鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
待ちに待った砲撃は相手の前方へと向かい、外れたように見える。
距離はしめて二百メートルといったところ。
次の砲撃までに殺到すれば鉄血の勝ちだ。だがそうそう上手くいくものではないということを見せてやる。こちらの砲撃は単純に距離を見誤った、そう判断した敵は着弾地点から再び進撃し始めた。
「バレないもんだな」
そう呟けば、前方が爆発し敵が吹き飛ばされるのが見えた。次々に破片をまき散らすのは設置しておいた遅延信管の砲弾を元に建物の隙間に隠しておいた着発榴弾。地面からの爆発でダイナゲートの足がやられ、落ちたところを横からの攻撃で大ダメージ。
胸がスカッとした。
「45、突っ込め」
統制が失われた敵部隊の中心に、スモークグレネードが落ちた。建物から飛び降りた45は、そのまま的確に相手の頭に向かって.45ACP弾をバースト射撃で撃ち、マガジンが空になればそのまま横道に逃げる。通り魔のような一瞬の襲撃に、バラバラに残っていた鉄血は自然と一つに固まって防御陣を組んだ。それがこの状況下で最悪の選択であるなんてとっくに忘れて。
それほどまでに45の攻撃は苛烈で恐ろしい。
「瞬発、撃て。もう俺たちが手を出さなくてもいいだろうが、念には念を押しておく」
一方的に攻撃された足並みが止まり、そこへ効果的な少数攻撃を与えて、各個撃破。自分たちよりも多い戦力に対して、足止め、ゲリラ、撃破の手順はいつの時代にも取られている手段だ。正面から迎撃しては戦力が足りない。だが、正面向かなければ包囲されてジリ貧。
ただまぁ、こんなに効果が出るとは思わなかった。全戦力の半分を壊して足止めできれば御の字のつもりだったが、見た感じでは敵は壊滅していて動けそうな人形はあまり残っていない。
なにより連鎖して埋めておいた遅延の榴弾が炸裂して後続を破壊していく。町には連鎖的に煙が立ち上っており、道の先は煙幕のようで視界が悪かった。
「45、後続は見えるか?」
「居ないわ。第一波はしのぎ切ったと思う。残党を処理するから、もう撃たないでね」
兎にも角にも、この町のメインストリートに砲撃を行って埋めておいた砲弾を作動、誘爆の仕組みで簡易的な地雷原を作ったのは大成功に終わったと言えるだろう。
大きく深呼吸して、無線を取る。
煙が晴れてきて、45がSMGを撃つ音も散発的になってきた。
「これで帰れるか・・・?」
時間がかかりそうだが、それ以外に方法はない。依頼主は地雷原を把握してなかったらしい。いくらこの地域が陥落した時の情報が残っていないとしても、報酬を多めに請求しても罰は当たらないと思う。ボスが起きたらそうやって頼んでおこう。目指せ給料アップ。
地雷原は俺たちの居る側から弧の字を描いているので、結局元のルートに一時間ほどかけて戻ることになる。急がば回れとは言うが、回りすぎて遅くなってしまうのもどうなんだ・・・?戦闘も避けられなかったし。
かといって鉄血と戦わない選択肢を取り、逃げたとしたら砂漠を十キロほどでノロノロと進まなければならず、普通に遭難レベルだ。
「動けそうなのは残ってないよー」
「ご苦労、今から回収するからそこに居ろ」
「はぁーい」
唯一の遊撃としてゲリラを実施した45を労う。彼女が居なければ、まずもって仲間の屍を越えた敵が群がり、俺たちは勝てなかった。
「前進。マイク、燃料とか大丈夫か?」
「あぁ、一応元のルートに戻って帰れば間に合うはずだぜ、経験上」
「なるべく節約してくれ、遅くても構わない。ジョージ、着弾の煙で視界が悪い中即席地雷に榴弾当てるのは流石だぜ」
「あらぁ、褒めてくれるのねぇん!」
「SPAS、慣れない装填を頑張ってくれてありがとう。砲弾の残量だけ頼む」
「うぅん。むしろ私の装填遅くなかった?」
「大丈夫よんSPASちゃん!アタシの砲撃ペースとぴったりだった、か、ら!」
緊張に染まっていた車内の空気が少しだけ緩んだ。敵の姿はないし、ギリギリ動けそうな人形も持っている武器が壊れてしまってはどうしようもない。損傷した状態で抵抗するとしてもたかが知れている。慢心かもしれないが、極度の緊張が続いた後で乗員たちの気が緩むのを止めようだなんて無理だ。
俺が警戒すればいい。そのための車長なんだから。
町の外周まで出たところで45が乗り込む。いくらか怪我をしていたが、顔は不敵に笑っていた。
「んじゃあ、帰るぞ。みんなお疲れさん。あと五時間頑張るぞ」
疲労困憊の乗員を励まして、落ちる夕日を背に帰路へとついた。
「ねぇ」
「なんだ?」
「私のこと知ってるでしょ」
45が唐突に聞いてきた。知ってるって言われたって、俺はグリフィンの戦術人形と話したのは今日が初めてだが。
会ったことあったっけ。疲れで鈍くなっている思考を出来る限り全力回転。燃料切れ間近なそれは出力を出すことはなかった。
低速の思考で考えること五分。
あっと声が出た。
「道案内してきた、ガキ!」
「せーいかーい」
そんなこともあった。思い返せば甘ったるい声と特徴的な髪色はこいつだと合点が行く。グリフィンとMCVカンパニーについて詳しいのは、所属しているんだから当然。
なんで見つけた時に分からなかったんだ、俺。車長になってパニックになっていたのだろうか。
▽
楽しそうに乗員と冗談を言い合っている男の背中を見る。
「・・・家族、か」
「ん、どうした45」
「なんでもなぁい」
一人自嘲するように笑った。
次回予告
騒動を終えた乗員たち。思わぬ救助者となったSPASの身柄をグリフィンに引き渡して数日が経ったところでサムはヘリアントスに呼びされる。言い渡された衝撃の事実、そして次の依頼とは・・・
第一章エピローグ「資産八割、一括払い」