鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「さーむー!って・・・なにこの空気」
リンヤオの爆弾発言の数秒後、静まり返ったところに元気いっぱいなサブリナの声が響いた。両手に一杯のビニール袋を持っていて、そこからは香ばしいホットスナックや屋台のご飯の匂いが漂ってきている。
「姉さん、それ全部食べるの?」
「皆でシェアするんだよ?」
「でもそれの七割ぐらいは」
「おふこーす!」
揺らぐことのない食への情熱を全力に押し出す彼女は、紙のバケット一杯に入ったソース焼きそばを食べ始めた。
決して汚い食べ方や早食いをするわけでもなく、むしろ模範のような平らげ方で山盛りを超えた山盛りのようなバケツ焼きそばがドンドン削れていく。
しっかりと、あっという間で、そして綺麗に、大量の食事が消えていくのだ。
美味しそうに一杯食べるサブリナの笑顔は心が温かくなるし、とても落ち着いた。
「リンヤオ、これいるか?」
「えー姉貴ってフライドポテト苦手だっけ?」
焼きそばと同じバケット一杯に入ったフライドポテトは中々無くならない。疲れ切った体は胃が小さくなるような錯覚を覚え、食が細っていた。
ただ、疲れ切ったところに雑過ぎて少し塩辛いぐらいの味付けがよく染みる。
「見ろよこの量!全部食べたら今日の晩飯フライドポテトオンリーだわ!」
「・・・でも、ポテトはもう一個あるよ?」
「ヒエッ」
多分だけど、あれ一つはサブリナが食べてしまうんだろう。
「んー美味しい!サム、フランクフルト美味しい?」
「美味しいぜ、ちょっと脂っこいけど」
かなり大きなフランクフルトは、中に詰めている肉が合成肉とは思えないほどに肉肉しい。一口食べるたびに溢れてくる肉汁はちょっと過剰なぐらいだ。
「一口ちょうだい?」
「食べかけなんだけど」
「あー」
戸惑いの視線を向けられているのにそれがどうしたと言わんばかりの無邪気さであーんをせがまれる。
「もう一個あるだろう?」
「気にしないよ、あー」
開いている口を見てちょっとだけイケナイ気分になり、それを頭の中からかき消そうとする俺を見て周りからの視線が生暖かいものになっていることに気づく。
落ち着け、落ち着け、俺たちは人形同士、決してやましいことはない。そうだ、やましいことはないんだ!
色々と変な考えを起こしそうになるような状況だけど、何一つ、やましい事実はない!
必死に言い聞かせた後、意を決してフランクフルトを差し出す。
「・・・あーん」
「あー」
差し出したフランクフルトは突然何かに食べられた。
「ふむ、美味しいわ。サム伍長」
「え、AK-12!」
「ちょっと!折角サムの食べかけだったのに!」
「姉さんもうちょい隠して・・・」
行方をくらましていた雪色の髪の下手人はご満悦そうに笑っている。それに伴ってウチの自称姉がものすごい顔してるから気づけ。俺はあれを止められる自信がない。
「サブリナ!もう一本貸せ」
「え、うん、わかったけ・・・っ!」
渡されたフランクフルトを一口食った後、今度は取られないように突き出す。正直言って場の流れがあったとかそういう前提をなしにこれをやるのは違う気がするけど、これしか思いつかなかった。
「食え!」
「姉貴ったらだいたーん!」
周りから茶化すような声が聞こえる。
昼間の仕事をしていた組は酒が入っているから厄介極まりない。
頬を真っ赤に染めたサブリナは、最近は俺を弄んでばかりだったのでちょっと新鮮。
「それで、何の用だAK-12」
「そんなに冷たくしないで。ご褒美を貰おうと思ったのよね」
「・・・うぐぐぐっ」
二人との時間も大事だけど、今日の昼間の恩人に何も返さないなんていうのはあり得ない。
「それじゃあ、花火が始まる前までっていうのはどう?」
「一時間もないけどいいのか?」
「えぇ。それに私は本気の訓練で足腰立てない状況まで追い込んだ後にサム伍長にはご褒美をもらうつもりだったけれど、今の貴方とは本気の訓練も出来ないから。安心して」
これっぽちも安心できねぇよ?!昼間を覚えてんだろ?!
お茶目に笑うAK-12は傍から見ても可愛らしいが、その能力を知っていると強い獣や格闘家が敵を睨む時に浮かべる笑顔のようにも見える。
「サブリナ・・・」
「いいよ。AK-12だってそういうことするつもりはないでしょ?」
「勿論」
「それに、サムの事は信じてるから」
うぐっ・・・その信頼が重い。
破る気は決してないが、サムはあの戦いの寸前もサブリナに信じてもらったんだ。戦わないという約束を思いっきり破って、パーサと戦ったサムに信用なんてないだろうに、サブリナはいつだって信じてくれる。
イマイチ踏み切れない俺に向かってサブリナが向かってきて、手を回してきた。気づけば後ろからリンヤオもサンドしてくる。それぞれが耳に口を近づけ囁く。
「もし、そんなことになったら」
「僕たちが」
ごくりと息を飲む。
「そんなことを忘れるぐらいに」
「いっぱいいーっぱいに」
時間が止まるように感じるそれは、いつになっても慣れやしない。
「「塗りなおすから」」