おれも空を飛びたい
今思い返してみれば、あれは運命だったのかもしれない。『近くで面白いものがやっているから、一緒に見に行かないか?』父親のそんな一言に誘われ、俺はあの日、あの場所で、あの人に、あのスポーツに出会ったのだ。
会場は俺の住んでいた久奈島ではなく隣の福留島。会場まではフェリーを使わなければならず、当時小学生だった俺からすれば気軽に行けるような場所ではない。宿題があるから、見たいアニメがあるから、暑いからクーラーの効いた部屋でゴロゴロしたいから。断る理由はいくらでもあったはず。
それでも父親に着いて行ったのは、たぶん……。自分だけの何かを見つけたかったのだと思う。それが本当に面白いものかどうなのか、自分の目で確かめたかったのだろう。
友達が誰もやっていない、夢中になれる何かを。
懸命に取り組んで、誰よりも強くなれる何かを。
誰も行ったことのない場所へ行くために…………。
衝撃的だった。鮮やかな光のラインを空に引きながら、自由に空を駆け回る選手達の姿がそこにはあった。鮮やかに相手を躱し、あるいは振り切り、背後を取り合ってバチバチと光跡を散らす。得点が入る度、歓声が上がる。初めて見る技に、拍手が沸き起こる。
その競技──フライングサーカス──はまさしく俺の求めていた、必死に食らいついてでも自分だけのものにしたい何かだった。
今でも、あの時の感覚は覚えている。全身の血が沸騰したように熱くなって、気付けば手が赤くなるほどこぶしを強く握りしめていた。時が経つのも忘れ、父親の声も耳に入らないほど、夢中になって空を見上げていた。
そんな中で、一際強い印象を残す選手がいた。紅いフライングスーツとグラシュ、そして一直線に伸びる黄色いコントレイル。他のどの選手よりも自由に縦横無尽に空を駆け巡り得点を積み重ねる様は、まるでサーカスのよう。行く手を遮られればその脇をするりと躱し、背中を取られたと思えばいつの間にか立場が入れ替わっている。
見ているだけでワクワクが止まらない。もっと近くで、もっと長く、あの人が飛んでいる姿を見ていたい。そしてできることなら、俺もあんな風に飛びたい。
あんな風に、まだ誰も行ったことのない────あの青い空のずっと向こうまで空を飛んで行きたい。
いや違う、俺もあの人みたいに飛べるようになって、絶対にあの場所まで行くんだ。
圧倒的な強さで地区大会を優勝した選手に、憧れを抱かずにはいられなかった。
それが、フライングサーカスというスポーツと、俺と葵さんの、最初の出会いだった。
こういう文章を書くためにワードを起動するのは1年ぶりくらいなので、書き上げることを目標にがんばります。