鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「おい、そっちの奴らもグルだよな?」
「ヒェッ」
部隊配属されてから数か月は掛けられた静かな怒りの圧力を思い出して腰が抜けたせいで、がっつりバレてしまった。
隊長の近くにはさっきの人形居る。そいつが目を輝かせているのが不気味だが、一緒にここに来たようでも彼女はバラしていないようだった。まだ、まだ、VAG-73MODがサムだということはバレていなさそうだから、なんとか乗り切るしかない。
「・・・リンヤオちゃんも居るじゃねぇか」
「お久しぶりです」
隊長と妹の面識はある。時折ご馳走してもらうことがあったし、可愛がられていたはずだ。なにしろ隊長は四十半ばになっても浮いた話が全くなかったから娘みたいに思っていたんだろう。その代わりと言わんばかりに俺を高い風俗に連れていったのはどうかと思うけど。
「リンヤオちゃんまで戦わせていたら・・・まずはサムをぶっ殺して、その次はてめぇだったな」
「大丈夫でやんすよ旦那!」
やんす?
年上であるはずのボスがすっかりへりくだっているのがツボにはまりそうだが、場の空気的に必死にこらえる。
そう言えば、もっと若いヘリアントス女史にさえ平身低頭だったっけ。
「さっきぶりね、サム伍長」
火をつけた挙句、薪のごとく爆弾をぶち込んできやがったな!?
全員の視線を一手に受ける人形は、先ほど開眼しようとした瞼は閉じられたままだが、口元には悪い笑みを浮かべている。
「AK-12、どういうことだ」
「そのままの意味よ。あの子が、サム伍長」
「・・・は?おい」
がしりと両肩を掴まれた。ごつごつの手のひらもかかる力も全く衰えていないことに感動しつつも、逃げ場が無くなって冷や汗たらたら。
なにより、今は人形の俺にいかついオッサンである隊長が迫っていることで注目度が跳ね上がっている。
「・・・お、おほほほ、私VAG-73と申しますの」
出来る限りの裏声に、誤魔化すためのよく分かんない口調を放った瞬間に場の空気は凍り付いたが、一瞬で解凍される。
四人の噴き出す声で。
「ぶふっ・・・ちょ、ちょっと外すね!」
「そ、それはきちぃって・・・あははっ」
「ちょっとマイク!・・・っはは、ダメ!アタシも無理!」
「あはははははっ・・・げほっげほっ・・・姉貴、それはヤバいって!」
全員あとでぶっ飛ばす。
「サムという殿方が誰かは存じませんけれどー、勘違いじゃないですこと?」
話している俺が一番ダメージを受ける喋り方だけど、これしか思いつかなかったんだから仕方ない。仕方ないったら仕方ない。
「あぁ・・・てめぇはサムだな」
「!?!?・・・!?」
「あんなぁ、サムの面倒を見たのが誰なのか知ってるよな?」
当たり前だ。恩を忘れたことなど一度もない。
前線で、文字通り死の縁まで使い捨てられていたただの歩兵に才能を見出して、正規軍最後の手段とまで評されて怖れられていた特殊作戦コマンド内の部隊に拾い上げてくれた。
コマンド内でも指折りの実力を得られたのは隊長と同僚たちのおかげだし、彼らと共に駆けた日々は素晴らしいものだった。
クビにされたことだって俺が悪かったのは分かっていたし、裏切られたなんてこれっぽちとも考えなかったし、むしろ俺が犠牲になったことで同僚たちに迷惑を掛けずに済んだ。
「あいつが誤魔化そうとする時、左手を握って広げるし、右わき腹を抑えようとする。分かってんだよ」
いつだったか、同僚がある噂を話していた。部隊で裏切り者が出た時に尋問するため、隊長は数十人居る隊員全ての癖を知っている、なんていうもの。
普段から超人的な人だと思っていたけど、その噂がホントだなんて。
「それでも、てめぇは誤魔化すか?」
すぅーっと息を吸い、頭を撫でつけた後で気持ちを抑える。隊長の口が固いのは知っているし、言わなくても銀髪の人形・・・AK-12がネタ晴らしをしてしまうだろう。彼女にはバレていた。
「いや、しません。サブリナ、ちょっと貸せ」
「・・・はい」
「ありがとな」
手渡されたPx4は弾倉が入っていないが、銃口の方を握って渡す。
「あの子のために、そうなったのか」
「・・・はい」
「そうか。変わってねぇな」
「おかげさまで」
大きな右手でガシガシと撫でられる。出会って部隊に配属されるまでの頃よりも、手つきは優しかった。
「おめぇと出会ったのは・・・もう十年前か。まさか、人形になるなんて思わなかった」
「自分は隊長が俺を俺だと認識する適応力にビビってますけど」
「今もココに所属しているのか?」
「一応・・・」
あ、イヤーな予感する。
サムを引き戻しに来たわけじゃないのは当然だ。いくらサムのクビを要求してきたスポンサーが檻の中に居るとしても、一人を特別扱いすれば隊員たちのやっかみモノになる。
だが、どうだ。今の俺は人形で、隠し通せばサムだなんて思われないような見た目をしている。・・・まぁ、色々な相手にバレ続けているせいで隠し通せるなんて思えないけど。
「MCVカンパニーを軍属にすれば戻ってこれるな?」
再び肩をがっちりとロックされる。断りにくいだろこれ・・・
そんな風にMCVカンパニー全員が固まっているところに、大慌てで赤の制服が突っ込んできた。
「ちょ、ちょっとー!困りますって!」
「あ、指揮官」
普段は情けなさの方が強いが、何かあれば人一倍に味方を守ろうとする、真のお人好しが介入。
こういうところがカッコいい男ってやつなんだろうな。
俺とは全然違う。