伝説の勇者の爺共   作:ケツアゴ

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驚愕の真実

 破壊の為に破壊、殺戮の為の殺戮、白亜の城は無残な瓦礫と化し、笑い声で溢れた街には人とも獣ともつかぬ咆哮が轟く。失望、絶望、憤怒、怨嗟、恐怖、地獄に相応しい物が多くあり、そんな場所で人々は生きている。……一応は。死が救いとなる家畜にすら劣る劣悪な環境、それが生きている場所だ。

 

 少し前、この場所には稀代の名君と称された王が居た。白亜の城に住む彼は民の安寧を願い、人故の不完全さで救いきれない事に嘆き、諦める事無く己を研磨続ける彼の臣下も民も幸福だっただろう。

 

 王のお気に入りの場所は城から見える小さな湖。水鳥が優雅に泳ぎ、周囲には花が咲き誇り、夜に映る月は美しい。王には王が眠るべき場所があると理解しながらも、自らの墓は湖の畔が良いと思っていた。多分、もしかしたら、きっと、彼の願いは叶えられたかも知れない。其れほどまでに彼は愛され……結局、それは可能性の話でしかないのだが。

 

 彼の愛した国はもう無い。民は絶望の中生きている。王様も死んで、彼の城は無残に壊されて、其れを引き起こした者達は国の名前も、王様の名前も知らないし知ろうともしない。この場所を選んだのも特に理由が無かった。

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、どうして僕を呼んだのさ? 今、人間チェスが良い所だったんだよ。ねー?」

 

「そうだよ。キングに選んだ赤ん坊を討ち取った時のルークの顔が最高だったんだ。きっと父親だよ。ねー?」

 

 瓦礫となった城の上、夜闇が集まったかに見える黒い球体が浮いている。その中の一室、円卓を挟んで四カ所に計五つの椅子が有る部屋に子供の不満そうな声が響く。無邪気故の残酷さ▼……等では絶対になく邪悪を凝縮した幼子の声は二つ。年の頃は十程の双子らしき二人が直ぐ隣に並べた椅子に座って足をバタバタと動かしている。

 

「ちっ!!」

 

 双子の正面の席は不在、左右には既に座っており、双子の声が耳障りだとでも言いたそうな舌打ちが響く。双子が顔を向けたのは右側、細い女の胴回り程もある腕をした大男だった。赤い髭も髪も短く切ってはいるが乱雑で彼の性格を表している。

 

 大男の印象を表すに相応しい言葉は、粗暴、野蛮、そして暴力。机の上に足を載せて椅子にもたれ掛かった大男は双子に不機嫌と不満の籠もった視線を送り、ふと喉の渇きを覚えて一番近くの給仕の女を指差す。髪の長い白い肌の美しい女だ。

 

「おい」

 

 その一言と共に指で招かれた彼女は覚悟を決めた顔で歩み寄って跪き、大男の豪腕が頭をむんずと掴んで引き寄せると細い首に鋭い牙が突き立てられる。ジュルジュルと液体を吸う音に合わせて女は身動ぎを許されぬまま枯れ、最後はミイラになった状態でゴミの様に放り投げれば他の給仕が慌てて回収、部屋の外に持って行く。この後、彼女がどうなったかは想像に容易いだろう。男は満足したのか口周りを拳で拭った。

 

「ぷふぁっ! やっぱ共食いが一番だな。人間はどうも臭くて堪らねぇ。……臭いつったら小便臭い餓鬼が居たな、おい」

 

「汗臭い血生臭いおっさん臭い、三臭いアンタが言うの?」

 

「自分の臭さで鼻が曲がっておかしくなってんるんじゃない?」

 

 大男の言葉に頬を膨らました双子が言い返せば先程から溢れていた殺気が濃厚になって行く。この時、沈黙を守り傍観に徹していた三人目が動く。手を数度叩いて注目を集めたのは若い男。軽薄さ等無縁な長髪黒髪の男で彼が動いた時、三人の顔に緊張感が走った。空気が張りつめ、否が応でも男の一挙一動に注目させられる。

 

 

 

 

「……今夜は肉たっぷりのシチューだったが、海鮮系に変えた方が良いか?」

 

 発せられたのは夕餉のメニューについて。先程の発言から内容の予定変更の必要性が気になったのか気を使って首を傾げながら訊ねる。その口元には涎の痕が残り、腕を組んで黙っていたのは寝ていただけの様だ。

 

「い、いや、気にするこたぁねぇ。それに晩飯は自分の所で食うしな。……それよか呼び出した理由を言ってくれや」

 

 呆気に取られたのではなく、この男と一緒の空間に居たくない、そんな大男の顔を見た彼は給仕に何かを告げると口を開いた。

 

 

 

 

「……各地に勇者を名乗る者達が出現した。厄介な事だ」

 

「ああ? どうせ偽物ばっかだろ? 三百年前に当時の魔王様をぶっ殺したつぅから本物は居るんだがよ?」

 

「此奴、分かっちゃいないね。馬鹿だよね。ねー?」

 

「もし本物が居ても情報が混ざるから厄介なのにねー」

 

 双子の嘲笑が頭に来たのか大男が立ち上がった時、男はまたしても首を傾げる。

 

(全部本物ではなかったのか……)

 

 

「……テメェ、いい加減にしねぇと締め上げてから喰殺すぞ」

 

「面白いね。逆に握り潰して食べてあげるよ」

 

「え~? 引きちぎって遊んで捨てた方が面白いよ」

 

 双子に対しテメェと単一に対する言葉を使った大男は腕を伸ばして掴み掛かろうとし、双子もヘラヘラ笑いながら右手と左手を片方ずつ伸ばす。だが、その間に男が割って入る事で動きが止まる。その手にはジュースが入ったコップを乗せたトレイが置かれていた。

 

 

 

「……幹部の死闘は禁じられている。ほら、これでも飲んで落ち着け。クレメド、餓鬼と呼ぶなら大人の対応をしたらどうだ?」

 

「お、おう……」

 

「イルマとカルマもだ。仲間に喧嘩を売るな」

 

「「……はーい」」

 

 双方共不満や遺恨は有るも男の言葉に従うしかない模様。ただ、男はそれに気が付かず満足そうに笑うと思い出した様に口を開いた。

 

 

 

 

 

「姉さんだが例の勇者の末裔だとか言う国の王子を殺しに行った。……所で帰ってくるまでに勇者について教えてくれ。忘れてしまったと知られたら殺される」

 

 其れが呼び出した理由なら殺されてしまえ、クレメドとイーラとカルマは同時に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三百年前、魔界より現れた禍人と名乗る者達によって世界の危機が訪れた時、エルフの姫君によって召喚された三人の英雄の活躍により……」

 

 僕は今エリーゼさんからお祖父ちゃん達の伝説を教えられていた。この世界に召喚された時に文字や言葉が自動で翻訳されているらしいから発音とかも気にならないけど、途中で気になるキーワードが出て来たんだ。あっ、空也お祖父ちゃんが賢者とかはスルーする事にし他。……気にしちゃ駄目だよね、うん。

 

 ……僕のお祖母ちゃんの奈月お祖母ちゃんは一代で会社を大きく成長させた才女で優しく物静かな淑女で、こんな風になりたいって憧れだったんだけど……。

 

 

「……あのー。短気で喧嘩早い武術の達人の奈月って空也お祖父ちゃんの妹とは同姓同名の……」

 

「いや、彼奴だ。昔はそんなんだぞ」

 

「……今でも偶に出しますよ、本性」

 

 お祖父ちゃん達から聞かされた衝撃の事実に僕の中のお祖母ちゃんへのイメージが音を立てて崩れていく。正直物凄くショック……。

 

 

 

 

 

 

「……まあ、何だ。大人ってのは色々有るんだって」

 

 あの後、今後の方針を考えるからってエリーゼさんと示現お祖父ちゃんが話し合っている。三百年経った今の状況を聞きたいそうだけど呆れているというか予想通りって感じって言うか……どうしたんだろう?

 

 空也お祖父ちゃんは色々とショックを受けた僕の髪をグシャグシャと撫で回しながら慰めてるけど……そうだよね。お祖母ちゃんだって色々あって今があるんだから。それにちょっと嬉しいことも有る。

 

 

「ねぇ、お祖父ちゃん達の口から何があったか聞きたいな。今までずっと誤魔化してばっかりだったもん」

 

「おっ! なら俺の武勇伝をじっくり語ってやるぜ」

 

 今までお祖父ちゃん達が楽しそうに語っていた頃の話、其れを問題なく聞くことが出来る。うん、この世界に来て不安たっぷりだけど、一つでも良いことが有るのは嬉しいな。

 

 

 

 

 

「……さて、私達は信用できず、基本的に国も信用しない方が良い。ならば向かう場所は只一つ……エルフの国ですね」

 

 示現お祖父ちゃんの言葉が耳に入る。エルフの女王様がお祖父ちゃん達を召喚した人で仲間の一人。……どんな人なんだろう? 会うのがちょっと楽しみ……かな?

 

 

「チビニアの国かぁ。彼奴、ちゃんと王様やってんのか?」

 

 空也お祖父ちゃんは少し面白そうに呟いた……。




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