伝説の勇者の爺共   作:ケツアゴ

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開幕!

「あわわわわっ! だ…大丈夫なのでしょうか!?」

 

「エリーゼが心配しても仕方ないし、君には他にやるべき事が有るんじゃないのかな?」

 

 フェンさんが帰ってこないまま迎えたレース当日、スクゥル君が心配で朝ご飯も落ち着いて食べられない私に璃癒はハムやチーズを挟んだパンを差し出して来ました。

 

「一番心配しているスクゥル君のパートナーは、あの子が他の誰でもなく選んだ相手は誰? ほら、やるべき事が見えてきただろ?」

 

「……はいっ! 私、行ってきます!」

 

 そうです。フェンさんが優勝できないなら万が一にも偽勇者が優勝してハティルちゃんがボリック伯爵と結婚しないように彼を励ましてあげるのは私の役目でした。

 

「璃癒、やっぱり貴女は勇者です」

 

「?」

 

 本人は訳が分からないって顔ですけど他者を奮い立たせて導く才能を貴女は持っているのですよ。

 

 私は璃癒が差し出したパンを片手にスクゥル君の所まで走っていく。彼女ほど人を元気付けられる自信は有りません。でも、私がすべき事なのです。

 

 

 

 

「……ううん、違います」

 

 道中に色々な励ましの言葉が浮かんでくるも頭を振って追い出す。私が言葉を発するのは頭の中のスクゥル君じゃなくって目の前にいる一人の人間。だったら顔を見て浮かんだ言葉を口にするべきです。

 

 今はスクゥル君に会うことだけを考えていた私の耳にスクゥル君の声が聞こえてくる。慌てて近寄った私の目の前にはギーシュちゃんと一緒に騎乗の訓練をするスクゥル君の姿でした。

 

「よし! もう一回だ、ギーシュ!」

 

「グルルルルッ!!」

 

 設置された障害物を飛び越えて砂時計の砂時計の砂がなくなる前にコースを一周する。私に気が付かないで一生懸命で、だけどお父さんが居ない不安から無理をしているのでもない。

 

 

 

「……やっぱり男の子ですね」

 

 よく考えれば私が最後に会ったのは二年前。ならずっと成長していて当然ですよね。これは心配して損をしました。じゃあ、タオルとお水の用意でもしてあげましょう。

 

 少しだけ寂しい気もしますが、今は喜んで後押しをする時。逆に私がレースで足を引っ張らない為にも使えそうな魔法の復習をしないと駄目ですね。

 

 

 

「……あーあー。男の子って直ぐに大きくなるから卑怯です」

 

 でも、叶うならあの姿をハティルちゃんにも見せてあげたいなあ……。

 

 

 

 

 

「流石に心配だから俺が探しに行ってくるぜ。頑張れよ、璃癒!」

 

「あははは。メインはセウス君だからね? 空也お祖父ちゃんなら安心だよ。じゃあ、僕が一位でゴールするまでには帰ってきてね」

 

 レース開始間近、そろそろ出場者の集合時間の会場近くで私達は空也さんの見送りをしていました。偽勇者が関わっているかも知れないのでレースに出ない仲間を警戒して示現さんは残って見学で出発前まで二人で話し合っていました。

 

 少し揉めてましたけど璃癒の活躍を見たいから。愛してくれる家族が居るって羨ましいなあ……。

 

 

「嬢ちゃんも頑張れよ! 二人で一位二位を独占だ」

 

「はい! 力が及ぶかどうかは分かりませんが全力で頑張ります!!」

 

「いい返事だ!」

 

 私の頭を璃癒さんにするみたいに大きな手が撫でる。嫌な気は全然しなくって、逆に安心します。これが英雄である大賢者の……いえ、孫想いの優しいお爺さんの手なんですね。ちょっとだけ家族が居る気分を味わえた気がします。

 

 

 

 いよいよ大騎獣レースの開幕、居並ぶのはガルムの戦士が乗るドラキリーを始めに足の速さで知られたモンスターとそれを使役する壮観なる顔触れです。

 

「……えっと、私って場違い……いえっ! メインはあくまでスクゥル君です!」

 

「そういうのは心の中で呟くものだよ、エリーゼさん? パートナーの自信のなさはプレッシャーになるんだからさ。

 

 は…はぅううううううううっ! またセウス君に。呆れられました。この子には情け無い所ばっかり見られている気がします。い…何時か良い所を見せてみせるんですから!。

 

「まあ、場違いなのは他に居るけどね……」

 

 私に向ける以上に呆れた視線を通り越して軽蔑と嫌悪の視線を向ける先、そこに偽勇者リュートの姿が有りました。

 

 

「おいおい、最強の戦士が居ないって聞いたぜ? ひゃははっ! 俺にビビって逃げたんなら野生の勘が鋭いな。流石は獣の親玉だぜ!」

 

 狼の獣人(ルー・ガルー)の祭りのイベントでの獣人への蔑視発言。減少傾向になりつつありますが一部に残る獣人差別。さっき到着したばかりなのに既にお店での横暴な振る舞いは耳に届いています。お金を払わなかったり助かのお客さんに因縁を付けたり、勇者の肩書きと伯爵の後ろ盾で好き放題だと聞きました。

 

「俺が優勝したら族長の娘は伯爵の妻……いや、狼だから飼い犬か? 後ろから犬らしく犯されて良い声で鳴きそうだな!」

 

 あんな人が勇者を名乗るなんてっ!

 

 この場にいる他の出場者さん達も彼には嫌悪を感じているみたいでした。名誉、矜持、挑戦、優勝によって与えられる権利よりも勝つことや出場する事を重要視する方が多いこのレースにおいて彼みたいな相手を見下しているだけの態度の方は気に入られなくて当然です。

 

 ですが、その一方で彼が操る騎獣に注目が集まっていました。秘境の奥地に生息し、強い縄張り意識から人前には殆ど姿を現さず、現せば町一つ滅ぼされると伝わる血の如き赤黒い鬣と双角の黒馬バイコーン。少し離れた此処にも邪悪で禍々しい気配が伝わり、皆さんも警戒していて注目こそすれ声を掛ける人は居ません。

 

 何せ勇者一行すら苦戦したとの伝説が残るモンスターなのですから……。

 

「な…何であんな人が使役を?」

 

 ただ単純に倒せるだけでは騎獣には出来ません。ガルムのドラキリーみたいに比較的温厚な種族を生まれた時から世話して絆を深めるなら兎も角、屈服させて従属化するには相手よりもずっと上の力が必要なのですから。

 

 リュート ナイト Lv17

 

 私は勇者召喚を行った恩恵で高度の鑑定能力を得ています。彼が最上級クラスの偽装系魔法でステイタスを偽っていない限りバイコーンを従えるのは不可能なはずなのに……。

 

 

「……あの脚に填めた黒い輪っかが怪しいね。妙な力を感じるよ」

 

 セウス君の言葉に釣られてバイコーンの脚を見れば確かに不自然な輪っかが。何も考えなければ変哲もない飾りに思えたのでしょうが、一度疑いを持ってみれば何やら嫌な物を感じます。バイコーンも含めて少なくても真っ当なルートでは手に入らない品の筈。伯爵の力で手に入れたのでしょうが勇者の名を汚す行為に他なりません。

 

「こうなったら一言何か……」

 

「ねぇ、エリーゼ。あの格好、馬鹿みたいだと思わない? ぷぷぷっ!」

 

 さっきから妙に黙っていると思ったら笑うのを我慢していたみたいで、璃癒は堪えきれずに吹き出してしまいました。確かに頭の魚みたいなのは変ですが、あれって地球では普通の飾りじゃなかったのでしょうか? 確か文献で見たことがありますけど。

 

 

「違う違う。あれってお城の屋根の飾りの鯱のつもりなんだろうけどさ……馬鹿みたいで笑えるよ。……あれだけ得意そうにしているんだ。思いっきり負かしてやろう」

 

「はい!」

 

 

 

 ……所で地球について詳しすぎる発言をセウス君達にも聞かれていますけど大丈夫なのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは今から大騎獣レースを開幕する。各人用意……始めっ!!」

 

「ブモォオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 銅鑼の音が響き渡り、横一列に並んだ出場者が走り出した時、バイコーンが嘶きながら前脚を振り上げて地面に振り下ろす。轟音と共に蜘蛛の巣状に地面が砕け、衝撃波が砕けた大地の欠片を巻き込みながら広がっていった。間近にいた者達は崩れる地面に巻き込まれ衝撃波の直撃を受ける。少し離れていた者も迫り来る衝撃波から逃げ切れずなぎ倒される中、惨状を引き起こしたバイコーンは悠然と駆け出した。

 

「あばよー! ノロマは後からのんびり来いよー!! ひゃははははっ!」

 

 倒れ伏す者達を躊躇いもなく踏みつけながら疾走するバイコーンの背中からリュートの嘲笑が響き渡り、通った後には踏み砕かれた出場者達の死体が転がる。この時点で臆する者は足踏みをして出遅れ、臆さずに進み出た者達は全力で後を追う。波乱の幕開けとなったレースを制するのは誰かと観客がざわめく中、示現は顎に手を当てて選手達の背を見つめていた。

 

 

「このまま俺の優勝だな。どんな女かは知らないが、伯爵は女の趣味は良いし使った後で俺も……」

 

 野卑た笑みを浮かべるリュートを乗せたバイコーンが駆けるのは荒野。小さな坂が幾つも点在する上に草や大きな石が無数に転がって走るのが難しい場所だが、バイコーンは全てを踏み砕きながら突き進む。後続集団も最初の衝撃派によってスタートダッシュを狂わされるも追い付きつつあった。

 

 バイコーンの速度を考えれば本来は追いつけない。だが、リュートの力が足を引っ張って全力を出せないが故の結果だ。そして坂を駆け下りようとしたリュートの頭上を黄金の疾風が通り過ぎた。

 

 

「お先ー!」

 

 バイコーンの前方に着地したジークは一瞬で加速、徐々に距離を開けながら去っていくその姿を見たリュートは固まっていた。

 

 唖然とするリュートの耳に届いたのはジークの幼い声だ。元々が食べて寝て遊んでいれば幸せな幼子であり、自分の足の速さを自慢する意図こそあれど馬鹿にする気など無かった。

 

「……殺す」

 

 だが、リュートはそう受け取らない。元が素行不良で騎士の厳格な規律に適応できずに逃亡した落伍者の一人。多少の腕っ節はあったので荒事で日銭を稼いでいた結果、バイコーッという分かりやすく大きい力を手に入れた。

 

 他人を平気で騙す者は他人を信じるのが苦手なケースがあるが、力に酔って他人を見下していた彼はジークが自分を見下していると感じ取った。

 

 額に青筋が浮かび、屈辱で、手綱を持つ手が震える。思わず右手を振り上げた時、足下の穴を飛び越えようとバイコーンがジャンプした。

 

「へ?」

 

 リュートの乗馬の腕は拙い。バイコーンが命令によって暴れないので全速力でなければ何とか乗れていたが注意散漫の状態の上に片手で握った状態で飛び跳ねればどうなるかは自明の理。

 

「ぐぇ!? がぁああああああっ!!」

 

 突然の浮遊感の後、蹄によって荒れた堅い大地に背中から叩きつけられた。肺の中の空気を吐き出して悶絶するリュートの横を後続組が通り過ぎていく。ただ視線を送っただけなのだろうが彼には見下されているように見えた。

 

「く…糞っ! は…早く戻って来やがれっ!」

 

 一匹で先に進んでいたバイコーンに指輪を通して命令を下し呼び戻す。背中の痛みが凄まじく直ぐに出発が出来そうにない状態のリュートは先に進んだ先の者達の背中を睨み付けるも直ぐに嘲笑に切り替えた。

 

 

「……まあ、良いさ。この先にはたっぷり罠を張ってるからな。ひゃははは!」

 

 

 

 聴覚を遮るほどの水音と視界を奪う水煙。絶景と褒め称えたくなるほどの大瀑布。幾つもの河が合流した水流は凄まじく、朧気に見える向こう岸に渡るのは下流の橋を渡るか、モンスターの襲撃や流されるのを覚悟して泳ぐかのどちらかだ。

 

 

「レースは長いんだ。橋で行こう!」

 

 スクゥルは他のガルムの出場者に混じって橋を目指すギーシュはまだ若い個体で身体も未熟だが他の戦士の乗る同族と張り合えている。その理由は紅く光った脚、エリーゼの脚力強化魔法の力である。

 

「あ…あのっ! レースで使用して本当に良かったのでしょうか?」

 

「相棒をサポートするのもガルムの戦士の役目だから大丈夫。俺達にとって騎獣は乗り物じゃなくって仲間だからさ」

 

 ガルムの戦士の殆どが橋を渡る迂回ルートを選択したのもそれが理由だ。相棒を信頼しないのではなく、明日も明後日も何年先も共に戦うために避けるべきリスクは避ける、それが彼らだ。一部の血気盛んな若者や水中での動きを得意とするモンスターを手懐けた者は直線ルートを選択したが、彼らは彼らで全員が迂回したらメンツが潰れるという訳有っての事で蛮勇では無かった。

 

 

「……出て来たっ!」

 

 この時期、この橋にはとあるモンスターが出現する。蒼白いオーラに包まれ苦悶に満ちた人の頭、溺死や水棲のモンスターに襲われて死んだ者達が現世に留まった存在。死霊系に分類されるウォーターレイスである。

 

 厄介な特製として死霊系は物理攻撃の効果が薄く、ウォーターレイスの場合は攻撃を受けても水滴になって散らばって直ぐに再生する。倒すには特別な儀式を施した武器か魔法しかない。

 

 

「ウォアアアアアア!!」

 

 もはや自我など欠片もなく、本能で生者を襲って仲間に引き込もうとする邪悪な存在。うなり声を上げながら向かったのは幼い魂を持つスクゥルの所だった。

 

 だが、彼と共にギーシュに乗っているのはエリーゼ、神官職のクラスの所有者。戦いにおいては死霊系の相手を最も得意とする者達だ。哀れみを込めた目でウォーターレイスを見たエリーゼはロザリオをそっと握りしめ聖獣王に祈りを捧げる。

 

「彼らの魂に救済を……」

 

 

 

 

 そして殴った。拳をウォーターレイスの顔面に容赦なく叩き込んだのだ。

 

「ホーリーパンチッ!!」

 

「えぇっ!? エリーゼさん、素手じゃレイスとかは……って浄化されているっ!?」

 

 拳を真正面から受けたウォーターレイスは水ではなく光の粒になって昇天する。スクゥルは驚くもエリーゼは得意そうに拳を構えた。

 

 

「本で読んで覚えた魔法ですっ!」

 

「絶対魔法じゃ無いよねっ!?」

 

「でも現に浄化されていますよ? ホーリーパンチ! ホーリーパンチ! ホーリーチョップ!」

 

 目の前の光景からして納得するしかないが納得したくないとスクゥルが思った頃、直線ルートを選んだ選手にも動きがあった。

 

 

 

 

「……フェンの奴が出場していないとはな」

 

 直線ルートの先陣を切るのはアメンボの様に水上を移動して水中でも効果が落ちない粘着質の糸で魚などの水棲生物を捕らえる蜘蛛型モンスターのフィッシャーギアに乗った男の名はハイル。傭兵であり、十五年前に民族間の抗争でフェンに敗れた男だ。

 

 彼の目的は優勝してフェンと一騎打ちを行うこと。出来ればレースでも勝っておきたかったが仕方がないかと前を向いていた時、彼の背後の水面に水色の触手が突き出した。水中から伸びて忍び寄る触手には無数の吸盤が存在し、ハイルの体に絡み付く。

 

「ぐっ! 馬鹿な、レッサークラーケンだとっ!?」

 

 水中に落ちたが咄嗟に触手を切りとばしたハイルは浮かんできた十メートル程の水色の大イカのモンスターに驚かされた。本来は繁殖期か攻撃でもされない限りは魚や水死体にしか手を出さない大人しいモンスターの筈。何処かの馬鹿が手でも出して刺激したかと相棒であるジキドの背中に這い上がろうとして足を引っ張られる。

 

 彼の足に水棲の肉食馬であるケルピーが噛み付いていた。足だけでなく腕にも胴体にも次々に噛み付いて水中に引きずり込む。最後に彼が目にしたのは胴体に巨大な一つ目があるレッサークラーケンの足の一本、その付け根に嵌まった黒い輪っかであった。

 

 

 

 

 

「うふふふふ。ナミラ大活躍ですぅ。でも、リュートは何しているんですかぁ?」

 

 大瀑布の直ぐそば、崖の上からレッサークラーケンを操れるナミラはスレイブリングと対になる指輪を撫でながら未だ来ないリュートに不満を覚えながら岸に視線を送る。一番先に到着したにも関わらず立ち止まったままのジークであり、此処からでは怯えているのか何か理由があるのか判別できない。

 

 

 

 

「アイスクリエイション!」

 

 そしてセウスは当然怯えて立ち止まったのではなく、大規模な魔法を発動させる魔力を溜めていたのだった。杖の先から一直線に純白の冷気の奔流が溢れ出して向こう岸まで到着する。疲れたのかセウスが杖を下ろした時、目の前には氷の桟橋が完成していた。

 

 

「凄い凄い! セウス君、天才だねっ!」

 

「お兄ちゃん、すごーい!」

 

「うん、でも大規模すぎて疲れたし維持に集中力がいるから迎撃は頼んだよ?」

 

 次々に褒め称えてくる璃癒とジークに戦いを任せたセウスが合図すると同時にジークは氷の橋を駆けだし、ケルピーが群れで飛びかかってくる。

 

「せいっ!」

 

 璃癒の剣が先頭の一匹の首をはね飛ばし、脇を締めて引き戻した剣の先で二匹目を串刺しにする。最後にジークの背中の上に器用に立って三匹ほど纏めて蹴り飛ばせば残りは逃げ出した。

 

 だが、側面からはレッサークラーケンが迫りつつある。触手を切り飛ばしても臆さず向かってくる巨体にジークの顔の一個が向き口内から赤い炎の奔流を放つ。巨体を貫通し大瀑布の裏の岩肌に幾分かの破壊の痕跡を残して漸く消え去った。

 

 

「僕のフレイムジャベリンより上だね、あれは」

 

「仕方ないって。勇者でもレベルは低いでしょ?」

 

「うん、まだ……何で知ってるの?」

 

「鑑定で一瞬だけ見えたし、開始前の会話。黙っておくけどさ……もう少し注意しなよ」

 

「……うん」

 

 これは示現に叱られそうだと思いながら璃癒はジークの背中に腰掛け直す。岸はもう少し、次の難所は迷路みたいに入り組んだ洞窟で事前に地図が渡されていた。

 

 

 

 

 

「ほう! 俺様の為に橋を用意するとは良い心がけだ! 無礼は半殺しで許してやるぞ!」

 

 丁度ジークが渡りきった時、ダメージから回復したリュートが川岸に到着、バイコーンに命じて橋を全力で渡り出す。踏み荒らされた橋は通った部分から崩れて更に後続にいる選手は渡れないだろう。無論、それが狙いであったのだが。

 

 

 

「ねぇ、璃癒さん。僕、維持に集中力が必要って言ったよね?」

 

「うん、言ったよ」

 

「そうだっけ? 忘れちゃった!」

 

 ジークの言葉に反応したかの如く氷の橋は細かい粒になって消え失せリュートとバイコーンは急流へと落下、知った事ではないとセウスはジークを走らせて先に進むのであった。

 

 

 

 

 

 

「がぼっ! あ…足がつった! た…助けろっ!」

 

 バイコーンの背中から落下したリュートは何度も浮き沈みを繰り返しながら流されていく。悠々と泳いで向こう岸を目指していたバイコーンは命令を受けて彼を助けに向かった。

 

 だが、彼が命じたのは助けろだけ。どの様にかは指定していない。バイコーンは流れから助ける為に彼の腕に噛み付いて掴まえた。

 

「ぎゃっ!?」

 

 骨まで砕きそうな顎の力で腕に食いつかれ肉に歯が食い込み、そのまま首の力だけで岸に放り投げられたリュートは顔面から地面に激突、鼻の骨と歯の数本を折ってしまう。鼻血が溢れ出て歯が抜けて何とも間抜けな顔立ちだ。こんな時でも無事な鯱がいっそう間抜けを際立たせた。

 

 

 

「ち…畜生。まだ罠は残っているからな……」

 

 未だ挫けてはいないリュートだがバイコーンは彼の近くで寝そべって大あくび。まだ先に進むためには回復に時間が必要なリュートであった……。

 

 

 

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