お願いをした訳でもないけど、叶っちゃったお話

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願いは叶う

 

 

 

「ジロー おんぶしてー。」

 

「はいはい、かしこまりました。」

 

 ジロウは今年で40になる、日本出身の細身の男である。人の良さそうな顔立ちにメガネをかけて、執事服を身に纏う。現在ジロウはゾルディック家の執事をしていた。

 

「ジロ〜、ジャンプしてー。」

 

「ほっ、はっ、よっと。 こんな感じでございますか?」

 

 キャッキャと喜ぶアルカを背中にジロウは館へ向けて歩き出す。ジロウは20の時にHUNTER×HUNTERの世界に迷い込み、紆余曲折してここで働いている。というか戸籍なしで雇ってもらえて、一番高待遇な職場を探した結果ここにたどり着いただけであるが。

 

 ジロウはHUNTER×HUNTERが好きな漫画であったが、キメラアント編の終盤までしか読んでいない。読めなかったという方が正しいか。彼はジャンプでHUNTER×HUNTERが、ちょうどその辺りを連載していた時期にこちらの世界にやってきたためだ。

 

 つまり、彼はアルカを知らない。

 

「ジロー、肩車してー」

 

「アルカ様は甘え上手でございますね、かしこまりました。」

 

 今日は本来ならば、執事のヤスハが億万長者の願いを叶える日。ジロウが雇われた事で、シフトがずれて担当が変わっていた。

 

(あれ、急に静かになったな)

 

 肩車が楽しいのかな?と彼は深く考えることもなく、ゆっくりと足を進める。

 

「アルカ様、肩車は如何でしょうか?」

 

「・・・・・・」

 

 ジロウはこちらの世界にやってきてから、念を覚えて身体を鍛え抜いた。しかし、今でも念の基礎のはずの練が、上手く維持できない程度には才能が無かった。

 

 念という存在を意識して10年経って、ようやく精孔が開いた時点で、ジロウは才能の無さを薄々感じてはいた。それでも念を覚えた当初、ジロウは用心棒をやっていた。普通に銃で撃たれて引退したが。

 そのあとは天空闘技場で荒稼ぎしようとしたが、一般人よりもタフなだけのジロウは、何度も顎を殴られ脳を揺らされて敗北する。

 

 

 それ以降彼は色々諦めて、今の職場にいる。発を作っていない念能力者に価値を見い出した、ゾルディック家に拾われたのである。面接の際に発をまだ作っていないことを、自分の何倍もの密度の念を纏った執事にビビって、うっかり喋ってしまっただけであったがそこに利用価値があったらしい。

 

 自身の発をゾルディック家に捧げる代わりに、終身雇用を勝ち取ったジロウの人生はほぼ安泰であった。

 

「はぁ」

 

 アルカを肩車して森を歩くジロウの背中には、哀愁が漂っていた。自分よりも年下で才能に溢れた同僚達。育った場所が全く異なるので話も合わず、歳も離れているので同僚達とはあまり仲良くなれていない。また、ジロウのプライベートもあまり上手くいっていない。泊り込みで働くこともあり、ろくに恋人も出来ず、予定の合う友人もほとんどいない。

 

 ジロウは寂しい人生を歩んでいた。そしてこれからもそうなのだろうと、彼は何となく考えていた。せめて自分の好きな念能力を作れれば気を紛らわすことも出来るかもしれないが、それも禁止されている。

 

「せめて、美人を好き勝手できたらなぁ」

 

 アルカが静かになってしばらく経ち、ジロウは仕事中ということを忘れ、愚痴のような願望の様なものを口にしてしまった。子供のお守りの途中に、愚痴を吐いたところで、普通なら特段問題はない。

 

 そう、普通なら。

 

 

 

「あい」

 

「は?」

 

 ジロウは急に足がもつれて転倒した。

 

 肩車していたアルカを守るために、ジロウはとっさに上半身を捻り腕を動かしてアルカを抱き寄せた。昔ならこんなに早く動くことは出来なかったであろう。ゾルディック家で常日頃行われている、厳しい執事の訓練結果が発揮出来たことで、ジロウは満足感を得ていた。

 

 それもつかの間のことであったが。

 

「いってえ? え?」

 

 ジロウの足は雑巾のように捻れていた。これじゃあ転んでも仕方がないか、とどこか他人事のように一瞬考えた後ジロウはパニックになった。

 

 足だけにとどまらず、腰まで回転し始めたからである。

 

「いだい、いだい、助けて、ぎぃぃぐがくひゅ」

 

 ジロウはもう、喋れない。肺も捻れてしまった為だ。足元から雑巾のようになっていく身体を見て、絶望しながら命を絶った。

 

 

 

______________

 

能力名 美女操作

 

ナニカのチカラとジロウの死後の念により発現した能力。

ナニカが、美人を好き勝手したいという願いを、美人を操作すると受け取って、願いを叶えるチカラで強制的に発現させた。

ジロウの才能の無さから、このままでは願いは叶えられないと判断したナニカは、ジロウを余すとこなく使用する事によってこの願いを解決することに成功した。

操作系、放出系、特質系の複合型能力。操作系であったジロウとは割と相性が良い能力である。

 

ジロウの全メモリと命を代償とした発となっており、それを更に死後の念で強化させたナニカ渾身の作品である。才能の無いジロウの発ではあるが、ナニカとしては満足のいく能力に仕上がり、ジロウが死んでしばらくの間はアルカとナニカの機嫌が良かったのだとか。

 

能力概要)

発動後、ジロウの意思は風によって漂う。

死ぬ直前か直後の女性を見つけると、その女性の採点が始まる。

ジロウ独自の美女判定により、合格点以上の点数を叩き出した場合、その女性に寄生する。

 

寄生したあとは、死ぬ原因となった部分のみを治癒して完全にその女性から意識を奪いとり、同化する。こうなってしまった場合ほぼ除念は不可能である。同化したあとは、ジロウの意志を維持するために宿主の女性のメモリも使用する。

 

また、美女操作という名前の通り、美女になる要因以外の肉体変化は起こりにくくなる。例としては以下の通り。

 

例)

・一定以上歳を重ねると、老化が極度に緩やかになる。(熟女好きになった場合、結構歳をとる)

・いくら鍛えても、美女のラインを超える筋肉がつきにくくなる。(筋肉フェチになった場合結構がっつりつく)

・暴飲暴食をしても太りにくくなる。(ぽっちゃり好きになった場合結構太る)

 

このように能力者の主観に左右される能力となる。なお、これらはオーラを消費して行われる活動である。したがって極端に堕落した生活などを送ると、常に大量のオーラが消費される状態となってしまい、最悪死に至る。

 

 

 

 

_____________

 

 

 ジロウは気がついたら病院にいた。本人が知る由も無いが、美女操作が発動した場合自然なことである。必ず死にかけか死んだ直後の女性に寄生するため、スタートは病院となるだろう。

 

 ジロウは自分がどうなったかを思い出し、パニックになり暴れたが、その場に居合わせた看護師達に押さえつけられてしまう。その後落ち着きを取り戻したジロウは目が見えていないが、自分が生きている事を理解した。

 

「生きてる、生きてる」

 

 意識を取り戻すなりいきなり暴れ、落ち着いたら縮こまって震え出す「女性」に、看護師達は同情する。

 

「自分の名前はわかる?」

 

「えっとジロウです」

 

「そう、ジロウさんって言うんだ」

 

 聞きなれない響きであるが、色々な民族がいるこの世界では特段気にされることは無い。ジロウのそばには1人看護師が残り、何気ない会話を行うことで精神の安定をさせる事になった。ジロウはジロウで話すたびに自分の声の違和感が強くなり不安になったが、迷惑をかけまいと会話を続けることにした。

 

 久方ぶりの若い普通の女性との会話を、ジロウはとても楽しんだ。なんとも図太くマイペースな(元)男である。しばらく会話を楽しんだあと、ジロウは尿意を催した。

 

「あの、トイレに行きたいのですが。 案内していただけませんか?」

 

「ごめんなさいねジロウさん、まだ足の傷が塞がっていないからそれは許可できないの」

 

「えっ」

 

 それは無慈悲な宣告であった。

 

「少し席を外すから、ここでしてもらって構いませんよ」

 

「えっ」

 

「大丈夫です、オムツをして貰っているので。 後で変えさせて貰いますし」

 

「………わかりました」

 

 恥ずかしがりつつも、少しジロウは興奮した。何故か目が見えないなか、オムツで用を足し、それを若い異性に交換してもらう。もはや特殊なプレイではないかと、ジロウは思う。

 

 尿をオムツにぶちまけたジロウは、早速看護師を呼ぶ。看護師は手慣れた手つきでズボンを下げてオムツを外した。そしてそのままジロウの股間をタオルで拭いていく。

 

「あえ?」

 

(待ってくれ、おれの息子は、どこ行った)

 

 才能なしの俳句を心で唱えたジロウは、自分の知識の中で今の状況に当てはまるものを探していた。ドンピシャなものを見つけたジロウは、胸に手を当てる。

 

ふにゅん

 

(ビンゴ! いやどういうことやねん)

 

 ジロウは、自分が盲目の女性になったことを悟った。そして、看護師に少し昼寝をしたいからと席を外してもらって、一人で考える時間を手に入れることに成功する。

 

 2時間ほど寝たふりをしながら考えたジロウは、自分の中で結論を出した。

 

 

(これは、オレの死後の念で起きた現象だろう。何者かに攻撃されて死ぬ直前に、死にたくないと強く願ったことによって、まだ作成していなかった発が自動的に作成された。そしてそのまま死に、その発が更に強まったと。)

 

 出した答えはHUNTER×HUNTERの漫画を読んでいたからこそのニアピンであった。

 

 現状を把握できたことにより、心に余裕が生まれたジロウは目を覆うようにしてつけられた包帯を弄りながらゴロゴロした。自分の胸を揉もうかとも思ったが、周囲の目を確認する手段がないため諦めていた。

 

 しばらくベッドでゴロゴロしていると、ドアをノックする音がした。ジロウは目が見えていないが顔をあげ、ドアがあるであろう方向を向く。

 

「はい、もう起きてますよ」

 

「失礼しますね、私は医師のジョージ。 どうぞよろしくね。」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

「これからお話することは、ジロウさんには辛いことかも知れませんね。 しばらく日を置いて元気になってからお話することも出来ますが、いかが致しますかね?」

 

 普通に受け答えができる程落ち着いているジロウならば、今話しても問題無いと判断したのだろうか。それでもジロウを尊重するように、聞くか聞かないかを尋ねるジョージにジロウは感謝した。

 

「気遣い感謝します。 ですが、私は大丈夫です。 お願いします」

 

「では、あなたの体について話していきますね。まずね、体の傷についてからお話するとねーーー」

 

 ジョージは今のジロウの体の傷について詳しく話していった。要約すると以下の通りである。

 

 体は複数の刺し傷があり、出血多量で死んでもおかしくはなかった。

 目は両方とも何者かに摘出されており、どうしようもない。視力を回復させることは無理であるので、諦めてほしい。

 

 合間合間で気になったことをジロウが質問していったが、どの質問にも丁寧にジョージは答えてくれた。それも全て話終わるとジョージは別の話を切り出した。

 

「そうだ、面会を望んでる人が何人かいるね、どうする?」

 

「面会ですか? ……あの、ひとつ伝えたいことがありまして」

 

「なんだね?」

 

「傷をおったショックが原因かもしれませんが、私は記憶喪失みたいなんです」

 

 

 ふむ、と唸って両手を組んだジョージは、暫く考えたあと口を開く。

 

「それならむしろ会うべきであるね。 何か思い出すかもしれない」

 

「……そうですか」

 

「マスコミの取材は断っておくから、安心してくれてかまわないよ」

 

 ジロウは今の自分が誰かを乗っ取っていると考えると、面会に乗り気になれなかった。しかし彼女は、断る方が面会相手を傷つけてしまうと考え、記憶を失った女性を演じる事に決めた。

 

 ジロウが心の中で葛藤している間にジョージは、診察と包帯の取り替えを行い、部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

_______

 

 

「ここの4階か」

 

 

 ミザイストムはとある病院を訪れていた。賞金首ハンターであるサイユウに頼まれて、今回のクルタ族惨殺事件の捜査を手伝うためである。なんでも、ここの4階に事件の生き残りがいるらしい。

 

 病院にかけあって面会を頼んだところ、許可は出たがあまり有益な情報は得られないだろうと考えている。生き残った彼女も他の被害者同様目をえぐり取られており、ショックで記憶もぐちゃぐちゃらしい。

 

 生き残りがいると知った時点では、幻影旅団の具体的な手掛かりになるとサイユウと喜んでいた。しかし病院の返答で意気消沈し元気とやる気のなくなったサイユウに、面会を任されたのである。

 

 エレベーターから出ると、ミザイトムは異変に気付いた。

 

(……これは、円だと?)

 

 念の高等技術のひとつである円が、目的の病室を中心に展開していたのである。ただの円ではなく、4階を覆うような楕円形。そしてレベルの低い念能力者では気付くことが出来ないほどに、これまた高等技術である隠が施されていた。

 

(人さらいか?)

 

 まだ世間には公表されていないが、裏では既に情報が回っている。クルタ族の生き残りを奪いに、病院に侵入する輩がいてもおかしくはなかった。

 

 半径7メートル程はある隠が施された円。走って近づいてしまうと相手に気づかれる。ミザイストムは、一般人と遜色ないレベルにオーラを押さえて垂れ流す。そして自然な態度で目的地まで足を運んだ。

 

 

「動くな、これは警告だ」

 

 イエローカードを掲げながら扉を開けて、ミザイストムは即座に念能力を発動する。

 

「えっ?」

 

「ん?」

 

 しかし扉の先には、目を包帯で覆った少女が、窓際のベッドの上に座っているだけであった。

 

 

 

 


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