キャスターが最強のSHINOBIを召喚したそうです   作:ざるそば@きよし

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 二話にして沢山のコメントありがとうございます。皆様のおかげでモチベが維持されております。

 ※今回の話でランサーに使われた令呪は言峰が前回の聖杯戦争から持ち越した預託令呪を使用したものと考えてください。



マダラが早くも重傷を負ったようです

 ランサーの宝具である『刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)』は、因果逆転の必殺技である。

 本来“相手の死”とは、戦いという過程の延長線上にある結果だが、この宝具は標的にした人物の死を“運命”として先に決定してしまう。一言で言えば『相手に死の運命を無理矢理押し付けることで絶対に相手を殺す技』という事だ。

 故に、一度放たれたこの槍が狙いを外す事は絶対に無い。既に相手が死ぬという確定した未来に従って行動し、何度外れようとも相手を追跡して確実にその心臓を貫く。

 今回の戦いにおいても、その法則が外れる事は無かった。

 

刺し穿つ(ゲイ)―――死棘の槍(ボルク)!」

 

 射程距離まで近づいたランサーが宝具を発動して槍を放つ。再び手にした団扇を使ってアサシンが刃先を逸らしたが、その程度の行動で決定した運命を覆す事は出来ない。軌道を外れた魔槍は、まるでそれ自体が意思を持っているかのようにひとりでに動き出すと、吸い寄せられるようにアサシンの心臓に向かって突き進んだ。

 朱色の鎧に穴が穿たれ、赤槍が胸板を貫通する。確実な手応えを感じた。ランサーはアサシンの死を確信した。

 

 どさり、とアサシンの身体がくず折れる。地面に倒れた拍子に身体を貫いていた槍が飛び出し、乾いた金属音を寒空に鳴らした。

 

「……まさかこれを使うハメになるとはな」

 

 ため息を吐き、少し困ったという風に肩を竦めながら槍を拾うランサー。

 

 あっけない、とは思わなかった。戦いとは本来は一瞬のうちに決するものだ。軍団同士の戦争ともなれば一昼夜戦うことも珍しくないが、個人と個人の戦いでそんなことが起こる事は滅多にない。

 

 それよりも敵地の中で宝具を使ってしまった事の方が、よほど大きな問題だった。

 

 切り札である宝具の名を知られれば、自ずと真名も判明する。この戦いを何処かで見ているキャスターは、今の戦いで自分の正体がクー・フーリンであることに気が付いただろう。ひょっとしたら、何かその伝承に纏わる対抗策を練ってくるかもしれない。

 だがそれも今すぐ始末に向かえば問題無い事だ。

 

 そう思ったランサーが山門をくぐろうとしたその時、不意に誰かに押されたような衝撃を感じた。

 見れば自分の腹に大穴が開いている。しかもそこから生えているのは、短刀のような鋼鉄の武器とたった今殺したはずの男の腕だ。

 

「――今のは流石に危なかったぞ。小僧」

 

 背中から冷たい声が聞こえる。恐怖も痛みも無視して振り向いたランサーの視線の先にあったのは、右目を白濁させ、修羅の表情を浮かべたアサシンの顔だった。

 

 ◇

 

 何かが来る。

 

 人生の大半を戦いの中で過ごしてきたマダラの直感が、ランサーの行動に強い警告を放っていた。

 写輪眼が映す視界では、槍に向かって大量の魔力(チャクラ)が収束している。敵は間違いなく宝具を使う気だ。

 

「女、今すぐ俺に魔力を寄越せ」

 

 脅しをかけるような口調でマダラは自分を監視している筈のキャスターに言った。敵を止めるなら先に仕掛けなければならない。だが制限された今の魔力量ではとても不可能だった。

 

《……突然何を言い出すの? 貴方には今も十分な魔力を与えている筈。これ以上は必要ないわ》

 

 僅かに動揺した口調が脳内に響く。どうやら向こうは声を出さずにこちらと会話が出来るらしい。

 

「わからないのか? 敵はもうすぐ宝具を使う。策を講じねば、俺もお前も死ぬかもしれんぞ?」

 

《仮に貴方がここで死んだとしても、私はその結果を元に対抗策を練られる。勘違いしないで欲しいのだけれど、貴方は私にとって数ある手駒の一つでしかないの。失ったとしても、別に大した痛手ではないわ》

 

 思わずマダラは舌打ちした。どうやらこの女は意地でも自分に魔力を渡したくないらしい。それは自分の裏切りを恐れての事なのだろうが、敵の切り札を目の前にしてそんな判断しか出来ないとは、何とも愚か過ぎる。

 

 そうこうしている間に、ついに魔力を溜め切ったランサーがこちらに向かって飛び込んできた。魔力を収束させた脚力は先ほどとは比べ物にならない速度だ。

 

 深紅の槍が風を捲いて三度迫る。放たれた仰角の突き上げを打ち払うと、まるで槍自身が生き物になったかのように歪な角度から強引に突進してきた。

 

 まずい―――危険視していた直感がついに確信に変わる。もう他の策を講じている暇はない。

 彼はついぞ使うまいと決めていた緊急手段に手を付けることにした。

 

  ◇

 

 今日だけで何度自分の目を疑った事だろう。キャスターは山門で起こっている出来事を未だ信じられずにいた。

 ランサーが放った宝具――クー・フーリンのゲイボルクはその伝承通り、確実にアサシンの心臓を突き刺した筈だった。だがいつの間にかそのランサーがアサシンに背後から腹を貫かれ、重傷を負っている。

 見れば倒れた筈のアサシンの身体は未だ大地に転がっている。しかし、しばらくするとその体は蜃気楼のように淡く歪み、最後には消え去った。

 

「……どういう事? 一体何がどうなっているの?」

 

 最初はアサシンが何か幻術のようなものでランサーの攻撃を妨害したのかと思った。だがそれならば、自分にあの遺体が見えていたのはおかしい。

 それに幻術で攪乱した程度では、宝具の効果を打ち消せる訳がない。

 だとしたら今のはアサシンの宝具が何かなのだろうか?

 そうだとすれば辻褄が合うが、こちらが魔力供給を拒んだのに発動出来たというのはどうも腑に落ちない。

 

 結局、蚊帳の外からただ見ているばかりのキャスターに理解できる事など、何一つとしてありはしないのだった。

 

 ◇

 

 うちは一族には“イザナギ”という禁じられた術がある。

 それは写輪眼を使い、術者にとって不利な事象を「夢」に書き換えるというもので、その効力は術者の死すらも「夢」として処理し、無効化してしまう。それはゲイボルクによって確定した死の運命も同じだった。

 心臓を突き刺される一瞬前、マダラは右目の写輪眼でイザナギを発動させると、己に掛けられた死の運命と共にこれから起こる全ての出来事を「夢」に書き換えた。その結果、心臓を突き刺されて死ぬという都合の悪い現実は夢の彼方に消え去り、油断しきったランサーを背後から襲撃することが出来たという訳だ。

 

 一見すると完全無欠な術に感じられるイザナギだが、実はその発動には多大なリスクがある。

 

 それは『イザナギを使用した写輪眼はあらゆる力を失い、失明してしまう』というものだ。

 

 普通の人間にとって失明とは大きな損失だ。まして先天的に魔眼を持っているうちは一族にとって、自身の目は何よりも大事な生命線である。だからこそ、マダラもギリギリまで発動させる事をためらい、メディアに魔力を供給するよう脅しをかけていたのだ。

 だがそれを使ってしまった。使わされてしまった。

 不意のトラブルが重なったこととはいえ、それはマダラの怒りを一気に助長させる結果となった。

 もはや彼の頭からは、容赦と言う言葉は完全に消え去っていた。

 

 ◇

 

「貴様……何を、した……?」

 

 口から大量の血を吐き出しながらランサーが辛うじて尋ねた。一体何が起きたのかまるで分からないという顔だ。

 答えるつもりはないのか、腕を引き抜いたマダラは弱ったランサーをボロクズの様に階段から蹴り捨てた。腹に風穴が開いた状況では体勢を立て直す事などできる筈もなく、本物のゴミのように惨めに階段を転がっていく。

 指一本動かなくなったランサーに向けてマダラが冷たく言い放った。

 

「今から死んでいく者が何を知っても意味などあるまい。柱間ほどではないが、少しは楽しめた礼だ。これ以上苦しまないよう、今とどめを刺してやる」

 

 そして手にしていた武器――クナイをその顔面に向かって投げつけた。

 ひゅん、という風切り音と共に鋼鉄の刃がランサーの眉間を目指して迷いなく進んでいく。

 そしてその先端が突き刺ろうという寸前、突然ランサーの身体がその場から煙のように消えた。

 

「……何だ?」

 

 最初は何かの術で身を隠したのかと思ったが、写輪眼で辺りを見渡しても敵の気配はない。まるで魔法を使って本当に消えてしまったかのようだ。

 念のためにしばらく周囲を警戒してみるものの、やはり何も起こらない。どうやら今夜の戦いはこれで終了のようだった。

 残った左目の写輪眼を解除したマダラは大きく息を吐き出した。充実した戦いではあったが、苦い結果と手痛い出費を強いられた。特にマスターであるあの女が、予想以上にこちらを敵視しているのが頭の痛くなる問題だ。

 どうしたものかと考えていると、不意に門の中から声が響いた。

 

「どうやらランサーのマスターが令呪を使って彼を呼び戻したようね」

 

 寺の中で様子を見ていたメディアがいつの間にか出て来ていた。

 

「貴様、今更ぬけぬけと……」

 

 今にも斬り殺さんばかりの視線でマダラがメディアを睨みつける。愚かな失策で右目を失った怒りは未だに晴れていない。自分のマスターで無ければ今すぐにでも斬り殺していたことだろう。

 常人ならそれだけで気を失いかねない殺意を前にしながらも、それがどうしたと言わんばかりの顔でメディアが言葉を返す。

 

「何? 魔力なんか使わなくても結果的に敵を倒せたじゃない。よくやった、と褒めてあげるわ」

 

「随分な態度だな。俺が何とかしなければ、今頃は貴様もあの槍の餌食になっていたぞ」

 

「マスターである私のほうが立場が上なのは当たり前の事。貴方こそ、サーヴァントとしての立場を弁えた方がいいのではなくて? それより、さっきの宝具をどうやって防いだのか教えて頂戴」

 

「答えるつもりはない。どうしても聞き出したければ、二つ目の令呪を使う事だな」

 

 マダラの言葉に逡巡するようにちらり、とメディアが自分の左手を見つめる。本当に令呪を使うべきか悩んでいるのか、その表情は真剣だ。

 だがそれも本当に一瞬の事で、彼女はさっと踵を返すと、捨て台詞の様にこう言い放った。

 

「……まあいいわ。これからも引き続き門番に励みなさい。上手く敵を倒したなら、その時は魔力を渡すのを考えてあげる」

 

 歩いて行くその背中を狙ってマダラは一瞬だけクナイを構えたが、意味のない行為だと悟るとすぐに懐に収めた。この女が実際に姿を現す事などありえない。今でも本体は寺の中でこちらの様子を注意深く観察しているに違いない。現れたように見せているのは、単にこちらの反応を窺いたかったからだ。

 

 気に食わない女だ。お前にはいつか必ず、この右目の代償を支払わせてやる。

 

 マダラは離れていくメディアの姿を睨みつけながら、そう強く心に誓った。

 




以下のステータスが更新されました。

【宝具】

『イザナギ』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~1 最大捕捉:1人
うちは一族に伝わる禁術の一つ。写輪眼で自らに幻術を仕掛け、術者にとって都合の悪い事象を「夢」に書き換える事であらゆる危機を回避する事ができる。
己の死すらも回避できる強力な術だが、その代償として術を使用した写輪眼は力を失い、失明してしまう。

【Weapon】

クナイ
鋼鉄で鍛造された忍具。短刀や遠距離武器として使用する他にスコップの代わりとして地面を掘ったり、柄に付いた輪に縄や紐を通して楔や杭の代わりにしたりと様々な使い方が可能。

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