鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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アドシアード。
年に一度行われる、武偵高の国際競技会。
普通の学校風に言えば、インターハイのようなもの。
もちろん競技は、射撃、格闘など武偵高らしいものとなるが。
このアドシアードで入賞し、メダルを獲得すると、武偵大に推薦では入れたり、キャリアで武偵局に入局できたりなど進路がとてもいいものになる。

少なからず戦弟の僕にも影響あるので、レキ先輩も頑張ってください。


第9斬

前回の最後ッ!

イ・ウーとかいう謎の組織の勧誘を受け、意味深なセリフの前に切ってしまった僕だったが…

……実を言うと最後の方は全然意味が分からなかった。

確かに僕はちょっと特殊な体質があるけど、別に犯罪に繋がるようなものじゃないし、何より僕に前科は無い。(これ重要)

電話を切ったのもボタンを間違えて押しちゃったからだし。

なんかゴメンね。僕に悲しい過去とか無くて。

いや、誰に謝ってんのか知らないけど。

電話はリダイヤルしても繋がんなかったし。

本当に何者なんだろうね…えーっと教授さんだっけ?

 

最近また変な宗教が流行ってきたのかなぁ。よくよく考えると、なんかあの人が言ったのって占いみたいに「あなた悩みを抱えてますね」みたいな誰にでも当てはまりそうな感じがしないでもないし。

夾竹桃のことを知ってたのは謎だけど。まあ、情報関係に強いものなら調べることも可能かもしれないし。

その時の僕はそう考えていた。そう考えるようにされていた。

 

 

 

9.「文句言うと、風穴開けるわよ!」

 

 

 

もうすぐアドシアードの季節だ。

とはいっても、ほとんどの一年には関係のない事である。一年から代表に選ばれることなどめったにないからだ。

まあ、そういうの見るのが楽しみな奴はいるだろうが。

ちなみに僕はさほど興味は無い方の人間だ。ただ、今回に限っては、関わりが無いわけではないけれど。

 

「ねえ、ソラ君」

いつもの教室で僕は間宮に声をかけられる。

「どうした間宮?」

「あー、また名字で呼んだ! あかりって呼んで何度も言ってるのに!」

「えー、いや、だってなぁ」

「なんで!? ライカのことはちゃんと名前で呼んでるじゃん!」

退院して以来数回繰り返されたやり取り。

初めのうちはクラスの奴も、なんだ? と見てきたり、変な誤解が飛び合い軽い騒ぎになったりしたが、今はもう随分と落ち着いたものである。

僕が間宮を名字で呼ぶのは別に意地悪しているわけではない。いや、その時のふくれっ面が面白いので、それを見たくないと言えばウソになるかもしれない。訂正、ちょっとだけしか意地悪していない。

だが、それより重要なのは名前を呼ぶたびに殺気を飛ばしてくる奴がいるということだ。

因みに、僕と間宮の仲をからかった奴数人は、その後何故か(・・・)みんなケガをして数日学校を休んだ。

長い黒髪の女が…と、うめき声で漏らしていたとかなんとか…。

事故…だよな…? そうであってほしいところだ。

 

「わかったから。あかり、用件は何だよ」

すると、あかりはパアッと顔が明るくなる。あかりだけに。

それに反比例して後ろにいる佐々木の顔が暗くなったが…。

あかり自身は知らないだろうが(と言うか僕自身が隠したが)、僕はコイツに命を救われている。

だから、正直に言えばこの程度のわがままは何でも聞いてあげるつもりだ。

まあ、言ったら増長するだろうから言わないけど。

「うん。今度のアドシアードでね、アリア先輩がチアをするみたいだから一緒に見に行かないかなって」

──ゾクッ!

尋常じゃない殺気に体が硬直する。

「……ふふ……あかりちゃんとチアの見学…? …男と? …デート……殺す……朝霧ソラ……殺す殺す殺すコロス……ブツブツ…」

「………」

…目がマジだ…。

──おい佐々木、武偵法9条言ってみろ。…お願いだから。

「…あ、あのさ。僕よりもライカとか佐々木を誘った方がいいんじゃないかな?」

だから、佐々木! 早まらないでくれ! 僕はまだ死にたくない!

「うん。もちろんライカや志乃ちゃんとも一緒に行くよ」

──スゥ。

その言葉を聞いて幾らか殺気が収まった。

た、助かった…。

「お祭りみたいなものだし、人数多い方が楽しいかなって。それでソラ君もどうかな?」

「…ああ、でもせっかくだけど悪いな。僕は戦姉の先輩が競技に出るからその雑用を手伝わなくちゃいけないんだ」

「……朝霧ソラ…来なくてよし…!」

別に一緒にいたいわけではないけれど、ガッツポーズ取られるのはまたムカつくな。

「え!? ソラ君って戦姉いたの!?」

「ん? なんだアリア先輩から聞いてなかったのか? 狙撃科のレキ先輩だ。ほら、アリア先輩とそこそこ一緒にいる無表情な先輩」

「あ! あのアリア先輩の友達の…」

ボッチ仲間な。

「そうなんだ。それじゃあ、しょうがないか…」

「悪いなあかり」

「うん。誘ったのはこっちだし。というか最近のソラ君、なんだか優しいね」

「え、えっとそうか? いつもこんな感じだったと思うよ?」

えー違うよー。そうかー?うん。あはは。あはは。

 

 

「──ちょっと、こっちに来てください!」

腕を引っ張られ廊下に連れ出される。そのまま人気のない階段の踊り場の隅に連れてこられた。

女のくせになんて握力だよ。骨が折れるかと思ったぞ…。

「やっぱりあなた、あかりちゃんを狙って!」

「いや、違うから! 前にも言っただろーが、間宮は好みじゃないって!」

「あかりちゃんをバカにするんですか!?」

「メンドクせー! 何て答えりゃいいんだよ!」

もちろん僕を連れだしたのは佐々木である。

「でも、あなたのあかりちゃんへの態度は変わりすぎです。名前も呼んでいるし…」

「名前はあいつが呼べって言ったんだろ」

「以前のあなたならもっと面倒に扱ってました。明らかにあかりちゃんに優しくなっています」

「ほら、アレだよ。その頃はあんまり睡眠取れてなかったからイラついてたんだ。元々僕は優しい性格なのだよ」

「ハンッ!」

鼻で笑われた。佐々木に鼻で笑われた。

いや、確かに優しいは言い過ぎだっただろうけど。

「そんなに変…?」

「ええ、気持ち悪くて鳥肌が立つかと思いました」

酷くね?

「とにかく、あなたの態度の変わりようは異常です。何があったのですか?」

言いたくないなぁ。こいつに言ったら他の奴にも伝わりそうだし。

「本当にあかりちゃんにホレたというのなら…」

いつの間にか持っていた刀を鞘から抜く。おい、マジか…。

「だから違うって!!」

「では何故?」

や、ヤバい! 答え次第じゃマジで斬りかかってきそうだ。

かといって、納得できない答えでも斬りかかってくるだろうし。

「少し落ち着けって、あかりも黙ってないで何か言ってくれよ」

「え? あかりちゃん…?」

僕が後方にはなった言葉に佐々木が振り向いた瞬間、佐々木の間を抜け、逃げ出した。

もちろんここにあかりはいない。

バカめ、武偵がこんな単純なウソにひっかるんじゃありませ──

──シュッ

キィン!

「うおっ!」

「チィ」

危ね! とっさにナイフで受けるのが間に合ってなかったら直撃してた。

防弾制服があっても骨折は確実だぞ、今の。

「お、おまえ、今マジだっただろ!」

「騙すということは後ろ暗いことを思っているのでしょう? まさか本当にあかりちゃんに…」

「だから違う! おまえマジで落ち着けって!」

「……あかりちゃんは渡さない……」

ダメだコイツ。まるで聞いてねえ。

…こうなったら、しょうがないか。

鍔迫り合いになっていた状態から必死に押し返し、距離をとる。

再び振りぬいてきた刀をナイフで受け流し、そのまま佐々木の懐に入ると両肩を抑え地面に組み伏せる。

「落ち着け佐々木!!」

「は、離してください!」

「離したら斬りかかってくるだろうが!」

「当り前です! あかりちゃんを誑かそうとする者は万死に値します!」

「だから、そんな気ないって!」

「と、というか、どこを触っているんですか!?」

「いきなり素に戻るなよ! 別に変なとこは触ってないだろ!?」

「嘘です! 今確かに、む、胸を触られました!」

「触ってないよ! ほら、剣の鞘とかが当たったんじゃないか」

「そ、それは良いので早く離れてください!」

「よくねーよ! マジで触ってないからね!」

「わかりましたから! どいて、ください。もう斬りかかったりしませんから!」

「本当だな!? 本当に斬りかからないよな!?」

「朝霧君じゃあるまいし、そんな嘘はつきません!」

──どうやら、本当に落ち着いてるようだ。

それならばいつまでもこんな体制をしている必要はない。誰かに見られでもしたらことだし──

 

「…あ、あ、あんたら…。こ、こんな所で何してんのよ…!」

甲高いアニメ声、ピンクの髪をツインテールにした少女がいた。

というかアリア先輩だった。

固まる三者。

──問い。女の子を強引に床に組み伏せている男がいます。

何をしているのでしょう?

──答え。レ○プ。

違うからね!?

「アリア先輩…? これはですね…」

硬直から戻った僕は説明しようと試みるが……

「あ、あんたもかーー!!!」

「ゴフッ!」

時すでに遅し、強い衝撃と共にその場から吹っ飛ばされた。

あんたもって何だよ…。

「ソラ! アンタはキンジと違ってそういうことしない奴だって思っていたのに…」

「ご、誤解です。佐々木が急に斬りかかってきたので取り押さえてたんですよ!」

強姦魔にされちゃ敵わないので必死に弁解する。

ほら、刀! そう佐々木を指さす。

「そ、そうなんです! アリア先輩。ちょっと揉め事がありまして」

佐々木も誤解を解いてくれるようだ。

意外に思うかもしれないが、彼女は一度足りとして僕を貶めようとしたことは無い。

根が真面目なのだろう。

いや、だったら脅したり斬りかかったりもするなと言いたいが……。

アリア先輩も僕らの言っていることが本当だと分かったらしく、落ち着いてくれた。

「…いや、よく考えると、斬り合うようなもめ事を起こすこと自体が問題じゃない」

──冷静になりすぎて別の問題が出てきたけど。

「大体、一般教科の校舎は基本的に戦闘禁止よ!」

「……すみません」

はは、ざまぁ佐々木。これに懲りたらもう僕を襲うのをやめるんだな。

「あんたもよ! ソラ!」

「へ?」

「誤解されるような止め方しないようにしなさい!」

「いや、でもそれって僕の責任じゃ……」

「言い訳するなら風穴!」

「すみません」

……理不尽だ! 何で僕まで…。

結局二人仲良く……ではなく仲悪く説教された。

 

 

────

「──ところで、ソラに聞きたいんだけど…」

「えっと、何ですか?」

「やっぱり男って、志乃みたいに大きいのが好きなの?」

大きい…? 佐々木の背は高くないと思うが……。

……あ。

「…何見てるんですか。…いやらしい…」

佐々木は身を抱くようにして僕から距離をとる。

うるさい! 別におまえをそんな目で見てねえよ。……多分。

と、今はアリア先輩に聞かれてるんだった。

「……遠山先輩はそんなこと気にしないと思いますよ」

だってロリコンだし。

「な!? な、なんでキンジが出てくるのよ!!」

「違うんですか?」

「ち、違うに決まってるでしょ!」

「じゃあ、なんで聞いたんですか?」

「と、統計よ!」

何のだよ。

 

というかさらりと流したけど、遠山先輩は誰か襲ったのかよ。

しかも、察するに佐々木並みの巨乳さん。

まじでか。

──この瞬間、僕の中で遠山先輩がロリコンな先輩からロリコンでもある先輩にランクアップした。

 




◆◇◆◇◆


神崎・H・アリア

性別 女
学年 2年
学科 強襲科
武偵ランク S

原作のメインヒロイン。あかりの戦姉でもある。
ピンクの髪をツインテールにした髪型と独特のアニメ声が特徴的。
ヨーロッパにいた頃は一度も犯人を逃したことが無く、検挙率100%という驚異の実績をがある。
武器に二丁のガバメントと二本の小太刀を扱うことから『双剣双銃(カドラ)』の二つ名を持つ。
身長142cm。初対面時、キンジに小学生と間違われた。

後輩の前では大人ぶる傾向にあるようだ。

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