伝説の勇者の爺共   作:ケツアゴ

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族長と翁

 とある国の、とある山の中にその石の祠はあった。かつては多くの村人が祈りを捧げ欠かさず手入れをしていたが、今では苔むして雨風に晒されて崩れかかっている。

 

 この祠に纏わる伝承には力持ちの神が登場した。大きな山が道を塞いで隣村との交流もままならないと嘆く者達の為、地鳴りと共に山を崩して小さくしたという心優しい神様だ。

 

 だが、もう誰も祈りに来ない。流行病でも飢饉でもなく、ただ単に若者が村を捨て何時の間にか村がなくなった、それだけだ。もう祠に誰も参らない。祠に奉られた神に誰も祈らない。祠や伝承について誰も知らない。まるで最初から存在しなかったかのように。

 

 そんな話は何処にでもある。時代の移り変わりに何かが取り残されるのは珍しくもない話だった……。

 

 

 

 私はこの日ほど自らの無力を噛み締めた事はない。誇り高き狼の獣人(ルー・ガルー)の狩猟部族ガルムの族長にして最強の戦士フェン。仲間は私を称えるが……何が最強だ。

 

「臭いは此処からか……」

 

大切なレースがあるというのに帰って来ない仲間の探索に出た私は岩に囲まれた荒野にたどり着いた。今までこの辺りには獲物が少ないからと来る機会はなかったがここまで岩があっただろうかと少し妙な感覚を感じ、相棒のギグも警戒している様子であった。

 

 我が部族では強者はドラキリー以外の騎獣を選ぶ者が多いのだが私は物心付いた時からの相棒であるギグと自らをb鍛え上げて何時の間にか主従揃ってガルムにて最強と呼ばれていた。

 

 相棒であり主従、それがガルムでの騎獣への扱いだが私にとってギグは兄弟同然であり、息子の騎獣であるギーシュはギグの息子だ。そんな相棒の只ならぬ様子に私は周囲を警戒し、突如動き出した岩に咄嗟に反応できた。

 

「ふんっ!」

 

 普通の岩だと思っていたが、ゴツゴツしたやや丸っぽい岩に岩の手足が生えた見慣れぬモンスターだ。当たるだけで痛手になりそうな腕を振り回し襲ってくるが、咄嗟に剣を振るって関節らしき場所に切りかかる。硬質な感触に構わず力を入れれば腕を切り落とせるが断面も岩で血の一滴も出ない。

 

 ゴーレム種、核が周囲の物質を取り込んで動かすタイプの厄介な相手と判断して一旦退こうとして自らの不用心さを呪った。

 

 見覚えのない岩全てが起き上がり私達に向かって来ている。地上だけでなく地下からも這いだして数を増やし続け、目測で凡そ百に届きそうだ。

 

「……少し厳しいが行けるな?」

 

「グルッ!」

 

「我らはガルム最強の戦士なり! この首、取れるものなら取ってみよっ!」

 

 剣を握る手に力を込め自らを奮い立たせる。ギグも大きく吼えるとゴーレム目掛けて駆け出した。これ程の数、禍人が絡んでいると見て間違いない。ならば族長として一体でも多くを倒し、少しでも情報を持ち帰るのが使命だ。

 

 例え絶望的な相手でも私は諦めはしない。我が名はフェン。誇り高きガルムでの族長なり!

 

 

 

 

 

 

「……ふう。流石に冗談でしょう?」

 

 戦いが始まって既にかなりの時間が経過し、倒した数は百を優に越える。動きは単調で急所である核は総じて胸の表面近くに埋まっている。魔法で強化した剣で突き刺せば容易に倒せる相手だ。

 

 だが、倒しても倒しても沸いてきてキリが無い。もしや核を生み出す女王タイプのモンスターが居るのかと思い当たるも既に剣は限界で予備の短剣を使っている所だ。

 

 ギグも爪で切り裂き尻尾を叩きつけて応戦していたが疲弊の色が見えている。破綻は間近で明らかな不覚だ。情報は十分集めたので本当に一旦退くべきかとの考えが頭を過ぎった時、服の裾をゴーレムの腕が掴む。

 

「しまっ……」

 

 短剣を間接に突き立てれど刺さった時点で固まって引き抜けない。焦りが生まれ、焦燥は余計な思考を生む。気が付けばギグにも多くのゴーレムが纏い付き私は背中から引きずり下ろされた。

 

 起き上がろうとする私の手足をゴーレムが押さえつけ、ギグも暴れていたが遂に引き倒されてしまう。その上にゴーレムが殺到し重なり合った。骨が折れ内蔵が潰れてもギグは暴れ吼え続け……やがて声が聞こえなくなった。

 

「ギグ……」

 

 苦楽を伴にして育った相棒が死んだ。私の判断ミスでだ。失意が心に広がる中、一体のゴーレムが私めがけて腕を振り下ろす。頭部に衝撃を感じて意識が薄れゆく中、あざ笑うかのような声が聞こえてきた。

 

 

 

「安心するんだな。お前達は暫くの間、このダイダルズ様が穢れを貯めるのに利用してやるんだな」

 

 

 

 

 目が覚めた時、岩に囲まれた檻の中で同胞に囲まれていた。皆須く疲労と悲しみの色が見え、軽くない怪我をしている。相棒たる騎獣が見当たらない理由は聞けなかった。

 

「兎に角此処から脱出を……」

 

 痛む身体に鞭打って立ち上がって鉄格子に手を掛けて壊そうとするもビクともしなかった。私はレベル28、鉄格子ならば容易に破壊出来るはずだ。……力が入らない?

 

「族長、あの魔法陣に力を制限する効果があるらしく……」

 

 若い戦士が絶望した様子で指さした地面には魔法陣が見える。何故分かったか、きっと教えられたのだろう。何の為か? それは絶望を、負の感情を与える為だ。

 

 禍人は自らが関わった悲劇で生じた人の負の感情を”穢れ”と呼ぶ力の源に変化させるという。若者の言葉によって皆の間に動揺が走る中、私は声を張り上げた。

 

 

「落ち着きなさい! 私達は誇り高きガルムの戦士。今は身体を休め策を練るのです!」

 

 禍人の思い通りになどさせるものか。お前達が力を得る手助けなど私はしない。負の感情など与えてなるものか。この人数なら周囲の岩が全てゴーレムでも強行突破は可能かどうか思案していた当てが外れましたが、ならば次の策を考えるまで。さて、残った部族の仲間が此処にたどり着いて私達を助けられるかは分かりませんし、どうにか脱出の方法を考えなければ。

 

 この場において私が心の支え。ですので不安を顔には出さずただ思案を重ねる。先ずは檻から出る方法を……。

 

 

 

「族長、誰か……」

 

 仮眠を順番で取っていた私は揺り動かされて目を覚ます。視線の先にいたのは息子がお世話になったというご老人の空也さん。見慣れぬ服装で恐らくは私以上の強者だと戦士の勘が告げた相手。

 

 ……拙い! 魔法陣について教えられた若者が聞いた他の情報では一定以上の強さの人が近付けば罠が発動する筈だ。私は慌てて警告を出すも時すでに遅く、私が相手をして敗れたゴーレムが首を痛くするほど見上げても全体が把握できない程に巨大化した物が現れる。

 

 それが私達めがけて足を振り下ろして来た。負の感情を堪える私達に業を煮やしたらしく殺す気のようだ。天空より大山が降ってきたかの如き光景に死を覚悟した。最期に心に浮かんだのは絶望ではなく二人の子供の顔。最期に一矢報いたと目を逸らさずに頭上を見上げていたのですが、見えない壁に遮られるみたいに足が止まっていた。

 

 脅すために止めたのではないのは必死に踏み下ろそうとして力を込めるゴーレムの姿で理解する。そして、見えない壁の正体にも心当たりが。必要なレベルに達した上で余程の才能の持ち主でなければ会得できない防御魔法エアウォール。

 

 私以上の強者とは思っていたが、予想以上だったようだ……。

 

 

「グギギギギッ! 邪魔するんじゃないんだなっ! ダイダルズ様の邪魔をするんじゃないんだなっ!」

 

 この声は意識を失う前に聞いた声。そして感じる禍人の気配。随分と気に食わない様子で何度も足を踏み下ろすダイダルズですが不可視の防壁はビクともしない。ですが一方で空也さんも反撃が出来ないのではと不安を感じた。あれほどの魔法、維持するだけで精一杯で他の魔法の行使に回す余裕など有るはずが……。

 

 

「ゴッドフィストッ!」

 

 空也さんの腕の先端を覆うように神々しささえ感じさせる半透明の巨大な腕が出現、ダイダルズの足を殴り飛ばして圧倒的重量の巨体が宙に浮いて背中から倒れた。……本当に私は彼を甘く見過ぎていたらしい。

 

「空也さん、貴方は一体……」

 

「話は後だ。今からリハビリなんでね。巻き込まれねぇように避難しとけや。ほれ、ヒーリングシャワー」

 

 ダイダルズから視線を外しはしないが態度にも言葉にも余裕が見て取れる彼は素手で檻を破壊した上で私達を癒す。では、お言葉に甘えて避難させていただきましょう。

 

 

「皆は逃げなさい。……私は残らねば部族の顔が潰れます」

 

 蛮勇は恥ずべきですが、役に立たないからと騎獣を殺した相手との戦いから逃げてはガルムの戦士は名乗れない。私さえ残れば顔は立つ。巻き込まれて死んでも自己責任だと伝えれば皆は心残りがありながらも退いてくれた。

 

 

 

「空也さん、申し訳ない」

 

「良いって、良いって。一人なら……まあ、大丈夫だろ」

 

 頭を下げる私に空也さんが軽く手を振る中、立ち上がったダイダルズが屈辱からか身を震わせれば表面が隆起する。先端が鋭く、大きさは樹齢を重ねた樹木程。それが無数に存在し、馬よりも速い速度で一斉に放たれ此方に殺到した。

 

「サンダーレイン!」

 

「空が……」

 

 先程までは雲一つない蒼天。今は即座に暗雲立ちこめ雷光と雷鳴が漏れ出る空模様。私達にめがけて向かってくる岩に雨霰の如き大量の雷が降り注ぐ。一撃で岩を破壊しても勢いは収まらず雷撃は大地を砕き、ダイダルズの体の表面を砕いて行く。あまりの威力にあの巨体が動けない中、雷撃が収まった瞬間に地面が盛り上がってゴーレムが姿を現した。

 

「か…数は力なんだなっ! それにもうあんな魔法を使う力は……」

 

 

 それは予想よりも願望に近いのでしょう。奴も既に気が付いている筈です。空也さんは未だに余裕であると。私が負けるに至った時の数倍の規模で増えるゴーレムに対し空也さんは右腕を突き出す。

 

 

「エクスプロージョン!」

 

 ゴーレム達の中央で爆発が起き、それが周囲へと規模を広げていく。拡大する爆炎にゴーレム達は飲み込まれ、爆発が収まれば地面が深く抉り取られている。

 

 

「あ…ああ……」

 

 顔がないにも関わらずダイダルズが絶望と恐怖を感じているのが分かった。膝から崩れ落ちて必死に這って逃げようとする姿は先程まで私達に絶望を与えんとしていたのが嘘のようだ。

 

 

 

 

「……んじゃまぁ、終わらせるか」

 

 彼は退屈そうに欠伸をしてからダイダルズに指先を向ける。横に居るだけで気絶してしまいそうな膨大な魔力が溢れ出した。

 

 

「ホーリーノヴァ!」

 

 天より光の柱が降り注いでダイダルズを飲み込む。目が眩む程に眩くなった光が消えた時、地面には巨大な穴があるだけでダイダルズの姿は完全に消え去っていた。

 

 

 ああ、本当に私は彼の強さを侮っていた。私より強いなんて低い次元に彼は居なかったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やり過ぎたか? やべっ! 示現に小言言われるな、こりゃ。そしたら璃癒の中で俺の威厳が暴落しちまうぞ……」

 

 ただ、どれ程強くても彼は身内に見栄を張りたい普通のお爺さんでもあるようだった……。

 

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