鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「ボス、調子は?」
「もう悪くねぇ。ただなぁ、家内がベッドから抜けたらぶん殴るって言って聞かないんだ」
「そりゃ気を失って帰ってきたのが珍しかったんだろ」
MCVカンパニーの寮、ボスの持っているアパートの二階にあるボスとその家族の部屋にお邪魔している。
ボスはすっかり元気になり、視力が悪くなったせいでかけた眼鏡以外は何も変わっていない。看病しているおかみさんは、帰ってきた時の悲壮な顔と同一人物と言われたら困るぐらいに喜んでいた。
「んで、報酬はどうなった?」
「別の人形も連れ帰ってきたという点で報酬は四割増し。砲弾を買っても、砂でやられたエンジンの整備をしても黒字だぜ」
依頼主であるグリフィンの上級代行官との交渉はスムーズに進み、SPASの身柄を引き渡すことで報酬は上乗せされた。
SPASは元々グリフィンの人形なんだから、これが当然。装填手として一緒に戦ったとは言え、本来の仕事じゃないんだ。
経理の仕事も兼ねているジョージが計算した限り、今回の仕事でMCVカンパニーは黒字。次の戦いに向けて一六式を万全にしたとしても余裕がある。マイクたち曰く、黒字は時々あったけど次の月の赤字を埋めて消えてたし、純粋に余裕のある黒字は久しぶりとのこと。
だが、同じ仕事をしたいかと聞かれると俺も含めて全員が首を横に振る。
「上出来だな。サム、車長の仕事はやれそうか?」
「マジで辞めるのかよ」
穏やかな笑顔で笑うボスは正直に言って気持ちが悪い。何か情熱を失ったのか。尖っていた強面も今となってはいい親父になってしまっている。
そんな表情が少しだけ移り変わり、なにか悪だくみをする顔になったのは気のせいじゃなかった。
「サム、よく聞け。お前の話を聞く限り、俺たちはまた大きな仕事をやれるかもしれない」
「大きな仕事?ってぇとパーサが盗ったっていうコアのことか」
コア、パーサはそれを確保したから見逃してもいいと言った。それが何を意味するのかは分からないが、大きなトリガーになっているのは分かる。
「グリフィンの戦術人形にはな、烙印システムっていうのがある。銃と人形を紐づけすることによって戦闘能力を向上させるんだ。そしてIOP社製人形は戦闘機能をコアに集積している」
「って、そしたら!」
「そうだ、コアが確保されたということは解析されかねない。解析されたらどうなる?」
事実が一つ一つ繋がっていき、答えたくない事実を口にした。
「鉄血の人形共の戦闘能力が向上する・・・」
「ま、それが一番の結果だろうな。他にもある。コアに対する攻撃、制御アルゴリズムへの干渉、同じ人形メーカーであるからこそ利用するのはたやすい。もちろん、IOPだってそれを防ぐように設計しているだろうが、な」
俺たちがパーサからコアを回収しなかったこと、それがもし鉄血との抗争の敗因となったのなら俺たちは・・・
「そのコアの回収に俺たちも使われると?」
「グリフィンの指揮官と話したが、既存のデータには『パーサ』というハイエンド人形は確認されていないらしい」
「・・・厄介なことになったな」
これから起きる戦いを考え、俺が車長として戦うためには新しい装填手を探さないといけないことに気が付く。
いっそのこと百五ミリ砲に自動装てん装置つけた方が安上がりかなぁ・・・
そんな部品はないからワンオフで発注することになるが、ジョージと相談して出来そうだったら社長に提案してみるか。
▽
「サムと言ったな。まぁ、座れ。今回の依頼への働きに感謝する」
「そんだけ報酬貰ってるんでね」
グリフィンの庁舎、その応接室に案内された俺はパンツァージャケットと略帽姿だが、周りも赤い制服を着ているせいで、なんだか悪の秘密結社に潜り込んでしまったというか、構成員になった気分だ。
銀髪にモノクルをかけた、少し怖い印象のあるグリフィンの上級代行官、ヘリアントス女史はコーヒーを勧めてくる。
「さて、SPAS12のことだがいくつか聞きたいことがあって呼び出した」
「一ついいか?SPASは今どうなってる」
何か酷い仕打ちはされていないだろうか。敵に捕らえられていたせいで謂れもない非難に襲われていないだろうか。
戦場を共にした勇敢なる仲間がそんな状況に晒されているのは看過できなさそうだった。
「それについても今から話す。まず一つ目だ。グリフィンの戦術人形を戦術人形たらしめているのは何か分かるか?」
「コアが解析されてしまえば鉄血が強くなる、そういうことだろ」
「何故、それを!」
「ウチのボスからの受け売りだ。あながち推論は間違ってないのか?」
IOPの人形はコアをつければ戦闘用に、外してしまえば民生用に使えるそうだ。逆に言ってしまえば、コアを取り除けばその人形は戦えなくなる・・・ってあっ!
「何故私ですら聞いていなかったことを推理できるんだ・・・ってどうしたいきなり立ち上がって」
「もしかしてSPASはコアを奪われたから戦術人形じゃなくなったのか?!」
「・・・察しが良すぎる」
そりゃ、拳銃一発撃つぐらいなら民生人形だって出来る。砲弾を装填することだって、力持ちな人形なら造作もないのだから・・・
「どうなるんだ、SPASは・・・」
「規定通りにやるなら民間に払い下ろしだ。コアもないからな。だが、いくつか問題がある」
その問題とは、一つ目がSPAS12は数か月前に行方不明になり、抹消されていたこと。このままIOPで監視するのも、グリフィンに残るのも様々な思惑のせいで難しいのが二つ目。立場もないので解体される可能性が大きい。と言ったことだった。
「なんだよ・・・それ。戦術人形に仕立て上げ、都合が悪くなってしまえば解体かよ」
「そこで一つ提案があるんだ」
そこまでのところで区切り、無言の時間が訪れた。時計の針の音が響く。
「人形、SPAS12を払い下ろしで買わないか?」