授かりの英雄には精霊の従者がついている   作:修行者‪α‬

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1.5.幕間・施しの英雄と働き者の従者ちゃん

「・・・・・・最近忙しくしていらっしゃいますね。少し心配です」

 

 冬木、フランス、ローマ。三つの特異点を乗り越え、カルデアに滞在する英霊達も増えた。英霊にとって食事をするということは趣味の範囲だが、折角現界したのだ。出来ることなら生きていた頃と同じように生活してもらいたい。

 まぁ、当然頭数が増えれば、用意する食料の量も増える訳で。

 

 賑わう厨房と倉庫の間をするりとアサシンらしく抜けて行ったり来たりをする小柄な少女の姿をしたサーヴァント────アドルシタもまた昼前の準備に駆り出されている。マシュの記憶からすると彼女は今朝からアーチャーのエミヤやブーディカを伴って食材を求めに特異点に三度ほど赴いていた筈なのだが、彼女に疲労というものはないのだろうか。

 生前は従者をしていたという経歴通りに真面目な働き者────若干働き過ぎな気もするが───それが彼女から受ける印象だった。

 

「多分、大丈夫じゃないかな・・・・・・うん、今のところは」

 

 手伝おうかと申し出た事があるが、私の生き甲斐を奪ってしまわれるのですかマスターとこの世の終わりでも見たかのように震える彼女を見てしまっては何も言えない。自分からやってみたいと言った時は快くOKを出してくれたので要は言い方なのだ。

 本当に駄目な時はストッパーのカルナが止めてくれるだろう、と立香は苦笑する。

 

 水晶の関係で縁があったのだろうか、彼が来た時期は早かった。

 

「部屋は何処だ」

 

 召喚されてアドルシタと初めて顔を合わせるが否や彼が発したのはその一言だった。

 

 誰の?疑問符が浮かんだのは一瞬で。

 ああ、カルナの部屋ならと廊下の先を指差して───その後の彼の行動に驚いた。

 それこそ猫のように金の首輪をうなじからむんずと掴んで────首が締まるのでその際は胴を抱え込むことも忘れずに────自室のベッドに放り込んだ。

 初めは扉を開けようと、あるいは霊体化しようとしていた彼女だったが、扉の前に座ったカルナが何かしたのか部屋の外には出れないようだった。

 

「・・・・・・カルナ、開けなさい」

「おまえが寝るまでオレは休息を取らない」

 

 つまり、充分休まない限り自室に入らず扉の前から一歩も退かないと。

 

 精神的疲労はあるとはいえサーヴァントに休息は基本必要ない。それがどうしたとでも返ってきそうだったが・・・・・・これが、存外彼女には良く効いた。

 結局、彼女が眠りについて夜が開けて朝になるまでカルナは自分の部屋に入ることもなく不寝番をしていた。

 寝ると言ったでしょう!と珍しく怒りを顕にしたアドルシタはその先一週間、気配遮断をフルで使ってカルナを徹底的に避けていた。

 それが全く堪えていないどころか、注視してやっと分かるほど僅かに口元を上げて満足気な様子の当人曰く、

 

「オレの身にそこまでの価値があるとは思えないが、そんなオレでも交渉材料になるならば使うさ」

 

 だそうで。

 

 あまりにも衝撃的な出来事であったため、今でもあの時のことを鮮やかに思い出せる。

 あれから同じ手口を立香も使うようになったのは言うまでもない。

 アドルシタ自身もカルナとの一件で働き過ぎを自覚したのか、元から自覚していたのか素直に聞いてくれるようになった。

 

 詳しくは知らないが彼等は生前十三年ほど共にいた事があるらしい。

 賓客としての扱いでアドルシタは招かれていたのだが、今のように隙あらば働こうとするのでドゥリーヨダナが苦労していたとの事。適当に用意した眠り薬を盛ってやっと大人しくなったらしい。現代ならずとも立派な犯罪だが、政敵を燃えやすい家と共に焼死させようとした前科があるドゥリーヨダナには今更であろう。

 

 アドルシタは自分の状態に気を配らない。

 ・・・・・・というより、あえて無視をしているのかもしれない。

 

 立香の見つめる先には珍しく食堂の椅子に座ってコーヒーを飲むキリーティの姿。

 誰かが部屋に篭っているのは不健康だと連れ出したのだろう。僅かに眉根に皺が寄っている。

 

 見えないとは言え、アドルシタは彼の側を通ることを避けていた。意図的か無意識かは判断しかねるが、視界に入るとそっと背を向けるのでとても分かりやすい。

 

 仕事中はもっと顕著だった。戦闘中は微塵もそんな様子は出さないが、その代わり彼を気にする暇もないくらいに働く。

 気付いたら次の日のその次の日の分の食材まで取ってきて仕込みまでしていて、エミヤから感謝されると同時に見かけたら休んでいてもいいからもっと他を頼れと諭されていたのを思い出す。

 

 ────どうにもならないけど、どうにかならないものかなぁ。このふたりは。

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