鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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突入二班リポート4

 

「ものすごく・・・落ち込んでますね」

「何があったのかしら」

「あの二人が喧嘩するなんて初めてみました」

 

 突入二班所属の人形達は一部始終を目撃していた。

 自分たちの班長であるVAG-73Modと彼女の姉を自称するサブリナ・フランキ。この二人はそこらへんにありふれているロマンス映画のカップル並みにいちゃつくし、少し離れただけでパートナーロスを起こす。

 離れている間も表には出さないが、再会した時のスキンシップは明らかにロスから来ているものだし、追加メンバーであるグローザとJS9よりも二人を見ているMP5ですら、こんな事態に出会ったことがなかった。

 

「VAG、何か、悪いことしました?」

「朝は普通だったはず・・・」

 

 グローザは思い出す。朝一番に起きて、オフィスに行ってネットワークで情報を纏めようとしたら、寝ぼけ眼のVAGに引き留められた。そうしているうちに追いかけてきたJS9に捕まったが、あの時の記憶が正しければ、VAGは遅れて起きてきたサブリナに持ち上げられ、ドナドナされていったはずだ。

 

「元気づけたいけど、近寄りがたいですね・・・」

 

 MP5が呟く言葉がすべてだった。あの状態のVAGがどんな反応をするのか全く分からない。

 基本的に真面目なタイプが多い戦術人形の中でも、この小隊に居る人形は真面目なタイプが多い。

 やはり優等生な彼女たちはVAGのことを励まそうと思い立つが、あまりにも心が折られたかのようにフリーズしている姿を見るとためらってしまった。

普段は自信にあふれているが時たま慌てる姿が少女そのもので、自身で三十路のおじさんだなんて卑下することに違和感を感じるようなVAGに哀愁が漂うのを見ると何も言えないのだ。

 

「サブリナさんは、機嫌、悪そうですし・・・」JS9の言葉に二人も肯定する。

 

 ようやく再起動したVAGはこちらに戻ってくるが、その足取りはテンションダウンを表現していた。

 まるで妻と子供に夜逃げされた家庭重視の夫のように、全てを失った表情に自覚はなさそうだ。

 三人は建物の影から野次馬している状態なので、慌てて隠れる。

 

「あー、もう時間だよな。すぐ行く」

 

 すぐにバレてしまったが、のぞき見してたということはバレていない。

 こんな状況だからか、普段は気配が少ないはずのVAGに淀んだ空気感が伴っていた。

 色々と受け入れることのできない現実に打ちひしがれる様子は珍しいだろう。敵とか任務とかで彼女の言う「ぶっ飛ばせば終わる」ような簡単なことではないし、なにより心の支柱的な相手からの拒絶に対応できていないようだ。

 いつもよりも更に体が小さくなっているように見えるし、次の訓練のために装着していた機械の尻尾は項垂れていのが、弱った猫のように心をくすぐられる。

 

「いい、ですよね」

「えぇ」

「?」

 

 すっと顔を合わせるグローザとJS9は多くを語らないし、弱みにつけ込もうともしない。サムという存在に深く干渉するのが御法度なのは五体の仲間たちとの間での共通思考だ。MP5は全くと言っていいほど理解できていない。

 

 

 

 

 ブリーフィングルームの天井は変わり映えしないのに、気分が落ち込むせいで違和感を感じる。

 俺がやらかしたんだろうけど、本当に身に覚えがない。俺の場合の身に覚えがないのは割と無意識で周りになにかしているらしいから、信用度もないんだけど。

 AAに渡した棒の飴の残りをなめながら、無気力に時間が過ぎるのを待っている。時間が経っても、サブリナとの仲を修復するのは無理だ。俺が動かないと変わらない・・・動いても、もう切り捨てられかもしれないだなんて思ってしまう自分が居る。それは、サブリナの名誉を傷つける思考だって分かっているのに。

 ため息がこぼれそうになる。ブリーフィングルームの雰囲気が悪くなってしまうので堪え、この十数分で何度確認したかもわからない時計を眺めた。

 

「よし、突入二班と呼び出しておいたメンバー、全員揃ってるね」指揮官が入ってくる。「訓練を中止させて申し訳ない、任務だ」

 

 雰囲気が少しだけ引き締まる。指揮官の隣にいた416がブリーフィングテーブルに情報を表示した。

 小隊全員での情報共有なんかはプロジェクターの方がいいが、一つの班と支援する戦力だけの少人数ならば、こちらのほうが気軽に開ける。

 液晶付きのテーブル部分に映し出されたのはドローンが撮影した地図と、人々がデモを行っている画像。

 

「こんなところ、でデモ、ですか?」

「先に今回の流れを話しておく。今回対処するのはデモ側じゃない」

 

 指揮官の言葉にイマイチピンと来なかったが、グローザの補足で納得が行った。

 

「ここは、例の私治区ね」

「私治区?」

 

 その名称が何かは知らないが、デモの目標はグリフィンじゃないのだ。郊外にあるようで地区の管理が届かない場所。要は自治している、小さな町なのだ。

 

「個人、というよりはこの町が成り立っているのは食品工場があるおかげです。そして、その工場長に対してデモが起きている」

「・・・それでね、今日MCVカンパニーさんとトラブルを起こした案件がここ、なんだ」




6パート以上になりそうです。
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