉ちゃんは全てを話した。

間宮一族のこと。そしてお姉ちゃん自身のことを…

 

「あかり、あんたに初めて作戦命令を出すわ」

──お姉ちゃんを繋ぎ止めてくれたアリアさん。

「作戦コートネームは『AA』アリアとあかりのAよ」

 

そして、夾竹桃の所へ向かった。

夾竹桃のものになるためではなく、夾竹桃を逮捕するために(・・・・・・・)

お姉ちゃんの仲間たちと共に。

 

 

「……で? いつまでそこに隠れているのよ?」

二人きりになったはずの病室でアリアさんは私じゃない誰かに話しかける。

「…バレてましたか」

「バレバレ。全然気配が消せてなかったわ。まあ、あかりたちにはバレてなかったみたいだけど」

出てきたのは見知らぬ男の人の声。

「初めまして間宮の妹さん。僕の名前は朝霧ソラって言います。間宮のクラスメイトだよ」

「えっと、初めまして朝霧さん。私は間宮ののかです。いつも姉がお世話になっております」

あはは。うん、よろしく。そう言う朝霧さんは、声しかわからないけど何だか感じのいい人みたい。

「それにしても悪趣味ね。盗み聞きなんて」

「…聞き耳スキルは諜報科にはデフォで備わっているんでしょうがないです。──それに病室ここの隣なんですよ」

あ、お隣さんだったんだ。

ということはもしかしてケガでもしているのかな。武偵は危険な仕事だし。

お姉ちゃんだってしょっちゅうケガ作ってくるんだから。まったく、女の子なのに。

「そういえば、あんたのこと言わなくてよかったの? あんたも毒されているんでしょ? ──夾竹桃(・・・)に」

え? 朝霧さんも私と同じ…?

「……へえ、なんでわかったんですか? ただのケガかもしれませんよ?」

「カンよ」

「…ふむふむ。それじゃあ…しょうがないですね」

「そうよ。で、何で言わなかったの?」

「…逆に…どこに言う必要があったんですか?」

私の理解が進まないうちに二人の会話は続く。

「あんただって、あかりたちの仲間でしょう」

「…ただのクラスメイトですよ…。大切な妹さんならともかく…ただのクラスメイトを助けるためっていうのは…何だかしっくりこないじゃないですか」

「ただのクラスメイトねぇ…。そのただのクラスメイトのピンチを毒に侵された重い身体引きずってあたしに知らせに来るかしらね」

「…自己保身ですよ。…本当なら…あなたに行ってもらいたかった…くらいです」

よくよく、聞くと朝霧さんの声は少し震えていて何だか苦しそうな感じがする。

「今更だけどあんた寝てなくていいの? 正直こっちが引くくらい顔色悪いんだけど…」

やっぱり、そうなんだ。

って、アリアさんもそんな朝霧さん相手に今まで話してたんですか!?

「…い、いや、正直、独り病室にいても…つまらなくて。…寝てて治るもんでもないですし…」

「…いや、つまらないとかそういう問題じゃないでしょ…」

「ああ、大丈夫です。…せいぜいたまに血を吐くくらいなんで──ゴホッ」

吐いたんですか!? 早速吐いたんですよね!?

「あの、朝霧さんホント寝てた方がいいんじゃ…」

「ん? ああ…心配してくれるの? …間宮妹は良い子だなぁ。礼儀正しいし」

「え? あ、ありがとうございます?」

何だか、褒められてしまった。

「えっと、その。ののかでいいですよ。間宮だとお姉ちゃんもいますし」

「そう? じゃあ僕のこともソラでいいよ。…でさ、ののかちゃんは一般の中学校に…通ってるんだよね? …モテるでしょ?」

「え、いや。そんなことは…」

「またまたー」

全然そんなことないですよ。背も低いし…。

それにライカさんや志乃さんみたいな美人に比べたら私なんて…。

「いやいや、実際ののかちゃんはかわいいと思うよ?」

「か、かわいい…」

「ソラ!」

「あ、アリア先輩すみません。つい…」

「何が、つい、なのよ。あんたそんなナンパな性格だったの?」

「…断固違います。これはノリと言うものです。…日本の文化です」

「そ、そうなの? ヘンな文化もあるのね」

アリアさんそれで納得しちゃうんだ。

外国に住んでいたって聞いてるから、もしかしたらそういうのに疎いのかもしれない。

「…あ、ののかちゃんがかわいいのは本当だよ?」

「やっぱり、ナンパじゃない」

「…だから、違いますってば…ゴホッ! ゴホッ!」

「ソラさん、無理しないでください」

「…大丈夫だってこれでも耐性ある…方だし、…おしゃべりしてた方が気もまぎれるし、それに…」

ソラさんは穏やかな優しげな声で言った。それが私に向けられた言葉だと気付くのは少し後になってのことだった。

「それに、こんなの間宮たちがすぐに解決するんだ……r」

バタンッ!

「…へ?」

ソラさんどうしたんだろう? 途中で言葉を切って。それに今何かが倒れた音が……。

「ちょっと! ソラ!? かっこつけるなら最後までしなさいよ!!」

「え、もしかしてソラさん倒れたんですか!?」

「ソラ! しっかりしなさい! やっぱり無理してたんじゃない! ののか、ナースコールを!」

「は、はい!」

何とも締まりのなく、会話は終わってしまいました。

ソラさん、大丈夫ですよね…?

 

 

後から思えば、この時のソラさんは私の恐怖を和らげるために来てくれていたのだろう。

お姉ちゃんたちのことを信じていなかったわけじゃない。

それでも、これから死ぬのかもしれないと思うと、とてつもない恐怖があったのもまた事実だったのだから。

私にはソラさんが何を言いたかったのかしっかり理解できていた。

ソラさんが私の気を紛らわそうとしてくれていたのを理解することができた。

 

だから──

だから、ソラさんのおかげでもう怖くないって私は思ったんですよ?

 

 

 

 

「このホテルに夾竹桃は泊まってる」

夾竹桃が別れ際に差し出したメモ。

そこに指示されたホテルの前で作戦を立てる。──夾竹桃を捕まえるための。

「あかりちゃんをペットになんて許せません!」

「絶対、とっ捕まえて、ののかの奴を助けようぜ!」

「はいですの!」

ありがとう、みんな。

「そうでござるな。ののか殿たちを助けるためにも失敗は許されぬでござる」

風魔さんもありがとう。

志乃ちゃんもライカも麒麟ちゃんも風魔さんもこんなあたしと一緒に来てくれた。

ののか、絶対に助けてあげるからね!

……ん? あれ?

「…たち?」

「おっと、失言でござった。特に深い意味はないでござる」

風魔さんはたまによくわからないことを言うなぁ。

 

とにかく──

泣くだけのあたしはもう終わり。

これからは自分の足で立つんだ。いつかアリア先輩の隣まで。

そのためにも夾竹桃を捕まえる。

それがあたしの憧れていたアリア先輩──武偵としての姿なんだ!

 

「準備はできた!? 作戦コードネーム『AA』、スタート!」

 

 




◆◇◆◇◆


間宮ののか

性別 女
学年 中学2年
学科 普通科

間宮あかりの2つ年下の妹。姉がドジっ子なのに対し、落ち着いていて礼儀正しい性格。
肩にかかる程度の長さの黒髪。側頭部をヘアピンでとめている。
武偵とは関係のない一般の中学校に通っている。
不器用ながらも頑張っている姉を尊敬している。
身長139cm。あかりと同じくらい。

なんだかんだで、今までで一番ヒロインっぽい。

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