鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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プロローグ

 やや薄暗い空間。まるで棺桶の中に居るような錯覚を覚えるそこには、水冷四サイクル四気筒ターボディーゼルの鼓動が鳴り響く。

 僅かな隙間から覗く明かりに目を細め、少し遠くを睨んだ。

 

「二代目、撃っていいですか?」

「まぁ待て、気づかれてないんだ。あと少し引きつけよう」

 

 冷静な声で聞いてきた砲手の背中を軽く叩く。

 

「旦那、撃ったらバレるだろ?その後は?」

「市街地の中に入って、イージスにAP(徹甲弾)を叩きこむ。最初の一発はHE(榴弾)ダイナゲート(いぬっころ)マンティコア(サソリみたいなやつ)の脚を壊す。ま、いつもの通りだな」

 

 インカムを通して、前に座っている操縦手がおどけたように笑った。

 

「じゃあ、榴弾入れるよ?」

「おう、頼んだぜ」

 

 車内の紅一点、装填手が砲尾にグッと砲弾を押し込む。

 

「んじゃ、行くぞ。鉄血のロボット共に一泡吹かせる。発砲後陣地転換。弾種榴弾、目標敵集団の足元」

 

 ギャリギャリと進んでくる敵の駆動音が聞こえてきた。

 

「敵距離二百」

 

 測距儀(レンジファインダー)で距離を測った砲手が照準を合わせる。

 

「引きつけろ。まだ、まだだ」

 

 インカムから口笛が聞こえてきた。

 

撃っ(てっ)!」

 

 目の前が明滅し、主砲から吐き出された金属塊が音を立てて落ちる。

 エンジンの唸りが強くなり、グッと動き出した。

 ペリスコープを覗く。

 相手が発砲炎に気付いたのか銃弾が通り過ぎる音。

 

 

 

 

 二〇三〇年に起きた世界的大災害、「北蘭島事件」によって汚染された地球。

 各国は自国を優先する政策を押し出すあまりに関係を悪化させた。

 戦争によって発展してきた人類がその行為を忘れることはなく。

 そして四五年に第三次世界大戦が巻き起こった。古いSF小説のように各国が核を乱発した結果、EMPによって戦闘機や軍艦、ひいてはミサイルなどは意味を失い。戦争はかつての世界大戦のように銃撃戦が中心を担い始め、更には災害によって減った人類を支えるために開発された自律人形が人類の代わりに銃を撃つようになった。

 俺が生まれたのは、そんな先細りの空気が出てきた世界大戦真っ只中だ。

 六一年。すっかり人類のパートナーになった人形のシェアを分けていた片割れ、鉄血工造の工場で起きた「胡蝶事件」をきっかけに疲弊していた人類は更に追い打ちをうける。

 これが、俺たちの知っている歴史だ。昔の事なんて一銭にもならない。

 

 

 

 

 キューポラから身を乗り出し、咽頭マイクを握って指示を出す。

 

「その通路を右に曲がれ!砲塔は右90度、指示と共に発砲。停止後全速離脱。撃っ!」

 

 事前に渡されていたドローン写真を元に進路を決める。

 砲塔の向かった先には破片が砕け散っていた。佇んでいる見慣れた装甲兵(イージス)に向かって砲身が指向する。

 五十二口径の百五ミリ戦車砲が吠え、分厚い装甲が武器であるイージスは物言わぬ鎧と化した。いつやっても爽快だ。

 動き出した車体のすぐそばが爆発する。

 

自走砲(ニーマム)の砲撃!位置は九時の丘。次弾AP、照準左側のニーマム。停止!撃てっ!前進回避運動、五十メートル前方の岩陰に車体を入れろ!」

 

 大きな主砲を持っているとはいえ、所詮装甲車。当たってしまえばひとたまりもない。つまり、当たらなければどうということはない。そういうことだ。

 古いアニメーションのセリフを想起し、口元を緩める。

 

「敵集団の全滅を確認。残党に注意、帰還する」

 

 少しだけ車内の空気が穏やかになった。

 かつて、戦争の主役とでも言うべき花形にあった兵器がある。第一次世界大戦で登場し、第二次世界大戦で進化し、冷戦によって形が固まり、第三次では最後まで活躍した大物。

 それがAFVであり、その中でも主砲を搭載して先頭を行くのが「戦車」と呼ばれている。

 俺たちが乗っているのは正確に言えば戦車ではないが、普通に見れば戦車のようなものだ。

 八つのタイヤに大きな砲塔、本来はスッキリしている外回りだったらしい。本来の持ち主の元を離れPMCの装備として使われているこいつは、機関銃が増設され、爆発反応装甲でマッシブになり、あちこちに荷物が引っ掛けられている。

 この車両の事を俺たち乗員はこう呼んでいた。

 

 一六式(ひとろくしき)、と

 

 

 

 

「ボス、お疲れ」

「おう、サブリナお疲れさん。明日は休みだからなー」

「二代目、先にあがります」

「ジョージも今日は冴えてたな」

「旦那ぁ、一杯ひっかけようぜぇ」

「あぁー、マイケルすまん。代行官様に呼ばれてるんだ。あとで時間があったら、いつもの店にいく」

 

 消費した弾薬を確かめ、整備に関する一通りの書類にチェックを入れた。

 乗員の三人は居なくなり、俺はようやく一息つく。

 

「戦車に乗り、鉄血相手に大立ち回りを演じる鉄騎兵・・・か。時代遅れだな」

「あん?・・・ってヘリアントス上級代行官殿!」

「全く、こんなもののどこがいいのか」

「何の用事ですかね」

 

 話の腰を折りながら、赤を基調としたタンカースジャケットを緩める。一六式の取っ手に足を掛け、地面に降りると略帽を被った。

 

「新しい指揮官が着任する。グリフィンの肝入りだ」

「ほう。珍しい」

 

 それはいつもキツイ態度を取る彼女の様子を見た感想でもあった。ここまでの態度を取るというのは、余程評価が高いのか。俺たちからすれば、変な事さえしなければ特に不満は起きないが。俺たちにとって乗員は家族だが、他の人形の事なんて知ったこっちゃないのだ。

 

「今後も基地唯一の砲撃戦力として使い倒す。それだけのコストに見合う結果を期待するぞ、サム」

「了解。俺は雇われの身なんでね、給料には従いますよ」

 

 AFVに乗る乗員は誇張されたかつての栄華からなぞらえて、いつしか鉄騎兵と呼ばれるようになった。車両が馬と鎧で、それを活用するのが騎士である乗員。

 

 これはそんな鉄騎兵と人形達の一幕である。




とりあえず、プロローグだけでヒロインを当てた人は・・・特になにもありません。

一応、人形ではあると明記しておきましょう。

次回から始まる話は過去に戻ります。つまり人形どころかグリフィンすらも出ないんだぜ。


予告

特殊部隊所属の兵士、サムは突入作戦において人質が殺された責任を問われ、正規軍をクビになる。

第一話「俺は人形が嫌いだ」


アンケートは選択肢の数が足りなかったことに今更気が付き削除しました。ご指摘ありがとうございます。
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