伝説の勇者の爺共   作:ケツアゴ

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理由と疑問

 迫り来るローズリンデを見ながら僕は魔法の使い方について思い出していた。見習いとはいえ勇者は勇者、ちゃんと魔法が使えるらしい。でも、練習は必要で取り敢えず使い方だけ三人に習っていた……んだけど。

 

 

 

「体の中心からガーッと集めてバッと出す感じだな!」

 

「では簡単なイメージとして毛細管現象の説明からしましょう」

 

「心臓から根で水を吸い上げるイメージで力を腕に集めて放つ感じです」

 

 お祖父ちゃん達、ごめんなさい。二人の説明は抽象的&理論的過ぎて分からなかった! そしてイメージしやすい説明をありがとう、エリーゼ!

 

 息が掛かるほどの至近距離まで迫ったローズリンデに僕は腕を突き出し、心臓から魔力を腕へと汲み上げる。何か熱い物が集まったのを感じた瞬間、全てを注ぎ込んだ。

 

 

 

「フレイムジャベリン!!」

 

 周囲を煌々と照らす紅き槍、それが詠唱と同時に僕の腕から飛び出してローズリンデの口へと飛び込む。湿った口内の水分を蒸発させながら突き進んだ槍は口の奥へと突き刺さり、肉を内部から焼き焦がしながら炸裂、苦痛で仰け反り上を向いた口から炎が噴き出した

 

「ぎゃああああああああっ!!」

 

 巨体を大きく動かして悶え苦しむ彼女から飛び退いて距離を取る。激しく動く身体は周囲の地面を掘り返し、さっきまで僕が居た場所に倒れ込んでのたうち回っていた。危ない危ない。最後にローズリンデは痙攣して倒れ込んで動かなくなったし、多分倒したよね? まあ、体内を焼き尽くしたんだし当然か。

 

「アンジェリカちゃん、取り敢えず安全な場所に……」

 

 街にもモンスターが来てるけどお祖父ちゃん達なら楽勝だろうし、火事の煙に巻かれない場所で待って貰ってて家族の人に安全を知らせないとね。多分心配してるや……お祖父ちゃん達やエリーゼも僕を心配してるかな? 禍人と戦ったなんて知られたら何か言われそう。

 

 

 

「璃癒お姉ちゃん、後ろっ!」

 

 この時、僕は完全に油断していた。此処は異世界で相手は理外の化け物なのに普通の生き物と同じように考えて、あれで動ける筈がないって思い込んだんだ。

 

「危っ!?」

 

 アンジェリカちゃんの声で振り向いた事で紙一重で背後から迫る水のブレスを躱す事が出来た。倒れ伏したローズリンデの口に魔力が溜まり、一直線に放たれるそれは言ってみれば鉄砲魚と同じ水鉄砲の類なんだけど規模が違いすぎる。あれじゃあ鉄砲水だ。人では抗えない自然の猛威、昔の人々が神に祈ってまで遠ざけようとした物の類。通り過ぎた地面は抉られていて背後から直撃したらと思うとゾッとするよ。

 

「あら、惜しい。やはり取るに足らないと放置するのは良くありませんね。今後は気を付けましょう」

 

 声は平静で冷徹だけど瞳からは相変わらず殺意を感じるし、動けると言ってもダメージは大きいみたい。フラフラとしていて少し頼りない感じだ。凄く痛いだろうにどうして帰らないのか僕は気になった。

 

「……ねぇ、どうして禍人は魔界からこの世界を襲いに来てるんだい? それに随分と人間が嫌いみたいだけど……」

 

 この世界に来てからずっと気になっていた事だ。自分達の世界があって、こっちでは本当の姿に自由になれないのに手間暇を掛けてまで侵略を進める意味が分からなかった。エリーゼも知らないって言うし、お祖父ちゃん達は何時か分かるって教えてくれないし。

 

 だからつい口に出した疑問だけど……。

 

 

 

 

「……貴女がそれを口にしますか。私達に何をしてきたかを知りもせず、あんな敗残者の流刑地に居ろとでも仰る気かしらっ!」

 

 ローズリンデは最初は静かに怒り、抑えきれない怒りが溢れ出す。え? 僕がいったい何をしたって言うのさっ!? 身に覚えのない恨みをぶつけられて戸惑う僕にローズリンデが再びブレスを吐きかける。

 

「フレイムジャベリン! ……げげっ!?」

 

 水流と正面からぶつかった炎の槍は水を蒸発させながら進むけど確実に威力が衰えて行ってる。最後には完全に消え去ってお風呂一杯分位の水が残って僕に向かって来た。しかも、既に向こうは次弾を装填しているし……。

 

「こ…こうなったら根比べだっ!」

 

 貫通する前に威力が削がれるなら接近して放つだけだ。僕はローズリンデの頭部に意識を集中させながら駆け出す。尻尾での薙払いも胴体にも少し意識を向けていればきっと……。

 

 

「……え?」

 

 またしても油断、同じ轍を踏む。尻尾自体は動かないけど、先端が地面の中を掘り進んで僕目掛けて飛び出してきた。あれほど普通の動物と同じだと考えるなと自分に言い聞かせたばかりなのに僕は何をしているんだ! 防御も回避も間に合わず体全体を突き上げる衝撃が襲う。続いての浮遊感、視線の先のローズリンデはブレスを放っていた。

 

「では、さようなら」

 

 空中で身動きできない僕を濁流が飲み込む。体中がバラバラになったみたいな激痛の後で地面に叩き付けられ、数度バウンドした僕はゴロゴロ転がってアンジェリカちゃんの前で止まった。

 

「う、うぅ……」

 

「あら、生きていますわね。では、今度に今度こそこれで最期ですわ!」

 

 痛い、痛いよ。助けて、お祖父ちゃん……。

 

 今までで最も多い魔力を口内にチャージして確実に僕を消し去ろうとするローズリンデ。僕には呻きながら助けを求める事しか出来ない。だって、僕は普通の女子高生だったんだ。なのに急に力を得たって戦える訳が……。

 

 

 

 

「璃癒お姉ちゃん……助けて」

 

 アンジェリカちゃんの震える声が耳に入った。そうだ、何を考えているんだ、僕は。今この場所に居るのは僕だ。この子を守れるのは僕しかいない。戦える戦えないは関係なく、戦わなきゃいけないんだ!

 

「ぐっ、うぉおおおおおっ!!」

 

 足は折れたかどうかしたのか力が入らないけど上半身は起こせる。凄く凄く痛いけど、魔力も殆ど残っちゃいないけど、足りないなら絞り出せば良い! お祖父ちゃん達みたいになるならこの程度乗り越えろ、僕!!

 

 

 

「叫んで気合いを入れても無理なことは無理ですわっ!!」

 

「無理かどうか……やってみなくちゃ分からないっ!」

 

 今、正に放たれようとする特大のブレス。無理にでも抗う力を出そうとした瞬間、僕の前に光り輝く剣が現れた。

 

 

「……うぇ?」

 

 思わず奇妙な声が出るほどに剣が綺麗だった。白銀の柄と鍔、刃は朝日を思わせる山吹色の輝きに満ち溢れて気が付けば僕は剣を手に取っていた。まるで何年も握り続けた竹刀みたいに手に馴染み、不思議と体から痛みが薄れて力が湧き出す。そして頭の中に直接声が響いてきたんだ。

 

 

 

 

『胸はないけど度胸は有るな、嬢ちゃん! ハッハー! 俺様、超気に入ったぜっ!』

 

 僕、超気に入らない。この剣、放り投げて良いかな? 

 

 軽薄、適当、いい加減。僕の嫌いなタイプだって僅かな時間で理解した。……この剣ならどうにかなるかもって思うから腹立たしい。

 

『おいおい、ツンデレかい? まあ、前のマスターよりはマシだが俺好みじゃねぇな。体付きは更に好みじゃねぇけどよ。……さてと、もう時間がねぇな。俺で戦え、マスター!!』

 

「言われなくてもっ!!」

 

『素直は結構。俺の名前はフォースガルド、覚えておきなっ!!』

 

 僕はフォースガルドを構えて走り出す。脚は動く、痛みも消えた。正面から迫る大洪水に対して僕は真下から剣を振り上げ両断した。二つに分かれて飛沫を撒き散らす水の間を僕は駆け抜け、ローズリンデ目掛けて跳ぶ。ブレスを吐いた直後の硬直を狙い、全力で振り下ろした。顔から胴体まで易々と切り裂き、倒れてくるローズリンデから離れる。

 

 

 其処で僕は倒れ込んだ。

 

「……あれ? 体が動かない……?」

 

『悪い悪い。まーだ完全な勇者でもないのに俺を使った反動だな。怪我は治しといたし、ゆっくり休めよ。……んじゃ、次は俺を見つけた後な。事前サービスは此処までだ』

 

 手の中からフォースガルドが消え失せ、僕は意識を失う。事前サービスってどういう事だろう?

 

 

『それは今後のお楽しみ。期待に胸を膨らませて待ってな。てか、マジで少しでも胸を膨らませとけよ? 貧乳勇者とか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「貧乳で何が悪いっ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 叫び声と同時に起き上がると宿屋のベッドの上でエリーゼが椅子に座って僕の様子を見ていたけど、驚いて飛び起きる。胸が凄く揺れてた……畜生め。

 

 

「あ…あれ? 僕、どうして此処に?」

 

「まだ動いたら駄目ですよ、璃癒! 疲労だけとはいえ倒れたんですからね!」

 

 あー、たぶん怒ってる。これは暫く大人しくしてないと駄目なパターンだ。怒り慣れていないみたいだけど圧力が怖い。お祖父ちゃん達にも怒られそうだな……。

 

 あの二人って叱る時は本当に怖いから少し怯えていた僕はエリーゼを見て気が付く。あれれ? 怖い人が増えちゃった?

 

 

 

「あー、元気か? じゃねぇよな?」

 

「……暫く休みなさい……と言いたいのですが」

 

「何かあったの? ……外?」

 

 二人共、何か気まずい様子で何かを言いにくそうにしている。遊園地に行く約束を守れなかった時もこんな表情をしてたけど。

 

 空也お祖父ちゃんが指差した窓から外を覗くと街の人達がこっちを見ている。お祖父ちゃん達が活躍したから心配してくれて……って感じじゃないよね。武器とか持ってるし、尋常じゃない雰囲気が……。

 

 

 

「璃癒、貴女だけ街から出て行って欲しいそうです。禍人を倒したから報復を恐れ、私達には街の防衛のために残って欲しい……そう頼まれましてね」

 

「な…何ですか、それはっ!! 今すぐ文句言って来ます!!」

 

 エリーゼは怒って窓から飛び出す勢いだった。僕のために怒ってくれていると思うと、とっても嬉しい。でも、優しい彼女が誰かと揉めるのは嬉しくないな……。

 

 

「まあ、待てや。そもそも俺達が受け入れると思ったか?」

 

「ぐぇ!?」

 

 飛び出そうとしたエリーゼだけど空也お祖父ちゃんが襟首を掴んで止めた。その結果として変な声が出たけどね。あのさ、女の子にはもう少し優しくして欲しいな、孫娘としては。

 

 

「えっと、今すぐ皆で街を出るんだね?」

 

「ええ、当然です。まったく、私達が璃癒を後回しにする筈がないでしょうに」

 

 お祖父ちゃん達の事だから最初から分かっていたよ。あっ、でも旅の支度も終わってないし暫く動かない方が良いよね? ……うん、仕方ないや。

 

 

「じゃあ、おんぶ」

 

「……示現」

 

「ええ、私が背負いましょう」

 

 あれれ? こんな場合、二人が争うって思ったけど一体どうしたんだろう? まあ、良いか。僕は示現お祖父ちゃんの背に乗る。もう高校生だからおんぶなんて普通はして貰えないけど、動けないなら仕方ない。偶に懐かしくなるし子供みたいに甘えたくなるだ。……偶にね。

 

 

 

 

「出て行け!」

 

「出て行きなさい!」

 

「二度と現れるなっ!」

 

 背中に罵声と敵意を受けながら進むのって凄く嫌な気分だ。知り合いに嫌な人は居るけど、こんなに大勢に敵意を向けられた事は初めてで気が落ち込む。……少しだけ誰かのために戦うのが嫌になった。

 

「石でも投げられると思ったんだがな」

 

「……貴方が机を叩き壊したからでしょうに。良い脅しになって結構です」

 

 ……空也お祖父ちゃん、何してるのさ、グッジョブ。少しだけ気分がスッとした時、駆け寄ってくる足音がして息を切らしながらアンジェリカちゃんがやって来る。お祖父ちゃん達の前で立ち止まった彼女はリボンを差し出した。

 

 

「あのね、これあたしのお気に入りなの。助けてくれたお礼!」

 

「……良かったですね、璃癒。悪いことだけ見ては駄目ですよ」

 

「うん!」

 

 

 沈んだ気持ちが楽になる。誰かのために戦って本当に良かったと心の底からそう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

「それでさ、旅の支度はどうするの?」

 

 示現お祖父ちゃんの背中の上で鼻歌を歌いながら景色を眺めていた僕だけど、次の目的地である港町のラグレまでは距離があるし本当にどうするんだろう? 徹夜で一気に駆け抜けるとか?

 

「それなら大丈夫ですよ! 私の友達に流浪民族がいるんですが、丁度今の時期はこの辺りで過ごして……あっ」

 

 エリーゼのお腹が鳴る。そう言えば僕もお腹が減ったし何か食べたいなって思った時、向こうから砂煙を上げながら接近してくるモンスターの群れが居た。……うげっ! 芋虫っぽいや。僕、芋虫は嫌いなんだよ。

 

 

「丁度良かった。アイアンビートルの幼虫ですねj

 

「狩るか」

 

 ……あれぇ? まさか食べるの? 本当にアレを? 鋭い牙に血走った目とかどう見ても肉食だし気持ち悪いよ、あれ!

 

 

「いやいやいやいやっ!? 流石にあれは食べたくないよっ!?」

 

「好き嫌いは許しませんよ?」

 

「好き嫌い以前の問題だからっ!」

 

 絶対に食べないからね!!

 

 

 

 

 

 

 

「……美味しい」

 

「ええ、虫なのに美味しいです」

 

 焚き火で串焼きにした虫の肉にかぶりつく。例えるなら鶏の手羽先。一口噛めばパリパリの香ばしい皮からは脂の旨味が広がって、肉は余計な脂が抜けきって淡白な肉の旨味が凝縮されて凄くジューシー。

 

 凄く不本意だけど食が進む。虫なのに……。

 

「醤油が欲しい……」

 

 醤油ベースの甘辛いタレを塗って米で食べたい。たぶん三杯はいける! お祖父ちゃん達も頷いている。やっぱり日本人はお米だよ、お米。

 

「早く魔王を倒して帰らないとね!」

 

 決意を新たにした時、また遠くからアイアンビートルの幼虫の群れがやって来る。やった! 追加がやって……誰か追い掛けられてるっ!!

 

 

 

 

 

「あの、助けてくれてありがとう」

 

 追い掛けられていた子供が頭を下げてお礼を言った時、帽子が脱げて頭が見える。灰色の毛をした狼の耳が生えていた。

 

 

 

 そして、この出会いで僕達はちょっとした争いに巻き込まれる事になる。意外な相手との再会もあった……。

 

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