天の道を往き、総てを司る撃槍   作:通りすがりの錬金術師

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裏とか書いてますが、実際は数日後です()


月が煌めいた、その裏で

「……なんなのだ、あいつは!」

 

 

 豪華なテーブルの上に置かれたグラスが女の怒りの矛先となり、テーブルより落ちて砕ける。

 

 

「『カブト』は『ネイティブ』と戦う為に造られた物!なぜガングニールと融合などしてノイズと戦えている!私の知らない機能か!?」

 

 

 さらに、並べられた料理ごと皿も落とされ、床に染みが出来る。

 

 

「……こうなったら他のゼクターを見つけて直接調べてみるしかあるまい。()()()()にコンタクトを取ってみるか」

 

 

 それと、と呟きベッドでスヤスヤと眠っている少女を撫でる。

 

 

「……『カブト』の一撃と絶唱を受けた以上、しばらくは休ませないといけないな。ネフシュタンの恩恵で傷は塞がってるとは言え、これじゃまともに戦えはせんだろう。その分の軌道修正も必要か」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 朝。『天の道を往き、総てを司る女』である響は太陽が昇り始めたくらいに起き、日課の運動を行う。それは休日のこの日も変わらない。

 同室の未来の分の朝食を軽く作る。その食事は簡素なものだが、冷めても美味しいとネットで評判のものばかりである。着替えを入れた鞄を持ち、動きやすいようにジャージに着替えると、未来を起こさないように静かに部屋を出る。

 アップを兼ねた軽いランニングをしながら向かうは、とある立派な日本家屋。そこの表札には『風鳴』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

「ハハハ!!やるな、響くん!だが、今日も俺が勝たせてもらう!」

 

「残念ですが、今日こそは私が貴方を越えてみせる」

 

 

 門をくぐって中に入るとすぐに庭へと行き、縁側に荷物を置くとすでに待ち構えていた一人の男(風鳴 弦十郎)と向かい合う響。二人は特に合図も無しに構えると、同時に拳を放った。

 この二人は割りと似た者同士であり、歳の離れた友人みたいな関係になっているのだ。方や、子供を守り助けたいと言う『OTONA』、方や(天道総司からの受け売りだが)子供は宝物だと認識している『天の道を往き、総てを司る女』。自分を鍛える事も共通していて、二人の手合わせも、響が公園で色々とトレーニングをしていた所に通りがかった弦十郎が興味を持ったのが始まりだ。大男と少女、端から見ると事案に見えなくもない――実際に通報されかけた事もある――が、この二人はトレーニングと手合わせしかしていない。

 

 

「ふっ!」

 

「いい動きだ。だが、甘い!」

 

 

 華麗な足さばきで、一瞬のうちに弦十郎の後ろに回った響はその勢いで全力の回し蹴りを放つが、手だけを後ろに回した弦十郎に掴まれ止められる。自分が動けなくなったのを理解した響は構えを解き降参。この日の手合わせも弦十郎の勝利で終わった。

 次こそは勝つと響はひっそり誓いシャワーを借りてから、公園へと向かった。そこで昼頃まで一人でトレーニングをし、終わると昼食を食べに商店街へと歩いていった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「……休みって何すりゃいいんだ?」

 

 

 フィーネにしばらく休みなさいって言われたからフィーネの家で寝てたんだけど、今日はとても大事な来客があるから昼から夕方までは外で過ごせって言われた。ただ、アタシはこういうときに何をすればいいのか全くわからない。

 

 

「とりあえず腹減ったな……なんか食うか」

 

 

 お金もフィーネが好きに使えって渡してくれた。諭吉を5枚。……こんなに必要なのか?

 近くの美味しそうな臭いのする店――お好み焼き屋か――に入る事に。

 

 

「痛ッ!?気を付けろ!」

 

 

 店に向かって歩いてると、後ろから勢いよく走ってきた奴がぶつかって来て、あたしは躓いて転けかけた。つい怒鳴ったけど悪いのはあっちだしいいよな?無視して走って行きやがったし。

 

 

「あら、いらっしゃい」

 

「あ、ああ……」

 

「席は……そうだね。響ちゃん、隣いいかい?」

 

「構わない」

 

「じゃあ、こっちにおいで。ほら、そんなとこで突っ立ってないで」

 

 

 店のおばちゃんに従って言われた席に座る。隣の奴が食べてるものがとても旨そうだな……。

 

 

「さて、注文は何にするんだい?」

 

「あ、えっと……」

 

 

 注文、注文……何が美味しいんだろう。こういう店は初めてで何頼んだらいいんだ?

 

 

「私のオススメはキャベツ大盛の豚玉だ」

 

 

 悩んでたら隣からそう言われたからそれを頼む事にした。すぐにそれは焼き上がり、アタシの前に出てくる。

 

 

「い、いただきます」

 

「はい、どうぞ」

 

 

 箸を握ってお好み焼きを刺して持ち上げ、齧り付く。ん、これは……!旨ぇ!ふわふわとキャベツのしゃきしゃきが上手い具合に……。とにかくガツガツと口にいれていく。

 

 

「ふふふ、中々いい食べっぷりだね。おばちゃん気に入ったよ」

 

 

 そう言われて出てくるもう一枚のお好み焼き。おい、アタシ頼んでないぞ!?

 

 

「心配しなくてもおばちゃんからのサービスだよ」

 

 

………それなら遠慮なくもらうけど。

 で、アタシは2枚を食べてお腹いっぱいに。隣の奴は合計で5枚を食べたらしい。たぶんアタシと同い年か前後だろ?よく食べれるな……。

 

 

「じゃあ、お会計ね」

 

「ああ、金なら……あれ?」

 

 

 ん?おかしいな、店に入る前は確かに5枚の諭吉があったんだが……。確か服のポケットに突っ込んでたはず……。何でないんだ!?まさか、ぶつかってきたあいつか!?嘘だろ!?

 

 

「どうしたんだい?」

 

「ああ……いや、ちょっと待ってくれ……」

 

 

 ええっと、こういうときはどうすれば……。フィーネに連絡?ダメだ、大事な来客があるって言ってたし、連絡先知らないし。てか、絶対怒られる。

 どうしようか慌てていると、さっきまで隣で食べてた奴がいくらかのお金を置いて、アタシの手を掴んで引っ張っていく。

 

 

「ほら、行くぞ」

 

「待て、まだアタシはお金払って……」

 

「今払った」

 

 

 え?

 混乱しながらもアタシはどんどん引っ張られていく。こいつ、力強くないか!?公園まで来たところでやっと手が離された。

 

 

「お前、何を!」

 

「お金、なかったんだろ?」

 

「ち、違え!……盗られたんだよ」

 

 

 なんだ、こいつ。見ず知らずのアタシを助けたり、何がしたいんだ?

 

 

「食事は一期一会。毎回毎回を大事にしろ」

 

「……いきなりどうしたんだ?」

 

「私が世界で一番尊敬している人が言っていた言葉だ。おばちゃんのお好み焼きは美味しかったか?」

 

「あ、ああ……」

 

「本当に美味しいものを食べられる機会はそう多くない。そんな時にお金が無くて御用になるのは、誰だって嫌だろう」

 

 

 それは……って、こいつまさか、それだけでアタシの分のお金払ってくれたのか?

 

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 そいつは気にするなと言わんばかりにアタシに背を向けて歩いていった。この借り、いつか返さねぇとな。

……ってかどこかで聞いた声な気がするんだが、どこだったか?

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

「デュランダル……ですか?」

 

「ああ。ここ二課本部の最下層区画『アビス』に保管されている完全聖遺物だ」

 

 

 日本政府からの命令で、近々それを移送する事になりそうだって事を教えられた。最初の話はこの前響と戦っていたネフシュタンの鎧の話だったのに、何でこんな話に……。私が他に完全聖遺物って何があるんですか?って聞いたからか。ちなみに完全聖遺物は使用するのにもフォニックゲイン……歌が必要なシンフォギアと違い、一度起動したらずっと動き続け、誰でも使えるのが特徴みたい。

 

 

「なるほど……。ところで了子さんは?こういう話って了子さんの専門だと思うんですけど……」

 

「永田町さ。朝早くから政府のお偉いさんに二課の防衛システムの安全性などを説明しに回っているんだ。少し時間がかかり過ぎな気はするがな」

 

「大変なんですね……」

 

 

 私も出来る事をやらないと……。だったら、まずは……。

 

 

「あの、奏さん!」

 

「ん?どうした?」

 

「私を……鍛えてください!翼さんや奏さんに並び立てるように、みんなを守れるようになるために!」

 

 

 同じ装者の先輩である奏さんに頭を下げて頼み込む。強くなるにはたぶんこれが一番!

 

 

「あー……あたしは人に教えるってのは苦手なんだが……まあ、やれるだけやってやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「よし、では奏が仕事でいない間は俺が手伝おう。俺は大人だからな、ケガの心配などせず全力で来るといい。」

 

 

 弦十郎さんまで……。ありがとうございます!

 

 

 

 ところで、なんで奏さんは顔を青くしていて、二課のみなさんは私に向けて合掌しているんですか?すぐにわかる?なんですか、教えてくださいよ!

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

「―――だ」

 

「なるほど、―――」

 

「―――。ならば手配は任せたぞ」

 

「ええ、これも人類の相互理解の為に」

 

 

 数人の男と一人の女の話し合いが終わり、男たちが帰り一人になると、女は着ていた服を脱ぎ捨てる。

 

 

「ふん、忌ま忌ましい奴らだが駒としてはちょうどいいか。『カブト』もいるのだ、奴が倒さなくても私が消せばいい」

 

 

 女――フィーネ――はグラスに注いだワインを飲みながらそう吐き捨てる。

 

 

「ああ、後は()()の用意もしておくか。素体は……適当に見繕えばいいな」

 

 

 そして女は自分の部屋へと戻り、謎の装置を稼働させた。その後、いつもの服装へと着替え館を出ていった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……げ、弦十郎さんって、ほんとに、同じ人、間なんで、すか?はぁ、はぁ……」

 

 

 おかしいですよね?どうやって足踏みだけでコンクリート粉砕してるんですか、なんでシンフォギアを纏った奏さんの一撃を指二本で止められるんですか、ビームを発勁で掻き消したってどういう事ですか!?

 

 

「気にしたら、負けだぞ……。旦那の、身体能力は、化け物、レベルだ、からな」

 

 

 しかも私と奏さんは息を切らせて寝転んでるのに、弦十郎さんはほんの少しだけ汗をかいた程度。信じられない。どんなトレーニングをしたらあんなのに……。きっと想像もつかないほど過酷なのだったんだろうな……。

 

 

「俺の鍛練法だと?決まっている。飯食って、映画見て、寝る!男の鍛練はそれで十分よ!」

 

「………え?」

 

 

 聞いたら返ってきた答えは違う意味で想像を越えていた。いやいや、まさか。それだけで出来るはず……。

 

 

「未来、残念だが事実だ。後、あれは旦那にしか出来ない鍛練法だからな。決して真似するなよ」

 

 

 ここって魔境なの?……あ、異端技術扱ってる時点で、機密情報の塊って意味では魔境だった。それとツヴァイウィングのマネージャーをしている緒川さん。あの人は現代に生きる忍者だった。目の前で分身したり、空蝉っていう術を使われたりしたら信じるしかないよ……。まさか、了子さんも謎技術持ってたりしないよね?

 

 

 

 

その頃の了子さん

 

 

「へっくしゅん!……誰か私の噂でもしてるのかしら?」

 

 

その頃の了子さん、終わり

 

 

 

 気づけば夕方。ノイズの反応も特に出なかったから今日はもう寮に戻ることに。割りと遅い時間まで訓練してたんだな……。ってそういえば、今日は朝から響に会ってない!?いつもは学校で会うんだけど、休日だから二課に入り浸ってたから。連絡もしてないし心配してるかな?

 

 

「ただいま~」

 

「お帰り」

 

 

 部屋に入ると、響が晩御飯を作っていた。どうやら今日の晩御飯はハンバーグらしい。もちろん、響が手ごねで作ったもの。それを二人で食べて、今日の事を少し話して就寝。私の事はほとんど話せないから基本響の話を聞き出すくらいなんだけどね。

 

 私たちはお互いに秘密を持っている事を知っている。でも、私は響にそれを話せない。響なら大丈夫だとは思うけど、危害が加えられるかもしれないと思うと怖くて。響はもし、私がシンフォギアの事を話したらあの鎧について話してくれるかな?あの日に話してくれるとは言ったけど………。




色々と詰め込んだ幕間的な話でした。

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