鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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止められない2

 予想できた出来事が訪れても並大抵のことでは別の方法で解決するものだと思っている。予想できなくてもその場その場での判断でどうにかして、時間をかけてすべてを解決するべきだ。

 ・・・それは物事に準備を整えて臨んだ場合の話だが。

 目の前の現実に俺は茫然自失となってしまった。

 トラックの暴走は仕組まれたもので、地区に近づいた瞬間全速力を出し始めている。巡航ミサイルが敵に狙いをつけるためにホップアップするように目標に向かっての歩みを進めいた。

 とてもじゃないが、トラックは止められない。それどころかこの量のトラックが、一キロほど先でなんとか止めようとしている部隊に突っ込めば大きな被害が出る。

 全て俺の責任だ。

 俺が早く全てを止めていれば・・・

 体は震えを戻し、激烈な胃痛と共に吐き気が訪れる。訪れる未来が嫌でも見えてきて、それから生まれるストレスは俺の事を呪い殺すが如く蝕んできた。

 悪いのは俺だ、俺がすべての事を引き起こしたのだから、この責任を転嫁することは出来ない。

 震える手がホルスターに伸びる。

 

「いっそのこと、いっその・・・」

 

 ここまで協力してくれた仲間たちに対する冒涜なのは分かっている。

 俺が悪者になって皆が助かるのなら、それでいいんだ。

 VAG-73で先頭の車両のコントロールを無くせば、トラック群はぶつかり合って爆発を引き起こす。

 サイアクの手段だが、それが最善策のように思えていた。

 あと数秒で決めなければ、間に合わない。

 思考はいつもより早くなり、同じ思考を幾度も演算する。答えはいくらでも出てくるが、納得が行くのはこれしかなかった。

 右手に半身が収まる。腕の震えだけが落ち着く。こんな時にだって銃を握れるんだから、慣れというのは恐ろしい。

 狙いをつけ、トリガーを引いた瞬間だった。

 

「?!おい!なんで引き上げ・・・ってトラックが減速している?なんで?」

 

 展開が早すぎて何が起きたのか全く分からない。

 拳銃弾が発射されるのとほぼ同時にヘリが上昇したのは分かる。だけど、様子を見る限りパイロット達が上昇させたわけじゃなかった。

 更に、トラック群も動きを止め始めた。俺が止めたわけじゃない、パンクしたわけでもない。まるで何かに操られているかのように整然と停止したのだ。

 理解が追い付かない。喜ぶべきことなのは分かっている。

 何が起きた?ECMが切れて停止信号を受け取ったのが一番あり得る答えだ。

 そうじゃないと囁いてくる直感の事は今だけは無視することにした。

 

 

 

 

「サム!大丈夫!?」

「・・・もち。何が起きたんだ?」

 

 一通り戻し終えてグロッキーなままだけど、問答無用で抱きしめてきたサブリナに弱気を見せたくない。

 出来る限りの冷静さで応じる俺の様子は誰が見ても無理していて、全く隠せてはいなかったけど。

 

「ちょっとだけ寝てていいよ」

「んなわけにはいかんだろ、お祭りはまだ続くんだ」

 

 ダメだ。口だけでも意思を保とうとするが、ボロボロと本心がこぼれそうになってくる。俺はそんなつもりはないのに、体は言うことを聞いてくれない。

 人間の頃には強がれたはずなのに、同じ脳を模しているはずなのに、弱くなっていた。

 この後にも、お祭りは続く。むしろここからが本番だ。合コン含めた夜の部には俺も警備に出る必要がある。いくら体が辛くとも、仕事は仕事だと割り切らないといけないはずだ。

 そんなことは分かってる。分かってるけど・・・

 あの時見えていた未来は言葉には表せないもので、それはパーサとの戦いで感じた死が近づく瞬間よりも辛いと思った。

 

「いま、原因を探ってる」

「探ってる?停止信号を送ったんじゃないのか?」

「うん」

 

 現状分かっていないってことは、そもそもこちらの意思で止まったわけではない。どういうことなんだ?

 

「それで気になったことがあるんだ」

「言ってくれ」

「さっき、出撃しようとした時にちょっと様子の違う人形を見たんだよね。戦術人形だけど、アレ多分軍用だよ」

 

 サブリナは元々軍用の人形だった。だからこそ分かるものがあるのだろうか、しっかりと断言したその言葉と色々なピースが繋がって一つのパズルが見えてきた。

 様子が違う、戦術人形。俺は最近見た覚えがある。

 何故か止まった自律トラック。外部から操作されたヘリ。俺はそれが出来る力を知っている。

 それは軍用の人形の力だ。

 正確に言えば、俺の知っているとある人形のもの。

 そして俺は最近そいつを見た。

 「視られてもいた」

 閉じられた瞼の先の光を見たことがある。

 思い出した。そういうことだったのか。

 

「サブリナ、ありがとう!ちょっと礼だけ伝えてくる!」

「思いついたらすぐ行動しないと気が済まないの変わってないよ、ね。それがサムのいいところなんだけど・・・ちょっと、妬けちゃうよ」

 

 感謝を伝えないといけない、そう思った時には俺は立ち上がって走り出していた。サブリナが暗い顔をしていたので後で話をすることに決め、今は居場所も知れぬ相手を探すことにする。行く先も決めずにただありえそうな場所に走った。

 

「わっかんねぇけど!あっちも同じこと考えてんだろ!」

 

 只管に走る。すれ違う人波からはさっきのステージを見ていた奴らからの視線が刺さるが今は無視だ。ベレーを深く被り、スカーフを上に上げて誤魔化しつつ、思いつく限りの場所を探す。

 あいつとのやり取りは、俺が正規軍を退役することになった出来事の寸前が最後。

 飲み物を奢ろうとした時だったのを覚えている。ちょっとお節介をやいたから。

 

「・・・マジでいやがった」

 

 もしあちらが俺の正体を知っているのなら、待ち伏せているのだろうと考えていた。

 お話の中から出てきたような曇りもない白雪色の髪、瞼が閉じられているのにも関わらずしっかりとこちらを「視ている」視線。忘れもしない。

 それに、バレているようだ。

 今時珍しい当たり付きの自販機から、当たり分の飲み物が出てきたのを手渡される。

 

「お久しぶり、よね。しっかりと見えているわ。サム伍長」




次回予告
「これは、ウチの隊長の受け売りなんだけど」
「?」
「力の行使は自由だが、使ったのなら責任を持て。って、自販機のハッキングごときで言うことじゃないけど。ただ一つ、君はこれを分かっていると思う。忘れちゃダメだ」
「責任を持つ?」
次回「責任を取ってください」


ヤベー奴エントリー。
サム関連のヤベー奴区分け
サブリナ、リンヤオ(言わずもがな)
五人形(行き過ぎた興味)
パーサ(愛し合いたい(決闘したい))
ニューチャレンジャー(???)

サムって男ヤバいね(他人事

ハーレム状態なんだけど…ハーレム状態なんだけども…サムくんが好きなのはサブリナとリンヤオだけなのがね…


色々とこの展開は賛否両論だと思うけど、サムという主人公の変わらない根っこ(要は人形になった後の思考の根幹)を書くために必要な話だと思ってます。



感想返し
「人形になってもサムとしての根源が残っているようでよかった

未実装の人形の情報が少ない……ならば、海外サイトを自動翻訳ですね
あとは暗号を解読する感覚で読めばいいですよ」

こう二か月もかき続けているとちょっとぶれてないか不安になってるんすよね()
海外サイト翻訳かぁ・・・時間を捻出しないとなぁ。
ガンバリマス。


感想とか諸々ありがとうござい。

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